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ラテ・エピソード

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ラテのエピソード

明るくて優しい自称探偵だが、推理が苦手。「人は善良である」と思っているため、相手を信じすぎてしまい、調査任務を遂行できたことはほとんどない。おかしな行動をしばしばとってしまい、そんな時はいつもモカが助けてくれている。モカの助けがなければ彼が命を落とすこともあったかもしれない。ラテの体のほとんどが機械で作られているのにも関わらず、鍛えられるはずのない筋肉を鍛えようとしている。モカの上腕二頭筋を撫でながら、その筋肉が自分のものだったらいいな〜と叶わぬ幻想を抱いている。

Ⅰ.依頼


急いで事件現場の写真を裏返しにし、何気なく額の汗を拭うふりをして、目の前の依頼人に明るい笑顔を見せた。


「ほ、放火事件の犯人探しですよね。依頼内容はわかりました!」


「娘の怪我を撮った写真もあるぞ。確認してなくていいのか?」


「だ、大丈夫です!火傷が一番怖いので……」


慌てて手を振ったが、自分の行動が被害者にとって失礼なのではないかと心配になった。しかし、怒り心頭の依頼人は気づいていないようだ。


「クソ野郎……ただの放火ならまだしも、愛しいアリエルまで傷つけやがって!あいつはまだ意識を失っている。あの可愛い顔も台無しだ……」

「誰に恨みを持ってるのか知らないが、俺のアリエルを傷つけたんだ。殺してやる!」


「あの……すみません、僕は探偵で殺し屋では……」


「ふん、知ってるよ。君たち以外に他にも依頼してるんだ。殺し屋、保安官、傭兵……犯人を捕まえられるなら誰でも構わない」


依頼人は葉巻に火をつけた。その様子はまるで怒りで鼻から煙が出ているようだ。


「だが保安官のやつらはずる賢いからな。賞金をもらうために身代わりを見つけてくるかもしれない……君たちみたいな探偵はそんな力もないだろう。そういう意味では信頼できるかもしれん」


「そうですよ!僕に任せてください!」


「喜ぶのはまだ早い。金だけもらって仕事をしなかったらどうなるかわかるな」


依頼人はソファーに寄りかかった。後ろにいたスーツの男は指示を受けたかのように、札束がいっぱい入った箱を目の前に差し出した。


「保安官が疑わしいやつらを何人か捕まえたみたいだ。代わりに見に行ってくれ。もし真犯人を見つけたら、もう一箱謝礼を増やしてやる。いいか、俺を騙そうとするなよ」


「はい、必ず真犯人を見つけ出します!」


「おい、金を忘れてるぞ」


「いえ、お金は依頼が終わってから頂戴します!いい知らせを待っていてください!」


そう言うと、私は急いで部屋を飛び出した。これは初めて一人で担当する依頼だ。御侍の病気が治るまでに依頼を完了させられれば、御侍の不安も減るはずだ。


被害者が味わった痛みは取り返しがつかないが、真犯人を捕まえれば、誰かが無実の罪を被る必要もない。一石二鳥だ!


興奮しながら警察署の正門を通ったが、牢屋にいた「犯人」を見た時、そう簡単にはいかないと悟った。


「ねえ……名前は?」


「名前……」


「犯人」は首を傾げた。片手を口にいれ、「名前」の意味を真剣に考えているかのようだ。彼は椅子に座っているが、体全体が傾いており、少し変だ。


「こいつはジェットだ。どうやら頭がおかしいようだ。いつも、あの会社の前でゴミを拾ってるから、手も汚い。事件当日も現場にいたんだ」


ジェットが何も答えないため、後ろにいた保安官がイラついた様子で説明した。


「こいつが犯人だ。さっき自分で証言したんだよ」


「でも、彼を見ると、彼の言っていることが本当かどうかはわからない……彼が放火した証拠はあるの?」


「証拠?自分で罪を認めたんだぞ……どうせバカなんだ。こいつが死んだって誰も気にしない。あの金持ちにこいつを渡せば、メリットしかないだろ?」


保安官は嫌な笑みを浮かべ、屠殺される前の羊を見るような目でジェットを見た。


「そんな簡単に結論を出しちゃダメだよ。僕の仕事は、確かな証拠を見つけて彼が本当の犯人だと証明することだ。それまでは……」


私は手を伸ばしてジェットの後ろにある、決してベッドとはいえない木の板を指差した。


「警察はまだ罪が確定していない容疑者に優しいって聞いたけど。彼に布団を持ってきてくれない?これから寒くなるみたいだよ」


保安官は私をしばらく睨んだが、怯まないのを見て、仕方なさそうに布団をとりに行った。


彼が遠ざかっていくのを見て、私は前に座り、キョロキョロと辺りを見渡すジェットと目を合わせようとした。


「ジェット?君はジェットなんだね?ヴォラム会社が火事になったのを見た?」


「火事……?火事……そうだ!火事だ!すごい火だった!」


「事件現場にいたんだね?そこで何をしていたの?」


「私は……アリエル……アリエル……」


「アリエル?アリエルを知ってるんだね!」


「アリエルはいい人……食べ物をくれる……火事が起きた時も私を手伝って……自分は……アリエルは?アリエルはどこに!?」


ジェットは突然興奮し出し、手足を縛られていた鎖がガチャガチャと音を立て、さらに彼をイラつかせた。


アリエルをとても心配している彼を見て、彼が放火をしてアリエルを傷つけたのだとは到底思えなかった……


それに、アリエルが怪我を負った場所は放火現場からかなり離れていた。ジェットがアリエルと一緒にいたのなら、放火は不可能だ。


やっぱり、ジェットは犯人ではない。


「アリエル……アリエル……」


ジェットの目から大粒の涙が溢れ、彼はイラついたように指を噛み、唇が血で赤く染まった。


私は慌てて彼の手を掴んだ。


「安心して、僕が君の無実を証明してここから出してあげるから」


「ここから、出る……」


「うん、ここを出たら一緒にアリエルに会いにいこう。ね?」


「アリエル……アリエル……」


ジェットの興奮が次第におさまった。私の言葉を完全に理解したようには見えないが、自分を傷つけるのをやめたのを見て、私は急いで彼の潔白を証明できる手がかりを探しにその場を離れた。


遠く離れたとき、泣きながら「ありがとう」という声が後ろからぼんやりと聞こえた。


Ⅱ.調査


ジェットの家は狭くて暗く、カビ臭い地下室にあった。


にもかかわらず、部屋がやけに綺麗だ。いや、綺麗すぎるのかもしれない。ベッドと小さなサイドテーブルがあるだけで、他には何もない。


ジェットにとって、あんなに大きな会社に火をつけるなんて至難の業だろう……


そう考え、ジェットが犯人でないことに確信を持った。しかし、捜査の手順はしっかりと踏まなければならない。私はサイドテーブルの前にしゃがみ、引き出しを開けた。


「これは……包装紙?」


引き出しは軽かったため、あまり物は入っていないのだろうと考えたが、予想外なことに食べ物を包んでいた紙がたくさん入っていた。


「これは……アリエルから食べ物をもらった後、包装紙をここにしまっていたのか……」


こんなにも可哀想で、単純で可愛らしい人が、ハメられるなんて……絶対に許さない!


私は拳を握り締め、勢いよく立ち上がり飛び出した。しかし……


ドン!


「うっ……ぼ、僕の大事な頭が……」


外に出ようとした時、ドアが外から押し開かれ、私の頭にぶつかった。


痛みで頭を抱えたまましゃがみこみ、歯を食いしばりながらドアの外にいる人を見た――私と同じくらいの歳か、少し年上くらいだ。私にぶつかったというのに、彼は感情のないロボットのように無表情だ。


「君は……誰?」


「……」


相手は何も答えない。その目はどこか警戒し、危険を感じる。私は慌て立ち上がり、事件の調査に来た探偵であることを伝えた。


「……僕はジェットの友達で、彼に会いに来た」


「え?」


アリエル以外にも友達がいたなんて……思わず嬉しくなった。友達がいれば、そんなに寂しくはないだろう。


「よかった!ちょうどジェットについて知りたかったんだ!彼について教えてくれない?」


「……」


彼の表情を見ると、あまりよくは思ってなさそうだ。私は急に冷や汗をかいた。


「僕はラテ。さっきジェットと知り合ったばかりなんだけど……あんな純粋な人がハメられるなんてあまりにも酷いよ。君が手伝ってくれたら、一刻も早く彼の疑いを晴らせるんだ!」


彼はまだ沈黙し、何かを考えているようだ。私は彼が口を開くのをひたすら待った。


「…………あいつは……悪い人じゃない」


「うん!彼のよく行く場所は?何をしてるの?そうだ、ウォラムが火事になった日、彼がどこにいたか知ってる?」


「…………あいつは……悪い人じゃない」


ドアの外にいる青年は表情を変えず、口調も先ほどと何ら変わらない。まるで音声を繰り返し再生しているみたいだ。


……どうして同じことしか言わないんだろう。まさかジェットみたいに、彼も……


そんなことを考えていると、思わず目の前のイケメンな彼に同情した。彼の肩を叩いて慰めようとしたが、身長差で彼の肘にしか届かなかった。


「ん?なんと……」


ムキムキな!?!?


未だかつてない感触だ。あまりにもたくましく、安心感さえ感じる……


痩せているわりに、こんなにも筋肉があるなんて……どうやって鍛えたんだろう?


「……もう満足?まだ用事があるんだ」


「あ……うん!ごめん……でも、そんなに忙しいのにジェットに会いに来たんだね」


名残惜しそうに手を離すと、眉を少し顰めた彼を見た。ジェットをとても心配しているようだ。


彼を慰めるため、私は笑った。


「安心して。探偵の名にかけて、僕がジェットを助け出すから!」


「……今日知り合ったばかりなんだろう。どうしてそこまでするんだ」


「知り合った期間なんて関係ないよ。ただ……白黒はっきりさせないと。僕は正しいことをしたいんだ!」


「………………そう」


ため息のような彼の返事は、あまりにも小さくて自分の幻覚かと思うくらいだった。彼に続いてその場を離れようとした時、突然あることを思い出した。


「待って!名前は?どこに行ったら君に会えるの?調査に進展があったら伝えたいんだ!」


「……モカだ。……街角のカフェに来たら会える」


「わかった!いい知らせを待ってて!」


モカを見送った後、ジェットの部屋を元の状態に戻して私もその場を離れた。


近所の人に聞いてみると、ジェットは知能に少し問題があるが、いい人で、彼が放火をするはずないと口を揃えて言った。


ジェットが無実である確かな証拠は見つけられていないが、私はさらに自信を持った。


次は、真犯人を見つければいいんだ!


私は警察署から被害者の資料をもらい、彼らの家に行った。


「……息子さんについて、いつもの違う様子はありましたか?仕事やウォラムについて何か言っていませんでしたか?どんなことでもかまいません」


「うーん……どうだったかな……確か、会社の給料はいいけど、従業員の健康や安全を気に掛けないって、それに転職したいって……」


「うーん、主人の会社?最近は資金にちょっと問題があったのかしら?ごめんなさいね。子供の世話で忙しくて、あまり聞いてなかったの……」


「この前、ウォラムでストライキがあったなあ……今回の火事もきっと報いを受けたんだろう。被害はそこまでだが、従業員たちは可哀想だな。でも幸い、結構な賠償金をもらえたみたいでよかったよ……」


「ウォラムか……会長が変わってから一気にダメになったって。ふん、だいぶ前からあの会社はだめだと思っていたよ。最近はあの『ヘブンファクトリー』がいいね!」


「ああ、『ヘブンファクトリー』に転職したかったんだ。面接は不合格だったけど、災難を免れた……」


「はい……おっしゃる通り、『ヘブンファクトリー』は数日前に弊社にいらしております。ですが……本当に探偵さんなのですか?まだかなりお若いみたいですが……」


それを聞いて私は一瞬固まったが、すぐに笑いながら受付のお姉さんと雑談をした。彼女の疑いを晴らし、改装中のウォラムに足を踏み入れた。


ヘブンファクトリー。


なんて傲慢な名前なんだ。それに、ウォラムの従業員もたびたびこの会社を口にしていた……


きっと何か理由があるはず。どうやら、次は「ヘブン」を調べないといけないようだ。


Ⅲ.ヒント


ヘブンファクトリーは街の中心にあり、人目を引くが、豪華な高層ビルに囲まれているため、白い浮き彫りの正門以外はかえって地味なほうだ。


自分を天国に例え、天国を作り出す人が、同時に地獄を作り出すことなんてできるのだろうか?


私は少し違和感を感じたが、先入観に影響されないよう、ヘブンファクトリーも疑わしいリストに加えた。


少しビクビクしながらヘブンファクトリーの正門を開けると、中は外と同じように真っ白で、本物の天国みたいだった……


「初めまして。僕は記者です。かなり前から御社のお名前を耳にしていたので、御社を紹介する記事を書きたいんですが、インタビューを受けてくださる方はいますか?」


受付のお姉さんは私の話を聞くと、ニコニコしながら少しお待ちくださいと電話をかけた。


しばらくして電話がつながった。お姉さんは最初に私が来た目的を説明してからは、ずっと「はい」と頷くだけで、会話の内容はわからない。


退屈になって辺りを見渡すと、見覚えのある姿が目に入った――


モカ!どうしてここに!?」


私の声を聞き、細長い人影が動きを止めた。モカは驚いた顔でこちらを見た。それは、今まで見た中で一番の表情の変化だ。


「君……」


「あのカフェに行ったことないでしょう!昨日は一日中待ったんだよ!」


本当は嘘だ。昨日は夕方に数時間待っただけだが、本当のことを言わせるために大袈裟に言った。


彼はやっぱりソワソワしだし、口調も優しくなった。

「……まさか、こんなにも早く手がかりが見つかるなんて」


「もちろんだよ、僕は優秀なたんて……コホン。そういえばどうしてここにいるの?まさかここで働いてるの?」


モカが口を開き、答える前に、後ろにいたお姉さんが突然私を呼んだ。


「すみません、今日は仕事が忙しくて。それに予約をされていないので、インタビューのことは……」


「そうですか、わかりました。予約をせずに来てしまいすみません……じゃあモカ、せっかく会ったんだからコーヒーでも飲みに行こうよ!」


モカは嫌そうだったが、しつこい私の攻撃に、ようやく言うことを聞いてカフェにやってきた。


「アイスラテ1つ!モカ……」


「聞きたいことがあるなら、早く聞いてくれ。まだ用事があるんだ」


「なんでそんなに用があるんだよ……わかったよ。実は、ヘブンファクトリーの調査を依頼されたんだ。でも、引き受ける前にまずは背後の調査をしないと」


道中に考えた言い訳を冷静に言い、彼に見破られないようにモカをじっと見た。


「僕は悪い人の依頼は引き受けない。だから君がパラダイスメイカーズの従業員だろうと、アルバイトだろうと、何か知っている情報があれば教えて欲しいんだ!」


「……俺がなんでお前を手伝うんだ」


「え?だって……君はジェットの友達、つまり私の友達だ!君は優しいし、友達が互いに助け合うのは普通でしょ!」


「友達……」


彼はそう呟くと、何かと戦っているように眉を顰めた。


どうしてか、彼の真剣な表情が少し揺らいだような気がした。そこで、探るように口を開いた。


「ヘブンファクトリーが立て続けに会社をいくつも買収したって聞いたんだ。家具の小売業者やトイファクトリー、それに……ウォラム鉱業も。そんなの、すっごい資金がないとできないよね!」


「……お金がなくても、方法が正しければできる」


「!それは……どうやって?」


「……」


「あっ、それは企業秘密だよね。ごめんごめん……でもヘブンファクトリーはどうして占いみいに未来が見えるの?会社の株価が下がると、すぐに買収契約書を送るなんて!」


「ヘブンファクトリーはずっとそうだ」


モカはそういうと腕時計を確認した。少しイライラしているようだ。


「じゃあ……」


「ウォラム放火事件の容疑者がな人も捕まったみたいだけど、誰一人ヘブンファクトリーとは関係がない」


私を見上げる冷たい目は燃えているようだ。


「だから、ヘブンファクトリーは調査しないほうがいい」


忠告や警告のような言葉を残し、モカは立ち上がってカフェを去った。


私は座ったまま、思わず拳を握りしめた……


よかった!ヘブンファクトリーは絶対に何かある!


事件にようやく進展があった。このことを早く御侍に伝えなければ!


ちょうど時間も遅かったため、私はワクワクしながら家に走って帰った。ドアを開けると、ベッドで寝ているはずの御侍がソファーに座っていた。


「御侍……!あれ?お客さん?」


「ゴホゴホ……ラテ、こちらは……」


体調が悪く、咳き込む御侍を見て、向かいに座っていたピンクの髪をした少年が立ち上がり、私のほうを向いた。


「こんにちは、ラテさん。僕はヴィダルアイスワインです。お二人に調査を依頼しにきました」


彼は笑いながら私に手を差し出した。柔らかいオーラを前に、思わず手を握り返した。


「ジェットを知っていますか?」


「え?」


驚く私の顔を見て、ヴィダルはさらに優しそうに笑った。上着のポケットから何かを取り出すと、私の前に置いた。


「数日前、会社の監視カメラに、彼が盗みを働いている様子が映っていたんです。なので、お二人に盗まれたものがどこにあるのかを調べていただきたい」


Ⅳ.探偵


私はびっくりしてヴィダルが持っている数枚の写真を見た。時間は放火事件の前日、場所は倉庫だ。盗んだものは、どうやらガソリン……


写真に写っているのは確かにジェットそっくりだ。しかし……


「これはジェットじゃないよ。ジェットは片足が不自由で、座っている時も体が曲がっているんだ。写真みたいに真っ直ぐ立てないよ」


「え?そうなんですか?ラテさんはジェットを知っているだけでなく、よく理解しているんですね」


ヴィダルは驚くことなく、むしろ笑みを深めた。

私は思わず警戒した。


「僕はジェットを知らないもので誤解してしまいました。ごめんなさい……ではラテさん、本当の窃盗犯を見つけてくれませんか?」


「……そのガソリンはそんなに重要なの?」


「ふふ、重要なのはガソリンではなく、我が社が警備を怠っていたことです……とにかく、ラテさんが真犯人を見つけてくれれば、十分な報酬をお渡しします」


「本当に物が盗まれたのなら、犯人を見つけるのに一円もいらない。じゃないと……いくら出されても受け取らない」


御侍も初めて私のこんな口調を聞いて、少し驚いた様子でこちらを見た。ヴィダルは笑顔のまま、感情を読み取れない。


「この件をこんなにも責任感のあるラテ先生お任せできて、安心です。では何か進展があればご連絡ください」


ヴィダルが去り、足音が聞こえなくなってから、私は気が抜けたようにソファーに座り込んだ。


御侍はこちらへやってくると、私の方に手を置いた。私は思わず自信がなくなった。


「ごめんなさい。もしかしたら、大きな損失になるかもしれない」


「ぷっ……君はいつも間違いを認めなくていい時だけすぐに謝るね?」


「え?」


よくわからず、御侍を見上げると、彼はまだ少し弱っていたが、その笑顔を見るとなんだか安心した。


「さっきはかっこよかったよ。優秀な探偵のあるべき姿だ。これからも変わらずそうやって生きていくんだよ」


「もちろん!変わりっこないよ!」


それを聞いた御侍は笑いながら隣に座り、放火事件の進捗を尋ねてきた。


「ヘブンファクトリーっていう会社が一番疑わしいんだ。まだ、確かな証拠は見つけられていないけど……」


「ヘブンファクトリー?」


「うん、どうしたの?」


御侍は眉を顰めて一枚の名刺を差し出した。「ヴィダルアイスワインはヘブンファクトリーの創始者だ」


「なんだって!?」


私は驚いて名刺を受け取ると、ヘブンファクトリーとはっきり書かれている……


「ヘブンファクトリーの容疑はさらに深まったね」


それからは、ヘブンファクトリーを徹底的に調べた。その結果、ヴィダルの秘書がかつてウォラムで働いていたこと、ジェット以外の捕まった容疑者がみんな巨額のお金を受け取っていたことがわかった。


お金の流れも巡り巡って、最終的にヘブンファクトリーに流れている。


そして、ヘブンファクトリーは確かにガソリンが一缶少ない。しかし、ジェットとは何も関係がなく、そのガソリンはもともとウォラムに返すべき物だった。


ウォラムのガソリンでウォラムを燃やすなんて……ずいぶん腹黒い奴らだ。


「そろそろかな……これだけの証拠があれば、ヘブンファクトリーの犯罪を証明できるよ!」


数日間休むことなく働き、ついに分厚い資料の山を整理できた。御侍は嬉しそうに、警察署に向かう私を見送った。


ラテ。変わらずそのままでいるんだよ」


家を出る前、御侍は突然そう言った。私は深く考えず、振り返って親指を出した。


「もちろん!これからも正義を貫く勇敢な探偵でいるよ!」


御侍と別れを告げ、警察署にやってきた。容疑者たちが牢屋に入れられているのを確認してから、保安官に真犯人が他にいることを告げた。


チリリリン――


警察署の電話が突然鳴り、私の言葉を遮った。


保安官は電話に出ると、穏やかだった口調が突然驚きに変わった。


「また火事だって?どこで?」


続けて、保安官は電話の相手が言った住所を復唱した。


その住所は誰よりも知っている。


私と御侍の家だ。


私は狂ったように警察署を飛び出し、胸の動悸が激しくなっても止まることなく走り続けた。


大丈夫。大丈夫。大丈夫。


私の家が2階だ。御侍は逃げられるはず。それに火は大したことないかもしれない。


大丈夫。大丈夫。大丈夫。


私は今と未来の全てをかけ、会ったこともない神に祈りを捧げた。


御侍はきっと大丈夫。


しかし、私が目にしたのは廃墟だった。


一台のタンカー。一枚の白い布。一人の死体。


私は必死に息をしているのに、酸素がこの世界から消えていくような気がした。


つい先ほど手を振って別れを告げた御侍と、まさか……永遠の別れになるなんて。


「御侍……」


私は小さく呟いた。白い布は動かない。「お悔やみ申し上げます」と聞こえた。


誰かがため息をついた。燃えた紙が舞う。「パラダイス」と書かれている。


ヘブンファクトリー……


間違いない。これはただの火災ではない……


ちくしょう……もし、もっと早く気づいていれば……


私は拳を握った。口の中は火の味がし、しょっぱく湿っている。


御侍……


泣き叫ぶ自分の声が聞こえる。


その声は胸が張り裂けそうなほど悲しく、何が起ころうとどんな壁があろうと……


必ず正義を貫き、勇敢な探偵でいることを誓った。


Ⅴ.ラテ


探偵には落胆したり、悲しんでる時間もない。


彼は自分を待っている人がいることを知っている。少しでも遅れれば、御侍と同じ結末を迎えることになるかもしれない。


ラテは御侍を検死に送り届けると、急いで警察署に戻った。


「僕が持ってきた資料は?」


彼は何もない机を見て、固まった。


保安官はイラついた様子で彼を一瞥すると、得意げにいった。


「無駄働きだな。事件はもう解決した」


「解決した?どうして!まだ……」


「ジェットの家から事件に使われた道具とウォラムの裏門の鍵が見つかった。あと巨額の現金がな」


保安官は指の間についた葉巻の灰を弾き、煙の中で微笑んだ。


「つまり、ジェットはウォラムで盗みを働いた。それで火をつけて証拠を消そうとしたんだ。犯人はあいつだ。そう言っただろ」


「そんなはずない!ジェットの家に行ったけど、そんなものどこにもなかった!ジェットはここ数日ずっとここに閉じ込められていた。彼がそんなものを置けるはずない!」


「チッ……このまま事件が終わるのがみんなにとって一番いいだろ、アホ!」


「アホはそっちだ!こんなのでっち上げだ!保安官として、どうして事実を曲げることができるんだ!」


ラテは怒りで目が赤くなった。もう真相を見つけたというのに。必死に調べ、そのせいで自分の御侍まで失った……


しかし彼の話を聞く者はいない。真実が目の前にあるのに、彼らはでたらめな報告書を持ってそれが真実だと誇らしげに言う。


全ては金のためなら、罪のない命も厭わない。


馬鹿馬鹿しい……あまりにも馬鹿馬鹿しい……


ラテは全身が震え、全ての力を振り絞り、涙を堪えた。


アリエルの父が黙っていないとか、自分も上訴するとか、金以前に保安官の職ですら失うぞと、言いたいことは他にもたくさんあった。


だから馬鹿なことをするな。良心は金では買えない。一度無くしたら二度と戻ってこないんだ。


しかし、彼が再び口を開く前に、警報が突然鳴った。


「火事だ!!」


火事……また火事だ……


ラテの頭は一瞬で爆発し、呼吸と心臓が数秒止まった。彼はふらつきながら保安官の後を追って火事の現場――牢屋に向かった。


「な、何見てるんだよ!早く火を消して、人を助けないと!」


ラテは大声で叫んだが、保安官は静かに見ているだけだ。恐怖で動けないのではなく、はなから動くつもりがない。


「死人に口なし……」

「放火で彼の娘を傷つけた犯人は、火事で死んだ。あの大金持ちも満足するだろう……」


なんだ、そういうことか。


ラテは信じられなかったが、信じるしかなかった。炎ですら燃えないほどの汚い光景が目の前で起きている。


いや……


「……僕がここから出してあげる」


「な、何する気だ!?正気か!!」


保安官を無視し、火傷が一番苦手で、火傷の写真を見ることすらできなかったラテが迷うことなく火に突っ込んで行った。


炎で肌が焼け、煙が喉や肺に入る痛みに耐えながら、意識を失っているジェットを探し出し、残り少ない霊力で腕の中で彼を守った。


燃え盛る火の中、今にも崩れ落ちそうな執念を頼りに、彼はなんとかジェットを連れ出し、そのまま地面に倒れ込んだ……






ヘブンファクトリー。


「なんてバカな子なんだ……」


ヴィダルアイスワインは手術台に横たわり、炭のように真っ黒に焼けこげたラテを見て呟いた。


「自分の命を惜しまずジェットを助けたのに……結局彼は放火事件の犯人にされ、再びあの牢屋に戻った……」


彼はモカを見た。その目は今にも落ちてきそうな悲しみで溢れている。


「彼は本当にバカだね。そうでしょう?」


「……そうだな」


「でも彼の強い意志と勇気を『正しい』ことに使えれば、多くの可能性がある……フジッリさん、彼の記憶を消して、ロボットに改造してください」


さらっと言うヴィダルアイスワインに、モカはその場で固まった。


「ん?どうした?」


「ロボットに改造って……」


「もちろん、ヘブンファクトリーの命令に忠実に従うロボットだよ」


「……命令に従うのに、記憶を消す必要があるのか」


「うん……彼のことで僕の判断に口を出したのはこれで3回目だね。君は本当に彼のことが好きみたいだね、モカ


「……」


モカは下を向いたまま何も言わず、過ちを認めるつもりはないようだ。


ヴィダルはそれを見て顔を曇らせたが、最後は軽く笑った。


「ふふ、でも僕はいつだって君の要求に応えてきたよ。火だって彼が離れてからつけたし、ジェットも死刑を免れた。一生牢屋にいるなんて、死刑とあまり変わらないけどね……」


ヴィダルは無邪気に明るく微笑んだ。


「でも今回の決定は彼自身のためよ。君も見たでしょう。彼の体はもう元には戻れない。それに、全てを忘れることが、彼にとっても一番安全だ。そうでしょう?」


モカはしばらく黙っていたが、頷くしかなかった。


「心配しないで。彼は全てを忘れる。君が証拠をジェットの家に置いたことも、火をつけて御侍を殺したことも全て忘れるんだ……君たちは相棒、そして友達になれるよ」


ヴィダルは満足そうにモカの肩を叩いた。


「これは僕からのご褒美だよ」


「………………ありがとう」


「どういたしまして。じゃあ僕たちは出ようか。ここにいたらフジッリの邪魔になっちゃうからね」


ヴィダルはそう言うと外に向かって歩いて行った。モカはもう一度ラテを見ると、唇を少し動かし、何か言いたいようだ……


改造はモカが思っているよりも早く終わった。


フジッリが実験室の扉を開けた時、彼はまだ中に入る心の準備がてきていなかった。


痺れを切らしたフジッリの声を聞いて、彼はようやく拳を握りしめて中に入った。


手術台にいるラテは初めて会った時となんら変わらない。白い肌は生まれたてのようだったが、モカはそこに何が起きたのかを知っている……


ラテが鉄で作られた目をゆっくりと開け、ガラス玉のような瞳がゆっくりと自分のほうを見た。


「……だい……じょう……ぶ?」


「え……」


ラテは自分が何を言っているのかまだわからないようで、ぎこちないように目を動かし、こわばった笑みを見せた。


「僕も、わからないんだ。どうして……なんていうか……君が申し訳なさそうな顔をしていたから……」


彼は次第に冷たい体に慣れてきたようで、動きと言葉も始めよりスムーズになった。まるで、全てなかったかのようだ。


「こんにちは、僕はラテ。友達になってくれる?」


モカは喉が詰まりそうになりながらも、再び温かい光が入った彼の目を見て、小動物のように顔を赤らめて微笑んだ。


彼は何も言えなかった。


「え?友達になってくれないの?」


ラテの声が少しがっかりしている。モカは体が無意識に揺れ、無理やり口を開いた。


「構わん。これから俺たちが……友達だ」



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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
    • Android
    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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