【黒ウィズ】双翼のロストエデン3 Story4
2017/00/00 |
目次
主な登場人物
story7 魂を救え!【封魔級】
次の天界の攻撃の目標は、ベケットが住処としている所だった。
混乱が起こっているうちに、ベケットを叩きたいのは、当然の考えであった。
「どうする、アルドベリク? アンタのことを話してくれたら、ベケットのことも話すよ。」
そのため、アルドベリクはヤラとの取引に応じていた。
「そういう約束だ。何が聞きたい?」
「そうだね、あの人間のことが教えてほしい。助けようとしている娘、あの小僧。あいつらは一体何者だ。」
「あのふたりは、ジェネティスという怪物に、故郷を追われて魔界にやって来た。それをルシエラが拾って来たんだ。」
「なぜその時に捨て置かなかったんだ? なぜ獣の餌にしなかった?」
「なぜ? 善くないことだと思ったからだ。」
「ふっ。善くないこと? 魔族のオマエが?」
「何かおかしいか?」
「いや。アタシはなんとも思わないさ。ちょっと変わっているな、と思っただけだ。
で。あのふたりはオマエにとってなんだ? どういう存在だ?」
「大切な存在だ。貴様の下らん話に付き合ってやれるくらい大切な存在だ。」
「それはどうもありがとう。……大切と言ったが、それはぁ、ルシエラよりもか?」
「なぜあいつが引き合いに出される?」
「なぜ出してはいけない?」
すぐさま返されるヤラの言葉に、アルドベリクは自分の不利を悟った。
ここはヤラの領域なのだ。この女が質問する場であって、自分が答える場所なのだ、と。
力ではなく、契約による絶対的な支配の構図が、自分を縛っているのだ。
「比べることは出来ない。比較する意味もない。」
「アタシはどちらが大切かを知りたいんだ。」
「どちらも、だ。比べられない。」
「どちらかと言えば、でいいんだ。ほんの少しだけでも、どちらが大切か。それが知りたい。
あるだろう? 付き合いが長いとか。何か些細なことが。」
アルドベリクは吐き気に近い何かとともに、言葉を吐き出した。
「ルシエラとは長い縁だ。それこそ、他の誰とも違う。と言っても、腐れ縁だ。」
「それはつまり、ルシエラの方が上と言うことか?」
「好きに解釈しろ。」
「ああ、好きにする。」
***
アルドベリクが戻って来たのを見て、君は立ち上がった。
ドミーの時のように、相手の情報が掴めたのなら、すぐに戦いに出なければいけない、と思ったからだ。
アルドベリク自身も同じ考えだった。
君はぎょっとして、隣を見た。いつの間にかヴェレフキナが立っていたからだ。
それにシミラルも。
無表情で、手を握ったり広げたりしていた。
アイツはボクらとしても、ガツンつと言うとかなあかんからね。
それに、キミらがやったらアイツが食うた魂も消してしまう。ボクらやったら救える。
ようやくヴェレフキナが君を見た。驚かせたことを詫びることもなく、言った。
story7-2
どこにいるんだろうと君は辺りを見回す。だがそれっぽい人影はなかった。
君がベケットを探していた、とヴェレフキナに答えた。すると彼は君の真後ろを指さした。
君は後ろを見る。そこにはこんもりと盛り上がった岩? 壁? 山? があった。
瞬時に、君は全てを理解して、後ろに飛び退った。
それは岩でも壁でもなかった。
よく見ると、ベケットの片手には天使の兵が握りしめられている。
言いながら、ベケットは叫ぶ天使の頭の先に口をつける。
ベケットが天使の頭から何かを吸い出すと、天使は一瞬にして、萎んでしまった。
***
ベケットは食べるのが大好きな魔族だった。ただそれだけで幸せだった。
ところがアイツが暮らす地方で戦争が起こり、当然のように食糧難が起こった。アイツにとっちゃ最悪の状況だ。
ペケットは我慢できずに貴族の食料に手をつけた。
哀れなアイツは腹がいっぱいになって、ウトウトしているところで捕まっちまった。
そしてアイツは何を食べてもまずくて吐き出してしまう呪いをかけられた。
何を食べても吐き出すんだ。あいつはカリガリに痩せ衰えて死ぬ間際まで行った。
「さあ、哀れなアンタに相応しい果実だ。」
「そ、それもきっとまずいんだ……。」
「大丈夫。この実は甘い。きっと甘い。」
***
食べ物を手に取るように無造作な仕草で、ベケットが君たちに掴みかかる。
君は素早くその手から逃れ、魔法で反撃する。
抜き出したカードには、魔の誉属に対して特別な効果がある精霊の力が込められている。
カードが光り、魔法の光が爆ぜた。うなりを上げてベケットに光弾が飛んでいく。
そして着弾。
君は頷く。先はどの魔法でベケットが倒れるとは思っていなかった。
ただ相手の能力を確かめたかったのだ。
アルドベリクから教えられたベケットの力は、食べた魂の力を自分のものに出来るという能力である。
シミラルは不満げに顔を歪めた。
おそらく、ヴェレフキナは出発前に言っていたように、まだベケットに食べられた魂を救うことを考えているのだろう。
それが魂を管理する死界の住人の義務だと、ヴェレフキナは考えているかもしれない。
シミラルもそれがわかっているから、ヴェレフキナの行動を許すのだろう。
ヴェレフキナは君を見る。
魂を守る方がいいんだけど、と君が答える。するとヴェレフキナはにっこりと笑った。
***
リュディは城にある剣の手入れをするために、武器庫へ向かっていた。
愛想の無いアルドベリクにも趣味はある。
刀剣収集は、色気のない彼にとって、趣味と実益を兼ねた実に効率の良い趣味であった。
そんな彼を父として、師として育ったリュディにとって、剣の手入れは、子どもの頃から親しんだ「遊び」のひとつでもあった。
心落ち着けるひとときを求めるなら、常にリュディは武器庫に向かった。
同じことを考える者は、この城の中にはもう一人いた。
手入れが終わった剣の刃を見つめながら、背後のリュディに声をかける。
リュディは適当な剣をひと振り手に取り、彼の側に腰を掛けた。
剣は鞘に納めたまま、抜くことはない。それよりも先にすべきことがあると感じていた。
剣を鞘に納め、アルドベリクは立ち上がる。
壁の飾りに剣を取り付け、アルドベリクは扉の方へ向かった。
彼は言葉で叱りつけることは少なかったが、彼の沈黙は激しい言葉よりも厳しかった。
ただし沈黙で終わることは、少なかった。彼はいつも厳しさに徽することが出来ない。それはリュディも知っていた。
アルドベリクが去り、リュディは剣を抜き、手入れを始める。
無心になり、様々なことを忘れようと努めた。
磨いた刃に歪んだ顔が映っていた。顔を上げると、ヤラが目の前に立っていた。
背後の扉が開いた様子はなかった。気配も感じなかった。努めて冷静にリュディは手入れを続けた。
お前とリザをずいぶん大切に思っているようだ。
刃の上で滑らせる砥石が止まった。
アタシは知っている。アタシがアイツを作ったからだ。
気をつけた方がいい。何に気をつけるのかは、ハハ、よくわからないけどな。
言い捨ててヤラはリュディの前を通り過ぎていった。
背中で扉の閉じる乾いた音が聞こえた。
story7-3
乱暴に振り回される腕を掻い潜り、君は何度もベケットに魔法を叩きつける。
だが、どの攻撃も効果があるようには見えなかった。
そうは言うが、このままではこちらが追い詰められる可能性も高い。
ベケットの言う迫りである。戦いは何か起こるかわからないものだ。
ほとんど腹の中に埋没している足をどうにかこうにかして、ペケットが立ち上がる。
ベケットの肌が光った。いや、正確には腹の中の何かが光った。
何が起こったのかわからなかった。気づいた時には、ベケットはシミラルの眼前に立っていた。
その場の誰もが反応する間もなく、シミラルが振り下ろされた掌と地面の間に挟まれるのを見た。
その目に光は無かった。
普段の呑気な口調を崩さないヴェレフキナを、君は思わず睨みつける。
呼べばまた戻って来れる。
君はその言葉にほっとする。確かに彼らは死界の住人である。
死んだように見えても、感覚としては家に帰つているだけなのだろう。
ヴェレフキナがポケットに手を突っ込んだまま、ベケットの前に歩いて行く。
最高のご馳走を目の前にしたように、ベケットのよだれを垂らし始める。
ベケットの大口が開いたと思うと、ヴェレフキナはベケットの腹の中に収まっていた。
何がなんだかわからないままだった。
ふひ! 次は人間だあ。
いつまでも動揺しているわけにはいかない。戦わなければいけなかった。
君は重たい足音を立てて歩いて来るペケットを迎え撃つよう、戦いの構えを取った。
ベケットの□から淡い光の奔流があふれ出す。それだけではない。
おお!? おお!? おお!? おわ、おわ、おわわ! く、くるしッ!
腹の皮がパンパンに膨張し始め、内部から光輝く。
限界まで伸びきった腹はパンッ!という破裂音で、弾け飛んだ。
飛び散った無数の淡い光の粒が舞い降りてくる。奇妙に幻想的で美しい光景。
その風景の中に、ヴェレフキナが立っている。
でも、まあ悪いもん食べたら、腹壊すわな。
ヴェレフキナは光の粒を見上げ、呟く。
ヴェレフキナは一方を見やる。そこには肥大した肉塊が弱々しく震えていた。
ヴェレフキナがベケットの顔面を鷲づかむと、巨体が青白い炎に包まれ、一瞬にして燃え尽きた。
***
君は、ヴェレフキナからアルドベリクが病気の調査を彼らに依頼した話を聞いた。
それだけではない。それがジェネティス由来の病気である可能性が高い、という話も聞かされた。
さて。どうや、シミラルなんかあったか?
死界から再びシミラルを呼び戻したヴェレフキナは、ベケットの腹から解放した魂を調べさせていた。
ヴェレフキナは少し迷ったような素振りを見せたが、君に話し始めた。
それは、この戦いに出る直前だった。
***
珍しくルシエラが話しかけてきたことだった。
きっと、免疫のようなものを持っている者もおるはずや。これはボクの経験から言うことや。
免疫を持つ者が見つかれば、治す方法も……。
これって発症したことになるんですか?
ヴェレフキナには、ルシエラの問いに答えることはできなかった。
***
せっかくアルドベリクが黙っていたことを誰が教えたのか、と君は訝しく思う。
大昔の技術やね。解術するには何か条件を満たさんと無理やろうね。
story8 何度目かの運命
ほのかな紫光を帯びた手をルシエラの頭の周りに漂わせる。
しばらくルシエラの頭の上を漂った後、その手の紫光はそっと消えた。
雷が落ちた。瞬きと轟音にそれほど間がない。近い場所だ。
雷を落とすような雲は、空にはなかった。
音につられて、君は外に出た。一緒にいたアルドベリクやクィントゥスたちも様子を見るために随伴している。
外は、乾いた風が吹いていた。いつもの毒気の漂う湿った風ではなかった。
魔界生まれの者も、そのことに気づいていた。
君の□の中がざらついていた。舌の上の感触を確かめる、それは砂だった。
君たちの前に渦巻き状の砂塵が起こる。砂塵が去った後、その場にはベリカントが立っていた。
お前の健闘に報いるために、面白い提案を持って来たんだ。
遅れて、ヴェレフキナやルシエラがやってきた。
ベリカントは役者が揃ったとばかりに、大きく両手を広げる。
リュディはアルドベリクの判断を待っているのか、ずっとアルドベリクを見つめていた。
ヴェレフキナとシミラルは静観していた。彼らにとって関わるべきことではないのだろう。
ルシエラは、笑っていた。いつものように、その裏にある本心はわからない。
アルドベリクは沈黙している。ベリカントから目を離さず、黙っていた。
乾いた砂塵が吹き荒れた。砂塵が去り、君が顔を覆ったローブを下ろすと、ベリカントはもういなくなっていた。
さっさときびすを返すアルドベリクを、リュディは不安げに見送っていた。
いつの間にかヤラがやってきていた。
と君に話しかけてくる。
君は、面白くない。とだけ言い、城内に戻った。
story9-2
城内に戻ったところで、問題が解決するわけではなかった。
ベリカントの目的は、アルドベリクたちの分断だろう。と君は思った。
判断を下すはずの、アルドベリクは沈黙していた。
アルドベリクは答えようとはしない。
友人の様子を見て、何を言っても無駄だと悟り、クィントゥスはその場に座り込んだ。
君はヴェレフキナたちに何か良いアイデアはないか、と尋ねる。
ヤラはぬらついた笑顔を浮かべている。
そんな中、リュディが呟く。悲しみを帯びた口調だった。
アルドベリクはちらりとリュディを見た。
それだけ告げて、リュディは部屋を後にしかかる。
頑な少年の背中にアルドベリクは簡潔に伝える。
少年の背筋がすっと伸びる。
お前たちが故郷に無事帰るまで、俺はお前たちを守る。必ずだ。
今回は、拾ってきた本人にも少しは働いてもらおうと思う。もちろん覚悟はできているんだろう?
アルドベリクは珍しく冗談めいた口調をルシエラに投げかける。
ルシエラは相変わらずの笑顔である。
決して崩すことのない笑顔は、最初からこの瞬間のために用意されているようだった。
リュディはふたりに背を向けたまま、俯き、拳を握りしめる。
叱る言葉が、とても優しく響いた。
捕らわれていた私を、アルさんが必死に救い出そうとしてくれました。
その時は、天使とか魔族とかではなくて、ただの人だったのかな、私たち? 一生懸命がんばったけど、結果は失敗。
色んな世界で、色んなふたりで。
ヴェレフキナは顎を動かす。そこにはヤラがいた。
彼女はぬらついた笑顔で返した。
ひりついたその場を、再び引き戻すように、ルシエラはアルドベリクとリュディに声をかける。
アルドベリク自身もそれがわかっていたのだろう。 ヴェレフキナの意見を否定はしなかった。
ルシエラがアルドベリクを諭すように、話を戻す。
2度あることは3度ある。3度あればまだまだいっぱい蹴っ飛ばせますよ。
座ったままのクィントゥスがおもむろに切り出す。
君も、自分も手伝いたい、と申し出る。
魔族は自分勝手に生きるものだ。好きにすればいい。
君はかつて、勝手気ままが魔界の流儀だと聞かされたことを思い出した。
彼らは勝手気ままかもしれない。けれども、その考え自体は間違つているわけではない。
アルドベリクたちを見ると、強くそう思えた。
ただひとりの異物を除いては。
***
君は、彼女の不気味な笑いの意味が知りたかった。
ヤラは魔界を見下ろしていた。バルコニーから広がる魔界を見て、彼女は笑っている。
君はその背中に近づく。
足音に、ヤラが反応する。振り向き、君を見ても驚いた様子は無かった。
何が面白いのか、と君は彼女に尋ねる。
ヤラはにやついたまま、首を横に振る。
相変わらずだった。彼女は常に何も語らない。何も答えない。常に質問の意図をずらし続ける。
何が目的なのか。君はまたはぐらかされることを承知で訊いた。
返ってきたのは、今までよりは真実めいた答え。意外だったが、君は彼女の次の言葉を待った。
あのどうしようもない甘い考えを、絶望で覆い尽くす。ルシエラもリザもリュディも全部失わせる。
君はそれを聞き、アルドベリクたちと初めて出会った頃に戦った、最強で、最悪の彼のことを思い出す。
自分たちはあの運命をなぞっているのかもしれない。そんな不安が君の背中を舐める。
ベリカントに力を与えたのも、その為にゃ?
ルシエラを差し出すのも、全部アルドベリク自身が選んだんだ。アタシはあの時、何も言わなかっただろ。
それはただ何も言わなかっただけだ。悪意を持った行動だ。と君はヤラを非難する。
それこそ傲慢だ。アタシからすれば悪意がある。
アイツらの運命を馬鹿にしている。自分が助けてやらなきゃいけない? 何様だ?
善意を押し売って、自分が気持ちよくなってるだけの、最低のカスだ。
もし、失敗したらどうするんだ? 助けようと思って助けられなかったら? 苦笑いして自分の世界に帰るのか?
そうだろ。オマエには関係のないことだからな。ひどい奴だな、オマエは。
君は初めて、臓腑の奥から逆流するどす黒い何かが喉元まで上がってきたのを感じた。
目の前に揺らめく、にやついた顔を……。
誰でも持っている本能にゃ! 偶然、その場にいた人に助けられることも、運命にゃ。
偶然、困っている人を見かけて、助けることも運命にゃ。
その為に全力を尽くす。それのどこが運命を馬鹿にしているにゃ!
君はウィズの言葉で我に返る。君がなぜ人を助けるのか。なぜ助けようとするのか。
忘れていた理由を、ウィズが思い出させてくれた。君の目の色が変わったことを知り、ヤラはさらに口角を歪めた。
君は、彼女の発言を訂正する。猫じゃない、師匠だ、と。
そして、命の恩人だ、と。
君の言葉を小馬鹿にするように、ヤラは不気味な笑顔のまま、その場を去っていった。
双翼のロストエデン3 Story4
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