【黒ウィズ】双翼のロストエデン3 Story3
Story6 クィントゥス、【上級】
Uこれが今回、天界に送る手紙です。よろしくお願いします。
受け取った封筒をクルスはジャケットのポケットにしまい込む。
本来ならば、内容を確認され、問題ないと判断された上で、天界に送られる。だがここ最近の手紙はそうではなかった。
受け取ったカナメはナイフで封を切り、中身を検める。そこに書いていることは、それほど重要ではない。
あくまで、新たな文輩を作成する土台でしかない。
魔界からの天界への攻撃の情報を手に入れた天界の軍は、両異界の最前線まで、兵を進めていた。
かつて第1回ワクワク龍界フェスティバルが開催されたメルフェゴール領の一隅。
現在では、維て置かれ廃墟となっていた。
ワクワク魔界フェスティバル自体は素鴫らしい成果を上げていた。
だがその後の土地利用に関しては、それぞれの領主の裁量に任される為、放置され廃墟となってしまうことも多かった。
そして、ベリカントの仲間であるドミー・インスはそこを住処としていた。
「チチチー!
「親分、ありゃあ、天使でさあ。最近目の前をウロウロしていた天界の軍がついに攻めてきたんでさあ!
でも、ギブン兵を数体使い、天界側からの攻撃が行われたように見せかければ、どうなるか。
アルドベリクの元にも、ドミーと天界との争いの一報はすぐに届いた。
君もリュディと同じ意見だった。どうして天界の軍がわざわざドミーを攻めたのか。
アルドベリクがちらりとルシエラを見て、納得がいったように小さく笑った。
カツンと荒々しい靴音がひとつなった。
上階の窓に人影がある。
勢いよく飛び降りてきたその影は、君たちの目の前に降り立つ。影は見知った男の姿に変わっていた。
クィントゥスが先ほどまでの威勢を殺し、腕組みをする。
血気盛んな彼でも、アルドベリクたちの気持ちを汲まないわけにはいかないのだろう。
男たちの話し合いが終わったと見るや、ルシエラが胸いっぱいに何やら衣類を抱えて、みんなの前に出る。
目の前に置かれたやたらホワホワした毛並みの服を見て、アルドベリクは怪厨な顔をした。
それを聞いてアルドベリクはぼんやりと宙を見つめ、思案する。しばらくして、クィントゥスの方を見た。
リュディが指さした先には――。
がっつり着ぐるみを来た君がいる。
着こなした着ぐるみ姿でシュッシュッと拳を繰り出すクィントゥス。やる気満々である。
story6-2
チリチリと羽虫が焼ける音が耳に残る。
魔力を使ったものだろうか。青白い光の管が明滅し、それに引き寄せられる羽虫が、触れるたびに焼け死んだ。
無事、メルフェゴール領に忍び込んだまではよかった。
が、君とクィントゥスは広いワクワク魔界フェスティバル跡地で、ドミーを見つけることが出来ずにいた。
また1匹の羽虫が光の管にぶつかって死んだ。つくづく悲しい習性だと君は思った。
羽虫の焼ける音をかき消す叫び声が、向こうから聞こえた。
朽ちかけた施設の影を伝うように、声のする方へ向かっていく。ようやくその出所に辿り着くと、
ドミー・インスがいた。もう動けないであろう天使ににじり寄る。
だからねー? 笑ってー? スウマアイルウウウー。スウマアイルウウウー……。
***
ドミー・インスはかつてメルフェゴール家の使用人だった。
ヤツはある時、主人の粗相を他愛もない気持ちで笑ってしまったんだ。それを見た主人は怒り狂った。
ヤツは顔の皮を剥がされ、ぬいぐるみのような出来損ないの皮膚を植え付けられた。
当然、いつでも笑っていられるように、その顔は不気味な笑顔だ。
「アンタの話面白かったよ。あんたにはこれをあげよう。あんたの心が生み出した果実だよ。」
「ドミーにくれるの?」
「ああ。それを食べれば、アンタは自分の弱さを克服できる。」
アタシはそうやってあいつを強くしてやった。
アタシが心の弱さを糧に造り出す果実は、弱さを強さに変える。
***
もはや物言わぬ骸となり果てた天使の羽を千切っては口に含みながら、ドミーは悶えている。
ヤラに教えられたドミー・インス最大の能力は、彼の笑顔を見ると、彼に対する攻撃を行えなくなるというものだった。
それゆえに、君たちはドミー・インスを不意打ちで倒さなければいけなかった。
君はカードに魔力を送る。カードが淡い光を発した。
悟られぬよう、君は静かに予備動作を取る。あとは魔法を解き放つだけ……。
思った瞬間、君の持つカードに何かが当たる。羽虫だった。
衝撃でカードを落とす。それだけではない。悟られるには充分な物音をたててしまった。
目が合った。
去ろうとするドミー。背中がこちらに向く瞬間、君たちは前に出る……。
ことは出来なかった。
ドミーは君たちに一冊の雑誌を差し出す。
クィントゥスが表紙を飾っていた。
君は気づいた。ここで否定をすれば、すごく話が長くなってしまう。
すると不意打ちの機会どころか、ドミー退治の機会まで失ってしまいかねない。
ここは心を鬼にするべきなのだ、と。
今度こそ、ドミーは君たちに背中を見せた。絶好の好機であった。
story6-3
電光石火の不意打ちに成功し、君はドミーを縛り上げることに成功した。
しかし、君の隣には明らかに不服そうな男がいた。
クィントゥス……あれは……と君がそこまで言ったところで、クィントゥスは「まかたん」の衣装を脱ぎ捨てた。
クィントゥスはせっかく縛り上げたドミーの縄を解き始めた。
呆然とするドミーに、クィントゥスは立ちあがるように促す。
始めはキョトンとしていたドミーも状況が好転したことを感じ取り、不気味な笑顔をさらに歪めた。
対峙するふたりが戦いの構えを取った。おそらく実力だけならクィントゥスの方が圧倒しているはずだ。
ドミーの笑顔がさらに歪む。
〈絶対的人気者〉はドミーのことを大好きになってしまう特殊な力である。
表層的な意識ではどんなに敵対していても、ドミーを殴ることも抵抗することもできなくなってしまうのである。
動けなくなったクィントゥスにドミーが近づく。
歯茎をむき出しで、軽やかな、そして楽し気なステップを踏んで、歩み寄る。
ぴょこたん。びょこたん。
決して絶えることのない笑顔は、どこか残虐さの象徴のようでもあった。
生暖かい鼻息をあえて、クィントゥスの顔に吹き付ける。
ドミーの爪が、クィントゥスの顔に近づく。
クィントゥスの鉄拳がドミーの鼻面にめり込む。
拳が振り切られ、ドミーは空中できっちり3回転してから、地面に叩きつけられた。
ドミーは鼻を抑えながら、悶える。
君もウィズもそれがわからなかった。とんでもない怪力でドミーの呪縛を打ち破ったのか。とも考えた。
拳を突き出し、クィントゥスは吠えた。
意味が分からなかった。
それもう、ほとんど笑っているようなもんじゃねえかッ!
その言葉に、ドミーが震える。ぽたりとドミーの手の甲に落ちたのは、血ではなく、涙だった。
笑顔を植え付けられた男は、笑顔を奪われた男でもあった。
常に笑っていることは、常に笑っていないことでもあった。
その笑顔の代償が、嗜虐的なズキュンズキュンだった。
久しぶりの顔面の激痛――いや、ズキュンズキュンが笑顔だと知った時、絶望に囚われた男ドミーは死んだ。
ドミーの問いに、クィントゥスが答える。
戦いの中で生まれた奇跡にゃ。
どうやらウィズにも何かが伝わったようだった。君は……。
内心、よくわからないな、と思っていた。
ともかく、戦いは終わった。もうここにいる必要は無い
君はアルドベリクたちの元へ戻ろうと、進み始めた。
なんだろうと思い、君はクィントゥスの方に向き直った。
***
戦勝の報を聞き、ルシエラとムールスはささやかな宴の準備をしていた。
命を賭けて戦った者へ報いるには、そうした単純な行為が、最も効果的である。
銀器についたわずかな曇りを拭いながら、ムールスはそう言った。
卓に花を飾るルシエラがそんな風に答えると、ムールスは口元を抑えて笑った。
磨いた銀器が、万全の状態であることを確かめ、ムールスは再びそれを輝かしい隊列の中に戻した。
ひとつの仕事が終わると、さらに次の仕事に取り掛かるべく、ムールスは手の空いている者に声をかける。
ルシエラはふたりが去った後も、花の飾りつけを続けていた。
そのうなじにそっと指先が置かれる。背後に視線を寄越し、ルシエラはその指の持ち主を見た。
これはアルドベリクから聞いたんだが、最近、魔界で悪い病が流行っているらしいな。
アンタは怖いと思わないか?
アイツに関わったヤツが病気になるんじゃないのか? どうなんだろう?
ルシエラに押し迫るように近づく。ねめつけるように彼女を見ながら、ヤラは飾られた花を一輪つまんだ。
そして、そのまま立ち去っていく。
彼女が歩いた後には握りつぶされた花が転がっている。
ルシエラはまんじりとその花を見つめた。
双翼のロストエデン3 Story3
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