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【黒ウィズ】フェアリーコード3 Story5

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作成者: にゃん
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story



 ソウヤの身体から、いくつもの音が離れていく。

ユリカに喰われ、そしてソウヤに託された、妖精たちの音色が。

……ありがとう。

 音の群れは、言祝ぐようにくるくる宙を舞った。

ソウヤが、歩み寄ってくる。君のもとヘ――君が抱えたユリカのもとへ。

ユリカ……。

yパパ。

 ユリカの眼からは、尽きることなく涙があふれていた。

はっきり取り戻された音が、気持ちが――彼女の中で嵐のように荒れ狂っている。そんな音色が、君の胸にも響いてくる。

だからこそ、君は、そっとユリカをソウヤに差し出した。

ソウヤはうなずき、強く、ユリカを抱きしめる。

ごめんな……ユリカ……。

 ソウヤの音が、ユリカの嗚咽を包み込んでいく。そのすべてを、受け止めるように。

……その子に、その音は強すぎる。

 雪のように静かな声が、降りかかった。

スニェグーラチカ。雪の女が、立っている。いっさいの情を氷の奥に押し込めたような、固く冷たい眼差しで。

ソウヤは、ゆるりと娘から身を離し、神妙な視線をスニェグーラチカヘ向けた。

君は……知っていたんだな。ユリカがどうして、自分の力を忌み嫌っていたのか。

……その子も、知られたくはなかっただろう。

 スニェグーラチカは、霜のような息を吐いた。

あるいは、彼女だからこそ、ユリカの気持ちに――音色に気づけたのかもしれない、と君は思った。

誰より深く、冷たい音色の持ち主だからこそ。数多の人、数多の妖精の音を、その身に吸い込んできたからこそ。

涙の奥に閉じ込められ、暗く凍てついていたユリカの気持ちとすら、響き合えたのか。

そう思うと、スニェグーラチカの発する音色は、寂しさと冷たさのなかに、どこか、淡い情の震えが感じられるような気もした。

……僕はユリカを信じる。

『喰らう力』を『託された力』にできるって。信じて、この子を育てていきたい。……妻のためにも。

その子は、そうは思っていない。

その子の心には、とても深い亀裂が走っている。永遠に吹雪を吐き出す亀裂が。

そんな苦しみを抱えたまま生きるのは、酷なことだ……。

――でも。

 リレイが言った。ひたりと、その目でスニェグーラチカを見据えて。

抑えきれない恐怖に震えながらも――決して目を背けまいと、懸命に。

だからって、心の音を凍らせちゃったら……どんなぬくもりも、喜びも、感じられない。得られない。

今、彼女の感じている辛さに……寒さに。それに勝るぬくもりや喜びが得られると?そんな保証があるというのか?

あるよ。絶対。

 リレイは、にこりと笑った。

だって、紅鬼先生がお父さんなんだから。

こんな素敵なお父さんがいてくれるなら、きっと乗り越えられる。辛くても、寒くても。あったかい喜びを、きっともらえる。

 それは決して、根拠のない、空虚な言葉ではなかった。

ソウヤのことを知っているからこそ。彼の苦しみ、彼の決意を見てきたからこそ。

確かな信頼の響きが、リレイの発する言の葉を、言葉以上に雄弁に震わせていた。

私たちもいる。

ユリカちゃんの音が強すぎるっていうなら、音を乗りこなすやり方とか、いろいろ教えてあげられると思う。

もちろん、あたしたち妖精も手助けできるわ。この子はみんなの人気者だし、放っておいても志願者が殺到するでしょうね。

相談くらいは乗ってやってもいい。俺も、今の身体で龍の音を制御するのに、少しは苦労してきたからな。

ハビィも、解析を手伝うって言ってます。オリパーくんの力も借りたら、制御用の機械だって作れるかも!

え?なに、これなんかいいこと言う流れ?じゃ、その子がもし人の音食べまくっちゃったら、あたしがまるっと食べてあげる!とかどう?

 これだけの人が、これだけの気持ちを持っている。君は、そうスニェグーラチカに告げる。

流れている、この音色こそが答えだ。

これだけの音色があれば、きっとなんとかなる。そう思わせてくれる力に満ちている。

音が、答えか。

確かに――ただ言葉を並べ立てるより、その方が、よほどわかりやすい。

だが、おまえたちの音など、儚いものだ。

 音が、消えていく。

――雪に吸われて。淡く、冷たく、凍てついていく。

スニェグーラチカの音の力が、この短時間で完全に回復したとは思えないが――

それを言うなら君たちも疲弊している。特に、ソウヤの消耗は激しい。彼に音を集中させる戦法は、使えない。

音のない世界で、おまえたちは無力でしかない。

何もできない。どうすることも。

 その言葉は、絶対の神託のごとく、凍てついた世界に冷厳として響き渡った。

だが、この世には、神託になど根本的に聞く耳を持たない類の種族がいた。

リレイ。弾いて。あなたのギターを。

 自由気ままな、妖精たちが。

えっ?でも――

いいから。感じるままに、弾いてみて。そしたらわかるわ。いろんなことが。

……わかった!

 リレイはうなずき、ギターヘ――翅音が凍てついたせいで武器からただの楽器に戻ったそれに、指を這わせた。

爪弾く。

奏でる。

かき鳴らす。

単体ではほとんど鳴らない楽器を通じて、自分を、気持ちを、音色に変える。高鳴る思いを、今この眼閤、世界に刻むように。

あふれるような、音色が響く。

この、深く凍てついた銀世界のなかで。それでも止まない吹雪のような激しさで。

響き続ける音のなか、スニェグーラチカが、ルミスを見やる。

ルミスは、ふふんと笑ってみせた。

気づかないとでも思った?あたしが?ずっとこの子の音を聞いてきたのに?

そっか――

 リレイがつぶやく。爪弾きながら。

神託を、己の内に見つけたように。

あなたの音色……私、知ってた。どこで聞いたんだろうって思ったけど――やっとわかった。

生まれた時に、聞いたんだ!

 音が弾ける。

熱く、熱く、熱く――雪をも融かす火のように。

生まれた時――まさか!

17年前。地上の音が吸われた日。きっとこの子は、そのとき産声を上げたのよ。

 産声。生まれ出てくる命の叫び。人生最大級の音色だと、マサンは言った――

生まれたいという気持ちは、何より強い。だからリレイは、スニェグーラチカの音に打ち勝てた。つまり――

乗りこなしたのよ。雪の音色を!

 生まれつき、心の音色が聞こえる体質。

暴走しかけたルミスの音さえ乗りこなす力。

それが、これだと――この音色だと。音が、気持ちが、何よりはっきり、告げている!

だが、使えるか?

人に。我らの雪の音色が!

 今さらだよ、と君は笑って言った。

ほんとにね。

それができるから、この子は今、ここにいる。この子がいたから、あたしたちもここにいる!

 誰もがうなずく。誰もが、そうだと瞳で答える。(いまいちよくわかっていないディギィは除いて)

ばらばらで、個性的で、やたら我の強い音色たち。それが今、こうして肩を並べているのは、リレイの音色が繋げたからこそ。

ぶつかり合っては響き合い。理解したなら相乗りし。

鶴音(たずね)て鶴音(つらね)て、繋げ合ってきたからこそ。

こうして、みんなで、ここにいる。

感じる――

 誰もが感じる。誰もが繋がる。

胸にあふれる気持ちの音を、誰もが等しく唱和する。

「「「「「心がノッてきた!」」」」


 ***


その音色、いつまで保つ?

 吹雪が吹き荒れ、騎士となる。

ただの騎士ではない。でかい。その全長は、この異界の建物――ビルほどもある。

しかし、君の心に恐れはなかった。

リレイの音が勇気をくれたからでもあるし、それに――

マサンのせいで、フェアリーコードが乱れたにゃ。

つまり、魔法使いの出番ってことにゃ!

 うなずき、君はカードから音色を奏でる。

君も、仲間たちも、ずいぶん消耗している。全力で戦うのは難しい。

だからこそ、ここは、異界で培った音を彼らに重ね、彼らの音を高めることに腐心しよう、と君は決めた。

ただ、どんな音でも重ねられるわけではない。彼らがノれるような、そんな音でなくては。

幸い、心当たりはたくさんあった。

これまで君が旅し、共に戦ってきた人々は、その心は、その勲詩(いさおし)は、とてつもなくバリエーション豊かだったから。


ユリカ。待っていてくれ。すぐ戻るから。

帰ったら、話そう。どんなことでも。

y……うん。

 ソウヤは微笑み、心配そうな娘の頭を撫でて、氷の巨人に向き直る。

さて、どう攻めるか。

考えていると、不意に湧き上がるものがあった。

それは音。それは歌。

遠いどこかで誰かが奏でた心の音色。

人と、人ならざるものの狭間で――あるいは、夢と、夢ならざる現実の狭間で。痛みに耐えて抱いた誓い。

これは……。

 知らない誰かの歌なのに、驚くほど心に沁みた。

どこか似た思いを、どこか相通じる決意を、自分は確かに抱いたはずだと、そんな確信が自然とあふれる。

音の根源――魔法使いに視線をやった。魔法使いは、1枚のカードをひらりとかざし、うなずきを返す。

ありがたい。これなら!

 凍てつく世界にあろうとも、己を奮い立たせることができる。

ソウヤは鎌となったピアノを手に、飛ぶ。

夜へ。空へ。あらゆる試練の象徴めいた、冷たく巨大な氷の騎士へ。

その翅音を、羽ばたかせて。


 ***


これが、あの日の音の正体か……。

 宙を滑り、氷の巨人に音球を繰り出しながら、タツマは苦々しくつぶやいた。

あの日、地上の音はこの雪に吸われた。そして、消えゆく音を守るため、友たるラプシヌプルクルが火の雨を降らせた。

あの日の怒りを。屈辱を。

二度も味わう趣味はない!

天の高みに座すものに、地上の響きは届きえぬ。されば逆撃つ雷火となりて、等しく天地をどよもさん!

 猛るその身に、音が咲く。

切なさと、激しさをともにかき抱いたような。天に、地に、思いを届かせ、震えさせずにはいられぬような。

魔法使い――?じゃあこれは、異界の歌か……。

 感じる。その音の奥に、数多の情念を。

異なる価値観の激突。揺れる気持ちの交錯。その果てに見出される、新たな希望。答え。真実。正義――

その混沌のなか、なお前に進んだ者たちがいた。これは、その勲詩なのだと、心でわかった。

¶人が、これほどの音を奏でたか……。

ならば、龍たる我が遅れを取るわけにはな!


 ***


ハビィ、ミサイル!

 電子音が応答。ミホロはふたり分の音色を翅音のミサイルに変えて、氷の巨人へ射出する。

着弾し、ー部の表面を割り砕くことはできた。だが、それだけだ。あまりに敵が大きすぎる。そう簡単には崩せない。

だけど――やるしかないよね、ハビィ!

 もちろん!とハビィが答えた。

ユリカの境遇は、ふたりにとって他人事ではない。

生まれることが奇跡だと知っているからこそ、生まれてきたユリカに、未来を諦めさせたくない。諦めてほしくない。

『だから、あの子の音色は奪わせない!』

 ハビィとふたり、声を揃えて叫んだ瞬間、洪水のように、音が来た。

歌?――魔法使いさん?

 優しく、明るく、軽快で――そして、信じられないほど強い意志に満ちた、どこかの誰かの想いの丈が。

ふたりに宿り、包み込む。守護者のように。仲間のように。生まれた命と、心の力で。

……いたんだね、きっと。こことは違う世界に、そういう人たちが。

 その音は、ふたりの心をたかぶらせる。その歌は、ふたりの音を高鳴らせる。

行こう、ハビィ!

 応じるハビィの発した思いを、ミホロは、自分自身の言葉でもあるものとして。

ふたりの気持ちで、守り抜く!

 月にも届けと、叫びを上げた。


 ***


どぉおぉおおおりゃああ!

 斧がー閃、それだけで、巨人の身体にびっくりするほど亀裂が走る。

あはっ。なんかいい!デカいの殴るの、なんかいい!

 無邪気な笑い声を飛ばして――ディギィは、はたと気づいた。

あれ?あたしなんで戦ってんだっけ?

 確か、あの悪魔、何サンだっけ?あいつを確か、食べようとして。でも食べられなくて。あれ?じゃあもうここで戦う理由なくない?

とか思ってると、音が来た。

よくわかんないけどキョーレツでショッキングで、しっちゃかめっちゃかなようで妙なまとまりを感じさせる、やたらノリノリヒャッハーな歌が。

おっ。これ、魔法使いがかけてんの?いーじゃんいーじゃん、アガるじゃん!

 こんなノリのいい歌がかかったら、そりゃもう暴れるしかない。

てなわけでェェェ――

 ぶんぶか斧を振り回し、破顔ー笑、ノリにノリつつ突っ込んでいく。

勢いあまって、頭から。

ドタマァ!!!


 ***


みんな好き勝手やるんだから。

あ、それ、ルミちゃんが言う?

 笑いながら、リレイは巨人に射撃を見舞う。

恐れがなくなったわけではない。ただ、心のどこかに引っ込めておくことは、できるようになった。

(乗りこなすって、そういうことかも)

 消えてなくなることのない思いを、引き出しに入れたり、また取り出したりして、大事に向き合い、折り合いをつけること。

どんな気持ちも乗りこなすのは、きっと、難しいことなのだろう。

でも今は、少なくとも目の前の恐れを乗りこなすことができた。

うん。私、うまくノれてる!

 うなずく胸に、歌が灯る。

闇夜を照らす太陽のような二重唄。大地を蹴り、風を喰らって空に昇る、牙と燃え立つ火の咆呼。

誰のか知らないけど、いい歌ね!

うん!背中押されるって感じするね!

 歌の追い風を受け、ふたりは馳せる。

銃と剣がー体となった武器を駆使し、左右対称の動きで巨人に猛攻を仕掛ける。

ルミちゃん!

なに!?

ありがとね!

お互い様でしょ!

うん!

 そう言い合えることの喜びを噛み締めながら、ルミスとふたり、勇猛果敢に攻め立てる。

そこかな?

そこでしょ!

たぶんそこ!


 ***


 氷の巨人が、傷ついていく。

斬り裂かれ、焼き焦がされ、打ち砕かれ、叩き割られ、切り刻まれていく。

歌はやまない。止まらない。凍てつく雪に吹かれていても、尽きることなくあふれでる。

これが、おまえの力か。魔法使い。

 巨人を見上げ、スニェグーラチカがつぶやく。

君は、彼女の隣に並び、いや、と首を横に振る。

これは、みんなの力だ。あそこにいるみんなの。そして、遠いどこかにいるみんなの。

私たちは、その手助けをしてるだけにゃ。

手助け、か――

 あなたも、そうなんでしょう?と君は問う。

私は、おまえたちの音を消すものだ。

おまえの重ねた歌とて、いつまでも続くものではない。我が騎士を倒せなければ、すべての音は優く消える。

その心配はないにゃ。

 ウィズの言葉に、君もうなずく。彼女たちの音が消えることはない、と。

全てを守りたいという想い。

「もう、だれも泣かせはしない。」

負けてたまるかという意地。

「維持でも負けてやるものか!!」

手を取り合い響き合う意志。

「あなたなら、こうでしょ?。」

信じた道を貫くための決意。

「私たちの絆――」「絶てるものなら、絶ってみろ!」

そこから、生まれる。

「英雄は、ここにいる!!」

何があっても決して消えない、英雄の勲詩が。


みんな、音はまだ大丈夫か!

当然だ。龍を舐めんな!

私もハビィも、まだ行けます!

え、何?聞ーてなかった。

そっちの心配はしてないっつーの!

ルミちゃん、ルミちゃん、それよりあれ!

 巨人が鳴動する。

吹き荒れる吹雪が勢いを増し、身も心も凍りつかせようと荒れ狂う。

木偶めが。無様にあがきおって!

きゃあっ!これじゃ、ー気に音が――

削られる前に、削りきる!

行けるよね?みんな!

ああ!

はい!

おう!

いえー!

だったら、行くよ!私たちの――

〝勝利の旋律(フィニッシュコード)、!

 鳴り響く。

心の音色が。魂の旋律が。

想いの唱和、意地の咆呼、意志の共鳴、決意の誓句、情念の烈叫、雄志の勲詩が。

輝かしい律動、荘厳なる響きとともに、世界のすべてを震わせる。

みんなでー緒に、止めたげる!!


 ***


解析、出ました!胸部中央!そこに音を叩き込めれば、連鎖的に全体へ広がるはずです!

でも、近づけば近づくほど、吹雪で音を削られる!

翅音でスクラム組ませて止めろ!俺とあんたとミホロとハビィ、4人分なら行けるだろ!

なら、突っ込むのはあたしたちの役目ね!

よくわかんないけど、殴りゃいんでしょ?

そういうこと!

 ルミスとディギィとリレイが並び、ー気に巨人へ加速する。

熾烈な吹雪が、向かい来る。すべての音を凍てつかせ、無限の無音にいざなうために。

あいにく、龍とは轟くものよ!

今度は僕の音色を託す!

行って!お願いっ!

 タツマとソウヤとミホロとハビィ。翅音を切り離すことに長けた4人が、それぞれの翅音を放ち、飛ばした。

それは折り重なり合う翼に――ルミスたちを守る鎧になって、巨人の吹雪を防いで散らす。

ー点集中、ー点突破――

 巨人が、巨剣を振り上げた。山のような剣。橋のような刃を。

ー直線に来るのなら、それだけ狙いがつけやすい!

 吹雪とともに、振り下ろす。まっすぐに飛ぶルミスらへ。

どうする!?

防げる!?

ご冗談ッ!

 笑みを浮かべて、ディギィが跳んだ。

重なる翼にヒョイと飛び乗り、それを足場に、さらに飛ぶ。

こーゆーノリなら、これしかないっしょ!

 手にした斧に、音があふれる。爆発的な力となって――

ディギィ剣ッ!!!!


 爆砕。

振り下ろされた巨大な剣は、真っ向から斬り上げられた斧と激突し、木っ端みじんに砕かれた。

ふふん。斧は剣よりストロンガー!

いまディギィ剣とか言ったよな。

たぶんその場のノリだろう。

語呂は……良かったですね。

 剣を弾かれ、砕かれて、巨人が、ぐらりと後ろによろける。

飛翔するルミスたちを守る翼は、苛烈な吹雪に削られて、ほとんどぼろぼろになっていた。

あとは自力で!

ぶち破るっ!!

 加速する。

狙うは、ー点集中、ー点突破――ー気呵成のー撃必殺!

ブレイクよッ!!

ノッたぁっ!!

 ふたりの音色が、突き刺さる!

飛ぇべぇえぇえええぇええええぇええ!!

 蒼と金。ふたりの翅音が、かちりと組み合い、渦巻くひとつの刃となって、巨人の胸部を穿ち抜く。

ぴしりと、巨人の全身にヒビが入った。蒼と金のヒビが。ふたりの音色の証のように、刻まれ、広がり、震えて響く。

同時に、ふたりを守る翼が崩れた。巨人の放つ酷烈な吹雪、その最大の威力が、ふたりの音色を凍らせにかかる。

それでも。

それでもっ!!

 音は消えない。凍てつかない。

すべてを震わせ、響き続ける。

そのさまに、スニェグーラチカさえ目を見張った。

尽きぬのか?音が!

だって、心は有限じゃないから!

形なきものであるがゆえに、限りなきものでもあるからよ!

何かを見て、誰かに出会って――感じるたびに気持ちが増えて、音になる。音が鳴る!

もしも心が凍えても、震わせてくれる何かがあれば、きっと音色は鳴り響く!

だからっ!

 ふたりは吼える。

気持ちのままに。音色のままに。

すべてを震わせ、振り絞る。

えぇええええ加減にッ、しなさいっ!!!


 その音は、何より強い力となって。

未来をくじく象徴のような、冷たく大きな氷の騎士を、完膚なきまでに粉砕した。





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エピローグ



wユリカ、おかえりぃー!!

wあたしたち、ただいまぁー!

wwいえーい!

早えーな、おまえらの復活。他の連中、まだ音だろ。

wあたしたち、そもそも音がちっちゃいから!

wほらユリカ、お祝いのケーキ、食べて食べて!

yあ、ありがとう……。

 ユリカは、はにかむような笑顔を見せた。

ユリカちゃん……いい!その笑顔、いい!!

先生、写真撮っていいですか?今度うちの新商品ご紹介しますから!

えっと……うん、ほどほどにね……。

 リレイとミホロは、きゃあきゃあ言いながら、スプライトたちとー緒になって、思う存分、ユリカを愛で回し始めた。

何が楽しいんだかわからん、という顔でそのさまを見ていたタツマが、ちらりと横のルミスに目線を投げる。

おまえは参加しなくていいのか?

あたしは精神年齢高いから。

どんぐりの背比べだろ。

はー!?誰がどんぐりよ!言うに事欠いてどんぐりはないわどんぐりは!!

なんだそのどんぐりへのヘイト具合。

あっ、ユリカちゃん、飲み物カラだよ。

何か飲む?

yえっと、じゃあ、クリームソーダ……。

クリームソーダ入りまーす!!

テンション高ぇー……。

 そんな光景を微笑んで見つめながら、ソウヤは、ふと思索を巡らせる。

(フェアリーコードの結界は、時代を経るごとに強固になっているという……それは、封じられた〈災禍〉が力をつけているからか?

僕ら吸血鬼を造り出した以外にも、どんな悪辣な手を駆使しているかわからない。

……調べなければならないな)

 娘のために。世界のために。

〈災禍〉をよみがえらせるための兵器として産み落とされた、吸血鬼としての宿命に、抗い、打ち勝ち、生き抜くために。

マサンのような〈従僕〉が、他にいないとも限らんからな。

ああ。確かに――、……!!?

 右から聞こえた冷たい声に、ソウヤは、ぎょっとなって身を引いた。

スニェグーラチカが、白い両手にクリームソーダを持ってきていた。

ユリカ。おまえの分だ。

yありがとう!

もう片方おまえのなのかよ……。

ていうかなんでいるのよ。

様子を見に来た。ユリカの体温が上がったのを感知して、何事かと思ってな。

過保護か!!!

 ソウヤは、そっとユリカを見つめた。

恥ずかしそうにしながらも、あたたかなぬくもりに囲まれ、自然な笑顔を浮かべる姿を。

(やっと、取り戻したんだ)

 その実感とともに、誓う。

(二度と、失わない)


 心のなかで、名を呼んだ。

二度と呼ぶことの叶わない、しかし、決して忘れることのできない人の名を。

血を呑むような思いで、呼んだ。










Fairy Chord

00. Fairy Chord Prelude
  序章前編後編
2019
01/17
01. Fairy Chord
  序章
2019
03/14
02. ルミス編(GP2019)08/30
03. リレイ編(GP2019)09/12
04. フェアリーコード2
  序章
2019
11/26
05. フェアリーコード3
  序章
2020
07/14

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