【黒ウィズ】アルドベリク&ルシエラ編 (5th Anniversary)Story
2018/03/05 |
目次
主な登場人物
アルドベリク | |
ルシエラ | |
ムールス |
story1
それは、ある日の魔界の出来事。
イザーク・セラフィムが魔王となり、節目の年を迎え、その記念日が近づいてきた頃であった。
いつもいつもご苦労なことだ。
届けられた招待状を一瞥して、アルドベリクは鼻で笑う。
ほっほっほ。セラフィム卿ご自身で望んでいるわけではないでしょう。
おべっかを使いたい貴族の皆さんに、取り計らってあげているのですよ。
それを、ご苦労だと言ったのだ。
わざわざ会いたくもない奴らのおべっかを聞くために、催しを開くんだ。天界生まれ故の考え方だろうな。
アルドベリク様は特別、社交の場を嫌われるからそう思われるのでしょう。
魔王には、嫌いな奴と会わなくてもいい権利と、気の進まない催しに出なくてもいい権利がある。
俺は、その権利を行使しているだけだ。
しかし、セラフィム卿の招待となると、無下にすることもできない。
だから、今朝は機嫌がよろしくないのですね。
そうだ。手筈はお前に任せる。
直立不動で主人の言葉を聞いていた忠実な執事であるムールスは、この言葉に首を傾ける。
もうすでに、手筈は整っております。言われてから動くようでは、一流の使用人とは言えませんから。
常に予測し、想像しております。主人が何を求めているか。これから求めるかを。
なら、いま俺が求めていることもわかるだろう。
ほっほっほ。無駄口を叩かず、働け。ですね。
あ、そうそう、クィントゥス様から、部屋を貸してほしいと連絡がありました。そちらも勝手に進めていきますね。
シッシッと犬を追い払うように、使用人へ合図を送る。
その様子はもはや使用人というよりは、口うるさい相棒へ向けたものに近い。
それと、ルシエラ様の御召し物も私の方で用意しておきました。
ルシエラ?魔族の式典にあいつが行く必要はないだろう。
おや?まさかおひとりで出席なさるおつもりですか?
そのつもりだ。
まあ……。
使用人が思わず、妙な声を上げそうになったが、それを止めさせたのは、ルシエラだった。
あら? ふたりとも何の話ですか?
お前には関係のない話だ。
アルドベリク様が、セラフィム卿の記念式典にルシエラ様を連れていかないと仰っているのですよ。
アルドベリクは、口の軽い使用人に苦い顔をしてみせる。
仮面の使用人はその内側で笑っていたのか、困っていたのかといえば、恐らく前者だった。
私はどちらでも構いませんよ。
ルシエラもこう言っている。連れて行く必要はない。
ですが、この式典用にメルフェゴール家に発注したドレスが無駄になってしまいますよ。
いつか別の機会に着ればいいだろう。
この手のドレスはその都度作るのが当然です。使いまわすなど、よそに知れたら恥をかきます。
本来なら使用人の意見など無視すればいいのだが、いつもとは違うムールスの押しの強さに、アルドベリクは言葉に窮してしまう。
ルシエラ、お前はどうしたいんだ?
私はどちらでも構いませんよ。
行きたいのか、行きたくないのかはっきり言え。
んー?私は本当にどちらでもいいですよ。
ならば、連れて行かん。
はあ……この日のために用意していたドレスが、水の泡……。
しかもゴドー家の当主たる者が、同伴する婦人も連れずに、式典に参加とは……。
じゃ、行きましょうか?
おい。さっき行かないと言っただろう。
行かないとは言ってないですよ。どちらでもいいとは言いましたが。
なら、行くのか?
行きます。
ムールス、そのように進めろ。
ほっほっほ。喜んで。
使用人にそう指示して、アルドベリクは席を立ち、その場を去った。
彼の様子が、いつも以上に変だと思ったルシエラは、ムールスに事情を尋ねた。
アルドベリク様は苦手なのですよ。
何がですか?
ダンスですよ。ほほほ。
story2
仏頂面で、アルドベリクは自室に佇んでいた。
売り言葉に買い言葉。その場の勢いで、なし崩しにルシエラの同行を許してしまったのが、若干の後悔を呼んでいた。
とはいえ、ただ同行を許しただけである。
その先のことは何も決まっていないのだ。
気にするほどでもないか。
自室の扉がコツコツと打ち鳴らされる。ルシエラかと思い、アルドベリクは扉の向こうの人物に入室を許可した。
ほっほっほ。お困りのようですね。アルドベリク様。
ムールスだった。
出て行け。
おやおや。これはこれは。死界風に言えば、「ドイヒー」ですね。
呼んだ覚えはないぞ、出て行け。
アルドベリク様、私と……。
踊りませんか?
出て行け。
おやおや、意固地ですね。そこまでして踊りたくないですか? やれやれ。
いや、気持ち悪いから出て行けと言ったんだ。
ほっほっほ。 ドイヒー。
アルドベリク様。よくもまあ、長い間、貴族社会の中で、ダンスをせずに済ましてきましたね。
ですが、ここらが年貢の納め時。魔王なら、決める時は決めませんと。
リュディ様などは、お若いのにさらっとこなしておりましたよ。
なのに、アルドベリク様は出来ないと仰る。ほっほっほ。情けない……。
息子同然のリュディの名前を出された所で、アルドベリクも観念したのか
使用人を見返す瞳には魔王然とした光が宿っていた。
いいだろう。やってやろう。
その言や良し! ではこの私をご婦人だと思って、優しくエスコートして下さいッ!
変な所で難易度が上がってないか?
何を仰る。さあ! さあ!
導きに応じて、心の片隅に残る違和感を大股で跨ぎ、アルドベリクはムールスの腕を取る。
もう一方の手をムールスの腰に回す。
こうか……?
なんですか!? そのへっびり腰は! もっとこう! 腰をビタっと!
こ、こうか?
そう! そうです!怯えや弱腰はご婦人に恥をかかせますよ!
あ。
……。
半開きの扉の向こうにヤラがいた。目が合った。
何を覗いている! さっさと扉を閉じて、どこかへ失せろ! 練習の邪魔だ!
ああ。邪魔したな。
待て。ちょっと待て。ここにいろ。
なんだ? 失せろと言ったんじゃないのか?
今のことは他言無用だ。
ああ? そんなことはアタシが決める。アタシの自由だ。アタシは誰の指図も受けない。
貴様、まだそんなことを言っているのか……。
アタシは諦めてない。これまでだって、これからもだ。わかるか? これは永遠にだ。
何があったんですか?
おお。これはルシエラ様、なんでもないんですよ。ほっほっほ。。
ヤラさん、何があったんですか?
アルドベリクは、無言で鋭い視線をヤラに送る。
それは喉を握りつぶしてでも声を上げさせない、とでも言うような鋭さである。
ふん。ただ、こいつらが話していたのを見かけただけだ。
そうだ。それだけだ。
……何があったんですか?
……。
何があったんですか? ヤ ラ さ ん。
アルドベリクとムールスが踊ってた!
アルドベリクは頭を押さえ、声すら出さなかった。
へえー、踊っていたんですか……。
ルシエラの視線がアルドベリクの首を絞める。
何だ? 何か言いたい?
ぷ!
凶悪な吹き出し笑いを残して、ルシエラは去ってゆく。
その姿を見送る3人。
アタシは悪くないぞ。責めるなよ。無理なんだからな。仕方がないんだからな。
アルドベリクはムールスを見る。責めるような視線である。
しばらく謹慎だ。
ドイヒー……。
story3
おい、ルシエラ。さっきのは流石に無礼だぞ?
何がですか?
俺を笑っただろう。
ええ。笑いましたよ。
それを無礼だと言ったのだ。
そうかもしれませんね。でも、私が笑うのもしょうがない気がしますけどね。
……ん? まあ……それは認める。だが、あれはムールスが……。
そういうわけじゃないですよ。私が笑ったのは、アルさんが踊れるはずなのに、踊れないと思い込んでいるのを笑ったんです。
どういう意味だ。
昔、踊った記憶があります。
お前は、時折それを言うが、俺にはお前のように以前の記憶はない。
ですけど、本質的にはアルさんは、昔と何も変わっていませんよ。
きっと踊れます。さ、やってみましょう。
ルシエラの手がアルドベリクの前に差し出される。その手は導かれるように、架空の手のひらを握るようだった。
アルドベリクは迎えるべき手を差し出すべきだったが。
彼女の手に応じようとする動きを止める。
それは本当のことか? お前はよく嘘をつく。些細な嘘だが、いまの話もそれと同じではないのか?
えー、そんなことないですよー。
明らかにそんなことありそうな顔だぞ。
あれ? 顔に出てましたか?
出ていたな。
出ていたとしても、気にしないで下さい。
寸前で止まっていたアルドベリクの手に、ルシエラは自らの手を合わせる。
……ん?
手と手が触れた瞬間に、アルドベリクは奇妙はビジョンに襲われる。
いつかどこかで見た記憶のように、それは懐かしく、長い旅を経た後のめまいらしきものすら感じた。
旅は、言うまでもなく、時間の旅である。
驚くアルドベリクを見透かすように、ルシエラは微笑んでいる。
始めますよ。
百年、千年、あるいは昨日なのか。それすらわからない記憶の呼び声が聞こえる。
それは具体的に、ルシエラの手が優しい牽引力となってアルドベリクを引き寄せる。
一歩、一歩と過去の足跡を踏んでゆくように、舞踏が始まる。
「珍しく、嘘ではなかったようだ。」
「ずいぶん信用がないんですね、私。」
「いまさらそんなことを気にするのか、お前は?」
「気にしませんけどね。」
白と黒の羽が舞い落ちる。
ふたりは回転し続ける。
それでも、どこか時は止まっているようだった。
「これはいつごろの記憶だ?」
「そうですねー……んー。それはー……。
内緒。」
「そういうだろうと思った。」
「正確な記憶を教えましょうか? 本当に聞きたいなら。」
アルドベリクは、首を横に振る。
「必要ない。」
「そうですよね、必要ないですよね。」
「ああ。」
ふたりの記憶の舞踏は終わり、最後の羽がゆっくりと地面に落ちる。
重ね合わせた手も、最後まで触れていた指先が別れた。
「ほら。踊れたじゃないですか。」
「ああ、案外簡単だった。」
「これなら、本番も大丈夫ですね。」
「いや、本番は踊りたくないな。やはり、俺には合わない。」
「そうですね、似合いませんね。
アルさん、笑い方上手になりましたね。」
「練習したつもりはない。」
「昔から笑えていましたからね。」
「「……。」」
「おい。クィントゥス。お前、いつからそこにいた?」
「余興の衣装合わせですか?」
「……。」
「おい。何を黙っている。何か言え。」
「クィントゥスさん?」
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