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パスタ・エピソード

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パスタのエピソード

昔からちやほやされてきた貴族。王者のオーラをまとった外見とその容赦ない語り口の前ではほかの食霊が見劣りするほど。それに対して不服な食霊もいるが、彼独特の強硬手段のもとでは、反対意見などは存在し得ない。気になる点としては、御侍をオモチャだと思っているかもしれない。



Ⅰ 暖かい


私が召喚された時、私の恩時はすでに今の『家』にいた。


彼はとある貴族の市井に流れた子供として偶然発見され、自分の家族に迎えられた。母親は既に亡くなっていたが、御侍はもう一度父親を得た。豊かな生活と共に。


父親は自分の子供が外で苦労してきたことに対する負い目から、御侍にすべての子供たちの中で最も豪華な待遇を与えた。最高の部屋、教師、多額のお小遣い、もっともおいしい食事。

かつて想像したことすらなかった料理の数々が目の前に並べられ、好きなようにとることができる。

彼の使うペンにすら、高価な宝石が飾られている。


冬になればメイドが暖炉に火をつけて、父親が彼の手を取って、帰ったばかりでまだこの生活に慣れていない彼を慰める。



貴族としての生活はスラムでの生活とは天と地の差がある。

食事をする時にすら複雑な作法があって、こんな事を全然知らなかった御侍にとってはかなり難しいことだった。

が、この巨大な屋敷に、ナイフとフォークすら逆に取ってしまう彼を笑う人はいなかった。

みんなは善良な笑顔で御侍のことを励ましてくれた。


御侍のそばに控えている私も、その善意に染められた。


一日の忙しい勉強が終わったら、御侍は部屋に戻り、柔らかくて暖かいベッドに横になって私と世間話をしたりする。


パスタ、知ってる? ここの生活は以前とかなり違うけれど、同じようなところもあるんだよ」

「スラムとここで?」

「そう。ここもスラムも、暖かい」



御侍の話では、彼はスラムのおんぼろ小屋で暮らしていた。


その小屋は荒れていて、雨風を凌ぐことすらできなかった。

柔らかいベッドも、暖かい暖炉も、おいしい食べ物もなかった。


今の豊かな生活とは比べ物にならない。


けれど冬になり食べ物が少なくなった時、お隣のおじさんはいつも腹を空かせて食べ物を御侍に送ってきた。大雨が降るとき、隣のお姉さんはいつも彼を家に迎え入れて、薄い布団で彼を包んだ。

違う生活で、同じ暖かさだという。


私は静かに御侍の思い出話を聴き、布団をかける。その笑顔を見て、私も思わず笑った。

彼の笑顔はまるで光のように暗闇を払い、世界は美しいと私に信じさせた。


「早く寝よう。また堕神が出たそうだから、明日は郊外に出なければならない」

「わかった」


御侍の部屋のドアを閉めて、私は自分の部屋に戻った。

ベッドの傍に置いてある熱いミルクと暖炉の中に燃える火が私の神経を麻痺させ、私はこのような暖かい虚像に浸りたいと甘んじた。


この世界は見たとうり聞いたとうりに美しいと、あの時の私は甘くもそう信じた。



Ⅱ 願い


その日の朝、庭で体をほぐしていた私は外から伝わってくる騒がしい声を聞いた。


行ってみると、そこにはぼろい服を着て子供を抱えている女性が、屋敷に入ろうとして守衛に止められていた。


「どうした?」

「あ、ミスター。この女が坊ちゃまの知り合いだと自称して中に入れろと」


彼女を放してやれと言おうとしたその時、御侍が出てきた。


驚いたことに御侍はその女性を見るなり、彼女のそばに駈け寄った。

その女性もまるで救世主を見たように、御侍に縋りながら泣き出した。


「お願い、この子を助けて! 昔良くしてあげた情で私の息子を助けてください!」


その大泣きしながら土下座をして懇願する女性の願いを、御侍はかなえてあげた。

その子供の病気はそう重くなかった。しかし薬代はスラムの住民が負担できるはずもなかった。

その時、女性は貴族の屋敷に迎えられた子供のことを思い出した。


その親子は最初の懇願者だったが、最後ではなかった。


あの日から、御侍のかつての隣人たち、友人たちが相次いでこの大きな屋敷の前にやってきた。

最初は少しの食べ物と服だったが、次第に望むものが多くなっていった。

楽で大金が入る仕事、金持ちでかっこいい旦那、尽きることのない借金の返済。


その人たちにとって、御侍はまるで万能な願いを叶えてくれる機械になったようだ。

御侍は笑いながら、必死に次々と彼らの願いをかなえてやった。



その日、御侍は病気で倒れた。彼は借りてきた金を私に渡した。

父親から受け取った金には限りがある。彼は自分の『旧友』たちのせいで父親を困らせたくないから、自分で何とかしてきた。


私は御侍ができるだけの手を尽くして手に入れた金を、『旧友』に渡した。


かつて御侍の足元に跪いて泣きじゃくったこいつは、貰った金を見て眉を顰めた。


「少ないな! 次はもっともってこい!」

「……」

「なんだ! 不満があるのか! 俺たちがいなかったら、あいつはもうスラムで凍え死んでたぞ!」

「……次があるのか?」

「どうした! いやになったか! ばくちの借金を肩代わりしてくれって言ったじゃねえか。は! やっぱりお貴族様になったら、俺たちみたいな貧乏人は全部忘れたか!」

「……」


私は屋敷に戻った。

金を借りるために雨に濡れて病気になった御侍の顔色はまだ弱ったままでベッドで休んでいた。

私が部屋に入るなり、御侍は期待の目で私を見た。


「お金は足りるの? 借金は全部返せた? 彼らはもう無事なの?」


私は必死に笑顔を作って、


「……ああ、もう全部返済済みだ。あいつら喜んでた」

「よかった! もうばくちはしないと約束してくれたの?」

「……約束したさ、もうしないと」

「よかった! ありがとう、パスタ! きみがいてくれてよかった! 以前はずっと彼らに助けてもらってばかりだったから、ようやくその恩を返せた……」


頭がごちゃごちゃになっていた私はそれからの話をあまり聞いていなかった。

あの罵りながら去っていった青年の姿を思い出すと、私は思わず強く拳を握り締めた。


私は迷った。


これが御侍が言っていた暖かさなのか?

何故私は御侍のような光を、あいつらからは感じ取れなかったのだろうか?



Ⅲ 反目


あれ以来、御侍を訪ねてきた奴らは全部私が追い払った。


徐々に、彼らはもう度が過ぎる要求を言いに来なくなった。

これで御侍はもう困ることはないと、私は思った。

御侍の生活、私たちの生活は、元のように戻れると。


しかし、これはすべて私の願望に過ぎなかった。

決して叶うことのない、美しい願望だった。



私が遠く離れた郊外で堕神の退治を終わらせた後、屋敷に戻った時、御侍は屋敷にいなかった。


私がメイドに尋ねると、御侍は一通の手紙を受け取った後、すぐ慌てて出かけたという。

私も慌てて彼の部屋に行くと、部屋に残されたその手紙を見つけた。


手紙を読んで、私の指先が突然寒さに襲われた。


その手紙の内容で、私は王都の反対側の荒野に向かった。

私がついたとき、御侍は既に地面に倒れていた。


彼の前に立っているのは、想像していた旦那様の政敵でも、御侍に暴かれて面子が丸つぶれにされた貴族の坊ちゃんでもなかった。

そいつらは、御侍が家に迎え入れられた後、親しげに彼を兄弟と呼んだ兄たちだった。

いつか彼に貴族の礼儀をやさしく教えてくれた人たちは今、彼のことを見下してあざ笑っていた。


「ああでもしないと、ジジイはもっと俺たちを嫌うだろう」

「全部おまえがジジイの関心を奪ったのが悪いんだ!」

「スラムの雑種の分際で! 俺達の家産を奪う資格があるとでも思ってんのか!」

「死ね!」


私は御侍を助け起こして、そのよろよろな体を支えた。彼は私の服を掴んで、


「早く……助けに……」


その次の瞬間、御侍は兄の腕に抱かれている既に人妻となった女性を見て、目を大きく見開いた。

それはかつて激しい雨の中で彼の耳を塞いで、彼を腕の中に抱きしめた少女だった。


その少女はかつての素朴さを失い、当たり前のような傲慢な笑みを浮かべて、以前のボロいスカートが豪華なドレスに変わって、手に持っている羽団扇で笑みを覆っていた。


「あなたはもともとスラムの出身だから、跡取りの座を考えないことね。その座は貴方の兄のものよ。私はあなたに感謝しなければならないわね、あなたのおかげで、私はあなたの兄に出会えたから」


そのとおりだ、御侍の紹介がなければ、この外見は悪くないが身分が低い娘は、貴族夫人になれるはずがない。

彼はかつて恋慕を寄せていた少女を裂けそうな目で見ていた。まるで、彼女が兄と一緒に自分を陥れた事実をまだ信じられないようだ。


けれど次の瞬間、ここの騒ぎで起こされた堕神は、みんなの慄く目の中で襲ってきた。

巨大な触手はさっきまで傲慢だった少女を捕まえて、恐怖で顔色を変えた少女は震えながら御侍に手を伸ばして助けを求めた。


「た、助けて!! 私が悪かった! お願い! 小さい頃あなたの面倒を見てきた情で助けてください!」


それに続いた兄弟たちの叫びだった。


ここに居るたった一人の食霊として、私の視線はそいつらから腕の中で唇を強くかみ締めている御侍に移った。


大丈夫だ。たとえそいつらを助けたくなくてもいい。私はきみを責めたりしない。

きみは聖人ではない。こんな状況で、だれもきみを責めたりしないだろう。


パスタ……お願い……彼らを助けてあげて」


でも、もしきみはまだ心の中の美しさを棄てたくないなら、私がきみを守ろう。

きみの願いは全部、私が叶えてあげる。きみはそのままでいい。


きみは私の光だから。


Ⅳ 真相

私はずっと思ってた、御侍の次々なる犠牲はきっと彼に美しい結末をもたらすと。

私はずっと思ってた、その人たちは御侍の犠牲を目の当たりにすれば、きっと自分の過ちを改めると。

私はずっと思ってた、この世界の根源は美しいと。


だが、それは全部、私の美しい願望だけだった。


彼を嘲笑ってた兄たちはまるで彼に感謝しているように、強い香りがするワインを彼に渡した。


彼もまた、兄たちはもう彼を受け入れてくれたと思って、嬉々とその毒ワインを受け取った。

その彼が家で働くように手配した使用人の手から渡された毒ワインを。


「おまえはただ俺を侮辱するためだけに、屋敷に連れてきたんだろうが!何がいい仕事を紹介するだ!くそ!」


手にある武器が残影を帯びて振り翳し、次の瞬間で彼らに届くその手は、後ろからの虚弱な手に引き留められた。


私は武器を棄て、彼を抱きしめた。


パスタ……僕は……ずっと、思ってた……いつかきっと……受け入れてくれるって……」

「……」

「たくさんしてあげられて……喜んでもらえると……思ってた……」

「全部あいつらが悪いんだ、きみは何も間違っていない、もう十分に頑張った」

「悔しいな……」

「……」

「もっと早く……彼らの本質を見抜けられれば良かった……もっと早く……世界の本質がわかればよかった……」

「……待て!行くな!目を覚ましてくれ!」


腕の中の人はもう動かない、ただ静かに眠った。いつもの笑顔の御侍は、まるでもう彼を失望させたこの世界を見たくないかのように、目を閉じた。

周りの奴らは武器をとって私を警戒するように囲んだ。


私はこいつらを無視し、御侍を抱えて、彼の父親の書斎に向かった。

せめて最後に、彼の敬愛してた父親との別れを。


あのかつて優しい目で御侍を見てた老人は、私の腕の中で息を止めた御侍を見て、悲しみを見せず、ただ眉をひそめただけだった。


「何が起こった?」

「御侍の兄弟たちが……」

「あいつら、何故こうも物事の道理がわからないんだ。まあいい、おまえさえ居ればそれでいい。これは適当に埋めておけ」

「……公爵様?!」

「ただのスラムの雑種が、もしおまえを召喚したんじゃなかったら、こんなおもちゃただでくれてもいらない。まあ優しくするたびに感動した様子はそれなりに面白かった。さあ、パスタ。すぐに人を呼んで片付けさせるから、お前はこれからこいつの部屋を使え」


……なるほど、優しい父親はただの錯覚か。


私は目を閉じている御侍を見て、不覚にも彼の死を喜んだ。このような事実について直面せずに済むから。


私は目を上げて、目の前のこの男に笑顔を見せた。


「はい、よろしくお願いします、公爵様」


私の光が消えた瞬間、私は目に映る世界がこうも汚いという耐え難い現実に気付いた。


そして私は誓った、必ずきみの願いをすべて叶えてあげると。

この世界はこうも醜いという事実を、すべての人間に気付かせる。

そのために、金と権力が必要だ。だから、目の前のこいつを利用するのは最善の選択だろう。


パスタ

かつてとある公爵がいた。彼は貴族として、隠し子が数人居るのがまるで当たり前のことと思っていた。


料理御侍の登場以来、一族に食霊がないと、面子が保てないと思ってた。

けど、何故かわからないが、彼の正妻が生んだ子供は全員料理御侍になる才能を持っていなかった。


だから彼は長い間探し続けた、スラムで生まれた隠し子がその才能に恵まれたことに気付くまで。


彼はこの子を彼が買ったおもちゃと見なし、自分の翼の下で彼を完全に守り、世界の醜さを感じさせないようにしてきた。

同時に、彼は他の子供たちによるその子への迫害と、昔の隣人たちの搾取を放任した。


最後、世界の美しさを信じてたその子は、父親のお遊びで、後悔しながらこの世を去った。


その父親はこう思ってただろう、彼が作った子供は彼の所有物だから、どう処理しようが彼の気分次第だと。


だが彼は知らなかった、その子の死は、彼が利用しようとしていた食霊の心の中の最後の光を奪った。




公爵の勢力は徐々に食い尽くされた。ベッドの上で動けない彼は、自分の子供たちが彼の手を取って、譲渡書に拇印を押させたところをただ見てることしかできなかった。

そして譲渡書を手にして喜んでた坊ちゃんたちは突然気づいた、彼らが手に入れた書類は富をもたらさなかっただけでなく、大量の負債を抱え込ませたものだった。


かつて貴族に嫁いで贅沢な生活を送っていた娘も、今は零落れた貴族が金を稼ぐための道具として使われてた。


真の意味で公爵の勢力を受け継いだのは、いつも忠実に公爵のそばに控えていたあの赤髪の食霊だった。


その食霊の御侍は公爵ではなかった。彼の御侍は、ずっと前にこの世を去った。


この世を去る前に、ずっと欺かれてきた御侍は突然何かを悟ったようだった。

彼は自分の食霊が彼の兄たちや友人たちを攻撃するのを止めたけど、その食霊に一つの願いを掛けた。




ナイフラストの辺境のとある町には、小さな居酒屋にある伝説があった。


その伝説によると、店の隅っこにテーブルがあり、もしそんな対価を払っても叶えたい願いがあるなら、そのテーブルの下の夹板に挟んである便箋と封筒を取って、その願いを書き込めばいい。


もしその願いが十分に強烈であれば、誰かが連絡を寄こしてその願いを叶えてくれるそうだ。

しかし、願いを叶えた人は、いつもここを出てもう帰ってこなかったか、或は二度とこのことを言及しなかった。

だから、願いがどのように叶ったのか誰にもわからない。

そして願いをかなえた人たちはなぜ沈黙を選んだのかも、誰もわからない。



パスタがポルシチが経営しているこの居酒屋に入ってきて、カウンターの後ろに立っている女の子に手を伸ばした。


「これは最近の依頼主の名前とその願いのリストです」


パスタは召喚されて以来、ずっと御侍の願いを叶えるように頑張ってきた。

御侍の笑顔、それがパスタにとっての最大の動力だった。


しかし、御侍がこの世を去った瞬間から、パスタの世界には悪臭漂う暗闇しか残っていなかった。


彼は未だに少しずつ他人の願いを叶えてあげている。

しかし、願いを叶えた瞬間、彼に願った人は必ずパスタがかつて感じた絶望を味わうことになる。


パスタが店を出ようとしたとき、赤いスカートの少女は突然何かを思い出して話しかけた。


「そういえばパスタ、最近また一つの貴族を処理しなければなりません。でも私たちの資金は不足しています、いつも以前徴収した対価に頼っては、もうこれ以上持ちません」


「……ああ――、わかった。最近……蒼藍の石と呼ばれる宝石がオークションで破格の値段で売られたらしい……」




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