【黒ウィズ】ジーク(謹賀新年2018)Story2
story2
いくつかの苦難を乗り越えて、ようやくジークたちは、ルフト国の都へたどり着いた。
注文どおり王子を届けたカルステンたちを待っていたのは、今回の依頼人であるルフト国の公爵だった。
進み出た王子を兵士たちが武器を手にして取り囲む。
公爵は、顔に笑みを浮かべたまま、沈黙していた。
ですが、私は第7王子に次の王になっていただきたい。
それゆえ、ほかの後継者候補となり得るものは、すべて排除させていただきます。
武器を持った兵士が、王子を捕縛した。
公爵は捕縛された王子を見て、満足そうにうなずくと。
ジークたちに残りの代金の入った袋を投げ渡した。
公爵は答えなかったが、聞かなくてもわかった。
後継者として邪魔にならないうちに、速やかに排除するつもりだ。
達観したように呟く王子。それでいいのかと、ジークは問いかける。
ジークは右手に金貨を持っていた。公爵が報酬として寄越した袋に入っていた金貨だ。
いつの間にか、その金貨が、ジークの手の中で半分に折り曲がっていた。
ジークの指が金貨を弾く。公爵の顔をかすめていった。
公爵は兵たちに命令を下そうとした。次の瞬間、ジークの拳が、公爵の頬を打っていた。
公爵は、もんどりうって倒れた。
兵士たちが槍を構えて、ジークに向き合っていた。穂先を揃えてー斉に串刺しにするつもりだ。
ジークは演奏の準備を整えていたナディに目で合図を送った。
ジークは、その場で飛び上がった。さながら鴉のように。
上空から飛びかかり、まず戦闘の兵たちを薙ぎ倒した。拳で殴り、脚で鎧ごと蹴り飛ばす。
槍を持っている兵士たちは、最初は圧倒的に優勢だと思っていたが、ジークの強さにたちまち怯んだ。
10名ほどいた兵士は、まったくジークの相手にならなかった。
これでも王宮の警備を預かる近衛兵のはずである。けしかけた公爵は、顔面を蒼白にしていた。
騒ぎを聞きつけた近衛兵たちが、続々と広間に入ってくる。
ナディの演奏に乗って、ジークは再び兵と戦いはじめる。
ナディの演奏は、戦うものの気分を高揚させ、闘争心を増幅させる力があるようだ。
城内にはジークに伸された兵が大量に転がっている。
だが、王宮を警備する兵が、この程度で尽きるはずがない。
さらなる援軍。ナディとジークは、さすがに疲労の色が隠せない。
こういうときのために、用心棒を雇っておいたのだ。先生!よろしくお願いします!
アーレント式試作兵器ハルトゲビスが、無法者どもを葬るでゲビス!
story2-2
ゲビスを産んだものが人間なら、ゲビスが戦うのも人間でゲビス!覚悟するでゲビス!
「うつってる。うつってる。
アーレント開発官は、ゲビスの産みの親であり、母親であり、そして生涯をかけて守ると誓った存在でゲビス。
でも……。ゲビスは、許せなかったでゲビス。アーレント開発官の周りにいる適当な奴らの助言によってコロコロと仕様を変えられるのが!
***
Lようやく完成したわ。ドルキマス国初の二足歩行強襲用ロボの試作機がね。
将来の戦場は、人間が戦うんじゃなくて、こういうロボ同士の戦いになると思うの。どう?コレ凄くない?
cう一ん。なんか地味だな。
v強襲用っていうのに武器は無しですか?それじゃあ、戦場で役に立ちませんよ。せめて武器とかつけましょうや。
Lそう?どんな武器がいいかしらね。
これから人のお役に立ちたいです。
Lいろいろ武装を追加してみたわ。あと、人工知能も積んでおいたから。彼と会話できるようになったわ。
vお、前よりマシになったんじゃねえですか?
cう一ん。だが、どうも無骨で面白みがないな。ロボットなら愛嬌も必要だ。
cまず、しゃべり方が堅苦しい。
Lそれは感じていたのよね。ちょっと改良してみるわ。
***
ハルトゲビスの背後にあるミサイルポットが、一斉に開いた。
内蔵されていた短筒砲弾が、炎をあげて飛翔し、ジークの肉体に直撃する。
電極のついたマニピュレーターを伸ぱす。ジークの身体に触れたとたん、凄まじい電圧が生じさせた。
ハルトゲビスの猛攻を受けて、ジークはたちまち満身創痍に陥った。
それでも、なんとか立ち上がろうとしているが、受けたダメージはかなりのものだった。
***
「目障りなガキだ。辛気くさい顔して俺の船に乗ってんじゃねえ。
笑え。ほら笑えよ。お前にも感情ってものがあるんだろうが。ええっ!?」
なにかとあれば、すぐに打たれた。全身にあざが耐えなかった。
「俺を殺したいと思ってる目だな?いいぜ、殺せよ。お前にその度胸があるならな!」
殺したいと何度も思った。
でも、結局できなかった。赤髭バロームはひどい男だったが、ジークにはほかに頼れる人がいなかったからだ。
***
傷だらけになったジークにすがりつく。だが、王子の手は振り払われた。
助けたい奴がいれば、助けにいく。目の前に気に入らない奴がいたら誰であろうと殴りに行く――
俺はただ、空賊として生きたいように生きているだけだ。
王子を連れて下がれ。どうやら、素手でこいつは倒せないらしい。
詠唱を唱えはじめるジーク。
ふだんは決して使うことのない禁断の手。魔術(・・)を使うつもりだった。
魔術は肉体的なリスクを伴う。
それにクレーエ族だけに受け継がれてきたこの技を狙う権力者は大勢いるため、できれば隠しておきたかった。
だが、もはやそうも言ってられない。この戦い、負ければ王子の首はなくなるのだ。
ジークの魔法が発動。拳に魔力が宿る。
魔力を乗せた拳が、ハルトゲビスの機体を打った。
一瞬だけ、ジークの顔に赤い紋様のようなものが浮かび上がったが……すぐに消えてしまった。
こんな男が、いたとは……。ま……参ったでゲビス。
ハルトゲビスは崩れ落ちる。一方のジークも力を使いはたし膝を突いていた。
story3
打つ手がなくなった公爵は、王子を人質にとり、飛空船に乗り込んで、空に逃げた。
空に逃げられたら手出しできない。そして空の上なら王子を謀殺するのも、痛めつけるのも、向こうの思いのままだ。
一機の飛行機が、城の広場に着陸した。
小型の飛行機だ。たった一機で駐機している。操縦者である彼女以外に味方はいないようだ。
「飛行機だねー。
かくかくしかじか……。ジークは手短にこれまでのいきさつを説明した。
可哀想だから、いっちょ乗せてあげようかね。でも、うしろで暴れたりしないでよね?
***
その時、従者たちから、小型の飛行機が一機で迫ってくるとの報告が入る。
***
「人間すべてが、この世界が憎いってツラしてやがる。
その様子じゃ、ずいぶん辛い目にあったんだろうな。けど、俺には知ったこっちゃねえ。
憎い奴がいたらぶん殴れ。抵抗するなら殺せ。好きに生きればいい。
ただ、好き放題に生きるには、それなりの資格がいるぜ?腕っ節と度胸のない男は、黙って人の風下に立ってな。
誰かが遠慮した分、俺は好き放題できる。どうだ?羨ましいだろ?がははははっ!」
なぜかジークは、いまになって赤髭バロームのことを思い出していた。
バロームのところにいる間、ジークはずっとなにかを憎んでいた。
世を憎み、人を憎んでいた。けどそれは、力のない自分への絶望からくる子ども染みた反抗心だったように思う。
バロームのことは、いまでも超えられない存在として、ジークの前に立ち塞かっている。
どうすれば、その巨大な壁を破壊できるのか……。いまだにつかめていない。
公爵と王子が乗った飛空船は、まだ先だ。
全力で飛ばしても追いつけない。むしろ、引き離されるばかりだった。
ベティナとジークは、座席ごと勢いよく、飛行機から飛び出した。
座席をさらに踏み台にして、ジークは空中高く飛び上がった。
これで、公爵たちの乗った飛空船に届くかと思った。
……届け!
目の前に迫った飛行船の機体をつかもうと手を伸ばす――
story3-2
無数の砲弾が、空賊船の外殼を撃ち抜いた。
赤髭バロームの旗艦は、至るところで炎が燃え上がり、無数の死体が船内に横たわっている。
ジークは、黒煙を掻き分けながら、頭であるバロームを探していた。
むろん、この混乱に乗じて殺すためである。
「おう……小僧、生きてたか? とっくに逃げちまったもんだと思ってたぜ。
艦橋で、ひとり煙に巻かれながら立っている赤髭バローム。
その声は、弱々しかった。よく見ると、腹部に砲弾の破片が突き刺さり、おびただしい血が流れていた。
っておいても死ぬ――そう感じた瞬間、赤髭ハロームヘの殺意が萎んでいく。
爆風に巻き込まれ、赤髭バロームがよろめいた。ジ一クは、思わず彼の身体を支えてしまった。
「あまっちょろいガキだぜ。やっばりお前は、空賊に向いてねえ。
てめえ!俺が憎くて殺しに来たんだろ!だったら、いまがチャンスだ。とっととやれよ。
……できねえだと?がはははっ!俺に同情しやがったか!?くだらねえガキだ。ほら見ろ。
そういって赤髭バロームは、赤い血にまみれている自分の左脚を指さす。
膝から下が吹き飛んでいた。杖を突いて、やっと立っている状態だ。
「殺すつもりがないなら、俺を置いて逃げろ。
ひょっとして、俺はこうして弱っているふりして、てめえを犠牲にして自分だけ、助かろうとしてるのかもしれねえぜ?
こんな風にな!」
その瞬間に見せた赤髭バロームの形相を忘れることはない。
赤髭バロームの手は、ジークの体を突き飛ばした。殺される――と一瞬、絶望しかけたが、彼は動かなかった。
艦橋に横たわったジークは、慌てて起き上がり彼を見る。
「まったく……許せねえなあ?俺の船に、こんなもの打ち込みやがってよお。
赤髭バロームが右手でつかんでいるのは――割れた窓から飛び込んできた敵の砲弾であった。
なんと素手で、敵の砲弾を受け止めている。
「空賊に大切なものは、自分の生き方を貫くこと……。そしてこれが、俺の生き方よ。
小僧!お前も空賊なら、最後まで自分を貫き通してみせろ!
片足を失った状態のバロームは、まさに瀕死。
しかし、その状態でもなお、受け止めた砲弾を敵に向かって投げ返してみせた。
「俺様の船に砲弾を叩き込もうとするふざけた野郎には、必ず報いがあるってことを思い知ったか!?
さあ、もっと撃ってこい! 全部、投げ返してやるぜ!
赤髭バロームは、ジークを振り返ると「逃げろと言うように手を振った。」
まさか、庇ってくれてるのか? あれだけ好きなように生きてきた大空賊が……。
嫌っていた子どもを助けるためにその命を犠牲にするのか?
ありえない……。
「いま、アンタがしたいことって、俺を助けることかよ?」
赤髭バロームは、振り返って笑顔を見せる。
「へっ……。悪いかよ?」
それが彼の最後の声だった。
ジークが無我夢中で、艦橋を離れている途中――
背後で大きな爆発が起きた。
赤髭バロームは、その日、自分の船と一緒に空の藻屑と消え去った。
「人を信用しないと言っていたはずなのに、なぜ、最後に子どもの俺を信じた?
それが、お前の空賊としての理想の死に様だとでも言うつもりか?
くだらない。らしくないことをするから、赤髭バロームの伝説は、あそこで途絶えてしまったんだ。
伝説のあとを受け継ぐ空賊なんてもうどこにもいない。
バロームこそ、最後の大空賊だったと、いまでも思う。
彼が塵となって吸い込まれた空は、今日も青く、大陸の果てまで広がっていた。
公爵と王子が乗った飛空船に飛びつこうとしたジークだったが――
ジークは必死に腕を伸ばす。なんとか、飛空船の端をつかみかけたが――
指先が、なにもない虚空を引っ掻いた。
あと少し。ほんのわずかな距離が足りなかった。
どうやら赤髭バロームのようには、死ねないらしい。
ガラにもないことをしてしまったと今更ながら悔やんだ。
母親の身分が低いから捨てられたというあの王子。
このご時世、決して珍しい話ではない。どこかで聞いた話だ。だが、やはり理不尽な話だと思った。
それだけに、ジークはあの王子を助けてやりたかった。
ひとの命と誇りなんて、なんとも思わないような権力者どもに、自分たちが間違っていたんだと思い知らせてやりたかった。
「空賊に大切なものは、自分の生き方を貢くこと……。そしてこれが、俺の生き方よ。
地上に落下していくジークの服をあの強襲用機械兵器がつかんでいた。
それに、実はゲビスもあの王子が不欄だと思ったでゲビス。
ジークを飛空船に向かって放り投げる。
無事、船の上に着地することができたジークは、さっそくハッチをこじ開けた。
story3-3
ジークは、公爵たちが乗った船に乗り込んだ。
公爵が、王子の頭部に銃を突きつけて殺そうとしているところだった。
お前なんぞより、空賊の方がよっぽど上等だ。
ジークが距離を詰める。せっぱ詰まった公爵は、いよいよ追い詰められ、なりふり構ってられなくなった。
ジークの拳が、公爵の鼻っ柱に強烈な一撃を見舞った。
公爵は、もんどり打って倒れる。
鼻や口から血が流れていた。鼻が曲がってしまったが、命に関わるほどではない。
王子は、ぶざまな姿をさらしている公爵を見下ろす。
俺みたいな嘘つきに振り回されて、あーあ、こんなに顔まで腫らしちゃって。災難だったねえ。
そもそも俺みたいな路地裏で育ったガキに王宮なんていう堅苦しいところで、生活なんてできないさ。
だから、地上に降りたら家に帰るわ。
王都を出たところで、王子だった少年と別れることにした。
締め上げた公爵の配下から、少年の母親の故郷を聞き出すことができた。
母はもう生きていないそうだが、他の家族は生きてるかもしれない。念のためそこへ向かってみるらしい。
送っていこうかと訊ねたが、彼はそのぐらい自分でやれるという。
王子だった少年は、笑顔で手を振りながら去って行った。
「おい、小僧。この程度で、俺を超えたと思ってもらっちゃ困るぜ?」
空耳だろうか。昔、死んだ空賊の声が、どこからか聞こえた気がした。
ジークの返事を聞いたあの男は、きっと今頃、空の向こうで笑っているだろう。
でも言っとくけど、空賊の仲間にはならないよ。だいいち船を1隻も持ってない空賊なんて、空賊とはいえないわ。
その金があれば、小型艇の1隻は楽に買えるはずだ。
でも、あいつ、結構前から姿が見えないよ?
***
ジークたちと離れ、ひとり別方向へ向かうカルステン。
彼の腰には、たっぷり金貨の入った袋が、ふたつぶら下がっていた。
さーて、賭場はどこにあるのかなーっと。
のちに大陸全土にその名前を轟かせる空賊『ナハト・クレーエ』。
頭のジークはじめ、その仲間たちは、まだそれぞれ別の道を歩いていた。
彼らがひとつにまとまるのは、まだ先の話。
番外編 空賊たちの空(ジーク外伝)
番外編 元帥の不在(5周年)
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