【黒ウィズ】巨神vs戦神 Story
開催日:2019/10/11
目次
登場人物
最強の堕落者:ディオニソスⅫ
創滅の魔神:プロメトリック
story1 ARREST
きっかけは、魔道士ギルドに立ち寄ったときのバロンのー言だった。
「うむ、励んでいるな。結構結構。だが、ちと励みすぎて、たまに想像を超えているぞ。
「人々の奉仕者たれ」が我らの理念ではあるが、お前の場合、奉仕者を通り越して、英雄と呼ばれかねんな。
まあ、その頃には私は大英雄と呼ばれているだろうがな!」
根拠もなく、自信満々に言うバロンのことはともかく、英雄とは、どんな人物だろう?
ウィズに相談すると、師匠は断言した。
「そんなの、決まっているにゃ。」
それはなに、と君が問い返そうとした時――まばゆい輝きが君たちを包み込んだ。
「にゃにゃ!またかにゃ!」
わずかな時間の後、君たちの視界に映ったのは――
見たことのない不思議な都市の光景だった。
激しい音に振り向くと、店らしき場所から奇妙な存在が飛び出してきた。
「お客様~!強盗はよくないですよ~!」
こちらに向かってくる相手に、君はとっさに手慣れたカードを構えて魔力を込める。
「にゃ?機械だったみたいにゃ。」
やりすぎちゃったかな、とも思ったが、とっさに発動できるカードがアレだったので、仕方ないな、と君は自分を納得させた。
「ありがとうございます。おかげで奪われたものは取り返せました。けど、大丈夫ですか?」
なにが?と君が店員に問い返す前に、新たな人物があらわれた。
「ちょっとちょっと!なにやってるんですか?いくらヴィラン相手とはいえ、いきなりそんな強力なパンドラ、使っちゃダメでしょ!
見たことない顔だけど、うちの区のヒーローじゃありませんよね?どこの区ですか?能力は雷だから、ゼウス区の方?」
ヴィラン?パンドラ?ゼウス?初めて聞く言葉を並べられ、君は混乱する。
君はとりあえず、雷以外も使えるよ、と火属性と水属性の魔法も使ってみせた。
「うわっ!ポセイドン神の力とヘパイストス神の力?本当にどこの区の所属なんですか?」
「所属はクエス=アリアスの魔道士ギルドにゃ。」
「おお、ただの猫だと思ったら、あなたもヒーローでしたか。猫に変身できる能力……初耳ですが、アルテミス神ですか?」
師匠の名前はアルテミスじゃなくてウィズだよ、と君が説明すると、相手は怪厨な顔をした。
「とりあえずヒーロー証の提示をお願いします。私はこのハデス区所属のハデスC213です。」
相手はこの異界の文字らしきものが書かれているカードを見せながら言う。
同じものを見せろ、ということらしいが、この異界に来たばかりの君は、当然、そんなものは持っておらず、首を振るしかない。
「ヒーロー証がないということは、無認可で能力を使用した、ということですね。
逮捕します。」
「にゃにゃにゃ!?」
***
君は捕まり、拘置所に入れられてしまった。
だが君の使った能力は無認可で使うには過剰と判断せざるを得ない。そもそも、あれはどの神の力なのだ?
君はありのままを説明した。クエス=アリアスという異界から来たこと。自分が使ったのは精霊魔法だということ。しかし……。
そう言って、狭い部屋に君とウィズを残し、相手は去ってしまった。仕方なく、しばらくその場でじっとしていたが……
なにか聞くに耐えない言葉が響いた直後、扉がけたたましい音をたてて開き、見知らぬ女性が姿をあらわした。
搾猛な獣のような含み笑いしてから、女性は扉の外を親指で差した。
アタシのことは気軽にボスとでも呼んでくんな。せいぜいこき使わせてもらうよ。
story2 WORKING
汚い部屋だな、というのが第ー印象だった。
そして汚い人だな、というのも第ー印象だった。
酒臭い息を吐きかけながら缶を差し出す目の前の男に、結構です、と君は首をふった。
さすが師匠、言いにくいこともズバッと言うな、と感心しながら、君も自己紹介をした。
なんかまた変わった人が増えたな、と思っていると、少女は君の身体をべタベ夕と触りはじめた。
個性的でいい顔してると思ったよ、と君は伝えた。
少女は隣の部屋まで戻ると、何事もなかったかのように再登場した。
わからないことがあったら、なんでも聞いてくれよな。……ふひ。
最後の方、なんか漏れてたな、と思いながら君はよろしくね、と挨拶をした。
……大丈夫なのかな、と思いながら、君はこの異界について色々と質問をした。その結果、様々なことがわかった。
この異界はオリュンポス12神という神々を崇めており、その神々や古代の英雄・怪物の力を宿した特殊な人間が誕生するらしい。
神話還り(ミュータント)と呼ばれるその人々の中には、力を悪用するものもいた。彼らは都市に混乱をもたらした。
だが、悪に対抗する者もまたあらわれた。神話還りの力を正義のために使うもの――英雄(ヒーロー)だ。
そして犯罪の抑制のため、政府は治安維持組織を作り、正義の神話還りを迎えた。英雄庁の誕生である。
で、面白い力を使う奴が出たって聞いてね。アンタをスカウトさせてもらったのさ。
これでもー応は公的機関だ。所属してくれりゃ、アンタのその力も認可が降りるってもんだ。上へはアタシが話を通してやるよ。
いずれにしろ、人々のための組織なら、協力を断る道理はない。君はゾエルにうなずいた。
***
それから、君は地域ふれあい課として活動した。
仕事は、要するに雑用だった。
周辺地域の老人の家を訪ねて話相手になったり、迷子になったペットを探してあげたり、
そういう地域民とのふれあいだ。
常日頃、人々の奉仕者たらんと努めている君にはいつもと変わらない、穏やかな日常だった。
そう言うゾエルは、忙しいらしく、あまり姿をあらわさなかった。この課のことであちらこちらと折衝しているらしい。
ヴァッカリオは実働部隊の隊長であり、君の直属の上長にあたる。そのため基本的にー緒に行動しているのだが――
役に立たないどころか、足を引っ張ることが多く、なぜ彼が隊長なのだろうと疑問に思わざるを得なかった。
神器(パンドラ)というのは神の力を強化するヒーローの道具で、彼女はその開発や整備をする役割らしい。
で、技術者がそれを再現しようと作ったのが人造神器(レプリ・パンドラ)な。なんとか本物を再現しようとしてるんだけど、なかなか、な。
けど、神話還りでさえあれば誰でも使えるから組織にとってはこっちの方が重要かも。
ちなみにパンドラってのは「全ての贈り物」って意味で、神話にちなんでんだ。神から贈られた力を人間の手で模造する……ふひ、たまらん。
というわけで、なあ、いいだろ、カード。カードくれよぉ。そいつをいじりたくてたまんねえんだよお。ひ、ふひひひひひ。
……あ、いまもしかしてキモかった?ナシな、ナシ。オレ、キモくないから。
そんな複雑なメンバーと共に、地域の人々に貢献しながら君とウィズはしばらく過ごした。
そうしてようやく、この異界での生活にも馴染みはじめた頃、ゾエルがあらわれて、何事もないことのように言った。
ウィズ、先輩風吹かすなあ、と君は思った。
story3 WARNING
アレイシアとエウブレナの加入を祝って、歓迎会がひらかれた。
ふたりはハデス区に所属するヒーローとして新人研修を受けていたのだが、トラブルを起こし、処遇に困っていたらしい。
それを知ったゾエルが、ここぞとばかりに引き抜いてきたそうだ。
君はアレイシアが差し出した手を握り、よろしく、と微笑んだ。すると、アレイシアは力強く握りかえしてきた。
……めちゃくちゃ痛かった。
ふたりは歓迎会そっちのけで、言い争いをはじめてしまった。
そして――
にゃにゃ!?何事にゃ!
”WARNINGWARNING。ハデス区に犯罪者(ヴィラン)出現。住人はただちに避難してください。”
***
オリュンポリス、ハデス区。その片隅にある公園に、その男、ニコデムは朝から座っていた。
他にいくところがなかったからだ。
仕事をクビになってはやーヶ月。まだ妻にも息子にも言い出せずにいる。
会社に行くふりをして家を出て、妻の用意してくれた弁当を公園で食べ、夕方になると帰路に着く。
最近、帰りが早いのね、と妻は嬉しそうに言う。その笑顔をまっすぐ見ることはできない。
昔は良かった、と男は思う。彼は巨神クロノスの力をもつ神話還りで、怪力を誇っていた。
その能力で力仕事の必要な現場で活躍し、会社におおいに重宝されていた。給料もよく、家庭も円満だった。
歯車が狂ったのは、およそ十年前、神話還りの能力に関する法律が、より厳格化されてからだ。
ヒーロー以外の者の、無認可での能力使用を禁じる。それが政府のお達しだった。
認可を受けるには厳しい条件がある上、たいていの場合、少なくない使用料を取られた。法人格での使用だとさらに費用はかさむ。
要するに、ヒーロー以外の能力使用の、実質的な禁止だ。無認可での使用が発覚すれば、当人はもちろん、会社にも厳罰がくだされる。
結果、多くの会社では神話還りが冷遇されるようになった。うっかり能力を使われては、たまったものではないからだ。
無意識に能力に頼ることの多かった神話還りたちは、それを封じられ、パフォーマンスを発揮できなくなった。
彼もそんな神話還りのひとりだ。適当な理由で閑職に追いやられ減給され、以後十年余りをかけて無能の熔印を捺された。
そしてついに言いがかりめいた理由で、辞表を出すことを避けられなくなったのが、先月のこと。
十余年、貧しい生活が続き、蓄えは少ない。再就職しようにも、五十を越えた神話還りを雇ってくれるところは見つからなかった。
このままでは、就職したばかりの息子に頼らねばならない。だが、それは息子の未来を押し潰すことになるだろう。
彼が能力を宿す巨神クロノスは、我が子を喰らったと伝えられている。ならば、これは宿命なのか?
傍らの木に手をあて、握る。封じていた巨神の怪力が、みしりと幹を割る。だが、その程度だ。
彼の神話還りとしての能力は、高くない。高ければ、はじめからヒーローになっていた。
視線をあげると、オリュンポリスのビル群が、彼を冷たく見下ろしていた。
口にした言葉ではない。ハッキリと思考にのせたわけでもない。だがそれに、返事があった。
Pその希望を叶える力、私が与えよう。
いつの間にか、眼前に魔神がいた。黒い炎が、彼を包んでいた。
それは禁じられた欲望を呼び覚ます、漆黒神器(ブラック・パンドラ)―――
P目覚めたまえ、巨神クロノス。罪なき君を追い詰めたこの世界に、復讐を果たす時だ!
***
モニターに街の光景が映しだされる。そこには異形の姿があった。
巨神は叫びながら建物を破壊し、前進を続けている。それを遮るものは、どこにもいない。
”英雄庁認定。ヴィランコード〈クロノジョプレス〉。住人はただちに避難してください。”
こりゃ出動までしばらくかかるっしょ。
話を聞いていた君は、ウィズと視線を合わせる。
待っている間に傷つく人がいるのを、黙って見過ごせないからね、と君は答える。
君は毅然と答える。そんなの……。
ー瞬のことだった。アレイシアは叫びながら部屋を飛び出した。
ナワバリ争いもメンツも関係ねえんだ。アタシがいいと言やあ、いいんだよ!
地域ふれあい課、出動だよ!
***
いかんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!
story4 ARES-CHAN
ドン、と強烈な衝撃が機体を揺らす。見ると、アレイシアが機体上に着地していた。
わかってる、と君はこたえ、機体の上へ出てアレイシアの横に並ぶ。
ヴァッカリオの口から発射された飛沫は、都市の上空を煌めきながら舞い散っていた。
それはいいけど、いまの煌めくアレ、地上にいる人にかかってないかな……と気にしながら、君はカードを構える。
その横で、「来い」と言いながら、アレイシアが自分から飛びかかっていた。
迎え撃つように、巨神が拳を打ち下ろす。それを見たアレイシアは――
なんと正面から拳をぶつけ合い、小さな拳で、巨拳を弾き返した。
アイツはまだひとりじゃ全力を発揮できない。アレイシアの槍は見えるな?そいつに魔法をぶつけてくれ。
お前さんの魔力っての、うちの神の力に似てるんだわ。槍に当てれば、パワーアップすると思う……またこみあげ……ゔおっ!
言われるまま、君はアレイシアの槍に魔法をぶつける。すると槍が輝き出した。
アレイシアは全身を回し、槍を横薙ぎに振り回して飛んできた物体に叩きつけた。
了解、とこたえ、君はカードに魔力をこめた。
戦いは長引いた。
アレイシアのパワーはどんどん高まり、威力を増していくが……。
敵はその巨体に見合う強靭さを誇り、なかなか倒すことができなかった。
そう叫ぶアレイシアの足は、ふらふらとよろめいていた。
だが、アレイシアは、ボロボロの身体と震える足で、それでも決然と首を振る。
いっしょに戦っている君には、アレイシアの気持ちがわかる気がした。たしかに、敵は巨大で強大だ。けれども――
思考を遮るように、ひときわ強い咆陣が響く。
わかってる、と叫び、君はありったけの魔力をカードにこめて、槍に放つ。
槍が輝きアレイシアの全身を照らす。と、同時に、巨神の口からすさまじいエネルギーが放たれた。
ひとりで泣いてちゃ、いかんでしょうがあああぁぁぁぁぁぁ!
そう、あの巨神の攻撃には、強い怒りと憎しみ、そして深い哀しみがあった。
それを受け止めずして、なにがふれあいだ、なにがヒーローだ、と君は思った。アレイシアも同じ気持ちだったのだ。
アレイシアは槍を構え、エネルギー波を正面から受け止めた。
敵の攻撃を受け止めながら、ー歩、またー歩と、アレイシアは進む。その歩みは力強く、迷いがない。そして――
構えた槍がエネルギーの奔流を切り裂き、夜空を裂くー筋の流星と化して、アレイシアは飛んだ。
――わずかな静寂。
次の瞬間、巨体は内から弾け、全てを貫<流星が、ビルの屋上へと着地する。
モニター越しに、この光景を見ていたオリュンポリス中の人々を、戸惑いと沈黙が支配した。
あれはなんだ?あの小さな者は?あんな神はいたか?あんなヒーローが?あれはいったい、なんなんだ?
声なき問いに答えるように、小さな英雄は、大音声をあげる。
「「「……アレス!」」」
「「「アレス!アレス!アレスちゃん!アレスちゃん!アレスちゃん!」」」
人々の歓喜の声が都市を揺らす中、爆発の光が、君とウィズを包む。
……いや、これは違う。
そうだね、と君は言い、彼方のビルにたたずむ、アレイシアに視線をやって、帰還に備える。
新たなヒーロー誕生の光景を、その目に映しながら――
story5 VANGUARD
気がつくと、ニコデムはビルの屋上に倒れていて凶悪な顔をした女性に見下されていた。
なんにも覚えてない?そうか。んじゃ、帰りな。アンタがいると、話がややこしくなる。
わけもわからぬまま、送られて帰途に着く。自宅の扉を開けると、妻が駆け寄ってきた。
なにやらヴィランが大暴れしたらしく、事件に巻き込まれたのかと心配していたようだ。
実を言うとな、仕事をクビになった。ずっと前からなんだ。それで、家に居づらくて……。
勇気を出して発した言葉に、妻はキョトンとした顔をした。
気がつくと、涙を流しながら妻を抱きしめていた。苦笑いをしながら抱きしめ返してくれた、妻の目尻にも、輝くものがあった。
ひとりで守ろうとする必要などなかった。ヒーローにはなれなかったかもしれない。けれども、かけがえのないものを手に入れていた。
(ひとりで泣いてちゃ、いかんでしょうがあああぁぁぁぁぁぁ!)
どこで聞いたのか、もう覚えてもいない言葉に、何度もうなずきながら、ニコデムはいつまでも妻を抱きしめ続けた。
***
次こそは君を手に入れてみせるよ。我が愛しのアレイシア……。ふふふ……ははは……ははははははははは!
***
まったく、こういう時になんでもできる便利な部下がいなくなっちまったのは、頭が痛いね。アンタらも見習っとくれ。
アレイシア。祝勝会にぴったりの素敵なお店っていうのにはまだ着かないの?
pいらっしゃいませ~。エリュシオンマートヘようこそ~。
***
君とウィズは無事、クエス=アリアスヘと帰還した。
「今回はこき使われたにゃ。」
でも、楽しかったね、と君は微笑む。そして異界に行く前にしていた会話を思い出し、ウィズにあらためて訊く。
英雄とは、どんな人物のことだろう、と。
すると、師匠はいたずらっぽく笑って言った。
「いまさら言葉にしないでも、キミにはもうわかっているはずにゃ。」
ひとりの少女の姿を思い浮かべながら、君は、そうだね、と笑って歩きだす。
いつか、再会する日を想像しながら。
01. ARES THE VANGUARD 1・2・3 | 2019 10/07 |
02. 巨神vs戦神 | 10/11 |
03. アレイシア&エウブレナ編(謹賀新年2020) | 01/01 |
04. ARES the VANGUARD(魔道杯) | 02/21 |
05. ARES THE VANGUARD Ⅱ ~英雄大戦~ 序章・1・2・3・4・5・6・7 | 2020 03/30 |
06. アポロニオ&ヴァッカリオ編(GW2020) | 04/30 |
07. アレイシア編(GP2020前半) | 08/31 |
08. ヴァッカリオ編(GA2020後半) | 09/17 |
09. ARES THE VANGUARD Ⅲ ~ジャスティスカーニバル~ 1・2・3・4・5・6・7 | 2020 11/13 |
10. アレヴァン編(8周年) | 2021 |
11. ~RAGNAROK~ -鼓動-(魔道杯) | 06/25 |
12. ARES THE VANGUARD Ⅳ ~RAGNAROK~ -終焉- 序章・1・2・3・4・5・6・7・後日談 | 06/30 |