【黒ウィズ】ジーク(謹賀新年2018)Story前編
2018/01/01 |
目次
登場人物
story1
ここは、荒くれ者どもが集う酒場。
腕自慢の男たちが、日頃の憂さ晴らしに毎晩集まってくる。
カモがうっかり迷い込めば、たちどころに玩具にされてしまう危険な酒場だった。
親父は、酒場の最奥にあるボックス席を顎先で示した。
この酒場のなかでも、一番上等な席だ。生半可な男が座れる場所ではない。
カルステンは、親父のアドバイスを無視して、奥のボックス席に向かう。
ボックス席は、若い男がひとりで占領していた。
声がした。カウンターに座る数人の男たちが、こちらを見ていた。
どちらも腕に覚えがありそうな凶暴な顔つきをしている。
そいつは喧嘩師ジーク。赤髭バロームの船にずっといたが、赤髭の野郎が死んでから、奴を止められるものは誰もいなくなった。
殺されたくなかったらそいつに近づくんじゃねえ。あと、奴の目の前で猫をないがしろにするな。警告はしたぜ。
きっと奥のボックス席は、元は彼らの居場所だったのだろう。
どこか面白くなさそうに、猫と戯れるジークを眺めていた。
振りかぶった荒くれものの拳は、カルステンには当たらなかった。
席にいたはずのジークがいつの間にか後ろにいた。荒くれものの拳を片手で受け止めている。
と、再び怒声を発した次の瞬間、ジークの拳が残像を残して消えた。
男は顎に凄まじい衝雌を受けて、気絶する。
あの男には、鞭で打たれた記憶しかない。次、あの男の名前を口にしたら……殺す。
荒くれものたちは、またしても(・・・・・)ジークの怒りに火をつけてしまったことを悟った。
以前散々な目に遭っているだけに、逃げ出す決断は素早かった。
そうジークが名乗った瞬間、酒場のどこからか声があがった。
ジークは、酔っ払いの冷やかしだと相手にしない。
と、手を振って誰かを呼び出した。
呼ばれてやってきたのは、商人風の男と小汚い少年だった。
story1-2
ルフト国とは、ドルキマスから逢か東にある、草原の王国である。
国土は広く歴史もあるが、たいした軍事力を持たないため、周辺国からさして脅威と思われていない国だった。
でも、母親の身分が低かったせいで、可哀想に捨てられちまってよ。
いまの時代、似たような話は、どこにでも転がっている。
硬貨の入った重たそうな袋を掲げて見せた。
金に釣られるような男ではない。だが、ジークには野望があった。
いろいろな意味で世話になった(・・・・・・)赤髭バローム。あいつを超える空賊になるという野望が――
そして、男として生まれた以上、誰の風下にも立ちたくなかった。
だが、いまのジークは、『赤髭バロームの元手下』という肩書きで語られることが多い。
認められるには、一人前の空賊になるしかない。そのためには、何を差し置いても自前の船がいる。
腕前は、さっきの喧嘩で確認済みである。
いたっ!
歩み寄るジーク。そして、いま王子を殴った商人の腕を取った。
ジークの表情が怒りに満ちている。
子どもの頃、暗い牢に監禁され、好き放題された記憶は、ジークがもっとも思い出したくない記憶のひとつだった。
王子のひとことで、その時の嫌な記憶が蘇ってしまった。
商人は、腕を軽く捻られただけでこの世の終わりのように絶叫している。
ルフトの王都は、大草原のまっただ中にある。
草原のあちこちに遊牧民が住み着いており、他国を侵略することも、されることもなく、国民はのんびりと暮らしていた。
艦艇を持っていないのなら、徒歩で向かうしかない。
徒歩で行くのが嫌なら、荷馬車にでも乗せてもらうしかない。
王子は、文句言わずについてきた。本人は、別に王子とか王族の身分に興味があるわけではないそうだ。
それと……できれば、なぜ俺を捨てたのかも訊いてみたい。答えが気に入らなかったら、ぶん殴る。
同じ荷台に乗っている強面の男が、ふりかえって怒鳴りつけてきた。
ジ一クの目の前にいる男も脅すように手に持った刃を煌めかせる。
おい!これが、お前の言う妙案(・・)かよ?
そりゃあ、この馬車に乗ってたら黙ってても、ルフト国へは連れていってくれるだろうけどよお……。
その前に、奴隷として売られちまったら、どうするんだよ?
(くそう。やべえ男を相棒に選んじまったかもしれねえ。
俺……生きて帰れるかな?)
story1-3
さらに馬車は進んでいく。窮屈な荷台に押し込められて、身動きもろくにできない状況はさすがに辛かった。
荷馬車は、なにもない草原のど真ん中を静かに進んでいった。
しばらく行くと、前方に村らしきものが見えた。
娘?そんなものは、荷台のどこにもいないはずだ。ジークたちは、首をかしげていた。
荷台の隅にある大きな麻袋が、もぞもぞと轟いていた。
やがて袋の口が開き――
袋から出てきた女の子とジークの目が合う。
露骨にいやそうな顔をする。
まってね。いま演奏するからね。
男は、手に持った刃をジークに突きつける。
刃をつかみ、押し返す。ジークの力に男は、抵抗を試みるが……。
おい、野郎ども!なにぼ一っとしてやがる!こ……このバカを伸しちまえ!じゃねえと俺の目が……ひいいいっ!
外にいた奴隷商人の手下たちが、荷台の幌を開いて飛び込んできた。
それぞれ手に得物を持ち、ジークたちを取り囲む。
ナディに目で合図を送った。
ナディの演奏開始を合図に喧嘩がはじまる。
いや、それは喧嘩と言うより、ジークによる一方的な攻撃だった。
奴隷商人どもを次々翻弄し、衝撃を与えて、ふき飛ばしていく。
相手を殴り、押し倒し、意識を失わせ――そして次の相手に向かう。
すべては一瞬。人間の感じる速度とは一線を画した動きで、肉眼で捉えるのは不可能。
魔法はいっさい使っていない。
喧嘩に明け暮れてきたジークにとって、この程度の相手、魔法などに頼るまでもないことだった。
男たちは散々にやられて、賞品である奴隷よりも、自分の命が大切とばかりに――
蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
気に入らない奴を見つけろ。そいつを殴りたいと強く思えば思うほど、勝手に身体が動いてくれる。
喧嘩が強くなる方法は、簡単だ。
それはそれで幸せなことだ。無理に敵を作ることはない。
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