【黒ウィズ】アルドベリク編(GP2020)Story
アルドベリク・ゴドー(cv.櫻井孝宏) 魔界の半分を支配するお人好しの魔王。 お騒がせ者の天使ルシエラを訳あって、居候させている。 振り回されてることが多い。 |
開催期間:2020/08/31 |
目次
story1 嫌われ者
ドミー、また子どもたちに嫌われちゃった……キモいって言われちゃった。
ですが、嫌われるのは果たして悪い事でしょうか。
まかたんさん。我々の知る嫌われ者の話をドミーさんにしてあげればいいのでは?
ああ、あいつか。
***
魔王ブラフモが倒れ、まだ魔界が戦乱と混乱の渦中にあった頃。
魔界を支配せんとする勢力がふたつあった。
イザークと、魔王ブラフモに従っていた魔界の旧主派と呼ばれる者たちである。
そして敵対するヴェイン卿の領地の前で、アルドベリクの軍は足止めをくらっていた。
この領地を落とそうとしている俺たちの前で、戦いの構えをまるで見せていない。
俺たちと旧主派の貴族たちの違いは、明確だ。
奴らはこれまでの魔界に倣い裏切りと暴力で支配しようとしている。
俺たちは違う。魔界に新しい秩序を持ち込もうとしているんだ。
相手もそれが分かっているんだろう。
無防備な者は殺すことが出来まい、と。
ー旦、退くぞ。イザークには伝令を出す。何か策を考える必要がある。
退却の道中で、アルドベリクはイザークからの伝令を受けた。
別方面で戦っていたはずのイザークが、突如方針を変え、ヴェイン卿を攻めたのである。
おそらくアルドベリクの伝令を受けてすぐ行動を起こしたのであろう。
あの堕天使め……。
***
ヴェイン卿の領内に入ると、肉の焼ける臭いが鼻を刺した。
ただの杞憂で済めばいいと思ったことが、現実となっていることで、アルドベリクの苛立ちはさらに増した。
俺たちよりも恨みを買った奴が来たぞ。
現れたのは、イザークだった。
右手には剣を、左手にはこの戦いの戦利品を携えている。
イザークは戦利品を屍の山に放り込み、アルドベリクたちを迎え入れる。
真実がなんであれ、奴はもう口を開くことはないがな。
屍の山に放り込んだ戦利品を見やり、イザークが言った。
それを旗頭に団結されては困るからな。
何が面白いのかイザークの口角が上がる。
不敵な笑みを残したまま、イザークは続けた。
黒く染まった翼を羽ばたかせ、イザークは舞い上がる。
いつの間にか彼に付き従うようになっていた魔族たちも、声を上げてそれに続いた。
皆、魔界の爪弾き者やー匹狼のような者ばかりである。
なぜかイザークの下には、そのような者ばかりが集まった。
それから領民の傷を癒すことも必要だ。心も体もだ。
アルドベリクが領地を管理するようになると、領民も落ち着いた生活を取り戻すことが出来た。
彼ならばヴェイン卿のように、自分たちを盾にするような真似はしないだろう、とすら思い始めた。
それは難しいことではなかった。
傷つけられた者というのは、そのあとに来る自分たちを守ってくれる者を信頼するからだ。
この場合は、アルドベリクがそれに当たった。
そして恨みや憎しみは、ヴェイン卿、それ以上にイザークヘと向けられていた。
クィントゥスの鉄拳が大岩を叩き割ると、領民から歓声が上がった。
戦火で焼けた地を開墾するためには必要な作業とはいえ、いまやそれは娯楽のひとつになっていた。
その光景に目を細めながらアルドベリクは奇妙な感覚にとらわれた。
……ん?どうした?
俺ならー発殴らないと気が済まないぜ。
同じ侵略者なのにだ。
story2 嫌われ者の真意
旧主派との戦いが小康状態になると、イザークたちは戦略について話し合う場を設けることにした。
特にヴェイン卿の領地だった場所です。
あの地には主だった戦力もなく、その割には物資の輸送に労力が多くかかる。
率直な感想は、守るべき民を抱え、兵姑を引き伸ばし、兵糧を目減りさせるだけで価値はない。
あくまで戦時の兵姑担当としての意見ですが。
そうすれば敵方lこ我々と同じ問題が起こります。
俺たちも民を見捨てるのか。俺たちはまた魔族のやり方を取るということか?
そこで議論が止まった。
ー同は、難しい問題を突き付けられ、それぞれの主義主張はあるが、どう答えたものか、と思案していた。
貴公には民を。俺には領地を。
貴公は民を自分の領地に連れて帰り、俺は奪えるものは全て奪い火を放ち焼き払う。
それぞれの持ち場へ戻るべく、退室していく中、アルドベリクとイザークは座したままだった。
ふたり以外、誰もいなくなる。
遠ざかる足音すら聞こえなくなると、アルドベリクは言った。
味方だと思っていた者も敵になるかもしれない。
お前だ。
何を求めているのだろうか。あるいは裏切りを求めているのだろうか?
手にした刃の意味も見定められぬまま、互いの切っ先を喉元に突き付けているように、ふたりは黙っていた。
身じろぎもせず、ただ睨み合っていた。
***
民を抱え、領地へと引き返す道すがら、アルドベリクの頭の中にはイザークの言葉だけが残っていた。
自分を殺すのはお前だ。
まるで告白めいた言葉だ、と思った。
裏切りを疑うことや野心に火をつけようという意昧には取れなかった。
むしろ剥がせば血を流す皮膚と肉のような関係を迫る言葉にも思えた。
これじゃあ、でっかい喧嘩に行き遅れちまうぜ。
くっそー。絶対勝てると思ったんだけどなあ。イザークの奴、やたら強かったな。
と言いかかる言葉が民の悲鳴でかき消される。
見ると。
自軍の殿に噛みつくように、敵兵たちが押し寄せてきていた。
ふたりが殿へ駆けつける。
手間賃代わりに、敵を斬り捨て、殴り飛ばす。
なんでもいいから喧嘩売ってこい!
息を吐くようにクィントゥスが敵をボコスカにする。
するとボコスカにされてはたまったものではないと、敵もたじろいだ。
アルドベリクがー閃し、兵士を斬り飛ばす。
気づけばふたりと敵兵の間には警戒心が生み出した間隙があった。
すると、伏兵が現れ、ー斉に弓を引いた。
矢はアルドベリクたちに向けられていなかった。狙いは随行していた民であった。
と、大声が響き渡り、睨み合いを制する。
大声の主は、ずいとアルドベリクの前に出る。
しかし、貴方を見逃すことは出来る。見
その言葉を聞き、ストバーンの兵士たちはその場を立ち去った。
不満げな喧嘩好きに、アルドベリクは見ろと促した。
しかし、このあたりでは休める場所もないだろうな。
見渡したところで、あるのは老人のように曲がった枯木だけである。水辺すらなかった。
しかし。
民の中にいた老人が思わぬことを教えてくれた。
老人はブラフモの狩人だった。この近くに休める場所があると言った。
疲れ果てた爺様が、嘘ついて、無駄足踏ませるとは思えないぜ。
それに守ってくれたことを感謝しているみたいだったぜ。ったく……喧嘩は全部イザークに持ってかれちまうな。
story3 嫌われ者とお人好し
狩人の老人に案内され、訪れたのは魔界とは思えぬ場所だった。
樹々が枯れ戦火に土が焼かれているのが常となった魔界には、珍しい風景だった。
驚くアルドベリクを尻目に、水場を見つけたクィントゥスは駆けだした。
水しぶきを上げて、クィントゥスが泉に飛び込む。
大量の水しぶきをアルドベリクに飛ばす。浴びた水を拭い、アルドベリクは呟く。
ただし、お前はこの泉に沈めてやる!
アルドベリクは泉に飛び込み、クィントゥスの首根っこを掴み、水に沈めにかかる。
ちょっと待て!溺れるって!
そんな光景に勇気づけられた民もそろそろと泉に向かう。
そこに、黒い羽を落としながら、舞い降りたのはイザークだった。
クィントゥスとの不毛な争いをやめ、アルドベリクはイザークを見た。
周囲を見やり、呟く。
ここがブラフモが隠していた〈魔王の瞳〉だそうだ。随分、らしくない趣味をしているな。
俺たちはそういう運命なんだろう。
魔界を統ーした所で、また魔王が死んで戦乱が起これば意味がない。
だから自分が憎悪を背負い、俺を、いや俺たちを守っているんだ。違うか?
貴公には半分しかやらん。そういう約束だ。
俺はブラフモの城を焼いた。ここは、貴公にやる。
焼かれた城とこの場所を同じ価値のあるものとして、分け与える。ー体どういう感性だろうか。
とアルドベリクは思った。そして、見つめる男の口角がまた、自嘲的に歪んだ。
お互いの会話がすれ違いながらも時折噛み合う。
だが、結局はどこまでもこの男の真意がつかみ取れない。呆れたようにアルドベリクが言った。
アルドベリクの手が水面を滑る。
きらめく水の珠が飛び散る。
慌てた顔は嫌いじゃないぞ。
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