【黒ウィズ】フェアリーコード2 Story1
フェアリーコード2 Story1
目次
story
……君たちも大変だね。いきなり異界に飛ばされてしまうなんて。
そうなんですよ、と君は苦笑して、メロンソーダという飲み物を味わった。
前におふたりがこの世界に来たのって、フェアリーコードが乱れたから……ですよね?
そうにゃ。だから事態が解決したら、自然と元の異界に帰れたにゃ。今回もそうするしかなさそうにゃ。
つっても……最近、別に乱れてねーけどな。
あたしたちが異変に気づいてないだけかもしれないわ。いちおう、調査が必要ね。
それで魔法使いさん、これからどうするの?
帰るためにも、この世界のためにも、自分も調査に参加するよ、と君は言った。
それは嬉しいんだけど、そうじゃなくて……その、寝るとことか、お金とか、食べ物とか。
金貨ポットのカードは、この異界では通じないようだった。つまり、いきなり無ー字である。
ショックは大きかったが、これまでの経験から、まあなんとかなるだろう、という気もしていた。
寝るのは野宿でなんとかするにゃ。旅は慣れてるから問題ないにゃ。
お金は、どこかで働くとか、困っている人の依頼を解決するとかして稼ぐしかないね、と君は言った。
食べ物は、狩りでもまかなえるにゃ。魔法で兎でも狩って、火で焼いて食べるにゃ。塩を振ると、いい昧が出るにゃ。
いやー……たぶんそれ、無理だと思うなー。
え?
こんな都会じゃ、狩りなんてできないし……あと、確か免許がいるんです、そういうの。
働くには、身分証明書が必要だね。
あと、困りごとを解決したら金くれる奴なんて、普通いねーよ。 RPGのクエストかよ。
まぢ?と君は言った。
なんて住みづらい異界にゃ。それなら、どうやって食べていったらいいにゃ?
どっかから食べ物取ってきて、代わりに何か珍しい物でも置いてったら?
人間がそれやっちゃうと犯罪だから!
……仕方がない。当面の生活費は、僕が出すよ。ひとまず、それでホテルにでも泊まってくれ。
救いの神にゃ!
吸血鬼よ。
何もしていないのにお金をもらうのは……と君が言うと、ソウヤは穏やかに笑った。
前回、君たちには助けられたからね。世界を救ってもらったお礼と思えば、安いものだよ。
気にせずもらっとけ、魔法使い。どうせこの先生、金なら唸るほどあるんだからな。
そんなにはないけど。
うるせえブルジョワヴァンパイア。
君は、ありがたくソウヤからお金を受け取ることにした。
***
さっそくホテルに部屋を取った君は、翌日から、ルミスといっしょに調査に参加することにした。
それで、どうやって異変を調べるにゃ?
とりあえず、聞き込みね。この街にもたくさん妖精がいるから、話を聞いてみましょ。
妖精のたまり場として紹介されたのは、人気のない路地裏だった。
ルミスおはよー!
噂の魔法使いもおはよ!
様々な風体の妖精が集まり、談笑している。君に話しかけてくる妖精もいた。
よう、魔法使い。覚えてるか?前にやり合ったコロバシってんだ。
ああ、あの、坂を転がってきてた奴にゃ?
おう。あんときゃあ悪かったなあ。人を転ばすのが楽しくてしょうがなくって、それ以外考えられなくなっててよ。
だが、ルミスとリレイにぶっ飛ばされたおかげで正気に戻ったぜ。今じゃあ反省してるよ。ホントだぜ?がははははは!
そういえば、倒した暴走妖精は元の音に戻るって話だったにゃ。
そういうこった。音の力はかなり減るがな。あのまま暴走しきって、悪魔になるよりマシさ。
この異界では、気持ちが音色になる。
だから、ひとつの思いに囚われると、その音色だけが大きくなって、他の音=思いを打ち消してしまう。
コロバシという妖精も、話した感じ、気さくで人のよさそうな性格だが、「転ばしたい」という感情が暴走すると、ああなってしまうわけだ。
強い感情に囚われて過ちを犯すのは、妖精に限ったことじゃないにゃ。誰にだって、あることにゃ。
ウィズの言葉に、そうだね、と君はうなずいた。
強い気持ちは自分そのものにゃ。だから、自分だけじゃ止められないにゃ。
……取り返しのつかない過ちを犯す前に、止めてくれる誰かがいるっていうのは、本当にありがたいことにゃ。
そうそう、その通りよ。よくわかってんなあ、猫又。
私は人間にゃ!
story
ルミスといっしょに道端で待っていると、学校帰りのリレイがやってきた。
あ、魔法使いさん。はかどってる?
魔法使い?え、魔法使い!?
魔法使いです、と、君はリレイの友人らしき少女に答えた。
あ、これはどうもごていねいに……あたしは空鳴トヨミ!リレイちゃんのクラスメイトでっす!
んーでリレイちゃん、どおいうつながり?
あーその……お父さんの知り合いで。最近外国からこっちに来たから、私が案内することになって。
ああ、リレイちゃんのお父さん、カオ広いもんねー。
ねえねえ、魔法使いさんて、どんなことできるの?鳩出すとか、大脱出とか?
手品師かなんかと思われてるみたいね。
(手品師ってことにしておけば、いろいろ便利かもしれないにゃ。この子でちょっと反応を見てみるにゃ)
ウィズがささやくので、君は、それでは軽く魔法をひとつ、と言って、手にカードを取り出した。
とはいえ、フェアリーコードがある以上、普通の魔法は使えない。異界の音を流し、その音を力に変えるというやり方になる。
さて、この場合は、どの異界の音を流すべきか――
君が魔力を込めると、カードから異界の音が流れ始めた。
君が異界の人々と出会い、培った音が……。
……。
いや、なんの音だ、これ。と君は思った。こんな音知らない。培ってない。
とか思っているうちに。
なにかよくわからないものが増えて……。
うわああああああああ!!
「へえ。いい音じゃねーか、魔法使い。気に入ったぜ。」
トヨミのガラが悪くなっていた。あとなぜかサングラスをかけていた。
「ノリノリだな。なんかブッ放したくなってきちまったぜ。」
リレイのガラも悪くなっていた。あと、やはりなぜかサングラスをかけていた。
「今日からこのシマはあたしらが仕切る。あたしのことは、フェアリーゴッドファーザーと呼びな。」
ルミスのガラも悪くなっていた。そして、やはりなぜかサングラスをかけていた。
「ガキには早すぎる音だったぜにゃ。」
いやその語尾は無理があるぜ、と君は思った。
story
星のない夜を見ていた。
窓を開け、身を乗り出して、空を見る。昔からの習慣だった。どうしようもなく、そうしたくなることがたびたびあった。
かつては、空を統べていた。自由に飛び回り、雨と雲と雷を従え、数多の星を宝のごとく愛でていた。
それが、今ではこのざまだ。
力を失い、地に墜ちて――星の見えない夜空を未練がましく眺めては、懐かしさとやるせなさにため息を吐く。
(俺は、本当に龍だったのか?)
龍であった、という自覚はある。だが、その頃の記憶はおぽろげで、具体的な出来事などは思い出せない。
ひょっとしたら、自分は龍だったと思い込んでいるだけなのではないか――タツマはしばしば、そんな不安に駆られた。
(そういえば……)
先日の戦いを思い出す。
フェアリーコードが乱れ、大きな穴が空いた。その穴を埋めるため、みなで音を振り絞った。
(あんなことが……前にもあった気がする)
だからだろうか。あれ以来、心がざわついて仕方がない。
何か大事なことを思い出せそうな気がするのに、どうしても、はっきりとは思い出せない。そんなもどかしさが続いている……。
おい、タツマ。飯だぞー、飯。
育ての父の声が、タツマを現実に引き戻した。
そう。今の自分は、ただの人間の高校生だ。親に養われ、飯を食わねば生きていけない。それが、今の自分の現実なのだ。
タツマは嘆息し、部屋に戻って窓を閉めた。
おう、タツマ。お母さん、遅くなるってよ。コンビニで飯買ってきた。ハンバーグでいいだろ。
ガキかよ。
嫌いか?
別に。
なら喰え。
育ての父は豪快な笑みを見せ、レンジで加熱したハンバーグ弁当をドンとテーブルの上に置いた。
テレビをつけると、バラエティ番組をやっていた。タレントたちの明るい笑い声を聞きながら、タツマとユウジはフォークを伸ばした。
タツマ、おまえ、どうよ、学校。ちゃんと勉強やってるか?
ああ。
そろそろ将来も考える時期じゃねえのか。どうなんだ、ちゃんと考えてんのか?大学行くとか、就職するとかよ。
そのうちな。
そのうちって、おまえ、なんだおまえ。時間なんてな、どんどんなくなってくぞ。後回しにすんなよ、そういうのな。
うるせーな。考えてるよ。
俺ァあれだぞ。クルマ好きだからよ。クルマ作りたくてよ、会社入ったわけよ。めちゃくちゃ勉強してな。
聞いたよ。何回聞かせんだよその話。
おまえもそういうのあんのかってことだよ。ないならないで、じゃあどうすんだってことだ。考えねえと、おまえ、いざってとき困るぞ。
だから考えてるっつってんだろ。話聞けよ。
将来。
大学に入るのか、入らないのか。入らないなら、どうするのか。入るとして、何を目指すのか。
考えてはいる。が、まとまってはいない。そもそも――
(俺は、龍だぞ)
人の身に擬態しているのはー時的な措置だ。失われた力を取り戻したら、天に戻る。再び、龍として生きるのだ。
もっとも――それにはまだ時間がかかる。高校卒業までは、無理だろう。となると。
(就活も視野に入れねばならぬのか……)
龍なのに。
(億劫だ…………)
なんだおまえため息なんか吐きやがって。おう、あれだったら相談していいんだぞ。いいアドバイスするって若いのに評判だぞ俺。
うるせー。しねー。