【黒ウィズ】フェアリーコード2 Story1
フェアリーコード2 Story1
目次
story
そうなんですよ、と君は苦笑して、メロンソーダという飲み物を味わった。
帰るためにも、この世界のためにも、自分も調査に参加するよ、と君は言った。
金貨ポットのカードは、この異界では通じないようだった。つまり、いきなり無ー字である。
ショックは大きかったが、これまでの経験から、まあなんとかなるだろう、という気もしていた。
お金は、どこかで働くとか、困っている人の依頼を解決するとかして稼ぐしかないね、と君は言った。
え?
まぢ?と君は言った。
何もしていないのにお金をもらうのは……と君が言うと、ソウヤは穏やかに笑った。
君は、ありがたくソウヤからお金を受け取ることにした。
***
さっそくホテルに部屋を取った君は、翌日から、ルミスといっしょに調査に参加することにした。
妖精のたまり場として紹介されたのは、人気のない路地裏だった。
様々な風体の妖精が集まり、談笑している。君に話しかけてくる妖精もいた。
だが、ルミスとリレイにぶっ飛ばされたおかげで正気に戻ったぜ。今じゃあ反省してるよ。ホントだぜ?がははははは!
この異界では、気持ちが音色になる。
だから、ひとつの思いに囚われると、その音色だけが大きくなって、他の音=思いを打ち消してしまう。
コロバシという妖精も、話した感じ、気さくで人のよさそうな性格だが、「転ばしたい」という感情が暴走すると、ああなってしまうわけだ。
ウィズの言葉に、そうだね、と君はうなずいた。
……取り返しのつかない過ちを犯す前に、止めてくれる誰かがいるっていうのは、本当にありがたいことにゃ。
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ルミスといっしょに道端で待っていると、学校帰りのリレイがやってきた。
魔法使いです、と、君はリレイの友人らしき少女に答えた。
んーでリレイちゃん、どおいうつながり?
ねえねえ、魔法使いさんて、どんなことできるの?鳩出すとか、大脱出とか?
ウィズがささやくので、君は、それでは軽く魔法をひとつ、と言って、手にカードを取り出した。
とはいえ、フェアリーコードがある以上、普通の魔法は使えない。異界の音を流し、その音を力に変えるというやり方になる。
さて、この場合は、どの異界の音を流すべきか――
君が魔力を込めると、カードから異界の音が流れ始めた。
君が異界の人々と出会い、培った音が……。
……。
いや、なんの音だ、これ。と君は思った。こんな音知らない。培ってない。
とか思っているうちに。
なにかよくわからないものが増えて……。
うわああああああああ!!
「へえ。いい音じゃねーか、魔法使い。気に入ったぜ。」
トヨミのガラが悪くなっていた。あとなぜかサングラスをかけていた。
「ノリノリだな。なんかブッ放したくなってきちまったぜ。」
リレイのガラも悪くなっていた。あと、やはりなぜかサングラスをかけていた。
「今日からこのシマはあたしらが仕切る。あたしのことは、フェアリーゴッドファーザーと呼びな。」
ルミスのガラも悪くなっていた。そして、やはりなぜかサングラスをかけていた。
「ガキには早すぎる音だったぜにゃ。」
いやその語尾は無理があるぜ、と君は思った。
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星のない夜を見ていた。
窓を開け、身を乗り出して、空を見る。昔からの習慣だった。どうしようもなく、そうしたくなることがたびたびあった。
かつては、空を統べていた。自由に飛び回り、雨と雲と雷を従え、数多の星を宝のごとく愛でていた。
それが、今ではこのざまだ。
力を失い、地に墜ちて――星の見えない夜空を未練がましく眺めては、懐かしさとやるせなさにため息を吐く。
龍であった、という自覚はある。だが、その頃の記憶はおぽろげで、具体的な出来事などは思い出せない。
ひょっとしたら、自分は龍だったと思い込んでいるだけなのではないか――タツマはしばしば、そんな不安に駆られた。
先日の戦いを思い出す。
フェアリーコードが乱れ、大きな穴が空いた。その穴を埋めるため、みなで音を振り絞った。
だからだろうか。あれ以来、心がざわついて仕方がない。
何か大事なことを思い出せそうな気がするのに、どうしても、はっきりとは思い出せない。そんなもどかしさが続いている……。
育ての父の声が、タツマを現実に引き戻した。
そう。今の自分は、ただの人間の高校生だ。親に養われ、飯を食わねば生きていけない。それが、今の自分の現実なのだ。
タツマは嘆息し、部屋に戻って窓を閉めた。
育ての父は豪快な笑みを見せ、レンジで加熱したハンバーグ弁当をドンとテーブルの上に置いた。
テレビをつけると、バラエティ番組をやっていた。タレントたちの明るい笑い声を聞きながら、タツマとユウジはフォークを伸ばした。
将来。
大学に入るのか、入らないのか。入らないなら、どうするのか。入るとして、何を目指すのか。
考えてはいる。が、まとまってはいない。そもそも――
人の身に擬態しているのはー時的な措置だ。失われた力を取り戻したら、天に戻る。再び、龍として生きるのだ。
もっとも――それにはまだ時間がかかる。高校卒業までは、無理だろう。となると。
龍なのに。