【黒ウィズ】リフィル編(6th Anniversary)Story
2019/03/05
目次
登場人物
story
逃がすな、魔法使い!
わかった、と答え、君は魔法を解き放つ。
黄昏に染まる屋根の上。走りながら放った魔法が異形の怪物を直撃し、屋根に転がした。
怪物の名は、〈ロストメア〉。いつか誰かが抱いて捨てた、〈見果てぬ夢〉のなれの果て。
彼らの目的は、〝現実〟に出ることだ。捨てられた夢である彼らが〝現実〟に出ることは、その夢が実現することを意味する。
だから、走る。この夢と現実の狭間の都市を。都市の中央に立つ、〝現実〟に通じる門を目指して。
ファニング6連、〈星墜とし〉ってね!
横槍叩をき込ませてもらう!
ブロードソード、カットラス!
アイアイ!
真っ向正面ストレート!
〈クラッシュウィール〉!
転がった〈ロストメア〉に、たちまち〈メアレス〉たちの攻撃が殺到する。
〈夢見ざる者〉――〈メアレス〉。夢を持たぬがゆえに夢を潰せる、〈ロストメア〉の狩人たち。
熾烈な猛攻を受けてよろける〈ロストメア〉へ、君とリフィルは、とどめの魔法を浴びせかけた。
修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!
君とリフィルの魔法が詐裂し、〈ロストメア〉は木っ端みじんに砕け散る。
魔力は輝く蝶へと変わり、黄昏の空に羽ばたいた。
やったにゃ!
上出来よ。魔法使い。
リフィルがこちらを振り向き、ふわりと笑った。〈メアレス〉たちもまた、それぞれ笑みを浮かべている。
あれ?と君は思った。なんでみんなで戦っているんだろう?と。
よほど強力な〈ロストメア〉が相手でもない限り、〈メアレス〉が手を組むことはないはずだが――
何を言ってるの、魔法使い。
この世の秩序を守るため、力を合わせて〈夢〉を討つ。それが〈メアレス〉!そうでしょう?
あ、夢だな、これ。と君は思った。
夢だとわかるや否や、目の前の光景が歪んでいって――
気がつくと、見慣れた都市に立っていた。
ここは……あの都市にゃ?
まぎれもなく、夢と現実の狭間の都市だった。
まだ夢を見ているのだろうか、と目をこすっていると。
魔法使い。
聞き慣れた声が、足元から聞こえた。
久しぶりね、魔法使い。
なんかいた。
……え?
なんかちっちゃくなってるにゃーーーー!!?
黄昏に、ウィズの叫びがこだました。
***
ついさっき、〈ロストメア〉に襲われたのよ。
君は、リフィルを抱えて歩きながら事情を聞いた。
不意打ちでね。おかしな能力を使われて、こんなふうにされてしまった。なんとか逃げてきたんだけど……。
ほんと、〈ロストメア〉ってなんでもありにゃ……それで、いったいどんな〈夢〉にゃ?
さあ。それより問題は、こんな姿じゃ戦えないってことよ。
ちっちゃくなっただけにゃ。魔法を使って戦えばいいにゃ。
繋げ、〈秘儀糸(ドゥクトゥルス)〉!
言えてなかった。
ほらね。
なるほど、と君はこの異界に飛ばされたわけを理解した。
「あのカード」が、この状況をリフィルの危機とみなし、君をこの都市に招いたのだろう。
どうしたら元に戻れるにゃ?
あの〈ロストメア〉を倒せば戻れるはずよ。悪いけど、手を貸してもらえる?
いいよ、と君は答え、首をかしげた。そういえばルリアゲハは?と。
今はいない。妹に会いに行ってるから。
となると、ルリアゲハの援護は当てにできないにゃ。他の〈メアレス〉と共闘するのはどうにゃ?
リフィル~!
リピュアにゃ!
お!やあやあやあ、どうもどうも!ふたりとも、久しぶり!
リピュアも、ちっちゃくされちゃったにゃ!?
ううん。これはほら、ちっちゃい方が人を避けて飛びやすいから。
さすが妖精。ド自由だった。
リピュア、どうかしたの?
それがねー。
こんな感じで。
全滅してるにゃ!!!
死屍累々……もとい、ちび累々だった。
すまん。やられた。
ダメでした!
もうちょっとだったんだがな。
真っ先にやられてましたよね、お父さん。
気をつけろ。よくわからん光線を撃ってくる。かすっただけでも、このザマだ。
無様なものね。
おまえが言うな!!
こうなると魔法使いが頼りだな。来てくれて助かった。
これじゃアシストは期待できそうにないにゃ。キミとリピュアだけでがんばるにゃ。
そのときだった。
ちびキャラを寄越せェェェエエーーーー!!
いきなりなんか出たにゃーーーー!!?
突然、〈ロストメア〉が突っ込んできた!
story
ちびギャラ!ちびギャラ寄越せー!
〈ロストメア〉は大声を上げて頭を振り、ふとリフィルに目を留めた。
いただきィ!
大きく口を開け、丸呑みにしようとしてくる。君はリフィルを腕に抱えたまま、あわてて飛びのき、これをかわした。
しゃべった!?人擬態級でもないのに!
ちびキャラ欲しい!グッズ化して!!
あれ?これ〈ロストメア〉じゃなくて、〈ボンノウン〉じゃない?
そうみたいね。それも、この意味不明な言動からして、たぶん異界の煩悩。
かわいーちびキャラ、めっちゃほしーい!
〈ボンノウン〉(と言うらしい)の口から、謎の光線が放たれる。君は、辛うじてかわしたが――
わー!
ギャー!
流れ弾に当たった市民たちが、次々とちっちゃくなってしまった。
アレに当たると危険にゃ!いったん逃げるにゃ!
君はリフィルを抱え、風の魔法を使った。噴き上がる風に乗り、ー瞬で屋根の上に到達。即座に走り出す。
いったいなんにゃ、〈ボンノウン〉って!?
夢と呼ぶほどでもない煩悩が実体化したものよ。前は年末にしか現れなかったけど、最近、ちょくちょく門から出てくるようになってね。
これまでは、大した被害は出てなかったんだけど。まさか、特殊能力を使う〈ボンノウン〉が出てくるとはね。
ちびキャラ愛でたーい!
リフィルを狙ってるみたいにゃ。ちびキャラってどういうことにゃ?
さあ。異界の煩悩が実体化することもあるから、どこかの異界にそういうのがあるんじゃない?
ちびーム!
〈ボンノウン〉が、口から謎の光線を撃ってくる。
君は逃げながらもかわしたが、いつまでも避けられるものではない。あのラギトでさえ、避けきれなかったのだ。
当たったら、発音しにくい精霊の魔法が使えなくなってしまうにゃ!
地味に魔道士殺しだな……と君は思った。
魔法で迎撃したいところだが、相手の光線をかわすのが精いっぱいで、それもままならない。
どうしようかと思っていると、リフィルが、くいくいと袖を引いてきた。
ひとつ、手があるわ。魔法使い。
つぶらな瞳に、鋭い光が映えていた。
***
君は、背後から飛んできた光線を転がってかわしざま、屋根の上にリフィルを解放した。
リフィルがウィズに飛び乗り、ウィズが全速力で駆け出す。
ちびキャラ待てーい!
〈ボンノウン〉は君には見向きもせず、リフィルを追った。
悪いわね、ウィズ。
まったく!こんな重労働、想定外にゃ!
ウィズはリフィルを乗せたまま、猫ならではの機敏さで〈ボンノウン〉の光線をかわす。
その間に〈ボンノウン〉は、じわじわと距離を詰めてくる。ほどなくして追いつかれるだろう。
まだにゃ!?
もう少しよ。あ、ちょっと右。
にゃー!!
ついに、ウィズは屋根の端に差しかかった。いくらなんでも隣の屋根までは飛べない。
ちーびーキャーラー!
〈ボンノウン〉が、叫びを上げて迫ってくる。
リフィルはウィズの背から降り、相手の位置と速度を冷静に測って、数秒を数えたのち、叫んだ。
――〝吼えろ〟!!
駆け抜ける〈ボンノウン〉の足元に、魔法陣の光が咲いた。
魔法陣から雷撃が詐裂。上を通り過ぎようとした〈ボンノウン〉は、感電して動きを止める。
にょぎゃー!!
――そこへ、背後から追いかけていた君が、魔法による追撃を叩き込んだ。
あいったー!!!きゅうう……。
〈ボンノウン〉が飛び跳ね、目を回す。
すると、ぽん、という軽快な音がして、リフィルの身長が元に戻った。
あら。倒さなくても戻れたのね。それなら――
少女の瞳に、ぎらりと烈火が燃える。
繋げ――〈秘儀糸〉!
リフィルの指先から、光り輝く魔力の糸が伸びた。彼女はそれを鮮やかに操り、無数の魔法陣を織り上げる。
君も、新たなカードを取り出し呪文を唱えた。
修羅なる下天の暴雷よ、千々の槍以て降り荒べ!
君たちは同時に魔法を放つ。
どひー!!!
ふたつの魔法の挟撃が〈ボンノウン〉を直撃し、その全身を打ち砕いた。
story
魔法の罠を仕掛けておいたとは、周到なことにゃ。
〈ミスティックメア〉のやり口から学んだの。奴にできることなら、私にもできるはずだから。
驚いたよ、と君が笑うと、リフィルは満足そうに微笑んだ。
そう。良かったわ。約束を果たせて。
そういえば、と君は思い出す。
「私も磨くわ。私の魔法を。次に会うとき、あなたたちを驚かせられるように。」
あのとき、彼女はそんなことを言っていた。その言葉通り、「自分なりの魔法」を研究し、着実にものにしているのだろう。
とはいえ、まだまだよ。さっきの罠にしても、課題点が多くてね。
困ったように言ってはいるが、どこか楽しそうでもあった。
そういえば、なかなか例の光が現れないにゃ。リフィルの危機が終わったから、そろそろ出るかと思ってるんだけどにゃ。
あ、それね、私が止めてるから。
にゃ!?
いつの間にか、リピュアが追いついてきていた。
だって、放っとくと魔法使いさん、すぐ帰っちゃうでしょ?だから、妖精パワーで止めてるの。
な、なにをどうやってるにゃ!?
アレをズビャッと。
わからぬにゃ!!
さすが妖精、とあきれていると、リフィルがふと、空の彼方に目をやった。
黄昏時ね。
陽が、ゆっくりと空を燃やしつつある。夢と現実の入り混じる刻限――〈ロストメア〉が門を目指す頃合いだ。
そろそろ夕食の支度をしないと。
あれ、と君は首をかしげて尋ねた。〈ロストメア〉退治は?
最近、私は参加してないのよ。魔力は門から手に入れられるし――
自分なりの魔法を極めたいって気持ちが、夢である可能性もあるから。自分では、まだよくわからないけど。
夢を持つ者は、〈ロストメア〉とは戦えない。この都市では、当たり前の理だ。
君は、なんだか不思議な感慨を覚えた。あのリフィルが、こんなことを言うなんて。
なによ。
なんでもないよ、と君は笑った。
ラギトたちが仕事を終えたら、パーティよ。それまで元の世界には帰してあげないから、覚悟しておきなさい。
からかうようなリフィルの笑顔を見て、君はもうひとつ、前に彼女が言った言葉を思い出す。
「お返しの方法を考えておくわ。助けられてばかりじゃフェアじゃない。」
ウィズも思い出したのだろう。嬉しそうに口元をほころばせていた。
楽しみにゃ。リフィルの手料理を食べられるなんて、滅多にない機会にゃ。
……私が作るとは言ってないでしょ。
作ってくれないの?と尋ねると、リフィルは仏頂面で答えた。
作るけど。
私も張りきっちゃうよー!今夜はシチュージンとカレージンとポトフジンで決まり!
ジンがついたら料理じゃないにゃ!!
にぎやかな笑い声が、黄昏に溶けていく。
夢のような時間が訪れることを期待しながら、君はリフィルたちとともに歩き出した。
リフィル、これどう思う?と君は尋ねる。
これって?
『この世の秩序を守るため、力を合わせて〈夢〉を討つ。それが〈メアレス〉!そうでしょう?』
は?
ですよね。
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