【黒ウィズ】フェアリーコード3 Story4
フェアリーコード3 Story4
目次
story1 マサン
ほら俺さ、1回出てきて「こりゃ勝てねえ」って手ェ引いたじゃん?あそこ、どう出るかすっげ~迷ったんだよね。
ぜんぜん出ないで存在感消しとくのと、出といて「こいつはこの件に関わらなさそうだ」みたいに思わせるのと、どっちがいいかってさ。
いやホント迷ったよ。迷ったんだけど、やっぱ、じっとしてんのも退屈だしさあ。出ちゃったね。つい、出ちゃったね。ハハ。
ソウヤが駆け出そうとした瞬間、マサンは、手にした剣を無造作にー閃した。
ユリカそのものである剣を。
それだけで、傲然たる音が響き渡り、刀身から紅の斬光がほとばしった。
飛来する斬光を、ソウヤは倒れ込むようにかわす。
直撃は避けたが、光の発する音圧だけで、動けぬほどに地面に押しつぷされた。
マサンは爽快そうに笑い、ニンマリと君たちを見回した。
楽してサクッと勝つってのが、いっちばん好きなんだよね。
君たちは立ち上がり、身構えた。マサンを睨み、拳を握った。
それが、よほど無様で滑稽に見えたのか、マサンは心底おかしそうに笑った。
いいねえ、おまえら。そういうとこ好きだよ。諦めないとこ。
踏みにじりがいがあるもんな。
何か。何かないか。君は懐をまさぐり、カードを探す。
みんなと違って、君の音はまだ少し残っている。スニェグーラチカに削られきられなかった分。魔法をひとつ、奏でるくらいの音の力は。
ひとつ。音ひとつ。何かないか。何か――何か、この状況を打破できるような音は――
スッ、とマサンの笑みが冷えるのを感じた。
冗談めかした言葉の奥に、無慈悲な殺意の音をにじませて、マサンは曲刀を振りかぶる。
後顧の憂いを断っために、ここで楽ぅ~に皆殺しておこうかね!
させるか!と叫んで、君はカードを引き抜き、ありったけの音を込めて奏でた。
なんか出た。
出てきたのは、……いや、なんだ?なんだこれ?
意味不明だが、なぜかエニグマな力強さを感じる。説得力というか。なんとなく、なんとかなりそうな感を。
君は、そのエニグマ感を信じることにして、それに駆け寄り、エニグマ叫んだ。
乗って!
早く!!!
リレイたちは戸惑いつつも、ソレの放つ圧倒的なエニグマ感に巻き込まれるように、慌てて君に続いて乗り込んだ。
そして発進。
ソレは当たり前のように、塔のような集合住宅の壁面を高速で滑り下りていった。
なにそれ!!!!!
***
なんとかマサンの元から逃げ切ることはできたが、君の音も、そう長く保つわけではなかった。
夜の街を駆け、人気のない路地に滑り込んだところで、音の力は消え、君たちは地面に投げ出された。
しばらく、誰も何も口にしなかった。
静寂だけが、夜の闇に融け込んでいった。
君はソウヤを見た。
動かない。うつむき、拳を握りしめたまま、路地の隅に座り込み、微動だにしないでいる。
いかなる音も聞こえない。強いて閉じ込めているように。
やがて、その唇から、漏れ出る言葉があった。
今すぐにでも飛び出したいという激情を、強固な理性でがんじがらめにして、どうにか吐き出したような。そんな言葉だった。
その意志の強さに、君は驚く。
なりふり構わず助けに行きたいだろうに。そうせずにはいられないだろうに。
自分にイバラの鎖を巻くように――己の流した血涙で、己を塗り固めるように、彼は堪えようとしていた。必死に。
答え、ルミスが何もない空間に目を向ける。
すると。
びょう、と吹雪が渦を巻き、雪の女が現れた。
そう。よほど力を失ったのか、スニェグーラチカの全長は、いまや、縮んだルミスと同程度でしかなかった。
あなた……あの子を案じる音を出してた。
問いを、スニエグーラチカは無言で受け止め――
諦めたように、口を開いた。
だから、私は彼女の音を奪った。その力が発現しないように。
それは、あの子が望んだことでもあった。
成長するにつれ高まる力を。その力で、人の音を喰ってしまうのではないかと。
その悲しみが、私を呼んだ。私は彼女の思いを知り……。
願いを、叶えた。
力なら、制御すればいいだろう!そんな……そんな理由で、あの子の心を消すなんて!
そして……この地に封じられた〈災禍〉の解放だ。
あの悪魔は、その従僕であり――
おまえたち吸血鬼とは、そもそも、彼らの剣として生み出された、ー種の生体兵器なのだ。
story2 斬歌
ネオン瞬く都会の隅で、妖精たちは、ひそひそと声を交わし合う。
心配心配。てなわけで。
俺が楽して勝てるように、ちょっと分けてよ。心の音色。
刃が、怒涛と荒れ狂う。
夜陰を切り裂き、月光を跳ね返し、躍る、躍る、愉悦のままに。
斬華、斬苛と刃は歌う。妖精たちを斬り倒し、あふれる叫びを吸い尽くす。
血飛沫のような絶叫。悲鳴。叫喚。喘鳴。
そのすべてが、血塗られた刀身に――その内にあるユリカの心に、流れ込んでくる。
心が震える。血肉が震える。流れ込む力に。その熱さに。
そのすべてが我がものとなる、とろけるような甘美さに。
ユリカは泣く。ユリカは叫ぶ。音を喰らう悦びに震えながら――それを悦びと感じる罪深さに震えながら。
「妖精でも人間でも、誰かの音を食べるなんて、そんな残酷なこと、絶対しない。
誰かの心を奪うのは、殺人と同じだ。決して許されることじゃない。」
斬渦(ざんか)、斬呵(ざんか)と刃は歌う。軽快なリズムと、陽気な笑い声を伴って。
走り、閃き、引き裂き、喰らう。
胸を衝くような音の塊が、次から次へと喉の奥に詰め込まれ、濁流のごとくユリカを翻弄する。
わけがわからなくなるほどの甘さと罪悪感。もっともっと音を喰らいたいという欲望と、もう誰かの音を喰らいたくないという絶望。
自分を染めていく音の奔流のなかで、ユリカは喉も裂けよと叫びを上げる。
オイシイだろ?嬉しいだろ?満ち足りるだろ?なぜなら!
おまえら、そういうふうにできてるからさ。
嗤うマサンの長い影が、震える妖精たちを覆い尽くす。
スプライトの姉妹。初めてできた妖精の友達。本当の姉妹のように遊んでくれた――
斬歌。
流れ込んでくる。音が。よく知る音が――見知った音が。おぞましいほど甘美な昧わいとなって。
悪魔は笑う。愉しげに。
命も心も、無下にして。
***
そして――悪魔の音が極限まで高まると、世界を滅ぼすほど激しい音色に……〈災禍〉に変わる。
すべてを焼き尽くす大火。すべてを洗い流す大波。
今まで、幾度となく、そうした〈災禍〉がこの世に現れた。
そのー部は、神話や伝承という形で、今も語り継がれている。
だから、各地の雪や氷の妖精が、フェアリーコードで結界を織りなし、〈災禍〉を封じ込めたのだ。
やりすぎて、全世界を凍てつかせてしまったそうだが。
君とウィズにはよくわからないが、リレイたちには、かなり強烈な事実だったらしい。衝撃の音色が、こちらまで伝わってくる。
フェアリーコードを乱させ、己を解き放たせるために。
タツマは唸るような声を発しつつも、奥歯を噛み締めるようにして押し黙った。
そして、僕たち吸血鬼は――
奴らは人の子をそそのかし、妖精を喰わせ、その音を血肉に取り込ませた。
そうして「音を喰らう人間」を造り出し、その血と力を、何世代もかけて熟成させていった……。
すべては、従属者の、そして〈災禍〉の武器とするために。
なぜ、人を!僕たちを!そんな風に……利用したんだ!
だが、人の血肉が器となれば、その影響を減じることができる。
さらにその器が、〝音を喰らう”ことに特化したものならば――悪魔自身が喰らうよりはるかに効率的に音を集められる。
そのようにすれば雪の精にも勝てる。先ほどおまえ自身が示したように。
そして、今。長き熟成の時を経て――
その血は、あの子の代で、完成に至ったのだ。
story 夜を走れ
声が聞こえる。
絶叫。悲鳴。叫喚。喘鳴――
人には聞こえぬ、人ならざる者たちの声が。
マサンの位置を――そしてマサンの凶行を、如実に示す。
ルミスたちはうなずき合い、音の元凶へ向かって走り出す。
音の力は、完全ではないにせよ、回復しつつある。
マサンと渡り合えるかはわからない。だが、じっとしていられるわけがなかった。
ルミスたちの後について走りながら、君は、何食わぬ顔でディギィがついてきているのに気づく。
彼女がいてくれた方が戦力的に好都合なので、君は、まさに。と、迫真の表情でうなずりた。
即コピされた。
気に入ったらしい。ノリのいい子だな、と君は思う。逆に言うとノリしかないけど。
そして、彼女もいずれ〈災禍〉になりうる存在なのだということを思い出し、複雑な気持ちになった。
story 無慈悲な炎
マサンは、荒野に立っていた。
妖精たちの音が、消し去られた荒野。悲鳴と絶叫の余韻が、しくしくと渦巻く荒野。
自ら生み出した音の荒野で、会心の笑みを浮かべていた。
ぽりぽりと頭をかいたマサンは、烈然と睨みつける君たちの様相に気づき、唇を歪めた。
いいぜ。ついに、とうとう俺が相手をしてやるよ!
マサンの音が、爆ぜるようにあふれた。
さながら噴火。あるいは爆轟。
気まぐれに、たわむれに、ほんのついでに命を奪う災火のような、無情で無慈悲で無慙な準。
ストレスフリーに大勝利マサン無双の始まりだァ!!
***
宣言通り、マサンは強かった。
もともと強大な力を持つ悪魔であり、そして今、彼の手には、数多の妖精の音を吸った武器――ユリカがあった。
君たち全員を相手取ってなお、マサンは余裕綽々という表情を崩さない。
舞い散る黒い火の粉のなかで、マサンは心底おかしげに笑ってみせた。
どうして僕は死んじやったの?やりたいことがいっぱいあったのに!ああ、来世では、明るく楽しく生きられるといいなあ!
哀れだろ?かわいそーだろ?だから俺は誓ってやった。そいつらの分まで、明るく楽しく生きてやろうってな!
マサンは、右から打ちかかってくるルミスの大剣を、ゆるりと受け流し、爆炎と咲笑を同時に浴びせて吹き飛ばす。
僕が不惘に死んだのに、他のみんなはのうのうと生きてる!なんて理不尽!許せない!
だからさあ。明るく楽しく世界を壊して、みんな気持ちよーく平等に死にましょう、ってなハナシ!
マサンは、無造作にユリカを横薙ぎにした。紅の斬光がほとばしり、風も音をも斬り裂きながら迫ってくる。
ミホロが前進し、翅音を展開して受け止めた。君も魔法の障壁を重ね、ミホロを守る。
積み上げてきたものが、ほんのちょつとの気軽なー手で大崩壊!このカタルシス、いや、たまらんね、ほんと!
斬光が弾け、君の障壁とミホロの翅音を粉砕。弾き飛ばされたミホロを、タツマが受け止める。
接近したソウヤが、上段から鎌を振り下ろす。
マサンは、これ見よがしにユリカで鎌を受け、悲鳴のような音を響かせてにやついた。
だいたい、ユリカちゃんだって喜んでるぜ~?いっぱい音を食べさせてもらって、おいちい、おいちいってな!
鍔迫り合いを演じながら、ソウヤは吼える。
おまえらはさ。音を喰うために作られたんだよ。つまり、誰かの音を喰うのが、基本で、正義だ。なのに、おまえときたら。それを悪いことだとか言っちゃってさ。
どうせこの子にも教えたんだろ?「音を喰うのは悪いことだよ」って。
なにせこの子は、母親を喰って(・・・・・・)生まれてきたんだからなァ!
ソウヤが固まる。紅い眼が見開かれる。マサンの浮かべる狂喜の笑顔をいっぱいに映して。
生まれついての……だぜ。じゃ、最初の餌食は誰だと思う?
マサンが呼びかけると、曲刀の刀身が微細な震えを発し――ユリカの声を吐き出した。
yわたし……おかあさんを……たべた……。
おかあさんを…たべて、うまれた……。
yおいしかった……。
震える声が、夜を震わす。
陶然たる甘さと、地獄のような罪深さに震える絶叫が。
yおかあさん……おいしかったの――
ついに誕生した究極吸血兵器の、最強の産声。人ひとり分の音なんざ、ぺろりと平らげちまうだろうな。
お産ってのはただでさえ体力使うからなぁ~。そんなときに心の音をまるっと喰われちまったら、そりゃあ死んでもおかしかねえわな。
どうだい、先生。
おまえの娘は、おまえの愛した女を喰った!ちったぁ憎くなったかい?
ま……どうせ殺すから、いいけどね。
story 託された音
勝てないかもしれない。
振り払っても振り払っても、その思いが煙のようにつきまとう。
マサンは、ただ強いだけではなかった。最強の吸血鬼たるユリカを素材とする曲刀が、君たちの音を喰らい、吸い上げていく。
勝てる?勝てるか?勝てるわけないよなぁ!
無双も過ぎると飽きが来る!そろそろお陀仏(ねんね)願おうか!
マサンが刃を振り下ろす。真紅の光が、夜を裂く。
君は、音を振り絞って障壁を形成しようとする。
ふらりと。
ソウヤが、前に出た。
光が弾ける。
防御も、回避も、いっさいなかった。紅の斬光は、ソウヤの左腕を直撃し――
君は、見た。
ソウヤの左腕に宿った、真紅の翅音が、ぶつかってきた斬光を受け止め、噛み砕くのを。
噛み砕かれた斬光は、鋭い音の破片となって、ソウヤの全身をずたずたに斬り裂いてい<。
それでも、ソウヤは揺るがなかった。
紅い瞳で、マサンを見つめ。ユリカを見つめ。
血を吐くように、つぶやいた。
だが……それ以外の使い方もあると、彼らが教えてくれた。
ー方的に奪うのではなく……「託される」こともできるのだと!
ソウヤの音が、激しく震える。燃え盛り、膨れ上がり、マサンの音を押し返す。
かすかな声が、君にも聞こえる。
マサンの放った斬光のなかに混じっていた、妖精たちの音が――ユリカを思う気持ちが。
ソウヤに託され、力になった。紅蓮に燃える響きを生んで。
構わず、ソウヤは踏み込んだ。
鎌ではない。牙。左手の翅音。紅蓮の響きを刃に換えて、轟然とマサンヘ放つ。
マサンはユリカで受け止めた。
父と娘と――互いの刃が激突し、夜をも引き裂く叫びを上げる。
どくん、と脈動するような音が響いた。
力が。音が。流れ込んでいる。
ユリカの刃からソウヤの牙へ。吸い上げられている!
号令ー下。君たちは、マサンに向けてー斉に攻撃を仕掛けた。
リレイの銃弾が、君の魔法が、タツマの音球が、ミホロのミサイルが、ディギィとルミスの挟撃が。瞬時に、同時に、マサンに殺到する。
ユリカを使えば、たやすく弾き散らせただろう。だが、今ユリカの刀身は、ソウヤにつかまれ、封じられている。
マサンはユリカを手放し、後ろに跳んで、殺到する猛攻の嵐から逃れた。
だから、ソウヤの手には、曲刀が残った。
手の中で、曲刀は形を変じる。苦悶の表情でギュッと目を閉じた少女の姿に。
彼女を、力強く抱きしめて――ソウヤは、マサンに視線を向けた。
ユリカの身から、なおもソウヤに音が流れている。
ユリカに喰われた妖精たちが、自らの意思で、ソウヤに音を託そうとしている。
『遊び友達を助けたい』という、妖精らしい、自由で気ままで無邪気な願いのために。
もちろん、彼らだけではない。君たちも、決然たる音を胸に、ソウヤの周囲に集い、身構えた。
ソウヤの頬を、涙が伝う。
あたたかな喜びと、燃えるような感謝を帯びて。
すう、と、マサンの頬から笑みが消えた。
今、わかったぜ。
***
なぜ、こんな呪われた血を引いて生まれてきたのか。
10代の頃は、そればかり考えていたように思う。
鎌で薙ぎ、牙で刺す。我が身に宿る血の力を、ためらいなく全力で解放し、ぶつける。
黒い炎を撒き散らし、マサンは嘲笑を投げかける。
かわいそうなのは誰だ?ユリカちゃんさ!最高に素晴らしい力があるのに、使っちゃだめだ、悪だ罪だと、そりゃないぜ!
つか、も、ダメだろ。母親喰って生まれたんだぜ。人間倫理の最高禁忌、生まれながらの親喰らい!今後ー生、そんなもん背負わせるのかい、なあ!
〝武器”として本懐を遂げさせてやる方が、よっぽど幸せじゃないかねえ!
ソウヤは、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
力を使わなければ、ただの人間でいられる。以前はそう思っていた。
伝承に登場する吸血鬼と違って、人の血を吸わねばならなかったり、日光などに弱かったりするわけでもない。
なら、他者の音を吸うという忌まわしい力さえ使わなければ、ただの人間とは変わらない。そして、そんな力、使う必要さえないのだ。
だから、普通に人間として生きた。ー度たりとて力を使うことなく。愛する人と出会い、ユリカと出会った。
自分は大丈夫だったから、ユリカも大丈夫だと人の音を喰らいさえしなければ、ただの人間と変わりないのだと娘にはそう教えていた――
それでユリカがどんなに苦しんだのかも、自分の楽観が、結果的に妻の命を奪ったのだということも知らずに
だから。
ユリカには背負わせない!
音を奏でて、血潮が燃える。
大いなる決意が。揺るぎない覚悟が。かつてないほどの力をもたらす。
理性と自制で封じ込め、邪険にし続け、目を背けてきた――呪わしく忌まわしい力の、そのすべてを。
我が身に背負い、吼え猛る。
喰われた妖精たちの気持ちが。音が。
託され、重なり、たかぶって――燃える、燃える、どこまでも、果てしなく!
貴様の音など、消し尽くす!!
***
漆黒の火弾が放たれる。お遊びのない、本気のー撃。すべてを灰に変えるほどの業火。
タツマの音球とミホロのミサイルが火球を迎撃。心底からの本気を振り絞った音のすべてで、食い止め、空中で爆裂させる。
そこから生じる黒煙を裂いて、飛んでいくのは無邪気な殺意。
豪快極まるー撃を、マサンは短音で受け止めた。砕かれこそしないものの、その威力を止めきれず、大きく後ろへ弾かれる。
星の滑り込むような飛翔と、挟撃。矢継ぎ早に繰り出される剣撃と銃撃の時雨が、マサンの動きを制限し、縫い止める。
先生!と君は叫んで、ソウヤに強化魔法を飛ばした。
紅い光が、加速する。牙のごとき翅音を羽ばたかせ、ー直線に。
ルミスとリレイの挟撃をかわしながら、マサンは迎撃の炎を放つ。
ソウヤは避けない。避ける必要がなかった。
突っ込んだのはソウヤではなかった。翅音の分身。スプライトたちの〝いたずら”。
爆炎に呑まれる分身から目を離し、マサンはソウヤ本体の居場所を探す。
いた。
目の前。ソウヤが、にじみ出るように現れる。
マサンは、咄嵯にそちらへ炎を放とうとしたが――
苛烈な罵倒を浴びせかけられ、ー瞬、きょとんと動きを止めた。
そのー瞬が、勝負を分けた。
ソウヤの牙は、膨大な音とともにマサンを貫き、突き抜け、打ち破っていく。
そのさまを茫然と見下ろして。
至極残念そうな言葉とともに、マサンは爆裂四散した。