【黒ウィズ】フェアリーコード3 Story2
フェアリーコード3 Story2
目次
story sos
とにかく急いで合流しないと、と君は言った。
story 2色の翅音
ユリカを抱えて何度も路地を曲がっていると、からかうような声が降ってきた。
黒き悪魔――マサンが、高見の見物を決め込んだチェシャ猫よろしく、ニヤニヤと塀の上に横たわっていた。
雪が降るとさ。静かになるだろ?あれは、雪の結晶が、音の振動を吸い込んじまうせいなんだけど。
雪の精ってのは、心の音に対しても同じことができるのさ。吸いこんで、消しちまうことが。
サングラスの向きが、わずかに変わる。
ユリカに目を向けたのだと気づいて、ソウヤは反射的に娘をかばった。
音が消えた。
代わりに、ぎちり、と、薄氷を踏むような足音が響く。
現れた女は、塀の上のマサンを見上げ、冷たい声音でつぶやいた。
マサンは出し抜けに右腕を振り、女に黒い火球を放つ。
女は、避けようともしなかった。
火球は、彼女に届く直前で、それこそ雪の溶けるように消失していた。
三十六計、逃げるにしかずそんじゃま先生、お達者で!
すたこらさっさと逃げていくマサンに構わず、ソウヤは、じっと女を見つめた。
これまで、幾度となく――いろんな妖精や悪魔に投げかけてきた問いを、震えるような思いで口にする。
粉雪の降るような返答。そのあまりにもあっさりとした調子が、ソウヤの頭に血を上らせる。
yパパ。
くい、と袖を引かれる。
傍ら。ユリカが、ぼんやりとした顔を、ふるふると左右に振っていた。
yいいの。わたしの音、食べられてもいいから。だから――
あの人と戦っちゃダメ。パパの音もなくなっちゃう――
ソウヤは、叫びを噛み潰すようにして、ぎゅっと顔を歪めた。
あの女――雪の精がユリカの音を奪ったのなら、彼女を倒せば、失われた音を取り戻せ今なもしれない。
1年半もの間、ずっと探してきた相手。夢に見るほど願ってきた、千載ー遇の機会。
なのに、戦う力が……心の音色が封じられていては、どうすることもできない。
わずかに戻った娘の音が再び消されていくさまを、ただ見ていることしか――ー
声。そして足音。
リレイとルミス、それに黒猫の魔法使いが、こちらに向かって駆け込んでくる。
ルミスは手にフィドルを。リレイは手にギターを携え、それぞれの音をかき鳴らす。
その音は、瞬時に重なり、高鳴るように膨れ上がった。
story 無限の
君は、かじかむ指でカードを操り、スニェグーラチカめがけて魔法を放つ。
炎の魔法は、しかし、ぎちりと軋むようにして現れた氷の騎士に、楯で受け止められてしまった。
魔法の威力が落ちている。正確には、君が異界で培った音色が。凍てつき、静まり返りつつある。
そしてついに、なんの音色も流れなくなった。
ルミスとリレイは、スニェグーラチカが生み出す氷の騎士たちを次々に打ち砕き、彼女のもとへ迫りつつある。
その音は、徐々に弱まってはいたが、まだ君のように静まってしまうほどではない。ふたり分の音色を重ねているからだろうか。
スニェグーラチカが、スッと目を細める。
それだけで、びょおうツと激しい風雪が巻き起こり、ルミスたちへと吹きつけた。
抜ける吹雪にこそぎ落とされるように、ふたりの音が弱まっていく。
音が、消えた。
翅音が。銃剣が。ふつりと消え去り、ルミスの叫びは無音に吸われる。
Eえっ――
ルミスは息を呑み、隣のリレイに目をやった。
リレイが。翅音も銃もない、ただの少女となって。自分を抱くようにして、がたがたと震えていた。
凍てつく静寂に、ぎちり、と、騎士たちが足を進める音が響いた。
***
君とルミスは、拳を固めて騎士たちの前に出た。
武器も魔法も、何ひとつ使えない。
それでも、幼い少女の音を奪おうとする凶行を、黙って見過ごすことはできなかった。
スニェグーラチカは、感情の見えない冷めた瞳で君たちを見つめ――
前触れもなく訪れた流星が、氷の騎士たちを押し潰すように粉砕した。
ディギィは、あれっ、という顔で周囲を見回した。
スニェグーラチカの嘆息は、軽やかな吹雪となって、その身を覆った。
直後、彼女の姿は雪のように消え去り、氷の騎士たちも融けて水たまりに変わる。
ディギィは、しばし目をぱちぱちさせた後、首をかしげて君の方を見た。
いや、ベストタイミングだったよ、と、とりあえず君は答えておいた。