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【黒ウィズ】黄昏を背負う少女 Story

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作成者: にゃん
最終更新者: にゃん

目次


Story1

Story2

Story3




story1



黄金を溶かしたような空を背に、リフィルは眼下に広がる光景を見つめる。

背の高い煉瓦造りの家々が、石畳の地面に長い長い影を落とす。

思えば、いつもこうしていたものだった。黄昏の光にあぶられた街並み。

黄昏時――門に近づこうとする〈ロストメア〉を見つけるため、門の上から都市を眺めるのが、〈メアレス〉としての日課になっていた。


「だから、〈黄昏〈さんせっと〉〉って呼ばれているにゃ?」

声とともに、風がそよいだ。

魔法使いと黒猫のウィズ。ふたりが隣に並ぶ気配を感じながら、リフィルは街並みを見つめ続ける。

「……ひねくれたアフリト翁のこと。それだけじゃないでしょうね。

衰退した魔道文明が、完全な終焉を迎える、その手前――魔道の黄昏を背負う者。

そのくらいの含みを持たせていてもおかしくない。

だけど、本当は違った。真の魔法は黄昏を迎えることなく、〈絡園〉で受け継がれていた……。」


〈園人〉。アストルムの魔法を受け継ぐ者たち。

リフィルのように疑似的に魔法を再現するのではなく、己の意志で魔法を操ってみせた。

その魔法に、リフィルは負けた。

「疑似魔法ごときで、真の魔法と渡り合えると思うな!」

なすすべもなく、地に塗れるしかなかった。


胸が、肺が、焼けつきそうになる。

心の炎。魂の火。あるいはただ、意地とでも呼ぶべきものが、胸の奥で駆け回り、荒れ狂っている。

怒りも無力感もやるせなさも嘆きも悲しみもー―叫び出したくなるすべてを魂の火にくべて、ひとつの想いに集約させている。


「このままであってなるものか――

この空のようにどろどろに融けた想いの塊を、リフィルは風に吐き出した。

「真の魔法が相手だろうと――あんな傲慢を通してなるものか!」

ウィズが、飄々〈ひょうひょう〉と、しかし鋭い視線を向けてくる。

「勝つための方法を見つけなきゃいけないにゃ。相手は、リフィルの人形を操るほどの使い手にゃ。」

そうだね、と魔法使いがうなずいた。あんな魔法を許しちゃいけない、と。

リフィルにとっては、目を背けたい事柄だ。だが、そこに目を向けなければ、勝てない。そんな含みを感じる視線だった。

「魔法は叡智の結晶にゃ。だから魔道士には、すべてを知ることへの覚悟と勇気が求められるにゃ。」

「そういうところに切り込んでくるあたり、さすが魔法使いの師匠ね。」

「覚悟と勇気、ね。母も、似たようなことを言っていたわ。」

リフィルのお母さんは、どんな人なの?と、魔法使いが首をかしげる。

「あなたに話したことはなかったわね。

私のとっての、魔道の師匠――先代の”代替物”〈リフィル〉よ。」




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story2



「”代替物”となる子は、母と離され、10歳になるまで、本家で魔道の勉強をさせられる。

どうして? と、魔法使いは驚いたようだった。

「魔法の存在を示し続けるのが”代替物”の役目だからよ。


「魔道に関係ない子育てや、基礎的な知識の習得は、”代替物”の手をわずらわせないように行われる。

私の場合、それは父がやってくれたわ。

「じゃあ、リフィルがお母さんに会ったのは、10歳の時が初めてにゃ?

「そう。さすがに緊張したわ。自分の手を握って離さなかったって、あとで父にからかわれた。

ただ……実際、会ってみると、緊張するどころじゃなかったわね。


「あんたが次のリフィル。つまり私の娘ね。

久しぶりー……なんて言っても、ま、覚えてるわけないだろうけど。」

あっけらかんと告げる母の前で、リフィルはただ、唖然と立ち尽くしていた。

駅舎の前の広場。

人々が憩うべきその場所に、何人もの男たちが、うめきながら転がっていた。

あんたが来てくれて助かったわ。

そんな尋常ならざる惨状を前に、その惨状を生み出した張本人である母は、けらけらと楽しそうに笑ったものだった。


「奴らを一網打尽にてきた。餌としちゃ上出来よ、かわいい我が子。

どのような方法で”魔法”の存在を示すかは、”代替物”の判断にゆだねられる。

母が選んだのは、賞金稼ぎの道だった。

技術が発達し、多くの街に工場が設けられ、貧富の差が広がり、治安が乱れに乱れた時代。

当然のように犯罪者の数も爆発的に増加し、警察だけでは対処が難しくなった。

「名うての賞金稼ぎは、民衆にとって一種のヒーローよ。

それが古の魔法の使い手となれば、良くも悪くも耳目を引く。」

「確かに、目立つにはいい手段にゃ。その分、敵も作りやすそうだけどにゃ。」

「そうね。まさに、私か母と初めて会った日に母を恨む連中の襲撃があったわ。」

仲間を捕縛されたことへの報復であると同時に、”こいつを仕留めれば箔がつく”という 狙いもあっただろう。

「母は、それを予測して、魔法で罠を張っていた。 ”娘が来る”という情報自体、あえて流していたフシがあるわね。」

「とんでもない人にゃ。」

「ええ。まったくえげつない人だったわ。


「あんたがこれから学ぶのは、 ”代替物”としての魔法の使い方。

それはつまり、”代替物”としてやってきた、あたしのすべてを学ぶということでもある。

だから手は抜かないし、逃げることも許さない。なんせこちとらー―

覚悟もなしに学べるような、安い人生、送ってないの。」


母の教え方は、徹底していた。

「私の考えが甘ければ厳しく叱るし、うまく行ったら、きちんと褒めてもくれる。

でも、失敗すると笑うのよ。

冷笑とか失笑とかじゃない。抱腹絶倒の大笑いよ。」

それは、大変だね……と魔法使いが言った。

「魔道士ギルドにもいろんな教官がいるけど、そんなタイプは見たことがないにゃ。」

「一度、訊いてみたことがあるわ。なんてそんなに笑うのかって。」


「え? そりゃあんた。単に面白いからよ。

〈秘儀糸〈ドゥクトゥルス〉〉こんがらかって、ばたーんって倒れて、涙目でジタバタもがいてるのとか、いやあ、あれ今思い出しても涙が出てくるわアハハハハ!」


「…………。」

「悪意はないのよ。」

でも気遣いもないの。面白いと思ったら素直にげらげら笑う。そういう人だった。」

そうなると、こっちもむきになるしかないでしよ。今に見てろ、って気持ちで、必死に人形の扱い方を修練した。

それで14になった頃、ようやく、母から人形を譲ってもらえる許可が出たの。


「じゃ、後は任せた。」

相変わらず、あっけらかんと母は言った。

人形を託されたリフィルは、ただ、あっけに取られていた。

「……それだけ?」

「それだけって?」

「魔法を使えなくなるのよ。」

「そうね。」


母はニヤリとして、机に置いてあった銃を取った。

くるくると回してからホルスターに納める仕草が、異様にさまになっていた。

「これからは、こっちを使うわ。」

「……え?母さん、賞金稼ぎを続けるつもり?」

「性に合ってんのよね。逃げる賞金首どもを追い詰めて、ふん捕まえるのが。」

「……どうして父さんが婿養子に来たのか、時々、すごく不思議に感じるわ。」

「そりゃ、追いつめてふん捕まえたからよ。」

「でしょうね。」

「あ、家にはよろしく言っといて。気が向いたら戻るから。」

「自分で言ってよ。」

「めんどくさい。」


「……なんというか、さっぱりした人にゃ。

「いろんな意味で『ああはなるまい』と思わせる人だったわ。仲が悪いわけじゃないけど。

コピシュがゼラードにあこがれるように、母にあこがれを抱くことはなかった。だから〈メアレス〉になれたのだとも言える。

「母は、魔法をあくまで道具と捉えていた。魔法のためにすべてを捧げるのではなく、人生のー過程に魔法があるという捉え方だった。

人形に魔法を使わせるための”代替物”――でありながら、人生を悲観せずにいられたのは、そんな母を見て育ったからかもしれない。

「だから――」

リフィルは、っと魔法使いに視線をやった。


「あなたと出会って、驚いたのよ。魔法使い。

”魔法使い”として生きてる人は始めて見たから。」


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story



「魔法を使う。魔法の存在を示す。私はそのための存在だったし、私自身も、それしか考えていなかった。

別に、それが嫌というわけじゃなかった。ずっと魔法を学んできたんだもの。魔法を使うのは、私にとって当たり前のことだった。

だから、驚いたの。

ただ魔道士であるのではなくー―”人のための魔道士”であろうとする、あなたの姿に。

それから、ずっと考えていた。私はどんな魔道士であるべきなのか。」

答えは出たの? と問う魔法使いに、リフィルは首を横に振った。

「まだ、わからない。簡単に答えを出したくないの。魔法は……私にとって大切なものだから。

私の魔法は、疑似魔法にすぎない。あの人形だって、暗殺した祖先の骸を改造した業の塊であるとわかった。

だけど、それでも……私は、私の魔法を捨てたくない。」


始まりは、己の意志ではなかった。おまえは魔道士になるのだと、言われるがままに魔法を学んだ。

子供だったから、素直に従った。そうすることが当たり前だと思っていたから、夢を持つこともなかった。


母と出会い、手ほどきを受けた。笑われては奮起し、必死に努力して、ついに魔法を使えるようになってみせた。

やった――という喜びがあった。自分の培ってきたものが実を綸んだという、魂のすべてが打ち震えるような純粋な感動が。

その思い出を、その誇りを――決して、手放したくはない。


「魔法を、どう使うか。それを見つけるのが魔道士のあるべき姿なら――

人の心をないがしろにする〈園人〉たちの魔法を、私は認めるつもりはない。」


魔法使いが、ゆっくりとうなずく。

その肩で、ウィズが小さく笑った。

「魔法を正しく使いこなすから、”魔法使い”にゃ。

強大な魔法に目がくらんで道を誤るようじゃ、魔法に゛使われている、、も同然にや。そんなのは、真の”魔法使い”とは言えないにゃ。

だから、魔法は疑似でも、リフィルの方が〈園人〉より立派な”魔法使い”にゃ。」

「ありがとう。猫。」

「いい加減、名前で呼んでほしいにゃ!」

「冗談よ。ありがとう、ウィズ。クエス=アリアスの四聖賢が太鼓判を押してくれるなら、疑う余地はないわね。」

微笑んで、リフィルは街並みに視線を戻す。


黄金に暮れる街並み。自分が魔法を使い、示してきた街並みだ。

その事実が、自信をくれる。

自分は魔法使いだと――胸を張って、言わせてくれる。


あとは、どうやって勝つかだね、と、魔法使いが思案げに言う。このままでは勝ち目がない、と。

対してリフィルは、揺るぎなく微笑んだ。


「”ない”を”ある”に変える。不落の城も打ち崩す。

そうであってこその魔法よ。そうでしょう? 魔法使い。」



 ***



リフィルは、ぱちりと目を覚ました。


朝の陽ざしを浴びてきらめく、素朴な木の天井が、まず見えた。

〈ピースメア〉の小屋である。彼女を連れて戻ってきたとき、すでにとっぷりと夜が更けていたので、寝床を借りたのだ。

人数が人数なので、雑魚寝になった。床には、他の面々が寝転がり、それぞれ寝息を立てている。


「夢……。」

リフィルは、ぽつりとつぶやいた。


人の心とつながっている〈絡園〉には、”こうなってほしい。という願いや夢が流れ込み、混ざり合う。

君たちが普段見る夢は、その集合だ。世界中の人の願望が混じり合って生まれる、いわば”願いのカクテル”というところかな。

ネブロの言葉を思い出す。


なら、今の夢もまた、何かの願いを土台にしていたのだろうか。

たとえば、そう、本当なら面と向かって口に出したくないことを話したいという、そんな願望が――


「んにゃ~あ……。」

「――!」


あくびが聞こえて、リフィルは、びくりと振り返る。


ウィズと魔法使いが、ゆっくりと身を起こしていた。

おはよう、と言う魔法使いに、リフィルは真顔で尋ねる。


「見た?」

何を?

「夢よ。」

見たような気がする、と、魔法使いは、目をこすりながら言った。よく覚えてないけど、と。 

「そう。よかったわ。」

「なにがにゃ?」

「なんでもない。」


リフィルは夢を見たの?と、魔法使いが尋ねてくる。

リフィルは一瞬、魔法使いを横目に睨んだ。


そして、つんとそっぽを向き、ぴしりと答えた。

「――夢は、見ない。」


ウィズが、どこかおかしそうに笑っていた。



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家事全般は父に教わったのよ。あの母の夫とは思えないくらい真面目で几帳面な人なの。
あの二人、どうしてくっついたのかしら?




  黄昏メアレス
00. フェアリーガーデン2014
02/21
01. 黄昏メアレス
序章 番外編
2016
03/15
02. ルリアゲハ編 GP2016
瑠璃の時雨の降りしきる
06/13
03. ラギト編 GP2016
〈ファインティングメア〉
06/13
04. 黄昏メアレスⅡ
序章
2016
10/31
05. 外伝
06. 黄昏はろうぃん10/31
07. 黄昏メアレスⅢ
序章
2017
06/30
08. ルリアゲハ&リフィル編
年末メアレス
01/01
09. リフィル編 GP2017
黄昏を背負う少女
08/31
10. 黄昏メアレスⅣ
序章番外編
2018
04/13
大魔道杯 in 黄昏メアレス04/20
11. リフィル編(6周年)03/05
12. ルリアゲハ編(ザ・ゴールデン2019)04/30
13. ひねもすメアレス
序章
2019
06/13
14. リフィル編(GP2019)09/12


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