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【黒ウィズ】リフィル編(GP2019)Story

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2019/09/12



目次


Story1 汽車に乗って

Story2 魔道士として

Story3 名乗るべき名は






story1 汽車に乗って



 ポーッ、という音が、駅に満ちるざわめきを切り裂いて響く。

文明の音だと、リフィルは思った。

魔法になど頼らなくても、こんな巨大な鉄の塊を動かせるのだ――。そう声高に主張するような音。


(負けているわね。魔法は)

 世界最後の魔道士たる自分が、こうして蒸気機関車に頼ろうとしていることが、何よりの証だ。

ほらリフィルぅ、早く乗ろうよ~。

はしゃがないの。行きも乗って来たでしょ。

行きは三等車だったじゃん。今度は一等だよ!一等!個室イェーイ!

 リピュアは、踊りながら列車へ駆けていく。駅にひしめく紳士淑女が、リピュアの羽を見て、目を丸くしていた。

(列車を発明した人も、まさか妖精が乗ることになるとは思ってなかったでしょうね)

 そんなことを考えながら、リフィルも乗るべき車両へ足を進めた。


 ***


 一等車両の指定個室に入り、しばらく待つと、汽笛が鳴って、汽車が動き出した。

動いた動いた!いー眺め!

 リピュアはさっそく個室の窓にかじりつき、筆で刷かれたように流れていく景色を思うさま堪能する。

リフィルは、やわらかな座席に身を預け、窓の外を見るでも、本を取り出すでもなく、じっと物思いにふけった。

思い出すのは、数日前――生家、アストルムの屋敷に帰ったときの情景だった。


 ***


zお帰り、リフィル。

ただいま、父さん。

 出迎えてくれた父の佇まいは、昔の印象そのままだった。

柔和な微笑み。穏やかな物腰。そして、世界のすぺてに価値を見出そうとする、幼子のように純朴な瞳。

3年前、リフィルがあの都市に行く直前、最後に会った時と、まるで変わっていない。

zそちらが、手紙に書いていたリピュアちゃんかな?

うん!初めまして、魔法の妖精リピュア・アラトだよ!

zそうか。初めまして。僕はジウス。リフィルの父だ。娘がいつもお世話になっているね。

リフィルのパパ!へ~、そうなんだ。じゃあ、前に人形使ってたの?

zいや、それは母親の方だね。

僕は絵本で生計を立ててるんだ。君みたいな妖精を描いたりしてね。だから本物に出会えて、とても嬉しいよ。

さ、奥に入りなさい。まずは長旅の疲れを癒すことからだ。

はーい!


 広間に入ると、使用人がやってきて、紅茶とお茶菓子を用意してくれた。

wお久しゅうございます、お嬢さま。まあまあ、大きくなられて。

そう?

wええ。ますます、奥さまに似てこられましたね。

似てきたのは顔だけだといいけど。

 使用人は、くすくす笑い、後ろに控えた。

紅茶のカップを手に取ると、同じソファに座ったリピュアが、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

お嬢さま。

何よ。

おじょうさま……。

何よ。

 ふたりのやり取りを見て、ジウスが可笑しそうに笑った。

z気の置けない友は、いいものだ。磨き抜かれた鏡のように、自分がどう見えるか教えてくれる。

 リフィルは鼻を鳴らして、紅茶を飲んだ。つれなくされても、ジウスはにこにことしている。

zそうそう、今夜はお祝いをしないとね。お母さんもいたらよかったんだが。

大げさよ。ちょっと帰ってきたくらいで。

z年頃の娘の3年ぶりの里帰りは、〝ちょっと帰ってきたくらい〟じゃないよ。それに、他にも祝うべきことがあるだろ?

――おめでとう、リフィル。おまえはおまえの魔法をつかんだ。誰にもできなかったことを成し遂げたんだ。

 リフィルは、困ったように父から視線を外した。

事情は手紙で伝えていたが、面と向かって褒められると、面映ゆくて落ち着かない。

z本当に喜ばしいことだ。門弟の方々も、あの年齢でなければ、弟子入りを志願されていただろうなぁ。

 人が魔力を失い、魔法技術が廃れて以来、魔道の名門たるアストルム一門の門弟は、当然ながら激減の一途を辿った。

今となっては、高齢の門弟が数人、魔道書の編纂や魔匠具の製作という形で関わっているに過ぎない。

z弟子と言えば、あの都市で、弟子を取っているんだろう?一緒に連れてくればよかったのに。

いずれはね。今はまだ、と思ったの。私が勝手に取った弟子だし。

z〝リフィル流〟の始祖が決めたことなら、誰も文句を言う筋合いはないさ。

 リフィルは答えず、紅茶を飲み下した。じんわりとした熱さが、喉を通って、胸の奥へと落ちていく。

その熱の後押しを受けて、問うた。

おばあさまは、どうお思いかしら。

 ジウスはスッと表情を消し、首を横に振った。

zそれを知る資格は、僕にはないよ。推し量る資格さえね。

それが許されるとしたら、きっと、おまえだけだろうね――リフィル。


 ***


 個室の扉が、突然、ガラッと聞かれた。

――?だーれ?

zおっと、動かねえでもらえるかい。こいつが中身をゲロっちまう。

 連発銃を手に、下卑た笑いを響かせながら現れたのは、明らかに鉄道会社の関係者とは思われない、いかにも荒くれ然とした男だった。

彼は、きょろきょろと個室の中を見回し、意外そうな顔をする。

zおふたりさん?

まあね。

zそいつは優雅で呑気で不用心!俺らにとっちゃあ大助かりだがね!

ヘヘヘ、そんじゃあまずは財布を――

繋げ、〈秘儀糸〉。

zえ?

下天ボンバー。

zぬぎゃ!

 男が銃を構える前に、リフィルは省略詠唱で雷を飛ばし、一撃で失神させた。

リピュアが、不思議そうな顔で首をかしげる。

この人、悪い人だったの?

列車強盗よ。金や荷物を奪ったり、あるいは乗客をさらって身代金を要求したりするのが目当てのね。

とはいえ……そんなのが横行するようじゃ、誰も鉄道なんて使いたがらない。だから、鉄道会社は警備に力を入れてるんだけど。

てことは~、この強盗さん、けっこーすごい人だったってこと?

こいつがというより、こいつのグループがね。警備員を買収でもしたんでしょ。

 言いながら、リフィルは個室から側廊下に出た。

リフィルたちの個室は、ちょうど真ん中のあたりにある。

廊下には、銃を持った男たちが、ちらほらと立っていた。同時に、あちこちの個室から悲鳴や怒号が聞こえ始める。

リピュア、右側は任せた。

ウルトラがってん!

 リフィルは側廊下の左側を向き、呪文を唱えた。

地雷ストライク!!

 細い雷条が、一直線に側廊下を駆け抜ける。廊下に立っていた男たちは、次々に直撃を受け、悲鳴を上げて昏倒した。

zなんだ!?なんの音だ!?

 各個室から、男たちが飛び出してくる。

リフィルは、これも落ち着いて魔法で打ち倒した。

静かになったところで後ろを振り向くと、一等車両の右側の廊下は、とっくにシチューまみれになっていた。

終わったよ~。

……いいけど。ちゃんと後片づけしなさい。

は~い。

 軽く息を吐いてから、リフィルは別の車両へ向かった。



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story2 魔道士として



 祖母の寝室に、リフィルは静かに足を踏み入れた。

焚きしめた香のにおいが、鼻をつく。ラベンダー。それは病魔を退けるためのものか、消せないにおいをごまかすためのものか。


――おばあさま。

 大きな寝台に横たわる祖母へと、リフィルは静かに声をかけた。

リフィルです。ただいま戻りました。

 祖母は、ゆっくりと身を起こした。寝台の脇に控えていた女中が、背中に手を添える。

上半身だけを起こしきり、祖母は微笑んだ。

z久しぶりね、リフィル。活躍は聞いているわ。

 リフィルは無言で頭を下げてから、祖母の顔を見返した。

母が老いれば、こうなるのだろう、という顔だ。それは、自分の未来を示唆する顔でもある。

顔色は悪い。身に巣食う病魔に色を喰われたように。まつ毛が侈げに揺れているのが印象的だった。

こんなに小さかったろうか、とリフィルは思った。いつもピシリと背筋を伸ばし、粛然としている。それが、リフィルの中の祖母の印象だった。

z骨骸の人形は砕け、あなたは真なる魔法を会得した――

そう聞いたときは、信じられなかったわ。

お見せします。

 リフィルは気息を整え、指先を動かした。

繋げ――〈秘儀糸〉。

 指先から〈秘儀糸〉を伸ばし、宙にいくつもの魔法陣を編み上げる。

zおお……。

 祖母が目を見張った。

かつて自身も〝代替物(リフィル)〟だった彼女には、どの魔法陣も見慣れたものであり、今さら驚くような代物ではないはずだ。

ただ――それを作れるのは人形の方だった。魔法のコツを知らぬ者は、どれだけ理論を学習しても、魔法陣ひとつ形成できないのだ。

リフィルは魔法陣を解き、〈秘儀糸〉を消した。

祖母は、じゅうぶん証明になったと言うようにうなずき、それから、深く深く息を吐いた。

z人が再び、自らの力で魔法を使う。そんな日が来るとは思わなかったわ――

 そして彼女は、ひたとリフィルに視線を合わせた。

強い眼だった。病に蝕まれてもなお。

彼女もかつては〝代替物(リフィル)〟であったことを、瞭然と思い出させる眼だった。

zリフィル。

 彼女は言った。その眼のままで。

zその魔法を、捨てなさい。


 ***


囚われよ、不朽の雀羅に囚われよ!

 三等車両に乗り込むなり、リフィルは魔法を飛ばした。

乗客に銃を突きつけていた男の周囲に魔法陣が浮かび、そこから光の糸が伸びて、男を絡め取る。

zひぃいい!な、なんだこりゃあ!

 三等車両の廊下にいる敵は、あとふたり。いずれも状況を理解できず、ぎょっとしている。

銃を捨てなさい。

 リフィルはさらなる魔法陣を編みながら、残るふたりに冷厳と告げた。

さもないと、魔法を叩き込むわよ。

zま――魔法?

zふざけんな、インチキ娘が!

 ふたりは、銃をリフィルに向けた。引き金が引かれ、弾丸が飛び出す。

銃弾はリフィルの顔面めがけて飛来し――命中する直前、宙でピタリと止まった。

馳せ来れ、咆嘩遥けき地雷!

 瞳目する男たちへ、威力を抑えた雷撃を放つ。

蛇のごとくのたくる雷撃は、リフィルの意志に従って宙を滑り、男たちを順にかすめて、打ち倒した。

お。勝っちゃった?

 リフィルの後ろから、ひょこっとリピュアが顔を出した。

 銃弾を止めたのはリピュアの魔法だが、そんなことは誰にもわかるまい。

 w魔法……。

 w魔法だ……。

 乗客たちが茫然とざわめくなか、リフィルは無言で通路を進んでいく。

ふと、右から視線を感じた。

目を向けると、小さな女の子が、まじまじとこちらを見つめていた。

リフィルは立ち止まり、女の子を見つめ返した。すると、女の子は、ちょっと首をかしげてみせた。

w今の、魔法?

そうよ。

 リフィルは小さく笑って、彼女の頭を軽く撫でた。

待ってなさい。全員、薙ぎ倒してくるから。


 ***


z――かつて、多くの人が魔法を求めた。

魔法は、人の持つ最大最高の技であり、魔道士は、畏怖と憧憬の対象だった。

その力を利用しようと企む者は多く……ゆえに魔道士たちは互いに身を寄せ合い、自分たちの意志と尊厳を守ろうと努めた。

我がアストルムー門も、そうして生まれ、繁栄し――人が魔力を失ってからは、衰退の一途を辿った。

今のアストルム一門に、魔道士を守る力はない。魔法という力を欲する愚か者たちから、あなたを守るすべがないのよ。

だから――魔法を捨てなさい。その力が、数多の苦難を呼び込む前に。あなた自身の幸せを守るために。

 言ってから、祖母は、ごぼごぼと咳き込んだ。

女中が慌てて、彼女の背中をさすり、落ち着いたところで水を差し出す。

祖母が水を飲んで、一息つくのを待ってから、リフィルはようやく、口を開いた。

ありがとう、おばあさま。でも、大丈夫よ。

 祖母が、見つめてくる。

その強い眼を、リフィルは同じくらいの強さで確(しか)と見返した。

時代は、大きく変わったわ。今や魔法は、最大最高の技とは呼べない。

蒸気機関車だとか、電信だとか……魔力ひとつ使わずに、魔法以上のことをやってのける技術が、たくさん生み出されてる。

暴力という点においてもそう。『人を殺すだけなら、銃の方が楽だし手っ取り早い』――これは母の言葉だけど。

zまったく、あの子はもう……。

 あきれたように嘆息する祖母に、リフィルは軽く肩をすくめてみせた。

魔法は、とっくに時代遅れの産物なのよ。そもそも魔力を調達するにも難儀するしね。

魔法の力を手に入れようと画策するくらいなら、ガスや電気を使う新たな技術の開発に勤む方がはるかに得なはずよ。

だから、心配はいらないわ。もちろん、だからといって油断してるわけじゃないけど。

zずいぶんボロクソに言うわねえ。魔法のこと。

現実的と言って。

zでも、リフィル。それなら、魔道士であることに拘泥(こうでい)する理由もないでしょう?

いいのよ。〝代替物(リフィル)〟としての役目なんか、放り捨てて生きたって。

文句を言うような人はもう生きちゃいないし、それに真の魔法使いとなったあなたが、そんな因習に従ういわれもない。

 祖母は、ひとつ、大きなため息を吐いた。

z……もっと早く、そう言えれば良かった。そうしたら、あなたや、あなたの母親に、〝代替物(リフィル)〟たれと強いることもなかったのに。

ごめんなさいね。私は〝魔法を捨てる、という決断を背負えるほど、強くはなかった。

 悔やむように頭を振る祖母の姿を見て、リフィルは、かつて父から聞いた話を思い出した。


『おまえのおぱあさまは、〝代替物(リフィル)〟として、それはそれは華々しく活躍し、いくつもの伝説を残された。

ある国では邪悪な殺人鬼を討ち、ある国では、横暴な貴族に虐げられた農民たちを救い、ある国では正統な王子の王位継承を助けた。

〈雷の使徒〉〈雷鳴の化身〉〈緋閃の魔女〉。世界各地で魔法を振るい、悪と戦った彼女は、様々な異名で畏れられ、敬われた。

実は、僕は子供の頃から、おばあさまにあこがれていてね……お母さんと出会ったのも、実は〝代替物(リフィル)〟の取材がきっかけだったんだ』

 〈メアレス〉として戦った自分とも、賞金稼ぎとして戦った母とも違う形で、魔法の存在を世界に示した祖母。

彼女は魔法を使い、多くの人を救ってきた。だからこそ、魔法への思いは人一倍強く、それを捨て去ることへの恐れもあっただろう。

……別に、気にしてないわ。

悩んでいたこともあったけど、今は違う。家のためとか、魔道のためとかじゃない。私自身がやりたくて、私の魔法を使ってる。

 異界から来た、本物の魔法使い。アストルムの悲願から生まれた〈ロストメア〉。助けられなかった少女と、その子の〈夢〉。

あの都市でしかありえなかった出会い。あの都市でしか起こりえなかった戦い。

そのすべてを経た今、はっきりと言える。

これで良かった。

 迷い、惑い、時に涙を流しながらも。

この道を歩いてきて良かった。この答えに辿り着けて良かった。……自分の魔法を、見つけられて良かった。

 リフィルはただ、莞爾(かんじ)として微笑んだ。

今は、そう思ってる。心からね。

 祖母は、何も言わず、じっとリフィルを見つめた。

そして――ゆるやかに息を吐き、言った。

z……いつか、そんな風に笑えたらと思ったわ。ひとりの魔道士として、なんのしがらみもなく、胸を張って自分の魔法を誇れたら、って。

 皺深い目元にかすかな光を灯し、祖母は笑った。

あなたは、私の夢見た姿そのものよ――リフィル。

きっとあなたは、多くの人に、夢を与える。あなたの信じる、あなたの魔法で。

 それを聞いて、リフィルの脳裏に、ひとひらの言葉が瞬いた。


『夢を持たないあなたも、誰かの夢にはなれるんだよ――リフィル』


 胸に沁みる言葉を抱きしめるようにして。

リフィルはうなずき、感じたままを口にした。

あなたも――

あなたも、きっと。どこかの誰かの夢だった。

 祖母が、わずかに目を見開いた。

その眼から、つう、と涙があふれ、頬を濡らした。凍れるすべてが融け出すように。

リフィルは知っていた。それは、〝代替物(リフィル)〟たる者に何より響く、魔法の言葉であることを。

その言葉だけで、救われる思いがあることを。




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story3 名乗るべき名は



z帰りは一等車両を使いなさい。お金なら出すから。

一等!リフィル、一等だって!

zどうせ、行きはケチって二等か三等で来たんだろう。

最近は三等車両でも座席に座れるのよ。そうでなかったら考えたけど。

z旅は思い出になる。そして、いい思い出を作るのにお金を惜しむことはない。

ロマンチストね。

z絵本作家だからね。

なんで母さんと結婚したの?

zそこで『なんで』と聞いてくるうちは、理由を話しても理解できないだろうね。

 瓢々たる答えに、リフィルは無言で唇を尖らせた。

zそれより、良かったよ。その様子だと、おばあさまとの話し合いはうまくいったようだね。

……その口ぶり。おばあさまがどういうことを言うか、想像がついてたんじゃないの?

zまあね。元はファンだし、こうして長くお傍にいるわけだから。

だったら、アドバイスくらいくれても良かったのに。

zどのみち、いらなかったろ?

それに、自分で選んだ道のことだ。自分の言葉で話してこそ、相手の心に伝わるってものだよ。

含蓄(がんちく)あるぅー。

口がうまいだけよ。

z本当にうまいのは、口ではなく、筆遣いの方なんだけどねえ。

そうだ、リピュアちゃん。ぜひモデルをやってもらえないかな?本物の妖精を題材に絵本を描ける機会なんて、逃す手はないからね。

お!さすが、お目が高いですな~。もちろん、いくらでもやったげちゃうよ~!

あ、そういえば、パパさんてどんな感じの絵本描いてるの?

z最近はデフォルメに凝ってるんだ。いわゆる、ちびキャラってやつだね。

えっ。

zえっ、て。なんだい、その嫌そうな顔。

いや……別に……。


 ***


 リフィルは貨物車両の扉を魔法で吹き飛ばすと、すかさず中に入り込んで物陰に隠れた。

他の連中は、全員取り押さえた。観念なさい、列車強盗!

 返答は、銃声だった。リフィルが隠れた荷物の山に弾丸が突き刺さる。

zなんなんだ――なんなんだ、てめえは!いったい何をしやがった?なんでこんなことになったんだ!

計画は完璧だったんだ!誰も防げやしない!なのに、なんで!

完璧?本当に?

zそうだ!いいか、俺は準備に半年かけたんだ。貨物車の警備員を買収して、荷物にまぎれて中に入った!これだって相当苦労してる!

そんで汽車が出ちまえば、あとはこっちのもんだ。走ってる汽車には助けなんざ来ねえからな。中から簡単に制圧して金品を奪えるって寸法だ!

ほれみろ、やっぱり完璧だ!なのになんで、外の連中はやられてんだ?クソッ、わけがわからねえ!

確かに、有効な作戦ね。でもひとつだけ、大きな穴がある。

zなんだと!?いったい何がだ!?

乗客に魔法使いがいるかもしれない。その可能性を考慮していなかったのが、おまえの敗因よ。

zは――?ば、馬鹿にしてんのか!?何が魔法だ、そんなもん――

あるわけがないって?それは妙ね。賞金首の間じゃ有名だって聞いたけど。

zまさか――てめえ!賞金稼ぎの魔法使い――〝人型地獄、のリフィルかぁ!?

残念。娘よ。

魔法はこの世から失われたわけじゃない。いつどこに魔法使いがいるかわからない――そう覚えておきなさい、小悪党。

 すでに魔法陣は編み終えている。リフィルは呪文を唱えながら、物陰から身をさらした。

降り来れ、黄泉をも照らす月鏡!

 車両の奥から男が発砲――放たれた弾丸は、魔法陣が織りなす障壁に防がれ、止められる。

愕然と凍る男へ、リフィルは鋭く指先を向けた。

下天――

wおわひゃあ!

 ずどん、と何かが降ってきて、男をぐしゃりと押しつぶした。

は?

 唖然となるリフィルをよそに、〝何か〟は衝撃で失神した男の上で、むくりと身体を起こす。

wあっれ。どこここ。列車?なんか古いけど。

あーこれ術式ミスったぽいなー。やっぱノープランで長距離転移は無理あったかー。ま、次はなんとかなるでしょ。あたしだし。

 その少女は、男を尻でふんづけたまま、うんうんとうなずき――

ようやく、あっけに取られたリフィルに気づいたようで、目をぱちくりとさせ、片手を上げてきた。


w――あ、ども。

らっしゃーせー。

 思わず、沁みついたあいさつが出た。

wえ?

(違う!!!!!)

 リフィルは、ぶんぶんと頭を振って、身悶えしたくなるような恥ずかしさをねじ伏せた。

あなた――何者?どこから現れたの?

wどっから?んー……。

 少女は、上を向いて何事か考えた。それだけで、ぶわっと魔力が発生し、彼女の前にいくつもの魔法陣を織りなす。

すぐに少女はこちらに向き直り、ニヤッと頬を歪めてみせた。

w未来から。

…………未来?

wそ。未来未来。まだ見ぬフューチャー。

 なにやら適当なことを言いつつ、少女はその場に起き上がった。

wあたしはユピナ。どこぞの未来の魔法使い。イエイ!

てなわけで、そろそろ未来に帰るから。そんじゃまバイバイ、またトゥモロ~♪

ちょっ――

 光の粒子がきらめいた。かと思った次の瞬間、ユピナの姿は消えていた。

リフィルは茫然として、少女の消えた空間を見つめた。

未来から来た魔法使い……。

 そんなものがいるなんて、と思ったが。

(そもそも異界から来た魔法使いだの、妖精の魔法使いだのがいる時点で、ありえないなんて言っても仕方ないか)

 思い直して、リフィルは、はあ、と嘆息した。

(いつ、どこに魔法使いがいるかわからない――なんてセリフが、まさかこうも返ってくるとは)

 様にならない心地を味わいながらも、とりあえず、倒れた男を魔法で拘束することにした。


 ***


 汽笛とともに、列車が止まる。窓の外で流れていた景色が、ゆっくりと元の形を取り戻していく。

着いた着いた!面白い旅だったね~、リフィル!

余計なアクシデントがあったけどね。

 リフィルは肩をすくめ、車両の外に出た。


 ***


 駅の係員が、貨物車から手荷物を持ってくるのを待っていると、数人の男女が、どたどたとこちらへ駆けて来るのが見えた。

ん?なんだろ。

連中の仲間――じゃなさそうだけど。

 その一団はふたりの前で足を止め、頭から爪先までを、しげしげと眺めてくる。

何よ。

wし、失礼いたしました!

 彼らはあわてて居住まいを正し、手に手にペンとメモ帳を取り出した。

wわたくし、グレッソン新聞社の記者で、ロジアンと申します。

w私はユーヤール新聞社のコーヴァーです!あの、列車強盗を倒したという魔法使いは、あなたで間違いないでしょうか!?

もう伝わってる。

途中、一度列車が止まったでしょ。そのとき、電信を送ってたのよ。

ヘー、便利なもんだねー。

そうね。

 きっと、これからも便利になっていくのだろう。あるいは、魔法すら追いつけないくらいの速度で。

(それでも、魔法はここにある)

たとえ時代遅れの技になって、忘れ去られる日が来るとしても。

磨き、繋いでいく限り、魔法はどこかで存在し続ける。

(あの子が未来の魔法使いだっていうなら、きっと、そういうことよね)


wあの……。

 男が、遠慮がちに声をかけてくる。

答えを求められているのだと思って、リフィルは、軽く息を吸った。

見世物になる気はないが、魔法の存在を示すには、うってつけの機会だ。

列車強盗を倒した魔法使いは、私よ。

 おお、とどよめく記者たちに、リフィルは凛然と名乗りを上げた。


私はリフィル。〈黄昏(サンセット)〉リフィル。〈ロクス・ソルス〉の、魔法使いよ。





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