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カフェオレ・エピソード

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カフェオレのエピソード

常にハイテンションで感情のコントロールが難しく、何かや誰かのことが好きすぎると、相手と一生一緒にいたいがために相手を泡にしてしまう。それで指名手配犯になってしまった。一見、家に帰りたくない不良少女でしかないが、実は夜更かしができず、基本的に8、9時には寝てしまう。

Ⅰ.誘拐犯


「ねえ、もう9時だよ……?まだ寝ないの?」


思わず首をかしげて、兎のぬいぐるみを抱いて地面に座り込んでいる少女を見た。あたしはもう眠気で目を開けられないほど疲れているのに、彼女は相変わらず元気そうだ。


「普段は10時に寝てるから……ていうか、9時に人質を寝かせる誘拐犯なんている?」


「普通は私を縛り付けて一晩中見張ったりするんじゃないの?」


「え?そんなめんどくさいことしないよ?」


少女はこんな言葉が返ってくるとは思ってなかったようで、言葉は返ってこなかった。しかし、彼女はやはり寝る気配がないようだ。


「……今の子供って本当にすごいね。でも夜更かしすると、背が伸びないんだよ。ふぁ〜」


またあくびが出て、涙が視界を霞ませた。少女と兎の顔がカラフルなロープのように歪んだ……


「もうだめ、眠いから……あたし、先に寝る……」


「わ、私が逃げちゃうかもしれないとか考えないの?」


「う〜ん……逃げれるものなら逃げてみたら?」


あたしは立ち上がって彼女に背を向け、部屋の隅に歩いていく。そこに置いてあるピンクの小さなソファに座ると、思っていたよりもふかふかで、頑張ってこんな汚い場所に運んだ甲斐があったなあとしみじみと感じた。


眠気に包み込まれ意識が飛びかけそうになりながらも、最後の力を振り絞り手を上げ、カビだらけの壁にある小さな窓を指さした。


「ここから出るなら、この窓から飛び降りるのが一番オススメだよ。運がよかったら、足を折るだけで済むからね〜」


「……」


暗い部屋はすぐに静まり返り、あたしが眠りにつこうと意識を飛ばしかけたそのとき、少女がぽつりと突然つぶやいた。


「こんなところで眠れないよ……」


「え?じゃあ……子守唄を歌ってあげるよ……」


「いらない……」


「ソロモン・グランディ……月曜日に生まれて、火曜日に洗礼受けて……水曜日に嫁さんもらい、木曜日に病気になって……金曜日に病状悪化、土曜日にはころんと死んで……日曜日には、埋葬された……これにて一巻の終わり、ソロモン・グランディ……」


「こんな子守唄聞いて誰が眠れるの……」


なんで眠れないの?あたしはこれで眠ってたんだけどな。


ソロモン・グランディは夢の中であたしに親指を立ててくれたし。


昇ってきた太陽と一緒に目が覚める胸が躍るようなワクワクを味わえないなんて、可哀想にね。


「おはよう――」


翌朝、少女が眠そうに目をこすりながら起き上がるのを見て、あたしは満足気に頷き、彼女を引っ張って玄関に向かった。


「出かけよう〜!」


「え?パパ……パパが身代金を渡しに来たの?」


「ん?違うけど?」


「……じゃあどこに行くの?私は人質でしょ?外に出られるの?」


「あんたは人質だけど、あたしはそうじゃない。この暗い部屋にずっといたら頭おかしくなっちゃう。」


「ちょっと待って!一体どこに連れていくつもりなの?」


「もちろん、遊園地だよ〜!」


せっかく言うことの聞きやすい子供を誘拐したんだから、あたしの大好きな場所に行くんだ!


世の中に遊園地が嫌いな人なんている?


無重力の中、生死を瀬戸際を感じさせる絶叫マシンも、口から内蔵を吹き飛ばしそうな大型振り子も、ぜ〜んぶ最高なんだから!


世の中に遊園地が嫌いな人なんていないでしょ!


そして6回目のジェットコースターに乗っているとき、ずっと不機嫌だった少女も喜びのあまりか、大声で自分の名前を叫んだ――


「ローザ、私はローザと言うの!早く降ろして!」


「へへへ、いいよローザ、次はどれに乗りたい?お化け屋敷?それとも別の絶叫マシン?」


「休憩がしたいの!休ませて!」


ほら、昨日の夜ちゃんと寝なかったから……ちょっと遊んだだけでこんなに疲れちゃって。


私は仕方なくローザを休憩させてあげることにした。彼女はベンチに腰を下ろし、年に合わない荒い息をして、虚ろな目で辺りを見まわし、突然何かが見えたようで目を輝かせている。


「アイスクリーム?」


「……」


「もしかして……食べたい?」


「いや、別に……」


「はは、遠慮しなくてもいいのに〜!行こう!」


ローザを引っ張って立ち上がらせると、彼女の口から笑みがこぼれるのが見えた。不思議ね、素直な気持ちを表現しても問題ないのに、人間はなんでいつも自分を偽るんだろう?


そんなのすぐわかってしまうのに……


ローザが口いっぱいにアイスクリームを頬張り、満足気な顔をして食べ終わった所を見届けると同時に、あたしは5つ目のアイスクリームのカップをゴミ箱に捨てた。


「さて、お腹がいっぱいになったなら次に行こうか」


「えー、私……お化け屋敷には行きたくない……」


「え?お化け屋敷に行くなんて誰が言ったの?」


驚くローザにウインクしながら、あたしは遊園地で買ったウサギ耳のカチューシャを外しながら、立ち上がった。


「今からお仕事だ!人質のローザちゃん!あんたのパパを探しに行こう!」


そう言うと、輝きを取り戻しかけていたローザの瞳には、再び影が落ちてしまった。


Ⅱ.価値


「46歳で莫大な財産を持つ伝説の実業家。彼の創設した家具会社は今年のフォーチュン・グルイラオ500で138位にランクイン!うん?138位……あんまり凄くないかもしれないね……」


「……そうだった、あなたは誘拐犯……どうして忘れていたんだろう……」


46歳の男性の顔が載った新聞を小屋のドアの隙間に詰めて、両手を自由にした後、あたしはローザの小さな頭を撫でた。


「何をつぶやいてるの?」


「何でもないよ。でも、私はあなたの期待には応えられないと思う。パパにはたくさんの子供がいて、私のことなんて多分気にしてない。」


「そっか……可哀想だね」


「……………つまり、私をこのまま誘拐していてもお金は手に入らないし、無駄な時間だってこと」


「まあ、あんたがそう言っててもどうなるかはわかんないしね」


ローザはそれ以上口を開かず、俯いたままあたしの後をついて歩いている。そして、彼女の父親の会社について何かに気づいたようにようやく顔を上げた。


「私……人質を直接連れてきて、お金を要求する誘拐犯なんて聞いたことないよ……?」


「いやいや〜あたしはお金がほしいわけじゃないんだよ」


「よくわかんないけど……好きにしたら」


瞳から輝きを失ったローザちゃんもかわいいけど、ジェットコースターに乗っていたときのような生き生きとした表情はもっとかわいい。


あたしは唇をすぼめて、彼女を緊急階段からビルの屋上に連れて行った──父親がいる社長室に一番近い場所だ。


「ほら見て!これはとある科学者が作った、針なんとか頭?ってやつ!とにかく、社長室の中の様子が見えるんだよ!」


ローザには無視されたけど、あたしはこれを使うのが楽しみで仕方ない。


ハエのような鉄塊を投げ捨て、同じ人が作った金属の箱を取り出すと、その箱に社長室の様子がすぐに映し出された。


46歳の男性が贅沢な広い部屋で高そうなソファに足を組んで座っている、その向かいには可愛らしい2人の少女がいる、一人が座っていて、もう一人は立っていた。


「……契約成立ですね、よろしくお願いいたします」


「さすが『パラダイスメイカーズ』……しゃぶり尽くすつもりか」


男は軽蔑とも憤りともとれる表情を浮かべているが、向かいに座っている人はそんなのどうでもよさそうだった。


「どうとでもおっしゃってください……私たち『パラダイスメイカーズ』は、すべての従業員とお客様に天国のような幸せをもたらすことを目指しています。ある意味では、提携先もお客様と同じようなものです」


「噂によると、娘さんが昨日行方不明になったとか?」


「ああ……だがそんなことは気にも留めていない。中小企業を買収する際に、そういうことはよくあるものだ……それよりも、あなたたち」


「もし今回の買収が成功すれば、私は『パラダイスメイカーズ』の最大の競争相手になるだろう?我が社を妨害するために……子供を誘拐するとは……無駄な手間だな」


「ふふ、勘違いされては困ります。私はただ、莫大な身代金を払うことで、取引額に影響があるのではと心配しているだけです」


「ふん、今は我が社にとって最も重要な時期だ。たった一人のくそガキのために莫大な金を払うなんてするわけないだろう」


「なるほど……それなら安心ですね」


そこであいつらの会話は終わった。


あたしは金属の「ハエ」を回収し、バッグに丁寧に仕舞った。もし失くしちゃったら、これを作った科学者は泣いちゃうだろうからね。


「……え?ローザちゃん、なんで泣いてるの?」


「……逆にあなたはなんで笑っていられるの?……聞こえなかったの?パパは……パパは私なんかのためにお金を出さないって……あなたは無駄な努力をしてる……」


「さっき言ったじゃん、あたしは最初からお金が目的じゃないよ」


「え……?」


「あたしは、あんたのパパが『絶対にお金を出さない』って言う言葉を聞きたかっただけなんだ」


ローザはあたしが何を言っているのかまだ理解できていないようで、彼女の手にある金属の箱を指さした。そこには男性が自分の子供を捨てることを満足げに宣言している瞬間が映っている。


「ほら、よくみて。ソファの後ろに立ってる女の子は秘書ではなく、実は記者なんだよ。そして、向かいに座っていたこの美しい女の子が秘書なんだよね」


「この人がすぐに、あの男は伝説的な素晴らしい人間ではなく、彼は自分の娘を平気で捨てる冷血な資本家だって、新聞に書いてくれるよ。報道される時はもっと誇張してね」


あたしは感情に身を任せて両手を広げ、そして手を力強く合わせて、まるで風船が爆発したかのような音を立てた。


「安心して、あんたのパパの人生はもう台無しだよ!」


しかし、ローザがこちらを見て一瞬固まったと思ったら、次の瞬間、ローザの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「え?なんでなんで?あんたのパパがあんたを犠牲にしてまで手に入れたかった物が、もう手に入らないんだよ。嬉しくないの?」


「嬉しいわけない……パパにとって私は……なんの価値もない……私はなんの価値も……ないの……」


……


価値、価値、また価値。


その瞬間、この世のものとは思えないほど白く美しい姿が、再びあたしの目の前を通り過ぎて、柵をよじ登った……


ため息をついて、あたしはローザちゃんの泣き崩れた顔を強引にこちらを向かせた。


「あんたはあの男がお金を払わなかったら価値がないと思ってるの?」


「わ、私はまだ10歳だもの、価値のことなんかわからない……放して……」


「10歳だからなんだっての。あたしの御侍は自分の価値を見定めるために13歳で家を出て、16歳で亡くなった」


「え?」


Ⅲ.泡


それはまるで天国にあるかのような見たこともない位の美しい家だった。


まだ足跡ひとつもない雪のように真っ白な天井、壁、レースのカーテン、食べきれないほどいっぱいなデザート、華やかな香りが漂うフルーツティー、そして言葉にしたら翌日にはベッドのそばに置かれるプレゼント。


すべてが完璧であるはずなのに、それほど完璧な環境でさえも、天使のように可愛い小さな主人が笑顔になることはなかった。


カフェオレ、私が逃げるのを手伝ってくれる?」


13歳の誕生日を迎えたばかりの御侍は、まだあたしの肩ほどの背丈しかなく、どう見ても小さな子供だった。


あたしは彼女から手元のケーキに視線を戻し、小さく呟いた。


「いいけど……なんで?」


「昨日、ママからお見合いの話をされたの……私まだ13歳なのに、10年後の自分がどんな人生を送っているかなんとなくわかるわ。でも、将来を共にするはずの相手のこと私はまだ何も知らない」


「そのうちわかるんじゃない。それに結婚したら、ウェディングドレスが着られるんだよ?ウェディングドレスってとっても可愛いし、いいじゃない」


「よくないわよ!それはビジネス結婚でしかないの!パパのビジネスのためだけ!私の幸せなんて考えられていないわ!私は……」


「私は……パパたちが円滑にビジネスを進めるための道具じゃないのよ!」


それはそうだ。


怒りに任せて荷物をまとめる御侍の小さな背中を見て、私は食べかけのケーキをしぶしぶと窓辺に置いた。


あんたの天使のような顔を見るだけで、あたしはすごい幸せな気持ちになる。あんたの声を聞くだけで、あたしの生命力が増えているのを感じる。


あんたの価値は計り知れないんだよ。それはあたしがわかってるのに……そんなことまでしないと自分の価値を見極めることができないなんて……


とてもかわいそう。


それであたしは彼女を連れ出し、高い柵を乗り越え、あの天国みたいな家を離れた。


彼女を飢えさせたり、暴力をふるったりはしないけど、あたしはあの真っ白な天井、壁、レースのカーテンとなにも代わらない。彼女を守ることはできるが、彼女を幸せにすることはできない。


「なんであんたは自分に価値をつけたがるの?」


目的も行く当てもなく、長い時間外で生活していたあたしは、疲れからなのか、ずっと疑問だったことを口からこぼしてしまった。


思ってもいなかった言葉だったのだろう、御侍から笑顔が消えてしまい、泣きそうになった。


「私にもわからない……でも、夢がある人たちをとても羨ましく思うわ。夢って……私にはないから。自分が何をしたいのか……わからないの……」


「でも私は、自分自身が……唯一無二の、代わりのきかない価値のある人間だって思いたいの……」


「私……私って……ダメなのかな……」


そんなことない!


でも……どうすればそれを彼女に証明できる?


「夢があるって、そんなにすごいことなの?今はなくても、これからゆっくり見つければいいんじゃない?うーん……例えば、誰かを羨ましいって思ったことはある?」


「羨ましい?」


「うん!例えばあたしは、パティシエが羨ましいよ。美味しいお菓子を作れることもそうだけど、美味しいお菓子が完成した瞬間にそれを全部食べてしまわないで我慢することができるんだよ!すごくない?」


「うーん……なるほどね、私が羨ましいと思う人か……ええと、羨ましい人は本当にたくさんいるかな、誰を選んだらいいのかな……」


「あー……それなら大丈夫、じゃあまずは他人を助けることから始めてみない?人を助けることが好きな人はいい人だってみんなが言うじゃない」


「人を助ける……うん!いいアイデアだね!でも……なにから始めたらいいのか……」


焦らずちょっとずつ……ゆっくり……


「ふふ、それじゃあまずはあたしを助けることから始めてみよう!」


「え?」


「御侍の笑顔が久しぶりにみたいな〜……あたしのために笑ってくれる?」


その夜、私は久しぶりに御侍の満面の笑みを見れて幸せを感じた。御侍も初めて人を助ける喜びを味わうことが出来て、彼女が追い求める「自分の価値」に一歩近づくことが出来たのではないだろうか。


その後は、八百屋のおばあさんと売り物の中から腐った果物を見つけ出すのを手伝ったり、屋根の上から降りられない野良猫を助けたり、迷子の子供を交番に連れて行ったり……


自分の夢を追い求める中で、御侍は多くの人々に出会い、多くの人々から好かれるようになった。


彼女はもうあたしだけの天使ではなくなってしまった。


「え?今日もこんなに早く出かけるの?」


「うん、ジュリーが早起きは三文の徳って言ってたんだよね。そういえば……このあいだカフェオレが言ってたおいしい食べ物は遅い時間でも食べてもいいってのとは全然違うね、ふふ〜」


またジュリーだ。御侍が最近仲良くなった友達で、10代の少女。たった数日で私の立場を奪い取った。


「ふん、早起きの虫だって鳥に食べられちゃうんだから」


御侍はあたしの言葉も聞く前に、外に飛び出して行ってしまった。


だからね……


「そのあと御侍はジュリーってやつに裏切られて、家に連れ戻されたんだ。結局わずか16歳で、初めて会った全然知らない男と結婚しなければならなくなった」


「だからね、人間にはそれぞれの価値なんてないの」


話し終えるころには、ローザの涙はいつの間にか止まっていた。あたしは指先で彼女の頬につたう涙を優しく拭った。


「友情には価値なんてないわ。ジュリーはたった数枚のお札のために、あの天使のような御侍を裏切り、汚いお金を数えながら、友達だった人間が苦しんでいるのをただただ眺めていたんだ。天使は私だけの者でもなくて、いつの間にか他の人のもとに飛びたっていってしまった……」


「仕事だって価値なんてない。他の人の笑顔や感謝に喜びを感じるなんて、愚かすぎる!家族だって価値なんてない、ただあんたを縛り付けるだけで、最後にあんたは怒鳴り散らして、捨てていったんだ……」


「そして、こうやって価値のないものが『人間』を作り上げるの。何もかも……全ての人間、全ての物事、全ての感情に価値なんてない!あったとしても、それはほんの一瞬の気の迷いでしかないし、永遠ではないの……」


その瞬間、白く美しい姿が再び私の目の前で柵を乗り越えた。


彼女はビルの屋上から飛び立ち、そして落ちていき、最後には泡となった。


「そうだよ。泡になる瞬間に、生命がどれほど貴重であり、どれほど儚いものかに気づくの。大切にしなきゃいけないって、疲れた体で食事を作ってくれる母親をもっと気遣うべきで、自分が嫌いな野菜を取り除くことだけに集中してはいけないって……」


私はローザの顔を優しく手のひらで包み、彼女の怯えた瞳を堪能した。


「わかった?死ぬ瞬間にだけ、人間の命にも価値があるんだよ。」


「それでもあなたは価値がほしいと思うの?それとも泡になりたいの?」


Ⅳ.病気


「準備はいい?テストを始めるよ」


「はーい」


「まず最初の質問……ジュリーってなに?」


「この泡の名前!」


「ふふ、答えるだけでいいよ、実物を見せなくても大丈夫」


「はーい」


「では、次の質問……ローザは今どこにいる?」


「パーーン」


「え?それはどういう意味?」


「泡がはじける音だよ〜」


「そうか……じゃあ、次の質問。『天国の創造者』とは、あなたにとってどんな人?」


「最高の人!」


「素晴らしい答えだね。最後の質問、あなたの使命は何?」


「『天国の創造者』が本物の天国を作れるようにするために、ボスの敵をひとり残らず消し去ること!」


「うん、テスト終了。いつも通り、カフェオレは何の『病気』もなく、健康だね」


「やった!」


私はリクライニングチェアから飛び降りた反動で、目があかなくなるほど明るい大きなランプにぶつかってしまった。


ゴンッという音がして、部屋の片隅にいた科学者が素早くこちらを振り返り、不満そうな舌打ちをした。


「ごめん、次はもう少し静かに飛び降りるから!」


「ふふ、大丈夫だよ。最近買収した家具会社に、新しいランプがたくさんあるから、好きなものに交換すればいいのさ」


「ほら、ボスもこう言ってるよ!」


「……」


科学者は部屋の隅にすっぽりと体を埋め込んで、石のように口をきかなくなった――彼にボスのことを言うと、大人しくなるんだ。


「それじゃあ、行ってきます――」


「いつも完璧に任務を果たしてくれて、本当にお疲れさま、カフェオレ


「全然疲れていないよ!すっごく楽しいんだから!」


任務を終えるたびに、泡は増えていく。冷たかったはずのものがたくさん集まると、泡がとても温かくなるんだよ!


みんなとても温かくて、最高なんだ!


楽しい気持ちが軽快なリズムの童謡になって口から勝手に流れ出ていく、あたしはスキップしながらにフカフカなピンクのソファに座った。


「あれから考えは変わった?あたしの泡になりたい?」


「……もう泡なら十分あるのにどうして?なんでこんなに私に執着するの?」


ローザは元気なく言った。


彼女はまだウサギのぬいぐるみを抱えている、もうそんなに汚れているのに……


「泡になれば、汚れも綺麗になるんだよ?」


「だからいやだって……」


彼女は抵抗するように後ずさりして、不機嫌そうに顔をしかめた。


彼女はまだ泡になったらいいことがあるってわかってないんだ!もっと説明しなきゃ!


「ほら見て、これはガリーって名前の泡だよ。以前は怠け者で汚らしいおじいちゃんだった。家族から追い出されて、ホームレスにもいじめられて、彼を好いてる人なんて誰もいなかった……」


あたしはガリーを彼女の前に掲げた。部屋から差し込む太陽の光に照らされて、ガリーも嬉しそうに笑っている。


「でも今はあたしの泡になったから、あたしはガリーを愛してあげられるんだ、ずっと愛し続けるよ!見て、ガリーが光ってるでしょ!」


ガリーを下ろし、あたしは次にナンシーを手に取った。


ナンシーは専業主婦だったが、ぐつぐつに煮えたぎったスープを出して夫に追い出され、逆恨みで家に火をつけ、指名手配犯になってしまった。


「でも今は、どんだけ賢い警察官だって彼女を見つけることはできない。彼女はこれからずっと安全なんだ。もう誰からも、料理が下手だからって叱られることはないし、あたしがずっと愛してあげるんだ!」


「そして、これがジュリー。友情をお金に換えたけど、御侍が結婚から逃げて亡くなった後、ジュリーが御侍を裏切ったことがばれて、周りの人たちから嫌われ、責められ、追い詰められた……」


「正直、あたしも彼女はあんまり好きじゃなかったけど……御侍は彼女が好きでいつもジュリーのことばかり話してたんだよ、だから……」


「あたしはジュリーも泡に変えてあげたの。だからジュリーと御侍はずっと一緒にいられるんだよ」


ローザの見開いた目は美しいガラスの玉のようで、そのアメシストのように透き通った瞳の中には、再び泡沫の海が見えた。


その中を歩くと、温かく柔らかい泡がたくさんあって……見渡す限りすべてが明るかった!


「人間は世界にとって価値がない存在……ゴミ、クズ、はぐれ者……見捨てられ、裏切られ、嫌われる……」


「「この世界には永遠なんてない。命がある限り、生と死はいつでも隣り合わせ。この世界は広く冷たい牢獄であり、中に閉じ込められた全ての人を傷つけるもの」」


「「でも、あたしの世界はこんな世界じゃない!彼らは……この泡たちはあたしにとってひとつひとつに価値がある!あたしの天使たち!彼らひとりひとりの名前を永遠に覚えている!」」


「ずっと覚えているわ。強盗に襲われても、ガリーは芝生を傷つけずに慎重に歩み、花々が散らないようにしてたことも……。ナンシーは火をつけた後、火を消そうとして消火器を探し歩いて泣き叫んでいたことも……」


「世界が忘れ去った物語を、あたしはいつまでも覚えている!彼らはあたしの体の中で生き続け、決して死ぬことはないわ。あたしは彼らを守り永遠に愛していくの!」


「もしもいつか、あたしでさえ彼らを愛せなくなったら……」


「その時は、彼らに私を食べてもらうの!ふふ!これもまた別の意味での永遠でしょ!」


私はローザの手を取って自分の頬にあてた。ああ、本当に暖かい……


「素敵だと思わない?あたしとずっと一緒にいてくれない……?」


Ⅴ.カフェオレ


夜の9時、本来ならカフェオレは眠っている時間なのだが、彼女はガサガサという音で目が覚めた。


カフェオレの御侍でもある16歳の少女は、翌日着る予定のウェディングドレスを引き裂き、窓から外に投げ捨てていた。


「また逃げるつもり?どうしてあたしに相談してくれないの?」


「もうカフェオレに頼るわけにはいかないの。私は……私の力で自分の価値を証明したいの」


カフェオレは何も言わなかった。なぜなら彼女は、御侍が友人に裏切られてから、カフェオレのことすら信用出来なくなっていると知っていたから。


悲しいことに、真っ白なウェディングドレスは非常に脆く、触れただけで壊れてしまうほど繊細だった。


だからカフェオレにできることは、純粋で、小さい体でいつでも優しく微笑みかけてくれた天使の魂が、高層ビルから飛び立ち、真紅のバラの絨毯が地面にいっぱいに広がるのをただ見守ることだけだった。


冷たい……


彼女は脆く繊細な魂をそっと抱きしめ、自分まで冷たくなるのを感じた。


嫌だな……


彼女は自分の御侍を深く愛していた。我慢が苦手なカフェオレが、御侍のためならとデザートを作り終わる前に食べないよう、ずっと我慢してたほど。


しかし、彼女が深く愛し大切にしていた御侍は、この世界にはいとも容易く捨てられてしまったのだ。


御侍は誰よりも大切な存在なのに、彼女は自分の価値を追い求めることで、自らの人生を自らの手で台無しにした……


価値。


この世界には御侍のように、見ることも触ることもできないものをむなしく追い求める者が、どれほどいるのだろうか。


多くの人が『こうあるべきだ』『これが正しい』という固定概念に捕らわれ、『従わなければならない』などという馬鹿げた考えがあるせいで、それに反する者は間違っている、おかしい、正されなければならないと決めつけられてしまう。


しかし、人生という問題は、決まった答えがないではないのか?


どうして、人の人生を勝手に決めつけるのだろうか?


どうして、他人からの評価にそんなにもこだわるのか?


この世界のルールは、果たして誰が決めたのか?


カフェオレは白い泡を大事に抱きしめながら、今まで経験したことのない温かさと充実感を感じることは出来たが、答えは得られなかった。


しかし、彼女はすぐに気づいた。この問題に正解なんてない。ただ、間違った問題はどこかへ捨ててしまえばいいのだ。


「間違い」はただの概念に過ぎず、この世界にとっては「間違い」は悪かもしれないが、それは見方を変えることで自分にとって完璧なものにもなり得るのだ。


「価値」が誰に与えられるのか、どのように与えられるのか、そんなことはどうでもいい。


これからは、カフェオレ自身が「間違った問題」たちに最高の評価と最高の愛を与える。


そして、カフェオレの御侍が彼女の願いどおりに泡となったその日から、カフェオレは「病気」になった。


彼女の泡への執着はますます強くなり、その周囲にはますます泡が増えていき、やがて彼女の名前はナンシーと同じように指名手配に載ってしまっていた。


しかし、怯えていたナンシーとは違い、カフェオレは指名手配されても、追われることを楽しく感じていた。


なぜなら、彼女が泡にした数々の命は宝物であり、彼らのために危険を犯すことで、自分という狂気的な犯罪者を追いかけてくれる人がいることに快楽を感じるからだ。


警察官は最高!


ほら見て、ガリー、ナンシー、ジュリー、そして御侍……


あんたたちの命は、とても「価値」があるんだ!





『天国の創造者』。


仕事を終えたラテは組織の心理相談室に入り込み、カフェオレのケースを調べた。


「やめとけ、規則違反だぞ」


モカの淡々とした声が聞こえるが、ラテモカの制止など関係なかった。


「ただ仲間のことを心配しているだけだよ。見てよ……カフェオレの病状は明らかに深刻なのに、ヴィダルは彼女を働かせ続けているんだ」


「……上司なんてみんなそういうものだろう」


「だめだ!きちんと人間みたいな治療をやらなければ手遅れになっちゃう!あの家具会社を買収してから、彼女は毎日ゴミ捨て場に通っているんだ。家具会社のオーナーが惨めに死んでいったのを目撃したことで、なにかしらのトラウマを抱えているかもしれない!」


「彼女が他の人のトラウマの根源になるほうがしっくりくるけどな……」


「とにかくこれ以上放っておくわけにはいかない。今すぐゴミ捨て場に彼女を探しに行くんだ!」


モカラテに「ノー」と言うことはほとんどない。2人は一緒にゴミ捨て場へ行き、カフェオレがよく出入りしている小屋の窓を覗いた。


「……今はだめ……」


「え?じゃあ、いつになったらいいの?あんたにはもう他に頼れる相手がいないのよ、あたしの泡になることがあんたが幸せになるための選択なんだ!」


長い間一緒にいることで、カフェオレの失礼な発言にもローザは慣れてしまっていた。彼女はただため息をつき、出てくる言葉からは抵抗感をさほど感じてはいないようである。


「もう少し、頑張ってみたいと思ってるの……自分で……自分の価値を見つけたいの」


「もし見つけられなくて、もうダメそうだなって思ったら……その時は私を泡にしてくれてかまわないから」


カフェオレの顔からは笑顔が消え、残念がりながら肩を落とした。


彼女はもう一度、あの白い姿を見ているような気がした。この世界に無情にも捨てられてしまったあの姿を。


そうだ、貪欲な両親によって、ビジネスのための道具としての価値しか見つけられなかった御侍も、冷酷な父親によって生きてる価値がないと告げられてしまったローザも、重なってみえた。

この世界は何度でも残酷な悲劇を繰り広げるんだ。


この世界は逃げようとする御侍を高台から転落させ、愛に飢えているローザには無情な真実を突きつけ泣き崩れさせる。それは完全に抗えない定めであり、人々にはその運命を変える力なんて与えようともしない。


人々を生命の最後まで奪い、そして最後の一瞬だけ、この世界へ深い愛を抱かせる。


あまりにも酷く無情な、この世界。


しかし幸いにも、カフェオレは世界ではない。


「……この年で孤児院に入っても、養子に引き取ってもらうのは難しいよ」


「うん、分かってるよ。ただしばらくは孤児院にお世話になって、大きくなったら自立するつもり」


「まだ生きていることがボスにバレたら、また命を狙われるよ」


「大丈夫よ、あなたがいるじゃない」


「その時はあんたを泡にするだけ」


「分かった分かった……そうだ、これあげるわ」


「ウサギのぬいぐるみ……?いつも大事そうに抱えているのに?」


「うん、あげる。これがあれば、あなたが少しでも寂しくなくなるでしょ」


「……余計なお世話だ、バカローザ」


「ふふ、恥ずかしがっちゃって……カフェオレちゃん!」



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ゲーム情報
タイトル FOOD FANTASY フードファンタジー
対応OS
    • iOS
    • リリース日:2018/10/11
    • Android
    • リリース日:2018/10/11
カテゴリ
ゲーム概要 美食擬人化RPG物語+経営シミュレーションゲーム

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