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【黒ウィズ】イスカ&メルテール編(クリスマス2018)Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

2018/12/15





目次


Story1

Story2

Story3



登場人物



story



 大地は枯れてひび割れている。空に浮かぶ陽は、血のように赤かった。

人が生きていくには、あまりにも厳しい環境にさらされながらも――

悪の熔印を背負うものたちは、このインフェルナで日々を逞しく生き抜いていた。


懐かしいな……。まさか、こうしてまた戻ってくるとはね。

zおや?お前は……メルテールじゃないか。

おっちゃん、久しぶり。

zいままでどこに行ってたんだ?悪党どもとー緒に聖都へ忍び込んだって聞いたが。

あたし以外は、みんな死んじゃった。

zみんな止めたのに無謀なことをしたツケだ。死んで当然だ。

でも、お前ひとりでも生き残ってくれてよかった。悪い奴らにたぶらかされてただけなんだよな?

 メルテールは曖昧にうなずいた。

z死んだ奴らのことは、早く忘れるんだ。

そうするよ。

zなんだか……以前と、昔は、もっと溌刺と雰囲気変わったな。

そりゃあ色々と、酷い目にあったからね。

z先に村に帰って、みんなに知らせてくる。きっと、みんな喜ぶぜ。

特に、イスカは。

 名前を聞くなり、メルテールの顔色が若干曇った。悟られないようにすぐさま取り繕う。

イスカは、元気にしてる?

zああ、もちろんだ。いまもイーロスさんとー緒に暮してるよ。

ふーん。

 村の男は、メルテールの帰還を告げに村へ帰った。

直後、ひとりの影が歩み寄ってくる。頭をフードで覆って隠し、鋭い殺気を放つ男だった。


zさりげなく村に戻れ。警戒されたら、すべてが水の泡だ。

あんたみたいな怪しげな男に終始見張られてたら警戒されるもなにもないよ。

z侮るな、小娘。こちらは本職だ。お前以外に気配を気取られたりはしない。

こりゃまた、頼もしいお言葉で。

 ほんの僅かな荷物をつかみあげ、懐かしの故郷への道を歩きはじめる。

ちっとも里帰りという気分にならない。なぜなら、これから大きな仕事が待っているからだ。


 ***


 久しぶりの故郷。村の気配も、慌ただしさも、以前と変わらないようで変わっている。


メルちゃん……久しぶり。

うん……。

 イスカとの再会は、何年ぶりだろうか。

向こうは、久しぶりの再会を喜んでくれているようだ。

お帰り……なさい。

 しばらく会わないうちに、イスカはメルテールの身長を追い越していた。

年はメルテールの方が下だけど、背の高さで下回ったことはなかったのに。

イスカが成長したっていうより、あたしの成長が止まっちゃったってことなのかな。

うん?

なんでもない。独り言。

 イスカとは、同じ村で姉妹同然に育ってきたもの同士だ。

しかし、それほど仲のいい関係でもなかった。

悪い子じゃないけど引っ込み思案で主張がなく、影が薄い印象だった。

メルちゃんが、帰ってくるって聞いて、いそいで贈り物を探したの。

 小さい木の箱を差し出してくる。

そんなに気を遣わなくてもいいのに。

気に入ってくれると嬉しい。

 小箱を開けてみる。中に入っていたのは、小さな虫だった。

……なにこれ?

私の宝物。

 メルテールは覚えていた。

影は薄いが少し変わっている。そして、独特の気配を漂わせる娘。

それがイスカだった。

(なぜ依頼者たちは、この娘を標的にしたのだろう?

普通の子とは違うものを持っているというの?それがなんなのか、まずは見極めなきゃ)


 ***


 無事の帰還を祝う食事会が、ささやかに聞かれた。

参加したくはなかったが、下手な態度を取り、周囲に警戒されたくはなかった。

沢山食べてね。

……いただきます。

 スプーンを口に運び、スープのようなものを飲み込む。

相変わらず、インフェルナの飯は美味しくなかった。

でも、聖都であさった残飯よりは温かくて、まだ口にする価値はあると思った。

死んだ者たちは、我々のやり方に反発したものたちだ。とはいえ、若いものの死を聞くのは辛いことだ。

メルテールひとりでも、戻ってきたのは、幸いであった。

 イスカの養父イーロスの他にも、村の重要な地位にいる大人たちが、居並んでいる。

いまは彼らに怪しまれないように振る舞うべきだ。

どうも……。

 精ー杯、取り繕ったつもりだった。

それでも、冷たい闇の中を這い回りつづけたメルテールの表情は、堅く凍り付いていた。

まだ戻ってきたばかりでわからないことも多いだろう。イスカ、彼女のことをよろしく頼むよ。

もちろんです。

気を遣わなくてもいいよ。もう、歓迎の贈り物も貰ったし。

 足元にある小箱からは、虫の鳴き声が聞こえる。

大事にしてくれると嬉しいな。

 イスカとは、以前も今も、そんなに親しい関係ではない。

そのような相手に、いきなり虫を贈って喜んでくれると思うだろうか。

少しどころか、かなりずれてる子だった。

(でも、こんな簡単に標的へ接近できるなんて。今回の仕事は、手こずらずに終えられそうだね)

ふふふっ……。

 浮かべた暗い笑みに気づいたものは、誰もいなかった。



ごめんね。付き合わせちゃって。

いいよ。ちょうど暇だったし。

(手を下す前に、なぜこんな娘が、奴らの標的にされたのか、それを調べないと)

よいしょ……。よいしょっと……。ふぅー。

なにしてるの?

村の子どもたちへの贈り物を捕まえてるの。

 手に持っている木箱には、すでに何匹かの昆虫が入っていた。

贈る子どもたちって、男の子?

女の子もいるよ。

昆虫を貰って喜ぶと思う?

私は、義父さんとー緒に虫を捕まえたりするのが、好きなんだ。

別のものを贈った方が喜ばれると思うよ。

たとえば、可愛い形をした葉っぱとか。お花で作った冠とか。

お花はあんまり好きじゃないかも。それなら、砂地でオオアリクイを探す方が楽しいな。

いやいや。それ、変だから。変。

ふん!ふん!ふん!ふん!

なにごとだ!?

あ、メルちゃんとお友達になれたような気がして、凄く嬉しいの。

やっぱり変だ。変人だ……。

z女の子ふたりだけか。

なによあんた?

知らない人だ……。

 格好からしてインフェルナの人間だとわかる。イスカが知らないということは、別の土地から流れてきた者だろうか。


zなんでもいい、食い物を寄越せ。もう、3日も食ってねえんだ。

なんだ追い剥ぎか。こんなところで出会うなんて、ついてないな。

 仕事を邪魔する闖入者を厳しい目で睨み付ける。

藪を踏み締める音が響く。追い剥ぎは、ひとりではないようだ。

彼の仲間とおぼしき者たちが、森の奥から続々と現われた。

(こんな奴らあたしの敵じゃないけど、標的の前で、力を晒したくない。

どうしよう……。)



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story



z家も農地も全部失った。聖域の奴らが、なにもかも奪っていったせいだ。

だからってインフェルナの同胞から、追い剥ぎするかな?

zうるせえ、こっちにだって食わせなきゃいけない家族がいるんだよ。

 刃物を取り出した。鈍く光る刃には、赤錆のような乾いた血が付着している。

(あたしがなんとかして相手の隙を作るから、村に戻って大人を呼んできて)

……。

 イスカの顔は青ざめていた。普通の女の子らしく、怯えきっている。

それも当然だと思った。

(ただの小娘には、キツイ状況だもんね)

 ここで事故を装って、イスカが死ぬように仕向けて、仕事を終わらせてもよかった。

しかし、それではなぜ依頼主が、イスカの命を欲しがっているのか判らないまま終わる。

zお前らの村に案内しろ。下手に動くとどうなるか、わかっているだろうな?

さあね……どうなるって言うのさっ!?

 隙を見て体当たりを食らわせる。

追い剥ぎのひとりが倒れた。これでイスカの逃げ道はできた。

逃げて!どうしたの?早く行きなさいよ!?

 最初は、足が煉んで動けないのかと思った。

z浅はかな子どもの考えなんて、お見通しなんだよ。

……。

 イスカの背後にもうひとり、凶器を持った男が立っていた。

鋭利な刃物は、イスカの喉元を切り裂かんばかりの距離に迫っている。

(こんな奴ら、蹴散らすのは容易いけど、まだその時じゃないか……)

わかったよ。降参。村に案内してあげるから、その娘には手を出さないで。

 両手を掲げる。

駄目だよ。それじゃあ、村の人たちが危険な目に遭う!

イスカ。ここは、大人しく言うことを聞くしかないよ。

駄目っ!!

 イスカに刃を突きつけていた追い剥ぎが、突如、泡を吹いて倒れた。

zなにが起きた!?

(いまのは、なに!?蠍の尻尾?)

zてめぇ!この娘がどうなってもいいのか!?

メルちゃんから離れて!

 空中を舞うそれは、蠍の尾によく似た物体。

それはまるで、意思が宿っているかのように追い剥ぎを打ち据えた。

(まさか――これが、イスカの秘密なの?)

ふたりとも無事か?

 イーロスが駆け付けてきた。

残っていた追い剥ぎを蹴散らし、イスカとメルテールを無事に保護した。

義父さん。怖かったです……。

戻りが遅いのでな。まさかと思ったが、危ういところだった。

 メルテールと目が合った。直後、まずいものを見られた顔になる。

見たのか?

 嘘をついたら怪しまれる。

……見たわ。びっくりした。

 できるだけ、子どもらしく返したつもりだった。

そうか。やはり、見られてしまったか。

お前たちは、先に村に戻ってなさい。私は、この追い剥ぎどもを片付けてから行く。

次に身の危険を感じたら、力を使う前に、大声でワシを呼ぶのだ。いいな?

わかりました……。


 ***


 無事、家にたどり着くなり、イスカは眠り込んだ。

 追い剥ぎとの戦いで、疲れ切ってしまったのだろう。

すー……。

(あの尻尾はなに?イスカの身体から生えたものなの?)

 疑問が溢れてきた。でも、ひとつだけ確かなことを掴んだ。

(あたしに暗殺を依頼した奴らは、イスカが普通の娘じゃないことを知っていたんだ。

あれは、奴らにとって都合の悪い力なんだ……)

 いまベッドで横になっているイスカは、赤ん坊のように無防備だ。

手を伸ばせば仕事を終わらせられる。依頼を達成できる。

(なぜ躊躇うの?聖都では、山ほど仕事をこなしてきたのに)

 標的への同情は、禁物。

人に対する情なんて、とっくの昔に捨てたはずだったのに。

「イスカを救ってくれて感謝する。」

 気配を感じなかった。メルテールは、伸ばしかけていた手を慌てて引っ込めた。

助けて貰ったのあたしの方だよ。

先ほど見たとおり、イスカは普通の娘ではない。

ある重大な秘密を抱えた娘だ。それゆえ、聖職者たちから母とともに命を狙われた。

幼い頃から、ずっとそうだった。この先も、それはきっと変わらんだろう。

 まるでメルテールに釘を刺すような口ぶりだった。

(大丈夫。まだ、あたしの正体には、気づかれていないはず)

イスカの抱える秘密ってなに?

うむ……。

この子は、審判獣の血を受け継いでおる。

まさか。

嘘ではない。ある女性が、知性を持つ審判獣と縁を深め、その結晶として生み出されたのが、このイスカだ。

そんなのまるでおとぎ話だよ。

うっ、ううん。

目覚めたようだ。ワシは、水を汲んでくる。しばらくイスカを頼む。

 イスカとふたりっきりにされたということは、まだ正体には気づかれていないと考えていい。

……私、いつの間に眠っちゃってたんだろう?

帰ってくるなり倒れちゃったんだよ。まだ寝てたら?

もう大丈夫よ。頭は、すっきりしてるから。

それよりもメルちゃん。

なに?

○か×かで答えられる問題、出して欲しいな。

はあ?それっていまやらなきゃいけないこと?

さっきから、身体の奥がむずむずして止まらないの。

○か×かで答えられる問題を解けば、治まるような気がするの。

どういう体質だよ。イスカってやっぱり変だよ。変。

あー、我慢できなくなってきた。メルちゃん、お願い!早く問題出して!

ええい、うるさい!そんなのすぐに思いつかないよ!

 年が近いこともあるだろう。イスカと話していると、つい昔の自分に戻ってしまう。

心の奥に隠されてきた本来の顔が、冷酷な暗殺者の仮面を剥がして露わになりそうになる。

(不思議なことに、それが不愉快じゃない。むしろ、気持ちが楽になってくる)

その前に、ひとこと言わせて。さっきは、追い剥ぎから救ってくれてありがとう。

別に本心で感謝してるわけじゃないわ。でも、ちゃんとお礼言っとかないと気持ち悪いからね。

 自分なりに勇気を出して言ったつもりだった。

いったいイスカは、どういう反応するのかと思ったら。

両手を頭上で合せ、○を作っていた。

それ○。すっごく○だと思った。

真面目にお礼を言ったあたしがバカだったよ。

ふん!ふん!ふん!ふん!

それはもういいっての!



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story



お料理手伝ってくれてありがとう。

見てられなかったからね。つい、手を出しちゃっただけ。感謝しなくてもいいわよ。

お陰で、すっごく豪華になった。感謝してる。

 今日は、年に1度のお祝いの日。

太古の英雄たちが、審判獣を封印してはじめて人類が自由を勝ちとった記念日なのだそうだ。

お互い大切に思っている人に、贈り物をして感謝を示す日でもあるのよ。

 元は聖域で行なわれていた習慣だ。

それを誰かがマネしはじめ、インフェルナでも、それが習慣として広まったそうだ。

私は、もうお姉ちゃんだから、村の子どもたちに贈り物あげる側なんだ。

インフェルナでも、そんなことする余裕あるんだね。

贈り物っていっても、たいしたものじゃないから。なにより大事なのは、気持ちだと思うの。

私がこの村にいられるのも、義父さんはじめ、みなさんが受け入れてくれたからだもん。

(へえ……)

自分の存在が、村の人々に迷惑かけてる自覚はあるんだ?

 イスカは、表情を暗く沈ませる。

普通と違うところ、メルちゃんに知られたくなかった。

でも、イスカはあの尻尾を使った。あたしを助けるためにね。

やっぱり、気持ち悪いよね。あんなの……どう見ても変だし。

イスカは、嫌なの?本当の自分が?

普通の子として生まれてきたかった。

いまさら願っても、無意味だよ。

わかってる。

 招待した子どもたちが人ってきた。

イスカは、何事もなかったかのように、みんなに料理を振る舞ってプレゼントを贈る。

子どもたちは、イスカの事情などなにも知らずに無邪気に楽しんでいた。



普通の子としてか……。

いまさら手遅れだよ。イスカも、あたしも……。後戻りできないところまで来ちやってるんだから。

 メルテールは、生まれた瞬間から、餓えと戦争による死の恐怖に怯えて育った。

そんな理不尽な運命から逃れたかった。苦境から逃げ出したかった。

だから、仲間とともに聖都に忍び込んだ。生きるために、そうするしかないと自分に言い聞かせて。

(その選択が正しかった……なんてとても言えない)

 餓えて死ぬ恐怖からは、逃れられた。

代わりに人を殺す技術と、多くの怨念を背負い込むことになった。

z約束の期日は迫っている。いつ、依頼を果たすつもりだ?

あんたたち……。いや、依頼主が、イスカの命を狙う理由が、なんとなくわかったよ。

zそれがどうした?お前には関係ないことだ。

(審判獣の血が流れているあの娘の存在を隠匿したいのは、きっと聖堂の聖職者たちだ。

つまり、この仕事の本当の依頼主は、聖堂――)

z依頼を放棄するのなら、それ相応の制裁を受けてもらう必要がある。

あたしの手は、とっくに汚れてる。いまさら、小娘ひとりに躊躇すると思う?

zだったら――

でも、あたしやあたしの両親をインフェルナに堕とした聖堂のために仕事をするつもりはないね。

zならば、お前には用はない。ここで死んでもらう。

 背筋が冷たくなるほどの黒光を放つ刃物。

使い込まれたその刃は、これまで何人の命を吸ってきたのだろう。

あたしのこと、舐めて貰っちゃ困るね。

zぐっ!?

 首筋に銀色の針が突き刺さっていた。

メルテールの口元には、小さな吹き矢が咥えられている。

zこれで終わりと思うな。俺の仲間が、貴様を始末しに来る……。

 男は倒れた。そして、動かなくなった。

メルテールは、無言で男の死体を片付けはじめた。

あーあ、やっちゃったなあ。

 後悔はない。殺した相手は、殺しの斡旋を生業とする男だ。

このような男ひとり死んだところで、世の中に何の影響もない。

それよりも、駆け付けてくるこいつの仲間の方が心配だった。

メルちゃん……。

イスカ……。


 ***


見てたの?

 足元に死体が転がっている。隠し通せるはずもなかった。

その人……。私の命を狙っていたんだよね?

 意外にも冷静だった。それに、自分が狙われていることを知っていた。

違うよ。イスカの命を狙っていたのは、あたしだよ。

……どうして?

仕事だから。それだけ。

よかった。私、メルちゃんに恨まれていたわけじゃないんだね。

 どこまで脳天気なんだか。

メルテールは、殺しの道具をイスカに見せた。

暗殺用の針だよ。こいつで、いままで何人もの命を奪ってきた。

いまの標的は、イスカ。あんただよ。

 もっと泣いたり、動揺したりするかと思った。けどイスカは、あくまでも冷静だった。

時々思うんだ。私はいない方が、義父さんたちは幸せだったんじゃないかって。

もし、私がここで死ねば、メルちゃんは幸せ?

そんなわけないじゃない。

 男を殺してしまった時点で、メルテールは依頼を反故にしたも同然。

契約破りは御法度。掟に従い、制裁が科せられる。

これは、あたしの問題だよ。イスカは関係ないよ。

だから行って。できれば、村からも逃げた方がいい。

 聖堂から派遣された手の者が、そのうちやってくるだろう。

イスカの命を奪うために、やつらは手段を選ばない。

やだ。私は逃げない。

どうして?

助けて貰ったお礼をまだしてないから。今度は私がメルちゃんを助ける番。

バカ……。あんたやっぱり、変だよ。

 村の方が騒がしくなった。

馬に乗った男たちが、突然やってきて村の中を物色しはじめている。

奴らもう来やがった。ここにいたら、本当に死ぬよ?

私も戦う。メルちゃんとせっかく友達になれたのに、ここでお別れしたくないもの。

あんたみたいな甘ちゃんが、敵う相手じゃないってのに……。もう、好きにしなさいよ!


 ***


zおらぁっ!!

 ドアを蹴り破って入ってきた無法者をイーロスが睨み付けた。

ここをワシの家と知っての狼籍かね?

zメルテールという娘と、イスカという娘を探している。この村にいるはずだ。出せ!

イスカはワシの娘だ。どのような用件があるかは知らんが、そう簡単に居場所を言うわけにはいかんな。

zこの老いぽれめ!残り少ない命、さらに縮めてやろうか。

ぐえっ……!

老いたとはいえ、ワシの剣はまだ健在じゃ。あまり見くびらんことだな。


無事ですか!?

この通りだ。メルテールも、無事なようじゃな。

こうなったのは、あたしのせいだもん……。やすやすと死んでられないよ。

どういうことかね?

義父さん、お願いがあります。私に、メルちゃんとー緒に戦う許可をください。

 いつになく真剣なまなざし。イーロスは、深く事情を訊くことはしなかった。

ならば、イスカ。ワシもともに戦おう。

どうして?

村のー員を守るためにイスカは戦いたいという。ならば、ワシも力を貸してやるのが当然であろう?

あたしのために戦うつもり?やめてよね、そんなの……

メルちゃんももうこの村のー員なんだよ。

困っている村人をみんなで守るのは、当然のことよ。

 厳しいインフェルナの土地は、そうやって助け合っていかなければ、生きていけない。

イスカ、この鍵で隠し武器庫の鍵を開けてくれ。村のみんなには、ワシから知らせておく。

うん!

隠し武器庫?

こういうこともあろうかと、かねてから用意していたの。

 聖域に反旗を翻すための準備といってもいい。

のどかな村を装いつつ、裏ではいつでも反乱の旗を掲げられるように周到に準備を進めていた。

いまはそれを、守ることに使うだけよ。さあ、忙しくなるぞ。

やられた……。あんたたちの方が、ー枚上手だったようね。

あれ?褒められた?やったぁ!


 聖都から送り込まれた狼籍者たちは、イーロスが指揮する村の男たちによってー方的に蹂躙された。

イスカの居場所が知られたため、もうあの村にはいられないが、所詮は流浪の民。

行く場所など、いくらでもある。インフェルナは広大だ。


結果的に助けられたのは、あたしの方だったわけか。

 でも、イスカは守れた。

イスカの身体に流れる審判獣の血。それは近い将来、聖域に反旗を翻した時、インフェルナ側の切り札となる。

あたしのせいで、イスカたちは村を失った……。その借りは絶対に返すよ。

ん?なにか言った?

なんでもない。はあーあ、お腹空いちゃった。


 夢を実現するためにも、――イスカに降りかかる火の粉はすべてあたしが振り払う。

メルテールは、この日固い決意を秘めた。





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