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シュプフヌーデルン・エピソード

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シュプフヌーデルンのエピソード

クールで陰鬱、近寄りがたい外見をしている。冷たい性格ではあるが、天然な部分もあるようで、つかみどころがない。好奇心が極めて強いため、やりたい事であれば、なんとしてもやり遂げたい。生まれながらにして人間の恐怖心を食べているため、よく人間を尾行して驚かしている。しかし騒音が大嫌いなため、怯えて発狂した人間には決して悲鳴を上げさせない。普段は手の代わりに触手を使って色々なことをする、左手は何かの生き物に寄生されているようだ。

Ⅰ.うるさい


「この前のヤツすごくまずかった、歯ごたえないし、めっちゃ苦いし……」

「それも随分前のことだったよな……おいっ!食事はまだなのか?!」

「何か喋れ!シュプフヌーデルン!親友を餓死させるつもりか?はーやーく!飯だ!飯!」


パンッ!


左手の手の甲を叩いたら、やっと静かになった。


「黙れ、スレンダー、うるさい」


うるさい人間から離れるため、半月掛けて、僕はようやくこの人気のない死の大地に辿り着いたーー


灰色の霧に覆われ、陽射しが届かない森。周りの植物まで暗い青色をしていて、どれも生気がない。


この森に名前があるとしたら、「死の森」か「亡者の森」になるだろうな。


残念なことに、どれだけ遠くまで逃げても、僕はうるさいスレンダーからは逃げられない。

何故なら、彼が僕の左手だからだ。


「これ以上騒いだら、切り落とす」

「やれば?飯を食わないと死ぬし、お前に切り落とされてもどっちみち一緒だろ!切り落とすか、飯を食わせるか、どちらかを選べ!」

「……」

「飯飯めしめしメシメシーー!」

「うぅ……僕の顔を引っ張るな……チッ、指を一本切り落とせば、その食欲は少しは治まるか……?」

「は?そんな事させるかよ!」


しつこい奴だ……


触手たちが蠢いて、スレンダーの隙を突き縛ろうとしたが、突然背後からうるさい声が聞こえてきた。


「そっ、そこで何をしている?!」


人間だ。


青年で、弓と猟銃を装備している。死の森に紛れ込んだ猟師か?しかしこの森にまともな獲物なんて存在しないだろう。ましてや、どう見てもまともじゃない僕に話しかけるなんて、こいつは何を考えているのだろう?


まあいい、そんな事を考えても仕方がない。


「スレンダー、食事の時間だ」


言葉と共に左手が勝手に震え始める、スレンダーが興奮するとこうなるのだ。時々手のひらから汗が滲み出るが、それは少し気持ちが悪い。スレンダーの唾液かもしれないから。


……とにかく本題に戻ろう。


こういう時は触手の方がやりやすい。


スレンダーより先に、触手たちが動いた。絡み合いながら空気を混ぜ、墨のような黒い液体が触手の表面から滲み出て、猟師の方に流れていった。


「なっ、なんだこれは?!かっ、怪物!!!」

その人間は慌てて銃を構えながら、後ずさりしながらどもっていた。


そんな事を言っている場合じゃないだろう?

貴方の台詞は、一言で十分だ。


触手が広がり、元々暗かった森がさらに真っ黒になる。柔らかかった先端が次第に鋭くなり、あの猟師にーー僕の獲物に襲い掛かった。


「叫べ……」

「あぁぁぁー!!!」


猟銃を放り投げ、長い悲鳴を上げながら男は森の奥に姿を消した。


「うーん……悪くない味だ!少しは成長したな……いや、俺がお前に人を驚かせる方法を教えたおかげだな!引き続き励めよ!」


スレンダーは咀嚼しながら満足気にそう言ってきた。左手の温度も少しずつ上がる。

これで数日は静かな生活を過ごせそうだ。


「ちょっと待ってください!」


物語はまだ途中なのに、初対面の時から銃を僕に向け続ける女性食霊が僕の話を遮った。


彼女の名前は、確か……クレームブリュレ

彼女は疲れないのだろうか……


それにスレンダーと同じでうるさいし、変な名前で礼儀を知らない……


「俺の名前は変じゃないだろ!」


スレンダーは不満の声を上げた。普通の手に見えるのに人の言葉を喋る左手の存在に、あの食霊たちは自分の好奇心を抑えられなかったのだろう。


正直に言うと、食霊なのにこんな事を不思議に思うなんて、少々見聞が狭くないか?


「わかりました。とりあえず、貴方は腹話術の使い手ではなく、本当に言葉が話せる手を持っている事は理解しました……」


クレームブリュレは頭を掻きながら、眉をひそめる。


「しかし、貴方とスレンダーは一体どういう関係ですか?その左手は別人のもの、それとも生まれつきですか?」

「ああ、そういう事を聞きたかったのですね。僕たちがどうやってこの森に来たのかを聞きたいのかと思っていました」

「……それは既に聞いていますよ?うるさい人間から離れるためだと……話を逸らしているのですか?」


犯人を取り調べているかのように、彼女は腕を組む。

この小屋に入った時から、「ホルスの目」という組織は僕を取り調べると明言していたが……


「やはりスレンダーと同じで、礼儀を知らない人ですね」

「おいっ!俺は紳士的だぞ!美人に対してだけだけど」

「なっ……!」

クレームブリュレ……取り調べを続けてください……」


黒髪の男性食霊がクレームブリュレの言葉を遮る。騒いでいる僕たちを見て呆れたような表情を浮かべている。


……それは僕がするべき表情じゃない?


まあいい、このうるさい取り調べを早く終わらせるために、物語の続きを話すとしよう。


Ⅱ.源


初めてスレンダーに会った時、彼はまだ人間だった。


あの時の彼は木に寄りかかり地面に座っていたけれど、僕と同じ身長があるのはわかった。そんな者は滅多にいないし、特にスレンダーは人間だ。


陽に焼けた肌は健康的な小麦色で、目が細く、少し軽薄な感じがする。髪は……どんな色だったか忘れた。

彼がよく帽子を被っていたからだろう。整然たる行列を作るため、色とりどりの髪色を帽子で隠すのが部隊の規則だったから。


そう、スレンダーは兵士だった。いつも林で、違う女の子を腕に抱き、耳元で口説き文句を囁く彼しか見たことはないが、彼によると、大きな手柄を立てたすごい戦士だそうだ。


「ここは僕の定位置です」


彼が寄りかかる木を指しながら、僕の貴重な静かなひと時を邪魔する者に文句を言った。


「あ?そうなのか?」


彼は口元を綻ばせ、ナイフを取り出して木に自分の名を刻んだ。


「ス・レ・ン・ダー、ほら、これで俺の定位置になった」


彼の腕の中にいる女は、甲高い声で笑い出し、その震えている髪の毛すらも僕を嘲笑っているように見えた。


スレンダーが下手な鳥の鳴き真似を披露する時も、彼女は同じようにケラケラと笑う。彼女が笑うのは僕が可笑しいからじゃない。彼女の方が可笑しいからだ。しかし……


本当に失礼なやつだ。鬱陶しい。


人間と口論するなんて実に億劫だ。こういう時は、触手を使った方が早い。


案の定、その女は触手を見るなり顔が真っ青になり、その場で硬直するスレンダーを捨てて逃げていった。


スレンダーはそのまま何分も立ち尽くし、そして不快そうに舌打ちをする。


「せっかくのデートがよ、お前のせいでパーになっちまった……木はたくさんあるだろう、どうしてこれにこだわるんだ?」

「鳥がいないから、こっちの方が静かなんです」

「なるほど……そういえば、お前は何者だ?怪物?堕神?」

「僕は食霊です」

「食霊って……人間を守るもんだろ?あんな意地悪な事をしておいて、なんだその清々しい顔は?」

「……まだ行かないんですか?」

「マジで俺を追い払う気か?……こんなにでかい木だ、隣に座ればいいだろう?」

「……」

「デートはおじゃんになって暇になっちまったし、少し喋ろうぜ」

「嫌です」

「わかったよ。じゃあ座るだけでいいから。お前の邪魔はしない、約束する」


でも結局、スレンダーは嘘ばかりつくチンピラだった。


黙るどころか、僕の身長や、殺した堕神の数や、人間を殺した事がないかなど、むやみやたらに質問をぶつけてくる。それだけじゃない。彼は僕の触手を触りながら、どれくらい伸びるか見てみたいとも言ってきた。


その上、今日だけじゃない。彼のせいで、これからの全ての静かな午後が水の泡になってしまった。


彼を避けるため、わざわざ木を変えても結果は同じだった。


「今日はここにいたのか?探したぞ!」

「……僕を探してどうするんですか?」

「もちろん喋るためだ!」

「……人間の女と喋ってください」

「最近、戦争が始まっただろう?あちこちが物騒でさ、女には家から出るなと言ってあるんだ」

「では、人間の男を探してください」

「あいつらはただのサルだ。お互いに気に入らないから、話し相手なんかならない」


僕も貴方の事が気に入らないと言おうとしたが、ふと彼の口元が腫れているのに気がついた。


「その口はどうしたのですか?」

「あっ、これか?あのサル共が俺のカッコいい顔に嫉妬したんだと、気にするな」


気にする訳がないだろう。


触手を使って蝶々結びができないかという質問が7回目にもなった時、僕はいつも通りに林から離れた。


しかし次に会う時、こんな事になるとは思っていなかった。

彼は初対面の時と同じように木に寄りかかっているが、今回は女を抱いている訳ではなく、血の海の中に倒れていた。その出血があまりにもひどく、ケチャップでもこぼしたのではないかと思えるほどに。


「お願い、彼を助けて!」


彼の隣にいる人間の女も傷だらけで、服がボロ雑巾のようにめちゃくちゃになっていた。でも彼女は自分の状況などちっとも気にせず、医者でも見つけたかのように、必死に僕に助けを乞う。


彼女の話によると、兵士たちに食料を届ける時に、スレンダーと少し話をしたら、他の兵士に目を付けられてしまい、林の中に引きずり込まれたようだ。


そこで、スレンダーは彼女を助けた。


そして今、彼女の恩人であるスレンダーは致命傷を負って死にかけている。


「この女を襲ったのは、前に貴方を殴った人ですか?」

「ああ、そうだ……あいつは……俺が毎日女遊びしているから気に食わないって言っていたクセに……こんな真似をしやがって……」


「レディーの前では……俺はいつでも紳士的……だったぞ……」


スレンダーはもう口元を綻ばせる事ができないし、下手な鳥の鳴き真似もできない。この様子じゃ、話すだけでもう精一杯なのだろう。


これで清々する。やっとあの木の下で一人の時間を楽しめる。


しかし……


スレンダーがこのまま他人の嫉妬で命を落としたら、あの気持ち悪くて臆病な男の思う壺だ。


そしてあの気色悪い男はまたここに来るだろう。泣き喚く女ももっと増えてしまう……


どう考えても、静かな午後はもう二度とやってこない。


「なっ、なにをするつもりだ?!」

「黙れ」


女は大人しく口を閉じて、目を丸くして僕の動きを眺めた。僕はスレンダーのナイフを抜いて、自分の左手を切り落としたのだ。


Ⅲ.未知


切り落とされた僕の手を見て、女は恐怖で悲鳴を上げたが、今は彼女の恐怖を食べるどころではない。


「シーッ……お静かに」

「なっ、なにをやっているの?貴方の手が……」

「ああ、これなら大丈夫です。触手はいっぱいあるから、一本くらいなくても平気です」


僕は切られた腕の断面を確認する。目に見えない霊力がそこからゆっくりと流れ出ているが、傷口は治癒し始めた。


霊力の裂け目が塞がれる前に、僕は触手を使ってスレンダーの体から彼の「魂」を抽出した。


僕がこれから何をするかを知ったら、彼は僕を憎むだろう、永遠に苦しみ続けるかもしれない。


僕も一人の静かな時間を永遠に失ってしまう。これから僕がする馬鹿げた事は、誰のためにもならないだろう。


僕は彼に二回目の死を与えようとしている。彼の霊を……僕自身を殺しているのだ。


でも彼は生きなければならない。それより大事な事など、ない。


幸い、彼の魂と僕の同調率は高く、僕がつい先程なくした左手を完璧に補ってくれた。


これで、スレンダーは僕の体内で、僕と共生する事になった。


「……」


物語を最後まで聞いていたクレームブリュレは、黙ったまま眉をひそめた。彼女は僕を見つめて、時折隣にいる男性食霊に目を向ける。何か悩んでいるようだ。


「おかしいですよ……スレンダーと同じ種族でもないのに、共生なんて出来るのですか?それに“魂”ってなんですか?見た事も……いや、聞いた事もありません!それをどうやって人間の体から取り出したと言うのですか?!」

「理解しやすいために、“魂”という言葉を使ったのですが……はぁ、例を一つ挙げましょう」


理解力が乏しいクレームブリュレから目を逸らして、隣に立つ男性食霊を眺めながら説明を始めた。


「僕たちの命を維持する、そして人間と違う形で戦うためのエネルギー、仮にそれを“霊力”と呼びましょう……霊力は食霊だけが持っているものではありません。堕神にも、人間にもあります。でないと、人間は食霊を召喚できないでしょう」


「しかし、堕神は霊力が濁っているし、人間は霊力が少ない……スレンダーの乏しい霊力を使い、左手を失った時に失った霊力の隙間を補っただけです。別に理解しにくい話じゃないでしょう?」


案の定、男性の方は理解できたようだけど、クレームブリュレはまだ信じられない顔をしている。


「まっ、まったく理解できません!こんな事ができるなんて、聞いた事がないです!」

「バカか?聞いた事がないから存在しないってか?実際、俺たちはお前の目の前にいるじゃないか」

スレンダーが不満気に声を上げる。しかし彼の話を聞いても、クレームブリュレはまだ疑念を抱いているようだ。


彼女を見て、僕は思わずため息をつく。

「では教えてくれませんか?僕たちはどうやって生まれたのですか?」

「それは……召喚されたからでしょう?」


「どうやってですか?召喚される前にはもう、僕たちは混沌の中に存在しています……そんな僕たちは、どうやって生まれてきたのですか?両親もいない、植物でもない、無から生まれたとでも言うのですか?」

「うっ……食物と希望の力から生まれたんじゃないですか……」

「僕たちは食物や希望の力と同種のものではないのに、どうやって生まれたというのです?」

「それは……」

「僕たちの存在を説明できないからって、僕たちは存在していないと同じ、とでも?」

「……もう、わかりました!貴方の勝ちです!」


クレームブリュレはヤケクソになって、背もたれに身体を預けた。そして彼女の後ろに立つ男性食霊は突然微笑んだ。


「ごもっともな意見です。確かにティアラには不可解なことが多い。食霊、人間、堕神、それに精霊……僕たちはまだ全ての生物について解明できていない。食霊として、少し特殊な能力があってもおかしくないでしょう」

「その通りですね。人間はともかく、僕は自身の存在について興味があります。しかし図書館と研究所の本を全て確認しても、答えは見つかりませんでした」

「へえぇ……そんなまともな方法で調査をしていたのですか?いや、でも……スレンダーはそんなにうるさいのに、どうして図書館の司書に追い出されなかったのですか?」

「は?俺がうるさいだと?!」

「確かにスレンダーはうるさいですが……司書とはなんですか?僕とスレンダー以外は、本の山しかありませんでしたよ……」

「……わかりました、これでまた一つ謎が解けましたーー図書館と研究所に発生した真夜中の幽霊事件、その犯人は勉強家の食霊だったのですね」


クレームブリュレはノートを取り出し、何ページかめくった後、上に調査完了のマークをつけた。


そして隣の男性食霊はノートではなく僕を見つめている。相手の嘘を見抜くように、その目はとても鋭かった。


「では、赤ん坊を食べる邪神とやらは、あなたと関係ないという事でしょうか?」

「言ったはずです……僕とスレンダーは人々の恐怖を食べて生命を維持しています。人を食べる必要はありません。それに……人はまずいですし」


バサッ!


クレームブリュレのノートが地面に落ちると同時に、男性食霊も驚きで目を見開いて、真剣な表情を浮かべた。


「つまり、人を食べたことがあるのですか?」


スレンダーが低い声で笑った。

「貴方の心にはもう答えがあるのでは?」と思いながら、僕は顔を上げて、彼の目を直視しながらこう答えた。


「貴方の想像にお任せしますよ」


Ⅳ.恐怖


「取り調べはこれで終わりですか?」


長い間沈黙が続いた、もう質問はないはずだ。

僕がそう言うと、クレームブリュレは慌てて立ち上がって声を荒げた。


「だっ、ダメです!本当に人を食べたことがあるのなら……その……」

「わかりました。取り調べはこれで終了です、帰って大丈夫ですよ」

「はい?!」


クレームブリュレは自分の相棒に怪訝な目を向ける。相手は説明する気はなかったが、彼女の視線に耐えきれず、仕方なく口を開いた。


「彼が本当に人を食べたという証拠がないでしょう。それに、そのような通報を受けた事もない。今は赤ん坊を食べる邪神の逮捕が最優先事項です。彼に構っている時間はありません」


クレームブリュレはまだ何かを言おうとしているが、結局黙ったまま決定に従った。彼女はノートを拾って、不機嫌な表情で「お疲れ様でした」と「それでは、また」と言いながら、僕を見送った。


見送ってくれるのは結構だが、この木の小屋の半分は僕の縄張りのはずだ、どちらかというと、僕が見送る方だけど……


まあいい、彼らが用事を済ませるまで、一旦ここを離れるか。


「おい、シュプフヌーデルン、いつの間に嘘がうまくなったんだ?」


木の小屋から出てすぐ、黙ったままのスレンダーが話しかけてきた。


その口調は、なんだかすごく懐かしいーー


僕の左手になった後、スレンダーは最初この事実を受け入れられず、死にたいと叫んだ。彼のために霊力で人の頭を作ってみたが、やはり嫌がって使わなかった。


長い間体がないせいか、他人にどう見られるかなんてどうでもよくなっていったのだろう。結局、言葉遣いもどんどん荒くなり、まるで本物の妖怪になったようだ。


こんなまともな質問をしてくるなんて、すごく懐かしい。


「人を食べたことなんてないだろ?それとも、あの時の答えは嘘だったのか?」


僕の返事を待たずに、スレンダーは問い詰めてきた。声もどんどん真剣になっていった。


あの時か……


そうだ、あの時のスレンダーも、よくこうして僕を問い詰めたな……


「返事はどうした?」


木に寄り掛かっていたまだ背が高くて健康的なスレンダーは、あの女たちから見ると、確かにそれなりにカッコいいのだろう。


「女を驚かせて、どうして清々しい顔をしているんだ?そういう悪趣味を持っている奴に見えないが」


彼を一瞥する。


このうるさい人間に二度と会う事はないだろう……

だったら、教えてあげてもいいか。


「僕の御侍も、一人の兵士です」

「えっ?まさか俺と同じ部隊のやつか?そうか、だから毎日ここでうろうろしているのか。でもどうして戦場に出ないんだ?食霊なんて、みんな欲しがる兵器じゃないか!」

「話を最後まで聞いてください……」


するとスレンダーが手を顎に当てて、耳を傾けてくれた。


「僕の御侍は、生き埋めにされた兵士でした」


なんらかの誤解か、兵士の間によくあるつまらない争いかのどちらかだろう。何はともあれ、彼は、僕の御侍は生きているうちに、この林の土に埋められてしまった。彼の仲間たちによって。


だから、僕は酸欠の苦しみと共に生まれた。


彼の希望になるはずだった。食霊は希望の力から生まれるものだから。だが結局、僕は彼の希望を絶やす張本人になってしまった。


彼にとって、僕は絶望だ。


必死に土を掘って、外に出ようとする彼を見て、僕は彼を掘り出すことにした。

まだ御侍の顔を実際に見たこともないしね。


掘り出したら、もうすっかり夜になっていた。


この薄暗い森で、彼の顔を確認することすらできなかった。百歩譲って、確認できても仕方がないのかもしれない。

彼はもう死んでいたから。


好奇心を満たした僕は、彼の死体を再び埋めることにした。


人を埋めることは案外、重労働だった。彼の仲間ーーあの兵士たちは一体何を考えてこんな無意味なことをしたのだろう。


土を穴に入れる作業はとてもつまらなかった。作業の途中で、僕はどうしようもなく腹が減ってきたから……


「じっ、自分の御侍を食べたんじゃないだろうな?!」


珍しく恐怖で身を震わせるスレンダーの姿を見て、僕は楽しそうに笑って首を横に振る。


「そんなはずがないでしょう。食霊は自分の御侍を傷つけることは出来ません。例え御侍が死んでも、このルールは変わらないです」

「じゃあ……」

「食料を探すために、僕は森に入りました。何の収穫もないまま帰ってきた時、御侍は何匹かの堕神に掘り出されて、やつらに食べられている現場を目撃しました」


今思い出しても、やはり怒りを覚える。


「僕はお腹が空いているのに、あいつらは美味しそうに食べています……そして食べながら“人間はまずい”などと言い出して……」


そして、僕はあの堕神たちを食べてやった。食べながら「まずい」と言い、やつらを嘲笑った。


しかし、この騒動はすぐに人間たちを引き寄せた。まだ半分残っている御侍の死体と、何かを食べている血まみれの僕を見て、僕は人食いの妖怪だと勝手に決めつけられてしまったのだ。


「可笑しいでしょう?彼らこそ、人を生き埋めにする怪物だというのに」


スレンダーが真剣な眼差しで僕を見つめる。僕を怪物扱いする人間たちとは違う眼差しだ。すると、僕も少し楽しくなって、話を続けた。


「しかし、そのおかげで僕は気づいたのです。人間の恐怖心がとても美味しいという事を」


「そう、僕は恐怖から生まれたのです」


だから僕には恐怖が必要だ、数えきれない程の恐怖が……


だから……


左手に目を向けて、スレンダーはまだ答えに気付いていないようだ。


彼の反応を見て、僕はため息をつく。


「貴方に嘘なんてついていない。ホルスの目に真実を言わなかったのは……」


「彼らの恐怖も、美味しいからだ」


Ⅴ.シュプフヌーデルン


「バカ!少し嘘がうまいからって、調子に乗るな!俺たちは何日ちゃんとした飯を食ってないと思う?さっさと俺の指示通りにやれ!」

「お前はまったく人を脅かす才能がない!俺の指示通りにやらないと餓死しちまうぞ!聞いてるのか?!」

「自殺したいなら結構だが、俺を巻き込むな!さもないと、生まれ変わったら、俺は絶対にお前を見つけて、他人の左手になる感覚を味わわせてやる!」


「黙れ、スレンダー、うるさくて頭が痛い」


長身で、細身の青年は誰もいない暗い森の中を歩き、ギャーギャーと騒ぐ声が後を絶たない。


彼は眉をひそめ、騒音の発生源である左手を叩く衝動を抑えた。


「ハハッ、お前も頭が痛くなったりするのか?なら、腹ペコの感じがわかるか?俺はもう腹が減って死にそうだよ!この人殺し!」

「正確に言うと、貴方は人ではない」

「人殺し人殺しヒトゴロシヒトゴロシーー」

「……わかった、貴方の言う通りにしよう……」


人気のない森だけど、時々紛れ込むバカな人間がいる。シュプフヌーデルンはため息をつきながら、すぐにスレンダーの計画のターゲットになる人を数人見つけた。


「僕は魂を刈り取る悪魔、今日は貴方の命日ーー」

「魂を刈り取る悪魔だと?俺様は強盗だ!用がないならさっさと行け!俺は急いでるんだ!」


「お嬢さん、貴方の魂を僕に預けてくれませんか?」

「あらごめんなさい、私の魂なら、もう先約がいるわ。でも……私の他の部分に、興味がないかしら?」


「いっぺん、死んでみませんか?」

「何訳のわからないことを言ってんだ?失せろ!」


何度も失敗し、シュプフヌーデルンの左手はゲラゲラ笑い出した。


「アハハハッ!バカ!そんな変なセリフにビビるやつなんかいねぇよ!お前本当にバカだな!ハハハッ!」

「……スレンダー」

「うん?どうした?怒ったのか?器の小さい男だなー」

「これ以上無駄口を叩いたらもうやらない。そのままお腹が減って苦しむがいい」

「バカ、俺が腹ペコなら、お前だって同じだろう?そんなこともわからないのか?」

「……飯を食いたいなら黙れ」

「お前の指図なんか聞かない。俺は……」

「シーッ、誰か来る」


スレンダーを黙らせたいなら、それより良い方法がない。

森はすぐに静まり返って、二「人」はこれからこの死の森に入り込む不幸な人に気を取られていた。


しかし……


「おばあちゃん、道を間違えたんじゃない?ここ真っ暗だよ……」

「うぅ……おかしいわね、ここのはずだけど……太陽が沈んだせいかしら。大変だ、夕食に遅れてしまう……」

「おばあちゃん、怖いよ……ここ、お化けが出てこないかな……」

「大丈夫だよ、ばあちゃんがいるから……さてと、どうやってここから出ようか……」


……


シュプフヌーデルンとスレンダーは目を合わせて、暗黙の了解でも交わしたかのように、共に沈黙を続けた。


すると、道に迷ったおばあちゃんと孫の二人組は、不思議な鳥の鳴き声と食霊に守られて、なんとか無事に森から出ることができた。


「不思議だね、おばあちゃん。あの鳥の鳴き声について歩いてみたら、本当に出てこられるなんて!」

「似たような噂を聞いたことがあるけど、本当だったとはね……でもあれは本当に鳥の鳴き声だったのかね?どの鳥にも似ていないような……」


……


二人の姿が消えた後、ずっと我慢していたスレンダーが不満気に声を上げた。


「どこが似てないというんだ!どこがだ?!俺は鳥の鳴き真似が得意だ!それを聞いて惚れない女などいなかった!」

「単に彼女たちの耳が壊れていたんじゃない?」

「お前……」


「フフッ、道に迷った人々を案内してくれる精霊の鳥の噂って、本当だったのね」


見知らぬ女性の声が二人の会話を遮った。急に黙り込むスレンダーの不安に気づき、シュプフヌーデルンは怪訝そうに、スレンダーの様子を確かめながら、向こうから近寄ってくる女性を眺めた。


「貴方は何者ですか?」

「そうね……ワタクシは“精霊の鳥”を手に入れたい者よ」

「……もっとわかりやすく言ってください」


女性はにっこりと口元を綻ばせて、自信満々にこう答えた。


「ワタクシはハカール。アナタの噂を聞いて、勧誘しに来たわ。我々の仲間になって、もっと多くの恐怖を手に入れてみない?」

「貴方たちは……何者?」

「“貴方たち”ではなく“僕たち”よ。そうね……名前がないと不便かもね」


ハカールシュプフヌーデルンの細くて白い、生気がないように見えるが実は活力あふれる左手を見て、こう言った。


「フフッ、じゃあーー“恐怖の源”という名前はいかがかしら?」




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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
    • Android
    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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