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【黒ウィズ】ジーク(謹賀新年2018)Story2

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story2



 いくつかの苦難を乗り越えて、ようやくジークたちは、ルフト国の都へたどり着いた。

Kおらよ、届けもんだ。さ、王子。

 注文どおり王子を届けたカルステンたちを待っていたのは、今回の依頼人であるルフト国の公爵だった。

z遠路はるばるご苦労さまでした。

w父はどこだ?俺を捨てた父にまず会わせろ。

 進み出た王子を兵士たちが武器を手にして取り囲む。

公爵は、顔に笑みを浮かべたまま、沈黙していた。

Kどういうことだよ!?依頼どおり、王子さまを連れてきてやったんだろうが!

zよくぞ第10王子を見つけ出してくれました。感謝いたします。

ですが、私は第7王子に次の王になっていただきたい。

それゆえ、ほかの後継者候補となり得るものは、すべて排除させていただきます。

 武器を持った兵士が、王子を捕縛した。

w……そういうことか。いまさら俺が必要になるわけないもんな。

 公爵は捕縛された王子を見て、満足そうにうなずくと。

ジークたちに残りの代金の入った袋を投げ渡した。

zほら、残りの依頼金だ。ご苦労だったな。薄汚い賊どもめ。

どうやら、俺たちは利用されたようだ。

Kそ……その王子はどうするつもりだよ?

 公爵は答えなかったが、聞かなくてもわかった。

後継者として邪魔にならないうちに、速やかに排除するつもりだ。

Nひどい奴らがいるもんだねー!?

w空賊の兄ちゃんたち、さっさと消えてくれ。俺が大人しく殺されりゃあ、丸く収まるんだ。

 達観したように呟く王子。それでいいのかと、ジークは問いかける。

wよくねえよ!……でも、相手はルフト国の兵だ。逆らっても無駄だろ?

 ジークは右手に金貨を持っていた。公爵が報酬として寄越した袋に入っていた金貨だ。

いつの間にか、その金貨が、ジークの手の中で半分に折り曲がっていた。

俺は丸く収まるって言葉が一番キライだ。なぜなら、ちゃんと丸く収まったところを見たことがないからだ。

 ジークの指が金貨を弾く。公爵の顔をかすめていった。

z大人しく金を受け取って立ち去っておけば、いいものを……。

 公爵は兵たちに命令を下そうとした。次の瞬間、ジークの拳が、公爵の頬を打っていた。

公爵は、もんどりうって倒れた。

zぶっぶぶぶぶぶっ、無礼者なにしている!?空賊ごとき、さっさと始末せんか!?

Kおいおい。ルフト国に喧嘩売るつもりかよ?俺は知らねーぞ。

wなにやってんだよ!?あんたバカかよ!?

言っただろ?気に入らない奴を目の当りにすると、身体が勝手に動くと――

 兵士たちが槍を構えて、ジークに向き合っていた。穂先を揃えてー斉に串刺しにするつもりだ。

ジークは演奏の準備を整えていたナディに目で合図を送った。

N宮廷で大暴れのマーチスタート!

最初に蹴り飛ばされたい奴は、どいつだ?

 ジークは、その場で飛び上がった。さながら鴉のように。

上空から飛びかかり、まず戦闘の兵たちを薙ぎ倒した。拳で殴り、脚で鎧ごと蹴り飛ばす。

槍を持っている兵士たちは、最初は圧倒的に優勢だと思っていたが、ジークの強さにたちまち怯んだ。

wやっぱりあの兄ちゃん、メチャクチャつええ……。

 10名ほどいた兵士は、まったくジークの相手にならなかった。

これでも王宮の警備を預かる近衛兵のはずである。けしかけた公爵は、顔面を蒼白にしていた。

zな……なにものだお前は!?

Nふうー。演奏、疲れちゃった。

ああ……さすがに疲れた。

 騒ぎを聞きつけた近衛兵たちが、続々と広間に入ってくる。

N援軍だよ!もうひと頑張りしなきゃ!

よし!

 ナディの演奏に乗って、ジークは再び兵と戦いはじめる。

ナディの演奏は、戦うものの気分を高揚させ、闘争心を増幅させる力があるようだ。

Nはひー。ひー。やっぱり疲れたよ~。

……俺も疲れた。

 城内にはジークに伸された兵が大量に転がっている。

だが、王宮を警備する兵が、この程度で尽きるはずがない。

zお前たちの狼籍もここまでだ!

 さらなる援軍。ナディとジークは、さすがに疲労の色が隠せない。

Kナディ、演奏を止めるな! ジークの動きも止まっちまうだろうが!

Nそんな~。ちょっと休ませてよ!

Kお前の演奏がないと、俺たち全員死んじまうんだよ!

zふふふっ。さすがに限界のようだな?では、この辺でとどめを刺させてもらおうか……。

こういうときのために、用心棒を雇っておいたのだ。先生!よろしくお願いします!


Gようやく出番でゲビス? 待ちすぎて、間接部にオイルを差し直したい気分でゲビス。

z散々タダ飯ならぬ、タダオイルを食わせてきたんだ。その借りを返すと思って、やっちゃってください。

Gドルキマス国から逃げ出したゲビスをかくまってくれた恩義は、けっして忘れないでゲビス。

アーレント式試作兵器ハルトゲビスが、無法者どもを葬るでゲビス!

K向こうは、機械兵器までもってやがるのかよ。どうするジーク?

ふふっ。喧嘩は楽しいなあ……。ふふっ。血を見せろ、もっと血だ!

Kやべえ。こっちも相当いっちゃってるぜ。

Nナディちゃん得意の狂乱のマーチだよ!

Kジークって……暗示にかかりやすい奴だったんだな。

G狼籍者どもめ、観念するでゲビス!




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story2-2



機械兵器の癖に、人格を持っているのか?

G所詮、ゲビスは、人の手によって作られた強襲用機械兵器でゲビス。

ゲビスを産んだものが人間なら、ゲビスが戦うのも人間でゲビス!覚悟するでゲビス!

Kロボットなのに悪人の味方をするのかよ?

ゲビス、ゲビス。うるさい奴だ……。お前を作った奴は、どこにいるでゲビス?

「うつってる。うつってる。

Gアーレント開発官のことを思い出させないで欲しいでゲビス!

アーレント開発官は、ゲビスの産みの親であり、母親であり、そして生涯をかけて守ると誓った存在でゲビス。

でも……。ゲビスは、許せなかったでゲビス。アーレント開発官の周りにいる適当な奴らの助言によってコロコロと仕様を変えられるのが!


 ***


Gゲビス!ゲビス!

Lようやく完成したわ。ドルキマス国初の二足歩行強襲用ロボの試作機がね。

将来の戦場は、人間が戦うんじゃなくて、こういうロボ同士の戦いになると思うの。どう?コレ凄くない?

cう一ん。なんか地味だな。

v強襲用っていうのに武器は無しですか?それじゃあ、戦場で役に立ちませんよ。せめて武器とかつけましょうや。

Lそう?どんな武器がいいかしらね。



Gどうも、ゲビスです。生まれ変わりました。

これから人のお役に立ちたいです。

Lいろいろ武装を追加してみたわ。あと、人工知能も積んでおいたから。彼と会話できるようになったわ。

vお、前よりマシになったんじゃねえですか?

cう一ん。だが、どうも無骨で面白みがないな。ロボットなら愛嬌も必要だ。

Gゲビスは兵器です。面白みよりも、戦場でお役に立ちたいです。

cまず、しゃべり方が堅苦しい。

Lそれは感じていたのよね。ちょっと改良してみるわ。


 ***


Gこのままだと際限なく改造されて、やがてゲビスの自我が消え去ってしまうんじゃないかと焦ったでゲビス。

Kじ……自我。機械のくせに難しいこと考えてるんだな。

それで、このルフト国まで逃げてきて、用心棒になったわけか。

Gそうでゲビス。この国には、一宿一飯の恩義があるでゲビス。悪いが、ここで死んでもらうでゲビス!

 ハルトゲビスの背後にあるミサイルポットが、一斉に開いた。

内蔵されていた短筒砲弾が、炎をあげて飛翔し、ジークの肉体に直撃する。

Kやっべえ!なんだあの武器は!?

Gこれで終わりじゃないでゲビス!

 電極のついたマニピュレーターを伸ぱす。ジークの身体に触れたとたん、凄まじい電圧が生じさせた。

ぐあああああーーっ!

 ハルトゲビスの猛攻を受けて、ジークはたちまち満身創痍に陥った。

それでも、なんとか立ち上がろうとしているが、受けたダメージはかなりのものだった。


 ***


「目障りなガキだ。辛気くさい顔して俺の船に乗ってんじゃねえ。

笑え。ほら笑えよ。お前にも感情ってものがあるんだろうが。ええっ!?」

 なにかとあれば、すぐに打たれた。全身にあざが耐えなかった。

「俺を殺したいと思ってる目だな?いいぜ、殺せよ。お前にその度胸があるならな!」

 殺したいと何度も思った。

でも、結局できなかった。赤髭バロームはひどい男だったが、ジークにはほかに頼れる人がいなかったからだ。


 ***


wもういい!俺のために、そこまでしなくていい!もう、やめてくれ!

 傷だらけになったジークにすがりつく。だが、王子の手は振り払われた。

勘違いするな。これは、お前のためじゃない……。

助けたい奴がいれば、助けにいく。目の前に気に入らない奴がいたら誰であろうと殴りに行く――

俺はただ、空賊として生きたいように生きているだけだ。

王子を連れて下がれ。どうやら、素手でこいつは倒せないらしい。

Kどうするつもりだ?

 詠唱を唱えはじめるジーク。  

ふだんは決して使うことのない禁断の手。魔術(・・)を使うつもりだった。

魔術は肉体的なリスクを伴う。

それにクレーエ族だけに受け継がれてきたこの技を狙う権力者は大勢いるため、できれば隠しておきたかった。

だが、もはやそうも言ってられない。この戦い、負ければ王子の首はなくなるのだ。


……とっておきだ。しばらく眠っていろ。

 ジークの魔法が発動。拳に魔力が宿る。

Gな……なんだこれはゲビス!?

 魔力を乗せた拳が、ハルトゲビスの機体を打った。 

Gゲビスぅぅぅぅぅっ!?

 一瞬だけ、ジークの顔に赤い紋様のようなものが浮かび上がったが……すぐに消えてしまった。

G……こんなに力をこもったパンチをもらったのは製造(・・)されて以来、初めてでゲビス。

こんな男が、いたとは……。ま……参ったでゲビス。

 ハルトゲビスは崩れ落ちる。一方のジークも力を使いはたし膝を突いていた。

zや……役に立たん機械だ!ー緒にこい小僧!

wなにすんだ、離せよ!?

Kあ、おい……。連れて行かれちまったぞ!






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story3



Kあの飛空船に公爵と王子が、乗ってるみたいだ!

 打つ手がなくなった公爵は、王子を人質にとり、飛空船に乗り込んで、空に逃げた。

空に逃げられたら手出しできない。そして空の上なら王子を謀殺するのも、痛めつけるのも、向こうの思いのままだ。

王子を助ける。船を探せ。

Kんなこと言ってもよ!空が飛べない以上、どうしようもねえだろうが!

空か……。

Pこんちはー。ドルキマス国からの航空便でーす。お荷物をお届けにあがりました。

 一機の飛行機が、城の広場に着陸した。

小型の飛行機だ。たった一機で駐機している。操縦者である彼女以外に味方はいないようだ。

飛行機だ。

K飛行機だな。

「飛行機だねー。


Pええっ!?

そのまま真っ直ぐ飛べ。

Pなんなの、あんたは? ひとの飛行機に土足で乗り込まないでよ!

いいから、もっと飛ばせ。

Pこう見えても私は、軍の荷物を運んだりしたことあるんだよ!?

お前も軍人か?

Pいや、いまは軍属の民間人だけど……。

ならば外交問題になることはないな。これから、俺のいうとおりに飛んでもらう。

Pいったい、あんたはなんなのさ!?

 かくかくしかじか……。ジークは手短にこれまでのいきさつを説明した。


K……え? 空賊なのに艦艇どころか飛空船すら持ってないの?ぷーっ!そいつは情けないわね。

可哀想だから、いっちょ乗せてあげようかね。でも、うしろで暴れたりしないでよね?


 ***


w下ろせよ! 俺をどこに連れて行く気だ!?

z静かにしろ!お前をここから突き落としてもいいんだぞ。

 その時、従者たちから、小型の飛行機が一機で迫ってくるとの報告が入る。

z追ってきたのか? ええいっ! しつこいゴロツキめ! ルフト飛空船団、奴を止めろ!


 ***


「人間すべてが、この世界が憎いってツラしてやがる。

その様子じゃ、ずいぶん辛い目にあったんだろうな。けど、俺には知ったこっちゃねえ。

憎い奴がいたらぶん殴れ。抵抗するなら殺せ。好きに生きればいい。

ただ、好き放題に生きるには、それなりの資格がいるぜ?腕っ節と度胸のない男は、黙って人の風下に立ってな。

誰かが遠慮した分、俺は好き放題できる。どうだ?羨ましいだろ?がははははっ!」


 なぜかジークは、いまになって赤髭バロームのことを思い出していた。

バロームのところにいる間、ジークはずっとなにかを憎んでいた。

世を憎み、人を憎んでいた。けどそれは、力のない自分への絶望からくる子ども染みた反抗心だったように思う。

……殴りたい奴を殴り。助けたい奴を助ける。それが空賊だと、あんたは教えてくれた。

 バロームのことは、いまでも超えられない存在として、ジークの前に立ち塞かっている。

どうすれば、その巨大な壁を破壊できるのか……。いまだにつかめていない。


Pこれ以上、速度出ないわよ!?

 公爵と王子が乗った飛空船は、まだ先だ。

全力で飛ばしても追いつけない。むしろ、引き離されるばかりだった。

P燃料もそんなに積んでないし、ここまでかな?ねえ、諦めたら?

そこの赤いボタンはなんだ?

Pこれは緊急脱出用のボタンだよ。……なに押そうとしてるの? いま、緊急脱出用だって説明したで

……赤いボタンを見ると、ちょっとだけ押したくなる性分なんだ。

Pちょっとも、がっつりも変わりゃしないよ! こら、勝手に押しちゃダメだって! あああっ!

 ベティナとジークは、座席ごと勢いよく、飛行機から飛び出した。

Pだから、押すなっていったでしょうが!? あんた落下傘装着してないのに、どうするのさ!?

これならば……っ!

 座席をさらに踏み台にして、ジークは空中高く飛び上がった。

これで、公爵たちの乗った飛空船に届くかと思った。

……届け!

 目の前に迫った飛行船の機体をつかもうと手を伸ばす――




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story3-2



 無数の砲弾が、空賊船の外殼を撃ち抜いた。

赤髭バロームの旗艦は、至るところで炎が燃え上がり、無数の死体が船内に横たわっている。

ジークは、黒煙を掻き分けながら、頭であるバロームを探していた。

むろん、この混乱に乗じて殺すためである。

「おう……小僧、生きてたか? とっくに逃げちまったもんだと思ってたぜ。

 艦橋で、ひとり煙に巻かれながら立っている赤髭バローム。

その声は、弱々しかった。よく見ると、腹部に砲弾の破片が突き刺さり、おびただしい血が流れていた。

っておいても死ぬ――そう感じた瞬間、赤髭ハロームヘの殺意が萎んでいく。

爆風に巻き込まれ、赤髭バロームがよろめいた。ジ一クは、思わず彼の身体を支えてしまった。

「あまっちょろいガキだぜ。やっばりお前は、空賊に向いてねえ。

てめえ!俺が憎くて殺しに来たんだろ!だったら、いまがチャンスだ。とっととやれよ。

……できねえだと?がはははっ!俺に同情しやがったか!?くだらねえガキだ。ほら見ろ。

 そういって赤髭バロームは、赤い血にまみれている自分の左脚を指さす。

膝から下が吹き飛んでいた。杖を突いて、やっと立っている状態だ。

「殺すつもりがないなら、俺を置いて逃げろ。

ひょっとして、俺はこうして弱っているふりして、てめえを犠牲にして自分だけ、助かろうとしてるのかもしれねえぜ?

こんな風にな!」

 その瞬間に見せた赤髭バロームの形相を忘れることはない。

赤髭バロームの手は、ジークの体を突き飛ばした。殺される――と一瞬、絶望しかけたが、彼は動かなかった。

艦橋に横たわったジークは、慌てて起き上がり彼を見る。

「まったく……許せねえなあ?俺の船に、こんなもの打ち込みやがってよお。

 赤髭バロームが右手でつかんでいるのは――割れた窓から飛び込んできた敵の砲弾であった。

なんと素手で、敵の砲弾を受け止めている。

「空賊に大切なものは、自分の生き方を貫くこと……。そしてこれが、俺の生き方よ。

小僧!お前も空賊なら、最後まで自分を貫き通してみせろ!

 片足を失った状態のバロームは、まさに瀕死。

しかし、その状態でもなお、受け止めた砲弾を敵に向かって投げ返してみせた。

「俺様の船に砲弾を叩き込もうとするふざけた野郎には、必ず報いがあるってことを思い知ったか!?

さあ、もっと撃ってこい! 全部、投げ返してやるぜ!

 赤髭バロームは、ジークを振り返ると「逃げろと言うように手を振った。」

まさか、庇ってくれてるのか? あれだけ好きなように生きてきた大空賊が……。

嫌っていた子どもを助けるためにその命を犠牲にするのか?

ありえない……。

「いま、アンタがしたいことって、俺を助けることかよ?」

 赤髭バロームは、振り返って笑顔を見せる。

「へっ……。悪いかよ?」

 それが彼の最後の声だった。

ジークが無我夢中で、艦橋を離れている途中――

背後で大きな爆発が起きた。

赤髭バロームは、その日、自分の船と一緒に空の藻屑と消え去った。



「人を信用しないと言っていたはずなのに、なぜ、最後に子どもの俺を信じた?

それが、お前の空賊としての理想の死に様だとでも言うつもりか?

くだらない。らしくないことをするから、赤髭バロームの伝説は、あそこで途絶えてしまったんだ。

 伝説のあとを受け継ぐ空賊なんてもうどこにもいない。

バロームこそ、最後の大空賊だったと、いまでも思う。


 彼が塵となって吸い込まれた空は、今日も青く、大陸の果てまで広がっていた。

公爵と王子が乗った飛空船に飛びつこうとしたジークだったが――

くっ……。

 ジークは必死に腕を伸ばす。なんとか、飛空船の端をつかみかけたが――

指先が、なにもない虚空を引っ掻いた。

あと少し。ほんのわずかな距離が足りなかった。

死ぬのか……。

 どうやら赤髭バロームのようには、死ねないらしい。

ガラにもないことをしてしまったと今更ながら悔やんだ。

母親の身分が低いから捨てられたというあの王子。

このご時世、決して珍しい話ではない。どこかで聞いた話だ。だが、やはり理不尽な話だと思った。

それだけに、ジークはあの王子を助けてやりたかった。

ひとの命と誇りなんて、なんとも思わないような権力者どもに、自分たちが間違っていたんだと思い知らせてやりたかった。


「空賊に大切なものは、自分の生き方を貢くこと……。そしてこれが、俺の生き方よ。

らしくないことをした俺への罰だな。

Gあんたは、命知らずなバカ野郎でゲビス。

 地上に落下していくジークの服をあの強襲用機械兵器がつかんでいた。

……飛べたのか?

G最新型強襲用ロボットでゲビス。このぐらい、朝飯前でゲビス。

なぜ助ける? お前を負かした男だぞ?

Gゲビスは、初めて人間との喧嘩に負けたでゲビス。弱者は強いものに従うのが掟でゲビス。

それに、実はゲビスもあの王子が不欄だと思ったでゲビス。

おもしろい奴だ。

G話はあとにするでゲビス。とっととあの王子を助けるでゲビス。

 ジークを飛空船に向かって放り投げる。

無事、船の上に着地することができたジークは、さっそくハッチをこじ開けた。




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story3-3



 ジークは、公爵たちが乗った船に乗り込んだ。

公爵が、王子の頭部に銃を突きつけて殺そうとしているところだった。

zこ……ここまで追ってくるとは。なんなんだお前は? この王子は、お前にとって、そんなに大事な存在なのか?

関係ない。俺は、お前が気に入らない。だから殴りにきた。それだけだ。

z空賊風情が。私の身体に触れられるとでも思ったか!?

たかだか子どもひとりを陰謀で誘い出し、その命を亡き者にしようとする卑怯な男め。

お前なんぞより、空賊の方がよっぽど上等だ。

 ジークが距離を詰める。せっぱ詰まった公爵は、いよいよ追い詰められ、なりふり構ってられなくなった。

zくっ……わ、わかった!この子は、殺さない。命は助ける……いや、次の王にする!後継者として大事に育てる!

w……。

zだから命は! 命だけは助けてくれ!頼む、暴力はやめてくれ――

……わかった。子どもの命さえ助けてくれれば、乱暴はしない――

zなんて言うとでも――

――思ったか?

 ジークの拳が、公爵の鼻っ柱に強烈な一撃を見舞った。

zぐはああっ!

 公爵は、もんどり打って倒れる。

鼻や口から血が流れていた。鼻が曲がってしまったが、命に関わるほどではない。

……俺は気がすんだ。あとは、お前が好きにしろ。

w……ああ。

 王子は、ぶざまな姿をさらしている公爵を見下ろす。

wなあ貴族のおっさん。災難だったな?でもな……実は俺、王子じゃねえんだ。

zな……なんだと?

w王子のふりしてりゃあ、みんなが、ちやほやしてくれるから嘘ついてただけなんだ。

俺みたいな嘘つきに振り回されて、あーあ、こんなに顔まで腫らしちゃって。災難だったねえ。

そもそも俺みたいな路地裏で育ったガキに王宮なんていう堅苦しいところで、生活なんてできないさ。

だから、地上に降りたら家に帰るわ。

……いいのか?

wいままで、その辺にいる普通のガキだったんだ。これからもそうさ。なにもかわりゃしねえよ。

そうか。

 王都を出たところで、王子だった少年と別れることにした。

締め上げた公爵の配下から、少年の母親の故郷を聞き出すことができた。

母はもう生きていないそうだが、他の家族は生きてるかもしれない。念のためそこへ向かってみるらしい。

送っていこうかと訊ねたが、彼はそのぐらい自分でやれるという。

wじゃあな空賊のお頭! こんど会うまでに、船ぐらい持っていろよな!?

……大船団を率いてるさ。きっとな。

 王子だった少年は、笑顔で手を振りながら去って行った。


「おい、小僧。この程度で、俺を超えたと思ってもらっちゃ困るぜ?」

 空耳だろうか。昔、死んだ空賊の声が、どこからか聞こえた気がした。

いまはまだな。だが……いつか、超えてみせるさ。

 ジークの返事を聞いたあの男は、きっと今頃、空の向こうで笑っているだろう。


Gいまの話、本当でゲビス?空賊なのに船もってないのでゲビス!?

……そうだ。悪いか?

Gとんでもないひとを、お頭にしたでゲビス。

お頭?俺は、子分を持ったつもりはない。

Gじゃあ、ゲビスをーの子分にするでゲビス。もう離れるつもりはないでゲビス。

Nねえ、ジーク。これからどうするの?そこのポンコツロボット売ったら多少、路銀になるんじゃない?

Gゲビスは、売り物じゃないでゲビス!

Pやれやれ、とんでもない目にあったさね。飛行機も壊れちゃったことだし、どうやってドルキマスに帰るかねえ。

一緒に行くか?

Pもちろんさ。壊した飛行機、なにかで償ってもらわないと許さないから。

でも言っとくけど、空賊の仲間にはならないよ。だいいち船を1隻も持ってない空賊なんて、空賊とはいえないわ。

船がないのは、これまでの話だ。今回の仕事で、多少金が手に入った。

その金があれば、小型艇の1隻は楽に買えるはずだ。

Nやったー!じゃあ、さっそく買いに行こうよー。で、そのお金は、どこにあるの?

俺の懐にはない。あいつ……カルモスチンに預けてある。

N名前、覚えてあげなよ……。

でも、あいつ、結構前から姿が見えないよ?

P逃げられちゃった?

そんなはずは、ない……と思うが。



 ***


Kへへっ。金貨は、独り占めさせてもらうぜ。

 ジークたちと離れ、ひとり別方向へ向かうカルステン。

彼の腰には、たっぷり金貨の入った袋が、ふたつぶら下がっていた。

Kあのジークって奴。噂どおり利用しやすい男だったな。ま、もう会うこともないだろうぜ。

さーて、賭場はどこにあるのかなーっと。

 のちに大陸全土にその名前を轟かせる空賊『ナハト・クレーエ』。

頭のジークはじめ、その仲間たちは、まだそれぞれ別の道を歩いていた。

彼らがひとつにまとまるのは、まだ先の話。







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