昇平楽・ストーリー・终章
最終章「ハジンシ」・壱
計画の内訳。
起きろ⋯⋯寝ちゃだめだ⋯⋯
彼女に恩返しをするって約束だっただろ⋯⋯
死んだら何もできないんだぞ⋯⋯
早く⋯⋯目を覚まして⋯⋯
胡桃粥:!!!
───
胡桃粥は突然夢から覚めた。額と背中が汗で冷たく濡れている。彼の息遣いが落ち着く前に、瑪瑙魚圓が麻袋を二つ担いで勢いよくやってきた。
胡桃粥:あなた……
瑪瑙つみれ:目を覚ましたようだな、早く行くぞ。
胡桃粥:どこへ……担いでいるそれはなんですか?
瑪瑙つみれ:聖主だ。
胡桃粥:え???
瑪瑙つみれ:驚いていないで、早くしろ。眠りについたこいつをなんとかして麻袋に突っ込んだんだ。もじもじしていれば、聖女が来ちゃうだろ。私が一撃で首を斬り落としても知らないぞ。
胡桃粥:そんな……だめですよ!ここまで来て諦めるというのですか!?
瑪瑙つみれ:諦めて何が悪いの?お前の命より大事なものなんてないだろ?
胡桃粥:……
瑪瑙つみれ:何ぼうっとしてるんだ?お前も私に担がれたいのか?
胡桃粥は悔しかったが、言うことを聞いて起き上がり、瑪瑙魚圓の後について部屋を出ていくしかなかった。
───
聖教は恐ろしいほど静かで、二人はほぼ順調に進めた。途中、瑪瑙魚圓の手に一歩も及ばない黒服が二、三人おり、今にも聖教から逃げ出しそうな二人を何もできずに見ていた。
瑪瑙つみれ:大丈夫か?本当に担がなくて平気か?
胡桃粥:こんな時に冗談を言っている場合ですか……あれ?あれは……
胡桃粥の視線の先を見ると、一人の影が扉の外に立っている。その人の足元には黒い影がたくさん倒れている。しかし彼は下を見ることなく、まっすぐと立っている……白酒だ。
白酒:守衛はみんな片付けたぞ。
瑪瑙つみれ:ふっ、お見事だ。早く行こう!
───
胡桃粥は呆然と扉の外へ引っ張られると、木の下に三匹の馬が整列している。白酒が準備してくれたのだろう。
胡桃粥:あなたたち……
白酒:二人が出発する前、瑪瑙魚圓と決めたんだ。一日以内に聖女から役にたつ情報を得られなかった時は、聖主をとっ捕まえてゆっくり尋問するってな。聖主がいなきゃ、聖教も何もできないだろう……俺たちもまた策を考えられる……
白酒:すまないが、病気のことは俺が口を滑らせちまった。
瑪瑙つみれ:謝る必要ないわ。事前に教えてくれなきゃ、このバカは命を落としていたところだったのよ。
胡桃粥:……
瑪瑙つみれ:何見てるのよ?まさか、薬がなくなったことも隠すなんて。私は正直に白状するチャンスは与えた。そのチャンスを無駄にしたのはお前だ。帰ってからしっかり叱ってやる。
胡桃粥:そんなことしたって……どうせ私の体は、遅かれ早かれ死ぬのです……
瑪瑙つみれ:死なせない。
瑪瑙魚圓の口調は堅く揺るぎなかった。話しながら胡桃粥を馬に乗らせ、その表情は少しばかり怒っているようだ。
瑪瑙つみれ:約束しただろう。「犠牲」を崇高しない国を作るって。どんな苦しみがあっても、背負うのはお前じゃない。
胡桃粥:しかし……
瑪瑙つみれ:私が一番恨んでいるものが何か、知っているだろう……罪のない人が犠牲になるのは、もう二度と起きてほしくないんだ。
胡桃粥は山河陣の生贄として捕まった罪のない人たちや、一族のために命を惜しまず戦った白虎の兵士、東籬のために命を捧げた陶舞を思い出した……そして突然悟り、ひどく後悔した。
胡桃粥:……申し訳ありません。
瑪瑙つみれ:ふん、過ちに気づいたのならそれでいい。行こう。ここからは私たちの旅を楽しむんだ!進めー!
───
しばらくして
地府
麻袋を地面に置き、瑪瑙魚圓は疲れた肩を揉むと、笑って言った。
瑪瑙つみれ:どんな罪も、地府の無常司の前では隠すことはできないと聞いた……今日はツイているな。早く有名な耀の州の拷問を見せてくれ。
豆汁:えへへ……黒ちゃん緊張することないよ。もし何かヘマをしたら、わたしの豆汁を飲ませちゃえばいいんだよ。
油条:……俺はただ仕事をするだけで、見せびらかすわけじゃない。ヘマなんかするか……
青年はどうしようもなさそうに言った。身を屈めて麻袋を開けると、中にいる縛られた人が見えた。みんなが興味津々に周りを囲んだ。
胡桃粥:悪事を働いている聖教の聖主が、まさか……
白酒:子供?
蛇スープ:……
最終章「ハジンシ」・弐
雲万里に開き、天下太平になる。
麻袋の中にいる、縛られた怒っている少年を見て、みんなが驚いた。
瑪瑙つみれ:あの時は暗くてよく見えなかったが、まさか子供だったなんて……
油条:俺は……子供を尋問した経験はないぞ……
蛇スープ:僕は子供なんかじゃない……離せ。
瑪瑙つみれ:ふん、子供じゃないなら、いつも通りでいいだろう。お前たち聖教は一体何を企んでいる?嘘ついたら……手加減しないぞ。
蛇スープ:なんのことだよ……ここはどこ?御侍はどこにいるの?
瑪瑙つみれ:御侍?御侍がいるのか?聖女と聖主以外に、聖教にはまだほかにも裏で操っている人がいるということか?
蛇スープ:あんたたちは……敵だ……青ちゃん、白ちゃん。
そう言うと、二匹の蛇が少年の背後から姿を現した。動きは速かったが、即座に瑪瑙魚圓と白酒に一人一匹ずつ捕まえられた。
瑪瑙つみれ:一人と蛇が二匹。そんなんじゃ私たちに敵わないぞ。足掻いてないで、早く白状したほうが身のためだ。
蛇スープ:白状って……何を……
瑪瑙つみれ:……私の話、聞いてなかったのか?そう……
瑪瑙つみれ:お前たち聖教、つまりお前と聖女は山河陣に一体何をした?何を企んでいる?
蛇スープ:……
瑪瑙つみれ:何見てるんだ、早く言え。
胡桃粥:ゴホン……念のため聞きます。あなたは聖教の聖主ですか?
蛇スープ:………………違う。
瑪瑙つみれ:違う!?私はちゃんと内殿に行った。そこには聖主しかいないはず……聖主じゃないなら、お前はなぜ聖主のベッドで寝ていたんだ!
蛇スープ:あれは僕と御侍のベッドだよ。
瑪瑙つみれ:…………
胡桃粥:つまり……違う人を捕まえたのですね?
蛇スープ:聞き終わったなら放して。早く、彼のそばに戻らないと……
瑪瑙つみれ:……ふん、完全に人を間違えたわけではなさそうだな。
瑪瑙魚圓の表情が変わった。不敵な笑みを見せながら、少年に一歩近づくと、彼の前でしゃがんだ。
瑪瑙つみれ:坊や、御侍とずいぶん仲がいいようだな……そんなに慌てるなんて、まさか初めて彼のそばを離れたわけじゃないよな?
蛇スープ:あなた……何をするつもりだ?
瑪瑙つみれ:ふっ、お前は御侍を心配しているが、お前の御侍はちっとも心配していないかもしれないぞ。
蛇スープ:デタラメだ!
瑪瑙つみれ:ほう?つまり、御侍もお前を心配して、すぐにここに探しに来ると?
蛇スープ:……
胡桃粥:瑪瑙魚圓、まさか……
瑪瑙つみれ:ふっ、これ以上の「魚の餌」はない。
瑪瑙魚圓の溢れ出す笑みを見て、隣にいた豆汁は油条のそばに寄ると小さい声で言った。
豆汁:黒ちゃん、地蔵様は騙されたんじゃないよね?あの女の人の笑い方……悪い人そっくりだよ。
油条:……
瑪瑙つみれ:おい、そこで悪口を言ってるお前たち。こいつは任せたぞ。
豆汁:え?
瑪瑙つみれ:こいつは聖主の食霊だ。彼がいれば、聖教はすぐに探しに来るはず……墨閣の人がこっちに向かっている。お前たち地府もいるし、これだけいれば聖教に敵わないはずないだろう。
白酒:どこに行くんだ?
瑪瑙つみれ:東籬に帰って、丞相の病気を治すんだ。
胡桃粥:そ、そんなことをしては計画が……
猫耳麺:瑪瑙さま!お、お客さまが……
金髄煎:瑪瑙魚圓!
瑪瑙つみれ:どうしてここに?
金髄煎:みんなが出発した後、薬師が薬を忘れたって言うから、慌てて届けに来たんだ……
瑪瑙つみれ:チッ、だからあいつは信じられないんだ。まあいい、それよりいい薬が見つかった。
そう言うと、瑪瑙魚圓は聖教から担ぎ出したもう一つの小さい麻袋を床に置いた。袋の縄を解き、濃厚な薬のにおいが漂った。
胡桃粥:えっと……
瑪瑙つみれ:これが、私が頑なに聖教を滅ぼそうとしているもう一つの理由だ。薬師が前に言ってたの。聖教には医術に精通している人がいて、貴重な薬草を隠し持っているって。それを手に入れれば、あなたの病気にもきっと役に立つって。
瑪瑙つみれ:だが、どの薬草が効くのかわからなかったから、全種類もぎ取ってきたんだ……足りなければ、また取りに行けばいい!
胡桃粥:わ、私のために……
瑪瑙つみれ:ああ、これが今回の私の「本当の目的」だ。
瑪瑙つみれ:安心しろ。これは聖教から「盗んだもの」だが、金を置いたから、完全に盗んだわけじゃない。
瑪瑙魚圓は満足気に麻袋をきつく縛ると、もう片方の手で胡桃粥を外に引っ張った。
瑪瑙つみれ:言っただろう、死なせないと。私は約束を守る。
瑪瑙つみれ:金髄煎、一緒にここに残って聖教を片付けてくれ。私は先に胡桃粥と戻る。病気が治ったら、すぐに来るから。
───
反論する機会を与えず、瑪瑙魚圓は胡桃粥を引っ張って地府から出ていくと、馬に乗って東極へ向かった。
胡桃粥:たった薬草のためだけにこんなことをするなんて……
瑪瑙つみれ:安心しろ。もし、この薬草が効かなければ、また別のを探しに行く。仙薬でも仙草でも、無謀なことをするのは初めてじゃない。
胡桃粥:瑪瑙魚圓、あなたは一国の主ですよ。どうしてたった丞相のために、東籬を捨ててこんな遠い地までやって来るなんて……そして今度は新たな仲間を捨て、そして眼の前の敵にすら目もくれず。こんな私のために……
瑪瑙つみれ:逆に聞くが、君主はなんのためにあると思う?
胡桃粥:え?
瑪瑙つみれ:私はなんのために東籬の国王になったと思う?国の繁栄のため?高い地位や富のため?歴史に名を刻むため?もし、これらを望み、それを叶えるためなら自分の仲間も犠牲にするのが名君というのなら、私は一生暗君でいい。
胡桃粥:しかし……しかし、ここまで来たのなら、張千の行方を探ることも……
瑪瑙つみれ:……心配ない。耀の州が平和なら、張千も安全だ。これも私が東籬という国を作った当初の想いだ。
彼女は太陽が昇る遠い東を見た。その目は燃えるような希望に満ちていた。
瑪瑙つみれ:人がいない国など、ただの綺麗な殻でしかない。それでは棺桶と変わらない。人さえいれば、それが百人、十人、一人であろうと……人さえいれば国は滅びない。
瑪瑙つみれ:私が東籬の王になったのは、我が国の国民を守るため……胡桃粥、お前は我が国の国民だろう?
その問いで、胡桃粥はあの時自分がなぜ東籬に留まると決めたのか、なぜこのわがままで恐れを知らぬ君主のそばに残ると決めたのかを思い出した。
心配や不安が消え、胡桃粥はようやく温かい笑みで彼の君主を見つめた。
胡桃粥:陛下、私は当然ながらあなたの国民です。
瑪瑙つみれ:その通りだ!
荒凉とした大地に夕日が落ち、辺り一面が金色に輝いた。まるで、まもなく訪れる輝かしい時代のようだ。馬に乗った二人は、この光輝く広い旅路で、終わりがどこか知っていたため、長い道のりに迷いを感じることはなかった。
瑪瑙つみれ:私は耀の州のためなら全てを捧げるわ。でもそれは新しい仲間を作ったり、敵が降参したり、人々に好かれることじゃない。ただ、世界が平和で幸せに暮らせればいい。
瑪瑙つみれ:事が終われば身を隠す。たとえ鉄のわらじを履いて数千里歩むことになっても、私は東菊を守り抜く……それだけで十分よ!
「昇平楽ショウヘイラク」完。
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