【黒ウィズ】双翼のロストエデン3 Story3
Story6 クィントゥス、【上級】
Uこれが今回、天界に送る手紙です。よろしくお願いします。
うん。いつものように内容は確認させてもらうよ。
受け取った封筒をクルスはジャケットのポケットにしまい込む。
本来ならば、内容を確認され、問題ないと判断された上で、天界に送られる。だがここ最近の手紙はそうではなかった。
カナメ君。これが今回の手紙だよ。
受け取ったカナメはナイフで封を切り、中身を検める。そこに書いていることは、それほど重要ではない。
あくまで、新たな文輩を作成する土台でしかない。
何度かに分けて、魔界の不穏な動きを天界に報告したことで、天界もこの手紙の到着を待ちわびているはずです。
うん。細工は流々と言ったところだね。
ではそろそろ第一弾と行きましょうか。場所はメルフェゴール領ワクワク魔界フェスティバル跡地。
魔界からの天界への攻撃の情報を手に入れた天界の軍は、両異界の最前線まで、兵を進めていた。
魔界ノ動キハ?
動キハナイ。奇妙ナ着グルミヲ着タ奴ラガ占拠シテイルヨウダ。
所詮ハ信憑性ノ乏シイ情報ダッタカ。
オイ、何処カノ部隊が攻撃ヲ開始シタヨウダゾ!
ナンダッテー!
かつて第1回ワクワク龍界フェスティバルが開催されたメルフェゴール領の一隅。
現在では、維て置かれ廃墟となっていた。
ワクワク魔界フェスティバル自体は素鴫らしい成果を上げていた。
だがその後の土地利用に関しては、それぞれの領主の裁量に任される為、放置され廃墟となってしまうことも多かった。
ドミー、ドミー、ドミー・インス!
そして、ベリカントの仲間であるドミー・インスはそこを住処としていた。
「チチチー!
おやー? あの白い奴らはなんだー?
「親分、ありゃあ、天使でさあ。最近目の前をウロウロしていた天界の軍がついに攻めてきたんでさあ!
ドミーに逆らうのー? そーれーなーらー……。生皮剥がしてやっかー!
おそらく、天界の軍もドミーのー味もお互い手を出すことはないでしょう。
でも、ギブン兵を数体使い、天界側からの攻撃が行われたように見せかければ、どうなるか。
ドミーたちは暴走する。そういうことだね。
ええ。戦端が開かれてしまえば、それを終息させることほど難しいものはないです。
アルドベリクの元にも、ドミーと天界との争いの一報はすぐに届いた。
これは千載一遇のチャンスですねえ。
偶然かな? それにしては出来過ぎてる気がするけど。
君もリュディと同じ意見だった。どうして天界の軍がわざわざドミーを攻めたのか。
ラッキーだったということでいいんじゃないですか? 小難しく考えず、バーンといけばいいんですよ。
アルドベリクがちらりとルシエラを見て、納得がいったように小さく笑った。
どうも、そのラッキーは、返す借りが大きくなりそうだな。
それはいいんじゃないですか? ともかく今は敵のひとりを倒すチャンスです。ひねり潰しましよう。
そうだな、ムールス用意しろ。
畏まりました。
カツンと荒々しい靴音がひとつなった。
上階の窓に人影がある。
勢いよく飛び降りてきたその影は、君たちの目の前に降り立つ。影は見知った男の姿に変わっていた。
その喧嘩……俺が買ったぜ。
ムールス、出立の準備を進めてくれ。
おおおい! なんだその反応は! せっかく助太刀に来たんだぜ?
ありかたいが、これは俺たちの問題だ。お前の力は借りん。
待て待て。俺だってあのドミーって奴に借りがあるんだ。権利ならあるだろうが。
クィントゥス、俺もアルドベリクと同意見だよ。だから君に権利かあっても、代われないし、譲る気もない。
悪いが、これは誇りの問題だ。
ちッ……しゃーねえ。
クィントゥスが先ほどまでの威勢を殺し、腕組みをする。
血気盛んな彼でも、アルドベリクたちの気持ちを汲まないわけにはいかないのだろう。
男たちの話し合いが終わったと見るや、ルシエラが胸いっぱいに何やら衣類を抱えて、みんなの前に出る。
相談は終わりましたか? では、戦いに行く人はこれを着てください。
なんだこれは?
目の前に置かれたやたらホワホワした毛並みの服を見て、アルドベリクは怪厨な顔をした。
着ぐるみですよ。
なぜ着ぐるみが必要なんだ?
ドミーの仲間たちはみんな着ぐるみ姿らしいです。やっぱり潜入するには変装しないと。
それを聞いてアルドベリクはぼんやりと宙を見つめ、思案する。しばらくして、クィントゥスの方を見た。
クィントゥス、お前戦いたいんだろ。行っていいぞ。
マジかよ! やったぜ! 任せとけって!
チッ……。
あからさまに残念そうな顔をするな。
残りはどうしましょうか? リュディが着る?
あ……でも……。
リュディが指さした先には――。
がっつり着ぐるみを来た君がいる。
そういえば君はそういうの抵抗なかったにゃ。
そうかもしれない、と君はウィズに答える。
アルドベリク、一応、確認しておくけど。本当に俺たちが行っていいのか?
着こなした着ぐるみ姿でシュッシュッと拳を繰り出すクィントゥス。やる気満々である。
構わない。……悪いが、これは誇りの問題なんだ。
story6-2
チリチリと羽虫が焼ける音が耳に残る。
魔力を使ったものだろうか。青白い光の管が明滅し、それに引き寄せられる羽虫が、触れるたびに焼け死んだ。
無事、メルフェゴール領に忍び込んだまではよかった。
が、君とクィントゥスは広いワクワク魔界フェスティバル跡地で、ドミーを見つけることが出来ずにいた。
手あたり次第、ぶっ倒していくんじゃダメなのかよ?
ダメにゃ。そんなことして、ドミーに逃げられたらどうするにゃ。
また1匹の羽虫が光の管にぶつかって死んだ。つくづく悲しい習性だと君は思った。
羽虫の焼ける音をかき消す叫び声が、向こうから聞こえた。
いくぜ。
君は黙って頷いた。
朽ちかけた施設の影を伝うように、声のする方へ向かっていく。ようやくその出所に辿り着くと、
ヒィー……。
どうして泣いてるのー? ドミーはこんなに笑ってるのにー? どうして泣いてるのー?
ドミー・インスがいた。もう動けないであろう天使ににじり寄る。
ア、アシガー、アシガー。
ねえ、笑ってー? ドミーはねえ、泣いてる人見るとズキュンズキュンしてきて、ぶっ殺したくなっちゃうんだよー。
だからねー? 笑ってー? スウマアイルウウウー。スウマアイルウウウー……。
タ、タスヶテ……。
スウマアイルウウウー……。スウマアイルウウウー!
***
ドミー・インスはかつてメルフェゴール家の使用人だった。
ヤツはある時、主人の粗相を他愛もない気持ちで笑ってしまったんだ。それを見た主人は怒り狂った。
ヤツは顔の皮を剥がされ、ぬいぐるみのような出来損ないの皮膚を植え付けられた。
当然、いつでも笑っていられるように、その顔は不気味な笑顔だ。
「アンタの話面白かったよ。あんたにはこれをあげよう。あんたの心が生み出した果実だよ。」
「ドミーにくれるの?」
「ああ。それを食べれば、アンタは自分の弱さを克服できる。」
アタシはそうやってあいつを強くしてやった。
アタシが心の弱さを糧に造り出す果実は、弱さを強さに変える。
***
ズキュンズキュンが止まらないよおぉ。死んじゃったのに止まらないよぉ。ズキュンズキュン……。
もはや物言わぬ骸となり果てた天使の羽を千切っては口に含みながら、ドミーは悶えている。
今がチャンスにゃ、一気に仕留めるにゃ。
ヤラに教えられたドミー・インス最大の能力は、彼の笑顔を見ると、彼に対する攻撃を行えなくなるというものだった。
それゆえに、君たちはドミー・インスを不意打ちで倒さなければいけなかった。
君はカードに魔力を送る。カードが淡い光を発した。
悟られぬよう、君は静かに予備動作を取る。あとは魔法を解き放つだけ……。
思った瞬間、君の持つカードに何かが当たる。羽虫だった。
衝撃でカードを落とす。それだけではない。悟られるには充分な物音をたててしまった。
ズキュッ!?
目が合った。
君たち、どちらさまー? ドミーの仲間ー?
そうだよ。ボクはまかたんだよ。紙(神)を平らげるのなんてわけないよ。
君も、同じくクドラくんだゼイ。ドラク領はいいところだゼイ。と答える。
見ない顔だなー? ま、いいや。じゃ、ドミーは天使をやっつけるのに忙しいからいくねー。
去ろうとするドミー。背中がこちらに向く瞬間、君たちは前に出る……。
あ、そうそう。ベリカントさんがこれを送って来たよー。
ことは出来なかった。
ドミーは君たちに一冊の雑誌を差し出す。
クィントゥスが表紙を飾っていた。
今度はこいつを標的にするらしいよー。どうしようもないバカらしいよー。
……そんなことないと思うよ。
でもすごくバカっぽい顔だよー。
そんなことないよ。
えー、そうかなー。クドラくんはどう思うー? バカそうだよねー。
君は気づいた。ここで否定をすれば、すごく話が長くなってしまう。
すると不意打ちの機会どころか、ドミー退治の機会まで失ってしまいかねない。
ここは心を鬼にするべきなのだ、と。
バカっぽい顔だゼイ。と君は言う。
……。
だよねー。それあげるから、そのバカの顔覚えておいてねー。じゃあねー。
今度こそ、ドミーは君たちに背中を見せた。絶好の好機であった。
story6-3
ド、ドミィー……。
電光石火の不意打ちに成功し、君はドミーを縛り上げることに成功した。
しかし、君の隣には明らかに不服そうな男がいた。
納得いかねー。
キミ、ちゃんと謝った方がいいにゃ。目的があってああいうことを言ったのを、ちゃんと伝えた方がいいにゃ。
そうだね、と君はウィズの意見に同意する。
クィントゥス……あれは……と君がそこまで言ったところで、クィントゥスは「まかたん」の衣装を脱ぎ捨てた。
やっぱ真っ向勝負やらねえと、納得いかねえ!
あ、そっち? と君は思った。
おい。お前、もう一回戦え。
クィントゥスはせっかく縛り上げたドミーの縄を解き始めた。
ドミィー?
呆然とするドミーに、クィントゥスは立ちあがるように促す。
ほら、来いよ。勝負だ。この前の決着つけっぞ。
始めはキョトンとしていたドミーも状況が好転したことを感じ取り、不気味な笑顔をさらに歪めた。
ドミー、ズキュンズキュンしてきたよー。
ああ、俺もズッキュンズッキュンしてきたぜ。
対峙するふたりが戦いの構えを取った。おそらく実力だけならクィントゥスの方が圧倒しているはずだ。
でも、ドミーにはアレがあるにゃ。
ドミーの笑顔がさらに歪む。
〈絶対的人気者〉(ドミーズ・スゥマァイルゥー)!
〈絶対的人気者〉はドミーのことを大好きになってしまう特殊な力である。
表層的な意識ではどんなに敵対していても、ドミーを殴ることも抵抗することもできなくなってしまうのである。
ぐぎぎぎ………。
ダメにゃ。クィントゥスはまともに浴びてしまったにゃ。一体何を考えているにゃ。
動けなくなったクィントゥスにドミーが近づく。
歯茎をむき出しで、軽やかな、そして楽し気なステップを踏んで、歩み寄る。
ぴょこたん。びょこたん。
ドミイー イズ カミーィーング!
決して絶えることのない笑顔は、どこか残虐さの象徴のようでもあった。
いまから~君の顔を~ドミーみたいにしてあげるよう~。
んぐうううう……!
むりむり~。ドミーのことがみんな大好き~。ドミーを殴るなんてむりむり~。
生暖かい鼻息をあえて、クィントゥスの顔に吹き付ける。
ぬぐぐぐぐ………。
ドミーの爪が、クィントゥスの顔に近づく。
ぬぐぐぐぐ………うおりゃああ!
クィントゥスの鉄拳がドミーの鼻面にめり込む。
ドミイッ……!
拳が振り切られ、ドミーは空中できっちり3回転してから、地面に叩きつけられた。
ドミーは鼻を抑えながら、悶える。
いてえ! いてえ! いてえよおおおお!どうしてドミーを殴れるの~!?
君もウィズもそれがわからなかった。とんでもない怪力でドミーの呪縛を打ち破ったのか。とも考えた。
殴れるさ!
拳を突き出し、クィントゥスは吠えた。
俺、マジでお前のことが好きだからッ!
意味が分からなかった。
好きな奴と、大事な奴と、本気で殴り合うのは、当たりめえだろッ!
ドミー、いたいの嫌ぁあ! 殴られていたいの嫌ぁあ!
いてえんじゃねえッ! あちいんだ! それ、お前の顔に血が通ってる証拠じやねえか。
それもう、ほとんど笑っているようなもんじゃねえかッ!
その言葉に、ドミーが震える。ぽたりとドミーの手の甲に落ちたのは、血ではなく、涙だった。
ドミー、笑えるの?
笑顔を植え付けられた男は、笑顔を奪われた男でもあった。
常に笑っていることは、常に笑っていないことでもあった。
その笑顔の代償が、嗜虐的なズキュンズキュンだった。
久しぶりの顔面の激痛――いや、ズキュンズキュンが笑顔だと知った時、絶望に囚われた男ドミーは死んだ。
ああ、笑えるぜ。
ドミーの問いに、クィントゥスが答える。
笑いてえ時はいつでも俺んとこ来い。また本気でぶん殴ってやるぜ。
OYABIN(オヤビン)……。
クィントゥスの拳が――違うにゃ。心が、ドミーの心に届いたにゃ。奪われた笑顔を取り戻してやったにゃ。
戦いの中で生まれた奇跡にゃ。
どうやらウィズにも何かが伝わったようだった。君は……。
内心、よくわからないな、と思っていた。
ともかく、戦いは終わった。もうここにいる必要は無い
君はアルドベリクたちの元へ戻ろうと、進み始めた。
待て。
なんだろうと思い、君はクィントゥスの方に向き直った。
バカみたいな顔だって言ったよな。
……。
***
戦勝の報を聞き、ルシエラとムールスはささやかな宴の準備をしていた。
命を賭けて戦った者へ報いるには、そうした単純な行為が、最も効果的である。
さすがクィントゥス様ですね。
銀器についたわずかな曇りを拭いながら、ムールスはそう言った。
クィントゥスさんとアルさんは使いようですからね。
卓に花を飾るルシエラがそんな風に答えると、ムールスは口元を抑えて笑った。
ほっほっほ。これは辛辣ですね。
うふふ。ただの事実ですよ。
(笑ってるよ……)
磨いた銀器が、万全の状態であることを確かめ、ムールスは再びそれを輝かしい隊列の中に戻した。
ひとつの仕事が終わると、さらに次の仕事に取り掛かるべく、ムールスは手の空いている者に声をかける。
リュディ様。料理を運びますから、手伝ってください。
わかった。
ルシエラはふたりが去った後も、花の飾りつけを続けていた。
そのうなじにそっと指先が置かれる。背後に視線を寄越し、ルシエラはその指の持ち主を見た。
おや。声くらい上げると思ったけど、そんなことなかったね。
ふふ。そんなことじゃびっくりなんてしませんよ。私は。
へえ……すごいね。アタシは怖がりだから、些細なことにも恐怖してしまう。
これはアルドベリクから聞いたんだが、最近、魔界で悪い病が流行っているらしいな。
そうなんですか? 聞いたことないですけどね……。
なんでも魂や記憶が変質するらしいんだ。最終的には、記憶と思考能力を失ってしまうらしい。
アンタは怖いと思わないか?
病気になる前から、病気を怖がっていても仕方ないですよ。
思い出したんだが、前に魂の形を変える怪物が魔界に来なかったか? あれと何か関係があるんだろうか?
アイツに関わったヤツが病気になるんじゃないのか? どうなんだろう?
そういえば……いましたね、そういうのも。
何か、関係がありそうで、怖いよ。アタシは……。
ルシエラに押し迫るように近づく。ねめつけるように彼女を見ながら、ヤラは飾られた花を一輪つまんだ。
そして、そのまま立ち去っていく。
彼女が歩いた後には握りつぶされた花が転がっている。
ルシエラはまんじりとその花を見つめた。
双翼のロストエデン3 Story3
双翼のロストエデン | |
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01. 新生の双翼 (ウィズセレ祭) | 2015 08/31 |
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03. 双翼のロストエデン 序章・1・2・3 | 2015 12/09 |
04. 失われた記憶の花 (クリスマス) | 12/15 |
白猫コラボ (メイン・飛行島) | 01/29 |
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06. 双翼のロストエデンⅡ 序章・1・2・3・4・5 | 2016 09/30 |
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10. 双翼のロストエデンⅢ 序章・1・2・3・4・5 | 2017 11/17 |
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覚悟(黒ウィズGP2019) | 09/02 |
森のしぶぶ……(クリスマス2019) | 12/12 |
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