【黒ウィズ】フェアリーコード3 Story2
フェアリーコード3 Story2
目次
story sos
ルミちゃん、魔法使いさん、大変!
どうしたにゃ?
先生からのSOS!雪の力を持った妖精が現れて、ユリカちゃんを狙ってるって!
雪の力って……さっきのヤツ?なんでユリカを?
とにかく急いで合流しないと、と君は言った。
うん。行こう!
story 2色の翅音
ユリカを抱えて何度も路地を曲がっていると、からかうような声が降ってきた。
厄介なのが来ちまったねえ、先生。
マサン!
黒き悪魔――マサンが、高見の見物を決め込んだチェシャ猫よろしく、ニヤニヤと塀の上に横たわっていた。
見てたぜ。軽~く音を消されちまって。ま、雪の精相手じゃ仕方ねえか。
雪が降るとさ。静かになるだろ?あれは、雪の結晶が、音の振動を吸い込んじまうせいなんだけど。
雪の精ってのは、心の音に対しても同じことができるのさ。吸いこんで、消しちまうことが。
だから、力が……。
そういうこと。で――
サングラスの向きが、わずかに変わる。
ユリカに目を向けたのだと気づいて、ソウヤは反射的に娘をかばった。
前も。そうだったんじゃないか?
なに?
あいつがその子を狙ってるってことはさ。その子の音が消えたのは――
音が消えた。
代わりに、ぎちり、と、薄氷を踏むような足音が響く。
……悪魔か。
現れた女は、塀の上のマサンを見上げ、冷たい声音でつぶやいた。
ほいっと!
マサンは出し抜けに右腕を振り、女に黒い火球を放つ。
女は、避けようともしなかった。
火球は、彼女に届く直前で、それこそ雪の溶けるように消失していた。
うわ。こりゃだめだ。半端な音じゃ吸われちまう。
三十六計、逃げるにしかずそんじゃま先生、お達者で!
すたこらさっさと逃げていくマサンに構わず、ソウヤは、じっと女を見つめた。
これまで、幾度となく――いろんな妖精や悪魔に投げかけてきた問いを、震えるような思いで口にする。
……ユリカの音を奪ったのは、おまえなのか?
そうだ。
粉雪の降るような返答。そのあまりにもあっさりとした調子が、ソウヤの頭に血を上らせる。
なぜだ!どうしてそんなことを――
yパパ。
くい、と袖を引かれる。
傍ら。ユリカが、ぼんやりとした顔を、ふるふると左右に振っていた。
yいいの。わたしの音、食べられてもいいから。だから――
あの人と戦っちゃダメ。パパの音もなくなっちゃう――
そんなわけには……!
ソウヤは、叫びを噛み潰すようにして、ぎゅっと顔を歪めた。
あの女――雪の精がユリカの音を奪ったのなら、彼女を倒せば、失われた音を取り戻せ今なもしれない。
1年半もの間、ずっと探してきた相手。夢に見るほど願ってきた、千載ー遇の機会。
なのに、戦う力が……心の音色が封じられていては、どうすることもできない。
わずかに戻った娘の音が再び消されていくさまを、ただ見ていることしか――ー
(そんなのは、だめだ!でも、どうしたら――)
先生!
声。そして足音。
リレイとルミス、それに黒猫の魔法使いが、こちらに向かって駆け込んでくる。
気をつけろ!音が――
知ってる!
だから!
ルミスは手にフィドルを。リレイは手にギターを携え、それぞれの音をかき鳴らす。
その音は、瞬時に重なり、高鳴るように膨れ上がった。
ハナから本気でノッていく!
story 無限の
君は、かじかむ指でカードを操り、スニェグーラチカめがけて魔法を放つ。
炎の魔法は、しかし、ぎちりと軋むようにして現れた氷の騎士に、楯で受け止められてしまった。
魔法の威力が落ちている。正確には、君が異界で培った音色が。凍てつき、静まり返りつつある。
そしてついに、なんの音色も流れなくなった。
だめにゃ。ルミスたちに任せるしかないにゃ。
ルミスとリレイは、スニェグーラチカが生み出す氷の騎士たちを次々に打ち砕き、彼女のもとへ迫りつつある。
その音は、徐々に弱まってはいたが、まだ君のように静まってしまうほどではない。ふたり分の音色を重ねているからだろうか。
なるほど……音を預け合っているのか。だが――
スニェグーラチカが、スッと目を細める。
それだけで、びょおうツと激しい風雪が巻き起こり、ルミスたちへと吹きつけた。
くっ――
抜ける吹雪にこそぎ落とされるように、ふたりの音が弱まっていく。
まだよ!あたしたちの音はまだ――
音が、消えた。
翅音が。銃剣が。ふつりと消え去り、ルミスの叫びは無音に吸われる。
Eえっ――
ルミスは息を呑み、隣のリレイに目をやった。
震えていた。
……。
リレイが。翅音も銃もない、ただの少女となって。自分を抱くようにして、がたがたと震えていた。
リレイ――
音は、凍(き)えたな。
凍てつく静寂に、ぎちり、と、騎士たちが足を進める音が響いた。
***
君とルミスは、拳を固めて騎士たちの前に出た。
武器も魔法も、何ひとつ使えない。
それでも、幼い少女の音を奪おうとする凶行を、黙って見過ごすことはできなかった。
スニェグーラチカは、感情の見えない冷めた瞳で君たちを見つめ――
いよっとぉ!!!
前触れもなく訪れた流星が、氷の騎士たちを押し潰すように粉砕した。
やってきましたごはんの時間!まるっとぺろっといただきまー……。
ディギィは、あれっ、という顔で周囲を見回した。
あれ。ない。いい音ない。ええー?あっれー?ないとかなんで?ねー、さっきここに悪魔いなかった?
……。
スニェグーラチカの嘆息は、軽やかな吹雪となって、その身を覆った。
直後、彼女の姿は雪のように消え去り、氷の騎士たちも融けて水たまりに変わる。
ディギィは、しばし目をぱちぱちさせた後、首をかしげて君の方を見た。
あたし、なんか邪魔した?
いや、ベストタイミングだったよ、と、とりあえず君は答えておいた。