【黒ウィズ】アポロニオ&ヴァッカリオ編(GW2020)Story
2020/04/30
目次
登場人物
![]() | アポロンⅥ |
![]() | ディオニソスⅫ |
![]() | アテナⅥ |
![]() | ヘパイストスⅪ |
![]() | アレイシア |
![]() | エウブレナ |
![]() | ネーレイス |
![]() | プロメテウス |
![]() | 〈マンビキッソス〉 |
story1 HOLIDAY
プロメトリックによる事件が終結し、しばしの時が経った。
自らの正義を見つめ直すため、ゴッド・ナンバーズを辞し、オリュンポリスを旅立ったアテナⅥことネルヴァは今――
オリュンポリスにいた。
アテナⅥ |
---|
己が信じる正義のためとはいえ、市民を裏切りヴィランと手を組んだのだ。のうのうと姿を晒せるわけもない。
ネルヴァは物陰から物陰へと密かに移動する。だがその足取りが、ある場所でピタリと止まった。
ディオニソスⅫ | アポロンⅥ |
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かつて彼女と最強の座を争ったアポロンⅥ。彼女をー撃のもとに下したディオニソスⅫ。ともに因縁浅からぬ相手だ。
ヒーローはブラック公務員だ、という噂が絶えないのは、だいたいアポロンⅥのせいである。
ふたりは話しながら去っていき――気がつくとネルヴァはその後を歩きだしていた。
そうつぶやいて、ふたりの後をこそこそと尾行していくネルヴァの後ろを――
これまたこそこそとつけていくひとつの影があった。
ヘパイストスⅪ |
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ヘパイストスⅪことアイスキュロスである。
ネルヴァとともに旅立ったアイスキュロスは、その後もずっと、行動をともにしていた。
忘れ物を取りに戻るというネルヴァを見送り、オリュンポリスの外で待っている予定だったが、心配でこっそり後をついてきたのだ。
ついてきて正解だったね。あのような飲んだくれにだけは、ネルヴァを渡すわけにはいかないよ。
間違いが起こらないよう、最後まで見届けなくては……。
アイスキュロスはそうつぶやき、ふたりの後をつけるネルヴァの後をつけていった……。
***
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***
ヴァッカリオは行く先も告げられず、アポロニオに引きずられるように歩いていた。
その兄の足が、気まずい場所で止まった。
プロメテウス |
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市民を愛するヒーロー、アポロンⅥは、みだりに無皐の民を疑ったりはしないのだ。
そうしてアポロニオが向かったのは……。
アレイシア |
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弟の職場――ヴァンガード本部だった。
エウブレナ | ネーレイス |
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騒ぎを聞きつけて集まったヴァンガードの人々に、アポロニオは輝く笑顔を浮かべながら丁重に頭を下げた。
たいしたものではないが、これは手土産だ。皆で食べるといい。
アポロニオはさきほどエリュマで買ったものを、混乱気味のエウブレナに手渡した。
言いながら、アポロニオは室内に落ちている空き缶を拾い、散らばった物を綺麗に整頓させていく。
エウブレナの号令ー下、ー斉に動き出したヴァンガード隊によって、小ー時間後、室内は綺麗に生まれ変わった。
さて、挨拶も済んだ。すまないが、ヴァッカリオを借りる。さあ、行くぞ。
窓に張り付いてこのー部始終を見ていたネルヴァは息を吐いた。
思えばあの戦いの時、奴の思わぬ行動に私の気持ちを乱されたのが敗因だった。知らずに術中にハマっていたのだな。
ネルヴァは納得したようにうなずき、ふたりの後をさらに追う。
そのー部始終を離れた場所から耳をそばだてて聴いていたアイスキュロスは、断片的に人ってきた言葉に身を震わせた。
ネ、ネルヴァ、やはりあの男を!?いけない、いけないよ、ネルヴァ!
――なお、片付けた部屋は3日で元通りになった。
story2 LUNCH TIME
アポロニオがヴァッカリオを連れてきたのはアポロン区だった。
ヒーローをはじめとする神話還りの出現によってオリュンポリスは急速に発展し、世界最大の都市になったという歴史がある。
彼らの力は戦いのみではなく、平時においても人々を守っているのだ。
いまもなお復興を続ける街並みに笑顔を向けながら、アポロニオは歩く。その視線はどこまでも温かだ。
やがてたどりついたのは、公園だった。
それは幼いころ、ヴァッカリオがよく遊んでいた場所だった。思わず、頬がほころぶ。
ヴァッカリオは遊具に腰掛ける。子供のころは地に足のつかなかったそれが、いまは笑ってしまうほどに低い。
遊具の角を撫でながら苦笑していると、膝の上になにかが置かれる。
ランチボックスをひらいたヴァッカリオの目に飛び込んできたのは――
キャラ弁だった。
思えば、ヴァンガードに対する態度には私情が混じってしまっていた。その詫びの気持ちもこめた。どうだろうか?
綺麗に並べられた卵焼きが象っているのは、アレイシアやエウブレナの顔だろうか?無駄に可愛い。
そして卵焼きの隣には、卵焼き。その隣には、また卵焼き。端っこに、ミートオムレツ。
卵率10割だった。思わず、乾いた笑いが出る。
そうだ、髪を縛ってやろう前髪が食べ物に触れると、衛生的に良くないからな。
いまさら首を横に振ることもできず、バイデント型の二叉フォークを卵焼きに突き立てて、一欠片、口へと運ぶ。
その味わいは、一言。
実際、不昧いわけではない。ただとにかく甘い。甘すぎる。大人の酒飲みには辛い。
救いを求めるような気持ちで、ミートオムレツをフォークに刺して口に運ぶ。その味わいは――
甘甘甘甘甘甘甘甘甘甘辛かった。
ヴァッカリオの差し出したオムレツをアポロニオはパクリと口に入れる。
そして無言でよく咀咽し、飲み込んでからー言。
その満面の笑みに、嘘などかけらも見当たらない。
ヒーローは戦いに背を向けない。ヴァッカリオは覚悟を決め、甘みの渦へと飛び込んだ。
その光景をわずかに離れた場所からこっそり観察していたネルヴァはつぶやく。
私は広報をおろそかにしていた。心の余裕がなかったのだな。それが戦いの時の余裕も失わせていた、か……。
ヒーローに復帰することができたら、次は笑顔のひとつも浮かべ、ポスターでも作ってもらうとするか。
そのネルヴァをこっそり監視しているアイスキュロスもつぶやく。
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おお、そうだ!次のポスターは、この隠し撮りした、お前がゴミ箱の上で寝ている写真はどうかと提案してみよう!
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言われて、ヴァッカリオは思い出す。
かつて仕事中に飛び出して、この公園でサボっているところを兄に見つかったことを。
どういう流れだったか、話は兄の料理を食べる食べないの言い合いになり、差し出された弁当にそっぽを向き続けた。
俺はあのアポロンVIの弟として、恥ずかしくないヒーローになれるのか、ってね。
その言葉にアポロニオは目を細めると、すっと手を伸ばし、弟の首筋に触れる。
そこにはヴァッカリオがいつも着けているチョーカーがある。
ヴァッカリオのチョーカー。それは彼の教育係を務めた男、クリュメノス――先代のハデスⅣから贈られたものだ。
ゴッド・ナンバーズが直々に教育係を務めるだけでも珍しいのに、他の神話特性を持つヒーローを育てるなど、例外中の例外だ。
心配性で、優しすぎて、いつも笑ってて……おいらとはまるで正反対の、ヒーローの鑑さ。ま、もっとも――
ヴァッカリオは首のチョーカーをつまみ、肩をすくめる。
いまはもうGPS機能は壊れている。彼を管理する者もいない。チョーカーを着ける理由はひとつもない。
それでも、外す気にはなれなかった。戦えない年月のあいだでも、これを着けていればヒーローでいられる気がしたのだ。
兄弟の間に沈黙が落ちる。だがそれは決して嫌なものではなく、昔日を懐かしむ、温かな空気が流れていた。
ヴァッカリオはさりげなく、視線を後方にやる。
わりと近かった。
その少し後ろで、なぜか目を潤ませているアイスキュロスも、けっこう近かった。
ヴァッカリオは目線だけで兄に合図を送る。アポロニオはすぐに意を察したようで、コクリと小さくうなずいた。
ふたりは隣接するアテナ区へと移動した。距離をおいて、ネルヴァもついてきている。
アテナ区へ誘導したのには理由がある。区の現状を見せるためだ。
現在、アテナ区の復興はもっとも遅れ、治安も乱れている。理由は明白――ゴッド・ナンバーズの不在だ。
さて、どうしますかね。なにかが起きてくれれば、ちょうどいいんだが)
そう考えていた、まさにその時だ。
……あ?なんだあれ?
story3 BIG BROTHER
振り向いたヴァッカリオの目に映ったのは――
身の丈の何倍も巨大な盾をかかげて走る、細身の青年の姿だった。
盾の裏は鏡のように磨き抜かれていた。
神話還りの能力が高くなればなるほど、それを操るには強い精神力が必要になる。しかしだれもがヒーローのように心が強いわけではない。
アポロニオの声が、冷徹な響きを帯びる。
法に照らし合わせれば、裁きは明白。即時処断。それ以外にない。
アポロンⅥより英雄庁へ。神器使用の許可を求める。
神の力が斑り、気配に気づいたヴィランが、振り向いて恐怖に身を凍らせる。だが、アポロンⅥの裁きはすでに下っていた。
アポロン・バスター・エラヒストス!
放たれた神のー矢は、過たずマンピキッソスを射抜き、瞬時にして意識を刈り取ると――
蒼弩の彼方へとヴィランの肉体を連れて行った。
わずかな後、アポロンⅥの端末に通信が入る。
兄のその言葉に、ヴァッカリオは苦笑を浮かべる。
「エラヒストス」とは「最小限」。すなわち、いまのアポロン・バスターは最低出力で放たれていた。
言うまでもなく、ヴィランを殺さず、アフロディテ区まで飛ばすためだ。あそこならば、罪はただの窃盗で済む。
ルールの守った上で家族の笑顔も守れるのなら、それに越したことはないだろう?
だが、だというのなら――
ー部始終を見ていたネルヴァは、小さくうなずくと、そっとその場を離れるのだった。
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見てみなよ。真面目なエウちゃんだって、服装は攻めてるじゃない?
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***
自室へと戻ったネルヴァは、だれにも見つからないように棚の奥深くに隠した忘れ物を無事に発見した。
それは小さなロケットペンダント。中に入っているのは――母の写真だ。
十数年ぶりにひらいたそれを、ネルヴァはじっと見つめる。
私は己の心を見てみぬふりしていただけ……。母を忘れたことなど、なかったのにな。
悲しみを切り捨てるのではない。この悲しみを抱えて、正義を見出す。……私にできるだろうか?
そこでフッ、と笑みを漏らす。
アイスキュロス。
叫びをあげたアイスキュロスが気まずそうな顔で物陰から姿をあらわす。
……あのさ、君は残った方が良くないかい?Ⅻと離れたくないだろう?僕のことは、放っといてくれれば……。
……って、あれ?ネルヴァちゃん?どこ?
次は目玉焼きやスコッチエッグも入れよう。ギッシュも良いな。あるいはエッグベネディクトが良いか?
遠慮せず、リクエストすると良い。料理には自信があるのだ。
【公式ツイート】GWを記念したスペシャルなイラストをお届け(*´ω`*)
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