【黒ウィズ】アルドベリク&ルシエラ編 (5th Anniversary)Story
2018/03/05 |
目次
主な登場人物
アルドベリク | |
ルシエラ | |
ムールス |
story1
それは、ある日の魔界の出来事。
イザーク・セラフィムが魔王となり、節目の年を迎え、その記念日が近づいてきた頃であった。
届けられた招待状を一瞥して、アルドベリクは鼻で笑う。
おべっかを使いたい貴族の皆さんに、取り計らってあげているのですよ。
わざわざ会いたくもない奴らのおべっかを聞くために、催しを開くんだ。天界生まれ故の考え方だろうな。
俺は、その権利を行使しているだけだ。
だから、今朝は機嫌がよろしくないのですね。
直立不動で主人の言葉を聞いていた忠実な執事であるムールスは、この言葉に首を傾ける。
常に予測し、想像しております。主人が何を求めているか。これから求めるかを。
あ、そうそう、クィントゥス様から、部屋を貸してほしいと連絡がありました。そちらも勝手に進めていきますね。
シッシッと犬を追い払うように、使用人へ合図を送る。
その様子はもはや使用人というよりは、口うるさい相棒へ向けたものに近い。
使用人が思わず、妙な声を上げそうになったが、それを止めさせたのは、ルシエラだった。
アルドベリクは、口の軽い使用人に苦い顔をしてみせる。
仮面の使用人はその内側で笑っていたのか、困っていたのかといえば、恐らく前者だった。
本来なら使用人の意見など無視すればいいのだが、いつもとは違うムールスの押しの強さに、アルドベリクは言葉に窮してしまう。
しかもゴドー家の当主たる者が、同伴する婦人も連れずに、式典に参加とは……。
使用人にそう指示して、アルドベリクは席を立ち、その場を去った。
彼の様子が、いつも以上に変だと思ったルシエラは、ムールスに事情を尋ねた。
story2
仏頂面で、アルドベリクは自室に佇んでいた。
売り言葉に買い言葉。その場の勢いで、なし崩しにルシエラの同行を許してしまったのが、若干の後悔を呼んでいた。
とはいえ、ただ同行を許しただけである。
その先のことは何も決まっていないのだ。
自室の扉がコツコツと打ち鳴らされる。ルシエラかと思い、アルドベリクは扉の向こうの人物に入室を許可した。
ムールスだった。
踊りませんか?
アルドベリク様。よくもまあ、長い間、貴族社会の中で、ダンスをせずに済ましてきましたね。
ですが、ここらが年貢の納め時。魔王なら、決める時は決めませんと。
リュディ様などは、お若いのにさらっとこなしておりましたよ。
なのに、アルドベリク様は出来ないと仰る。ほっほっほ。情けない……。
息子同然のリュディの名前を出された所で、アルドベリクも観念したのか
使用人を見返す瞳には魔王然とした光が宿っていた。
導きに応じて、心の片隅に残る違和感を大股で跨ぎ、アルドベリクはムールスの腕を取る。
もう一方の手をムールスの腰に回す。
半開きの扉の向こうにヤラがいた。目が合った。
アルドベリクは、無言で鋭い視線をヤラに送る。
それは喉を握りつぶしてでも声を上げさせない、とでも言うような鋭さである。
アルドベリクは頭を押さえ、声すら出さなかった。
ルシエラの視線がアルドベリクの首を絞める。
凶悪な吹き出し笑いを残して、ルシエラは去ってゆく。
その姿を見送る3人。
アルドベリクはムールスを見る。責めるような視線である。
story3
きっと踊れます。さ、やってみましょう。
ルシエラの手がアルドベリクの前に差し出される。その手は導かれるように、架空の手のひらを握るようだった。
アルドベリクは迎えるべき手を差し出すべきだったが。
彼女の手に応じようとする動きを止める。
寸前で止まっていたアルドベリクの手に、ルシエラは自らの手を合わせる。
手と手が触れた瞬間に、アルドベリクは奇妙はビジョンに襲われる。
いつかどこかで見た記憶のように、それは懐かしく、長い旅を経た後のめまいらしきものすら感じた。
旅は、言うまでもなく、時間の旅である。
驚くアルドベリクを見透かすように、ルシエラは微笑んでいる。
百年、千年、あるいは昨日なのか。それすらわからない記憶の呼び声が聞こえる。
それは具体的に、ルシエラの手が優しい牽引力となってアルドベリクを引き寄せる。
一歩、一歩と過去の足跡を踏んでゆくように、舞踏が始まる。
「珍しく、嘘ではなかったようだ。」
「ずいぶん信用がないんですね、私。」
「いまさらそんなことを気にするのか、お前は?」
「気にしませんけどね。」
白と黒の羽が舞い落ちる。
ふたりは回転し続ける。
それでも、どこか時は止まっているようだった。
「これはいつごろの記憶だ?」
「そうですねー……んー。それはー……。
内緒。」
「そういうだろうと思った。」
「正確な記憶を教えましょうか? 本当に聞きたいなら。」
アルドベリクは、首を横に振る。
「必要ない。」
「そうですよね、必要ないですよね。」
「ああ。」
ふたりの記憶の舞踏は終わり、最後の羽がゆっくりと地面に落ちる。
重ね合わせた手も、最後まで触れていた指先が別れた。
「ほら。踊れたじゃないですか。」
「ああ、案外簡単だった。」
「これなら、本番も大丈夫ですね。」
「いや、本番は踊りたくないな。やはり、俺には合わない。」
「そうですね、似合いませんね。
アルさん、笑い方上手になりましたね。」
「練習したつもりはない。」
「昔から笑えていましたからね。」
「「……。」」
「おい。クィントゥス。お前、いつからそこにいた?」
「余興の衣装合わせですか?」
「……。」
「おい。何を黙っている。何か言え。」
「クィントゥスさん?」
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