雪山に咲く「虹飴」・ストーリー・9-後日談
第九話:いざ青洞窟へ
ナイフラスト極雪山 翌朝
山頂目前
厚揚げ豆腐:まあしかし二人とも無事で良かったぜ!あの寒さだったから御侍は凍え死んじまうんじゃないかって心配したぜ!
湯葉の野菜春巻き:本当にご無事で何よりです。
湯葉の野菜春巻き:(フフッ、やはり貴方様は運に愛されている)
杏子飴:そうだよ。岩パンチで。
湯葉あんかけ:パンチ?!
湯葉あんかけ:……。
湯葉あんかけ:(おかしい……。『いつもの』杏子飴の肉体を覆う霊力は私と同等かそれ以下。摩擦で火を起こす事ができるだけの霊力はありません)
湯葉あんかけ:(ならばあの空間で怒髪天モードになって火を起こしたという事です)
湯葉あんかけ:(ですが、どうやって理性を保ったのですか?)
ライス:おんじさま!ごぶじでなによりです!
御侍:ありがとうライス!
杏子飴:……。
厚揚げ豆腐:山の頂上に近いってのに昨日の堕神共現れねえな……。
湯葉あんかけ:この山の堕神達は杏子飴とは長い付き合いですから、本気の勝負では勝てない事を重々理解しているのですよ。一度怒髪天モードの杏子飴と交戦したら一週間は巣の中に引きこもってしまいます。
御侍:どはっ……ん?
湯葉あんかけ:オヤ?皆さん、お喋りしているうちに見えてきましたよ。あれが七色水飴の眠る『青洞窟』です。
ナイフラスト極雪山 山頂 昼間
青洞窟内
御侍:これが……七色水飴?
湯葉あんかけ:ええ、その通りです。
氷柱が地面一杯に何本も広がっている。常識的な氷柱の色である『水色』をしている物はほとんどない。赤、黄、緑、青、藍、紫、橙。それぞれ基軸とした色を持った、青洞窟以外に存在しない氷柱だ。
それらの氷柱の色は絶えず変化している。赤の氷柱は数秒後には黄色に。赤が変われば隣の黄色の氷柱は緑色に。緑もまた同じ繰り返し。その隣の青もまたーー。
まるで規則性のない信号機のよう。
色変わりがあまりに速すぎる為、虹色に見える。
湯葉あんかけ:この氷柱はそれぞれ七色水飴が凝固してできた物です。一定の熱を加えてやれば粘液化します。
厚揚げ豆腐:でもこんだけ数ある氷柱、杏子飴の家に持って帰れねえよ!
湯葉あんかけ:そんな事はしません。いや、むしろやめて下さい。ナイフラストの保護指定食物に認定されていますから、過剰に持っていけば捕まりますよ?
厚揚げ豆腐:え、マジかよ!
湯葉あんかけ:マジです。
湯葉あんかけ:とはいえ、微量の採取は許されています。その可能採取量を見極めるのも冒険者サポーターの私と杏子飴の仕事です。そうですね……まずは皆様、氷柱を手のひらサイズにカットしてください!
湯葉あんかけの声が五人に届くとともに御侍が手持ちのナイフで氷柱の真ん中で割るよう試みた。岩にナイフをさしこむとーー
なんと岩のように固いと思っていた氷柱は弾力性のあるプリンのように柔らかかった。これならライスの力ですら一人で切り取る事ができる。
六人全員がそれぞれ担当量の氷柱の破片を手に握った。
皆の手に握る氷柱の破片は七色に輝いていて、食べ物というより芸術品を連想させる。スライム状の破片の割れ目からゆっくり水飴が流れ落ちて、地面を濡らした。
湯葉あんかけ:御侍様、たったこれっぽっちの量でご不満かもしれませんが自然保護へのご協力を何卒お願いできませんでしょうか?この欠片一つでだいたい千人分の虹飴が作れます。
御侍:せ、千人も!
湯葉あんかけ:我々六人が運んでお客様六千人分……。足りるでしょうか??
御侍:充分だよ! 後は味の問題だけだね。
御侍は地面に滴る七色水飴に左小指で少し触れ、口に運び、味見した。
湯葉あんかけが言っていたように塩の味だった。
湯葉あんかけ:では、杏子飴の家に帰宅し、調理を開始しましょう!
最終話:アナタの短所(ヨワサ)はアナタの長所(ツヨサ)
極雪原、極雪山ふもと 夜
杏子飴の家のリビング
まな板に並べられた割り箸の刺さった果物達。あんず、パイン、すもも、みかん、バナナ……。七色水飴をかける前からバリエーション豊富な材料が揃っている。
厚揚げ豆腐:(うーん……。速いな)
厚揚げ豆腐が液瓶の中一杯の七色水飴を見つめる。瓶の中の物質は絶えず鮮やかな光を放っている。先程まで紫だったのがアッという間に黄色に変色した。そして数秒経つとまた変色。暴走した信号機並みの速度で点滅する色を変える。
液瓶のキャップを外し、フライパンの上に七色水飴を乗せる。このフライパンは水飴製ではなくアルミニウム製。
厚揚げ豆腐:(うおっ、眩しっ!)
フライパンの中の水飴の光のせいで厚揚げ豆腐が目を覆う。だがすぐに、光に負けないようにそっと手を外し、目を凝らしながら水飴に向き合う。
そして割り箸の刺さったすももをまな板上から取り出し、フライパン上の七色水飴に絡められるよう照準を合わせる。杏子飴から教わったアドバイスを思い出しながら。
厚揚げ豆腐:(1,2,3…青色から藍色に変わる瞬間!今だ!)
素早くすももを七色水飴で絡めた。そして完成した。
ドス黒い色のおぞましいあんず飴が。
厚揚げ豆腐:なんでだよ!!もう二十回目だぞ!!
杏子飴:オヤ?まだマスターしてないんですか??
杏子飴が調理台に並べられた、厚揚げ豆腐の作った十九個のあんず飴に目を向ける。全てがドス黒くて、一目で不味い食べ物とわかる。
杏子飴:まあ、他の四人も貴方と同じでしたけどね。
右隣のキッチンに視線を向ける杏子飴に、つられて厚揚げ豆腐も同じ方を見る。
キッチン前で湯葉の野菜春巻きが困った表情で頭を掻く姿が見える。調理台には同じく失敗作のドス黒いあんず飴がいくつも並べられている。
湯葉の野菜春巻き:(クッ!)
杏子飴の自宅のキッチンは全部で六つ。それぞれ家の地下に用意していた。『依頼主に虹飴の生成法を教え込む場』として意図的に用意したキッチンだ。
杏子飴としては基本的に、依頼主に虹飴の生成法を覚えて帰ってもらいたい。『作れないから依頼主の家に来い』などと言われて、極雪山を離れるなんて事にはなりたくないのだ。
杏子飴:(○○王国の○○王の時は面倒だったなぁ。何回教えても覚えられなくて、しまいには『教え方が悪いからだ』って汚い言葉をぶつけてきたり、賠償金請求してきたり……)
依頼主で虹飴の作り方を覚えられた者は誰一人いなかったので、結果この家で多めに作って渡して帰らせるのがいつものパターン。幸にも不幸にも、依頼のリピーターは誰一人いない。
厚揚げ豆腐:おい、杏子飴!わかんねえからもう一度見せてくれ!
杏子飴:……わかりました。
杏子飴がカットパインに刺さった割り箸を握る。そして数秒置きに色を変えるフライパン上の七色水飴を凝視する。
杏子飴:ハアッ!
金魚すくいの名人が素早く水の中の金魚をボールですくいだすかのような、プロの手捌きで、カットパインに七色水飴を絡ませた。
失敗したなら絡まった瞬間に黒く変色する所、それが起きない。
成功したのだ。その証に水飴が絡まったカットパインから七色の光が一斉に発し始めた。ただの果物が虹飴へと変わった合図。
杏子飴:厚揚げ豆腐、見ていましたか?何度も言っていますが、コツは『色と色の変化の中間を狙う事』と『粘り気がご機嫌になった時』です。わかりますよね?
厚揚げ豆腐:わからねえよ!粘り気がご機嫌って何だよ!
口論混じりの会話を繰り返す二人。
その様子を左隣のキッチンにいる御侍と湯葉あんかけが観察している。
御侍:ねえ、ちょっと質問して良いかな?
湯葉あんかけ:構いませんよ。
御侍:今まで虹飴を杏子飴以外が完成させたことってあるの?
湯葉あんかけ:……私は見たことありませんね。
御侍:虹飴って、もしかして杏子飴しか作れないあんず飴なんじゃないの?
湯葉あんかけ:そう、かもしれません。依頼はこの家で杏子飴が作った虹飴を渡して完了とさせて頂いてましたから。
御侍:(もし杏子飴しか虹飴を作れないのだとしたら杏子飴をグルイラオに連れて行って彼に屋台の料理番をしてもらわなくちゃいけない)
御侍:(だけど、彼の性格上このナイフラストの雪山からなるべく出たくないはず。果たして一緒にこの山を出てくれるだろうか?)
湯葉あんかけ:御侍様、貴方の心中は察しております。
浮かない顔の御侍に湯葉あんかけが柔らかく微笑んで見せる。
湯葉あんかけ:ですが今貴方が思考を巡らしている事は取り越し苦労になりますよ。杏子飴は貴方についていく事でしょう。
湯葉あんかけの微笑みに背中を押され、決心が固まった御侍。右隣のキッチンに向かって力強い歩みで進んでいく。
そして、口論しあう厚揚げ豆腐と杏子飴の間に割って立つ。そして杏子飴の目を真っ直ぐ見る。
御侍:杏子飴!私と一緒にグルイラオに来てくれないか?そして屋台の料理番をして欲しい。君しか虹飴を作れる者はいないんだ。君の腕前でグルイラオの皆を笑顔にして欲しい。お願ーぅぷっ!
言い終わる前に杏子飴が七色の光を放ち続ける虹飴を御侍の口に突っ込んだ。
杏子飴:お味は如何ですか?
御侍:んんーー……、モグモグーー、
口の中の虹飴は触れ込み通りに美味だった。初めはリンゴ味だったが数秒ですももの程良い酸っぱさが、次にメロンのみずみずしさが、次にオレンジがーー、
次にチョコバナナの味が、次に焼きそばやお好み焼きの味が、次にじゃがバター、次にわたあめ、次に次に次にーー、
まるで味のデパート。焼きそばやお好み焼きのような、果物のような甘い食べ物とは食べ合わせの良くない料理の味に変わる時も『味の変わり時』を虹飴ーー料理の方が心得ているようなタイミングの良さ。
普通の料理なら『食べる者が料理に合わせる』所、虹飴は『料理が食べる者に合わせてくれる』。虹飴一つで夏の屋台名物料理の味全てを堪能できるだろう。
杏子飴:その様子ですと『美味しい』ようですね。
杏子飴が微かに笑うと御侍の口に突っ込んだ虹飴の割り箸から手を離す。御侍は虹飴を咥えたまま割り箸を握り、口元から離す。一瞬、あまりの美味さに口から離すのを躊躇してしまった。
御侍:美味しい……君の作ったあんず飴はとても美味しいよ。多くの人に伝えたいくらいに……。
杏子飴:グルイラオに出向くのに一つ条件を付けさせて下さい。お金は要りません。もっと重要な事です。
御侍:何だい??
杏子飴:これから今回のような力のある食霊が必要な冒険に出向く時は僕にも一声かけて下さい。
杏子飴は邪気のない誠実な瞳で真っ直ぐ御侍を見ながらお願いする。
杏子飴:僕は今回の冒険で僕自身をコントロールできる方法を掴みかけました。そんな事は今まで生きてきて一度も起こらなかった事です。
杏子飴:貴方と一緒に冒険を繰り返せば、いつか完全なコントロール方法が見つかるかもしれないーー。
杏子飴の瞳には熱意が宿っていた。必ず自分を変えてやるという強い願いーー願いすら超えた覚悟が読み取れた。
御侍:わかった、約束する。
御侍は自身の両手で杏子飴の両手を握り、包み込む。触れて分かるが、やはり杏子飴の体温はとても低い。この雪山では長時間彼に触れていられないだろう。
だが今年のグルイラオの夏は猛暑。彼に触れずとも傍にいてくれるだけで、彼の体から発する冷気で涼める事だろう。短所は使い方次第で最大の長所にもなり得るのだから。
御侍:行こう、グルイラオへ!!
後日談:アズキ×アツアゲカケル×(ユバ×2)=『四人の団欒』
桜の島 昼間
あずき寒天の修行寺
あずき寒天:そうなんだ……。それで杏子飴さんはどうなったの?
四人の食霊が寺の階段の最上段に座って雑談をしている。
厚揚げ豆腐:屋台の方は大繁盛で終えたらしいぜ。『お菓子食べたまま調理すんな!』つってあんず飴引っこ抜いた客と乱闘になったらしいけど。
あずき寒天:じゃあ、まだその怒りっぽくなっちゃう性格は治ってないんだ……。
厚揚げ豆腐:ああ、でも何故か御侍が1メートルくらい近くに来ると腰のあんず飴を自力で咥えられるようになったらしいぜ。あんず飴なしでも多少理性保てるようになったみたいだ。
湯葉あんかけ:不思議な力をお持ちの方ですね、御侍様は。
湯葉の野菜春巻き:フフッ、あんかけ、私が初めに言った通りだったでしょう?面白い料理御侍を見つけたと。
湯葉あんかけ:ええ。少しだけとはいえ、まさか杏子飴の怒髪天モードをコントロールできる人間がこの世にいるとは。
湯葉あんかけ:……これは私の仮説ですが、もしかしたら杏子飴の怒髪天モードになった時に起こる暴走は『食べ物を口から離す事』自体がトリガーなのではなく、そこから来る不安な精神状態がトリガーなのかもしれませんね。
厚揚げ豆腐:どういう事だ?
湯葉あんかけ:もし『食べ物を口から離す事』が怒髪天モード時の暴走のトリガーならコントロールできる可能性は微塵もありません。ですが御侍様と共に洞窟にいた時、あの姿になっても暴走状態に陥らなかったらしいです。
湯葉あんかけ:それどころか御侍様の為にあの力を使えたようです。杏子飴が御侍様の傍にいる事に安心感を覚えたからこそ、あの姿になっても暴走せず、かつある程度コントロール下におけたのではないでしょうか?
湯葉あんかけ:『安心感』。これが怒髪天モードをコントロールする鍵かもしれません。
厚揚げ豆腐:……てことはアイツが普段あんず飴咥えてんのは自分を安心させる為咥えてんのか?おしゃぶりみてーに。
湯葉あんかけ:……厚揚げ、言い方……。まあ、まだあくまで私の仮説段階ですよ、全て。
湯葉あんかけ:(なにせ杏子飴は……人間にも食霊にも拒絶されて、長らく独りぼっちであの雪山の小屋に引きこもっていた男です。約十年間、生命を維持するだけで、誰との繋がりもない雪山生活)
湯葉あんかけ:(私があの仕事にスカウトし、私と関わりを始めた事で『食霊への信頼』を少し取り戻し、今回の冒険で『人間への信頼』も少し取り戻したばかりですから。世界の良い面を彼はまだまだ知らないのです。)
湯葉あんかけ:……人も食霊も、産まれてすぐ人肌に包まれる事で、世界への安心感を得られるものですからね……。
厚揚げ豆腐:……。
あずき寒天:……。
湯葉の野菜春巻き:……。
帽子を抑え、うつむいて独り言を呟く湯葉あんかけ。彼の物憂げな表情と声色に対し、三人は返答できる言葉を持たなかった。
湯葉の野菜春巻き:……ゴホン。さあて、今度はどんな内容の『幻の料理図鑑』にして御侍様を冒険に導きましょうかね?
暗い雰囲気を変える為、湯葉の野菜春巻きが一つ咳をしてから話題を切り替えた。
厚揚げ豆腐:まだやんのかよアレ!!作るとき徹夜はテメエだけにしろよ!
あずき寒天:春巻き、あまり厚揚げを危ない事に巻き込まないで。
湯葉の野菜春巻き:別に私は厚揚げに対して冒険の無理強いはしていませんよ、あずき寒天。怖いならついてこなくても良いんですよ?厚揚げ。
厚揚げ豆腐:いや怖かねえよ!あずきも俺をいつまでも子ども扱いすんな!
あずき寒天:子ども扱いなんてしてないよ。ただ貴方の事が心配なだけ。
湯葉あんかけ:(フフ、懐かしいですねこの感じ)
湯葉あんかけは『四人でこの寺で過ごす空間』に懐かしさを覚える。最後にこの光景を見たのは湯葉あんかけが杏子飴に出会う前だったか後だったか。『この空間にいつか杏子飴も加わって欲しい』と思った。
湯葉の野菜春巻き:私はですね、御侍様の成長過程を見るのが楽しくてたまらないのですよ。
湯葉の野菜春巻き:今回、無事虹飴を手に入れ、さらに杏子飴の『キレ症』までもかなり改善してくれました。図らずもね。
湯葉あんかけ:春巻き、『キレ症』ではありません、『怒髪天(どはってん)モード』です。
湯葉あんかけは杏子飴のあの姿を『症状』呼ばわりされる事を好ましく思っていない。
湯葉の野菜春巻き:どちらにせよ御侍様は結果を示してくれた。既に私だけでなく、貴方方全員にとっても仕える価値のある料理御侍に成長しているかもしれませんねえ。
厚揚げ豆腐:『相応しい』ならもう茶番は要らねえだろ。
湯葉の野菜春巻き:いいえ、要ります。この幻の料理図鑑には、人を極楽に招き入れる程美味な料理の『本物』の情報がまだまだ存在します。御侍様にはこれら全ての料理を攻略して頂かなくては。
湯葉の野菜春巻きが黒い本を袖口から取り出し、二、三度叩いて見せる。
湯葉あんかけ:……貴方は何がしたいのですか??
怒りからではなく、純粋に湯葉の野菜春巻きの気持ちを知りたくて問いた。湯葉あんかけの推測が正しければ……。
湯葉の野菜春巻き:遊戯(げえむ)ですよ。私は、御侍様を世界一の料理御侍に導くという、育成遊戯(げえむ)をしているのです。
湯葉あんかけ:遊戯(げえむ)……?
湯葉の野菜春巻き:遊戯(げえむ)と言うと聞こえが悪いですが、御侍様が強い料理御侍に育つのですから、結果として御侍様の目的である『レストランの発展』にも繋がります。
湯葉あんかけ:……いいや、その言葉は『嘘』だな。”君”は嘘をついている。
湯葉の野菜春巻き:嘘?
湯葉あんかけ:君と『あの方』とどれだけの時を共に過ごしたと思っている?君の嘘を見抜けないとでも思ったか?何を遊戯(げえむ)だ等と悪者ぶって……。
湯葉あんかけ:君は御侍様を『あの方』の代わりに仕立て上げようとしているのだ。
湯葉あんかけ:春巻き、『あの方』と御侍様は別の人間だ。御侍様をどう育成しようと『あの方』の代わりにはならない。人間同士を……いや食霊同士であっても、比べる物ではない。
湯葉の野菜春巻き:あんかけ……、”君”の憶測……いや、『妄想』には感心しますよ。
『妄想』という挑発の言葉に反応し、湯葉あんかけは少し怒りを露わにした。湯葉の野菜春巻きも表面上は笑っているが内心で怒っている。
二人はお互いを睨み合う。
あずき寒天:はい二人ともちょっと待って。小豆寒天作ってきたよ!
いつの間にかいなくなっていたあずき寒天が盆を持って帰ってきた。盆の上の瑞々しい小豆寒天の乗った小皿を三人に回していく。三人が喧嘩した時、彼女がよく彼らを宥める為にやる方法だ。
厚揚げ豆腐:うまそう!!
湯葉の野菜春巻き:私は、頂くのは三度目でしたかね?
あずき寒天:(へへ!)
三人が集中して小豆寒天を食べる。その姿を眺めるあずき寒天はとても満足そうな笑顔で『うんうん』と頷く。
日光降り注ぐ夏の暑い日に仲間と食べる小豆寒天はとても美味しい。杏子飴もここにいたなら、四人は彼の冷たい皮膚から放たれる冷気のおかげで、内側だけでなく外側からも涼めていたことだろう。
後日談:僕達の冒険はまだまだこれからだ!
グルイラオ 夜
夏祭り
御侍:お客様!美味しいあんず飴、食べていきませんか??
御侍は通りすがる一人ひとりのお客に声をかける。だがそんな事をせずとも御侍の屋台には既に長蛇の列ができている。
土瓶蒸し:――
おせち:――
ブルーチーズ:――
オペラ:――
マンゴープリン:――
ゼリー:――
湯葉の野菜春巻きが事前に宣伝してくれていたおかげか、見知った食霊の姿も列の中にあった。
うな丼:おい、お主!食べ物を口にしながら料理をするものでないぞ!
杏子飴:……。
振り向くとうな丼が屋台内で虹飴を作る杏子飴に絡んでいる。うな丼の顔は赤い。どうやら酔っぱらっているようだ。
うな丼:おい!無視するな!そんなもの引っぺがしてくれる!
杏子飴:や、やめてください!
そして力強く引っこ抜いた。
杏子飴:おい!テェ〜メェ〜……。
うな丼:うお!なんだお主!やめっ、ウワッ!!
喧嘩が勃発した。
食霊同士の喧嘩に野次馬が集まる。
マンゴープリン:オ〜、いいぞーヤレヤレ〜!……って違う違う。ちょっとーケンカは止めなよ〜!
ゼリー:マンゴーちゃん……。
御侍:ハァー……。『あの姿』を克服するまでまだまだ長くなりそうだ……。
ーー「雪山に咲く『虹飴』」、ENDーー
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