時のレクイエム・ストーリー・サブ幕間Ⅳ
幕間Ⅳ
4-1-人形
事件当日
時の館客室
フランスパンが戸を開けと、その部屋は他の部屋とは違い、あまり多くの装飾は施されていなかった。
シーツも綺麗なままで、隣に置いてあったキャリーケースだけが、そこに人が住んでいるということを物語っている。
フランスパン「おや?これは?」
机の上にはポツンと一体の人形と、メッセージカードが置かれていた。
フランスパンがテーブルの前に来て、その精巧にできた人形を手に取ってよく調べてみると、それはなんとオペラを小さくしたような人形だった!
フランスパン「まるで本物みたいですね……ブルーチーズが作ったのでしょうか?」
フランスパンは続けてメッセージカードを手に取って見る。
そのカードに書かれた名前にフランスパンは驚いた。
フランスパンは手に持った人形とカードを元の場所へと戻す。机の上に置かれた人形は実に精巧に作られており、縫い目も上手く見えないように隠されていた。
機械で作ったような精巧だが、ラベルがついていない。きっとスフレが相当な手間をかけて作ったのだろう。
フランスパンは、応接室でオペラの歌を聴いた時のスフレの反応を思い出し、以前から知っていたに違いないと考えた。
4-2-楽譜
ブルーチーズとオペラの部屋はさっぱりしたもので、自分たちの荷物さえも広げた跡がなかった。
彼らはここで長居したくないと考えていたであろうが、公爵は確かに十分良い部屋を手配していたのだと感じる。
彼らはあまり多くの荷物は出しておらず、必需品程度だ。そしてオペラの荷物で最も多かったのはなぜか喉飴だった。
ブルーチーズの荷物はオペラよりもさらにシンプルで、必需品以外バックの上に乗っていた楽譜ぐらいだ。
フランスパン「ん?楽譜でしょうか?書きかけのようですが。」
ベットの枕元にある引き出しには制作中の楽譜があった。手書きで書かれたその楽譜は何度も手直しされており、たくさんのコメントが記されていた。
フランスパン(この筆跡は……ひとりではない。何人かの手で書かれたもののようです)
フランスパンは音楽に対して専門的な知識はなかったものの、歌詞を見るだけで、この曲にかけた製作者の思いが伝わってくる。
フランスパンが楽譜をめくっていると、右下にはふたりの見知った名が記されていた――【オペラ&ブルーチーズ】
フランスパン「オペラとブルーチーズ……彼らが書いたものだったんですね?」
フランスパン(あのふたりの関係は、良好であるのでしょう)
4-3-巨大な鏡
フランスパンは時の館最北端の廊下を歩いていた。
U字の廊下には窓があったものの光はあまり射さないようですね。このような薄暗い場所には大概、怪しげな何かが隠されているものだ。
フランスパンはそんな推理のもとあたりを探索し、ある扉を見つける。
その門に錠はなく軽く押しただけで開いた。
開いたはいいものの部屋の中は暗闇に包まれている。さらに廊下の暗闇が部屋の暗さが侵食してしまったのか……はたまたその逆か、全くわからないほど同じ空間のように思えた。
フランスパン「すぐに目も慣れるでしょう。このような不思議な現象に私は翻弄されたりしませんよ。」
フランスパンは無表情のまま部屋に足を踏み入れる。
しばらくして、彼はあたりの暗闇にも慣れ、やっと辺りの状況を正確に認識できた。
やはり同じ空間ではなかった。まぁ、わかっていたことですが。
近くにはシングルベット、遠くには……誰かが立っているようだった。
だがフランスパンは躊躇しない。足を止めることなく、その人影に向かって進んでいく。
その人影は次第に大きくなるが、攻撃の意思はないようだ。
近づいて見るとそれは大きな置き鏡だった。ベットの方を向いて置かれたその鏡は、まるでひとつの生き物のように錯覚させられる。そして、その鏡に近づく全てのものを見張っているように見えた。近づけば、丸飲みされたかのような感覚に陥る。
フランズパンは眉を顰めながらも鏡を通り過ぎて、その先にある窓のカーテンを一気に開ける。
そうしてやっと部屋に光が差し込み、全容があらわとなった。
その時、彼はやっとベットの上に置かれた何体かの人形をを見つける。その人形はどこか見覚えのある作りをしていた。
フランスパン「オペラの部屋に置かれていた人形にそっくりですね。」
もう一方にある竹かごにはまだ完成していない人形と、縫い糸があった。
フランスパン「どうやら、ここがあの人形を作った人物の部屋のようですね。」
フランスパン「公爵夫人の執事であるスフレの部屋が……どうしてこんなところにあるんでしょう?この感じ……見るからにここに住んでいて快適とは思えません。」
フランスパン「こんな薄暗い部屋、公爵の死と関係あるんでしょうか?」
4-4-焼却炉
事件当日
時の館裏庭
時の館の広大な裏庭使用人たちの手によって美しく整備されていた。咲きほこる百合の花の清雅な香りはここに来る者を落ち着かせる。しかし、そんな雰囲気も焼却炉から吐き出される煙によって覆い隠されてしまっている。
フランスパンは煙をたどって歩く。すると、館の焼却炉を見つけた。
この焼却炉の前で使用人がふたり、なにやら口論しているようだった。
メイド「ここの燃料、あなたが持って行ったんでしょう! この燃料はお金になるものね!」
ボーイ「なに言ってるんだよ。今日の当番はお前だろう? 燃料を盗めるのはお前だけなのになんで俺が。」
メイド「少しここを離れた間に鍵と燃料が無くなったのよ。それでもあなた以外に誰がやったと思うの?」
フランスパン「何かありましたか?」
メイド「あ! 裁決官様!」
メイド「ちょうどいいところに来てくださいました。彼が燃料を盗んだせいで焼却炉が使えないんですよ!」
ボーイ「私はやってません!」
フランスパンは言い争うふたりの意見を聞きつつ、そのまま焼却炉の中を確認しに向かう。
フランスパン「おや? これはなんでしょう?」
一枚の布が灰の中から見つかった。何者かが慌てて焼却炉の中に投げたのだろう。他の者に見つかったら困る証拠に違いない。幸いにも灰の中に埋められていたお陰か、燃え残っていたようだった。
フランスパン「ふう……燃料が切れたおかげで、燃え残ったみたいですね。」
フランスパン「お聞きしたいのですが、今日何か服の布などのものを炉の中に入れましたか?」
メイド「そんなものは絶対にありませんでした!」
フランスパン(ということは……何者かが証拠隠滅を図ったようですね)
使用人のふたりは去っていくフランスパンの背中を見て、少しホッと息をついた。そのとき、唐突にフランスパンが振り返る。
フランスパン「どれだけ苦しい環境でも、生活がどれだけ苦しくても、今あるものを大切にしてください。道を外れたことをしてはいけません。裁決は誰に対しても平等に行われますから。」
メイド「は、はい!」
4-5-切り抜きノート
事件当日
執事の寝室
フランスパンは机の上に積まれた本から一冊のノートを抜き取る。
そのノートは初めからフランスパンの目を引いた。ノートは持ち主がよく使っていたからだろう、他のノートと比べ、かなり使い込まれているのが一瞬でわかった。
中を見ると、多くの新聞の切り抜きが貼られていた。フランスパンはその切り抜きの内容を見て驚きを隠せずにいた。
フランスパン(どうして子爵邸火災事件の記事を? 資料もかなり集めてられます。さらに、周辺住民への聞き込みまでメモしてあるなんて……)
フランスパン(どうして執事さんがこんなものを)
「関係者によると現場付近では火災直前に付近を徘徊している人影が目撃されており、何者かの放火と思われる。この火災により、子爵邸関係者の百人前後が亡くなった模様。」
この一行が赤ペンで幾重にもチェックをされていた。字が何か所かぼやけている。
フランスパン(執事さんはもしかして、この火災で大切な人を?)
フランスパンは子爵邸の現場の惨状を思い出し、ため息をつきながらもノートを元に戻した。そして本棚に目を向けた。
本も念のために確認したが、先ほどのノート以外に、手がかりになりそうなものを見つけられなかった。
4-6-ツーショット
事件当日
スティーブンの寝室
スティーブンのベットには豪華な服が置かれていた。おそらく今夜のパーティーで着るものだったのだろう。
机の引き出しにはスティーブンの財布があり、その中に白黒の写真があった。意外だったのはその写真はその写真は公爵夫人とのツーショット写真だったのだ。
写真ないのスティーブンはまだ幼い青年のようで、公爵夫人も満面のえみを浮かべていた。彼女の手にスティーブンの肩に置かれており、見た所中が良さそうに見える。
フランスパン「おかしいですね?」
フランスパンは応接室でのふたりのことを思い出し、どうしてあそこまで険悪になってしまったのだろうと考えた。
フランスパン(待ってください! この写真にはまだ何かある!)
フランスパンはもう一度写真をよく見る。スティーブンは随分と大切にこの写真を保存していたようだ。写真に記された日付を見ると、この写真は二十年ほど前のもののようだ……だがそこに映る公爵夫人の姿は今と全く変わっていなかった……。
フランスパン(健康に気を使っているからでしょうか? 女性のそういった問題に関しては事務所に戻ってから綿あめたちに聞いてみないことにはわかりませんね……。)
4-7-団長
半月前
旅□
目標の部屋の戸に鍵は掛かっておらず、人影が少し動いているのが見える。
ブルーチーズ「今回は逃げられませんよ!」
ブルーチーズは笑顔を浮かべながら、その戸を勢いよく開き、人影に向かって飛びついた。
ブルーチーズ「フッ、団長、やっと捕まえましたよ!———え?オペラ?」
オペラはちょうど門の横で何かを見ていた。突然現れたブルーチーズをゆっくりと振り返った。 ブルーチーズは腹立たしそうに乱れた髪を整え、目の前の冷めた人物を見る。
その後、あたりを見回した。続けてベッドの下、窓の裏、お手洗いと見て回って確認した。部屋はがらんとしており、オペラ以外誰もいないようだった。
ブルーチーズ「おかしいですね……部屋にもいないだなんて。どこに隠れたんでしょう?オペラ、君も団長を探しに?」
オペラ「ああ、これを見てくれ。団長がさらわれた。」
オペラの声は落ち着いたもので、頭を振り部屋の壁を見るように仕向ける。
ブルーチーズ「なんですか?うん?これは……」
彼の表情は次第に険しいものとなっていく。最後には額に手を当て、大きくため息をついた。
ブルーチーズ「……ガゼット公爵……またですか。今回は行かないとまずそうですね。オペラ、一緒に行きましょう。」
オペラは無言で頷く。
オペラ「今すぐ荷物をまとめて向かいましょう。時の館へ。」
4-8-足音
事件当日
時の館
最後の部屋を調べ終わり、フランスパンは二階廊下に戻る。あたりは静かなもので、初めは騒いでいた使用人たちの議論の声も今では聞こえない。
事件に関係している人物の部屋は調べ終え、フランスパンは集めて来た手がかりについて考える。
彼の脳裏にゆっくりと推理が完成していく。
フランスパン(私の推理……はたして間違いないのでしょうか?)
スランスパン(残すは最後の一箇所。そこへ行けば真相が明らかになるかもしれません!)
フランスパンはそう心に言い聞かせ、目的の場所へと向かおうとした。その時、遠くから奇妙な音が聞こえた。
ドン—―ドン—―ドン——―
スランスパン(重たい足音、それにとてもゆっくりなもの。常識的に考えれば背が高く、体重の重い人物のはずですが……この時の館にそのような体型の人物はいたでしょうか?)
フランスパンは音が気になり、音のした上の階へと向かう。
三階にたどり着くとそこは長い廊下で、廊下の先がよく見えなかったが、確かになにやら気配を感じた。
彼がその正体を確かめようとした時、下の食堂の方で騒ぎが起こる。
フランスパン「何かあったんでしょうか?」
フランスパンは騒ぎに少々驚き、あまり多くは考えず振り返ってそのまま騒ぎの起きた方へと向かった。
4-9-家族団欒
事件当日
執事の寝室
執事の寝室はとても清潔なものだった。見渡してみるとはじめに目に入るのが本棚、その後に整頓された机である。
フランスパンは机に近づいてやっと机上の本の背後にある写真たてを見つける。
それは家族写真だろうか、左に執事が、中央には可愛らしい男の子、そして右には執事の奥さんであろう優しげな女性がいた。
一家は写真の中ではとても幸せそうに見えた。
フランスパン「おかしな点はありませんね。」
スランスパンは写真から目線を外し、他の箇所を捜索し始める。
だがすぐに違和感に気づいた。この部屋の他の箇所には一切家族に関するものがないのだ。
以前はあったが今はないということなのだろうか。
フランスパン(見たくないのでしょうか……隠す必要があるとは思えませんが)
フランスパン(もう少し探してみましょう。もしかしたら他にも手がかりがあるかもしれません)
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