【白猫】ジュダ(王冠)・思い出
選ばれし葬送 ジュダ・バル・アーウェルサ CV:子安武人 棺に名誉は必要ない。 ただそれは、語られざる絆の証であった。 |
思い出1
<キングス・クラウン>の戴冠式が終わり、しばしの時が流れたころ。
新たな力を手に入れたジュダが、飛行島へとやってきた。
フン。
やあみんな。元気でやってるか?
戴冠式の時から思ってたけど、珍しい組み合わせだわ。
――用があるから、行動を共にしていた。それだけだ。
ユキムラからジュダに、王冠が受け継がれたってわけなのよね……?
……俺に不要なものだ。――とはいえ。
たまには、戯れにつきあってやるのも悪くない。
試練は、どうでしたか。
――あんなものだろう。
……どんなものなのよ!そこをハッキリ聞かせて!
ふむ……さして面白い話でもないがな……
***
<黄昏来たりし、逢魔が時――
周囲には、一面に墓標が広がっている>
「そこにいるんだろう?……あんたに用がある。」
<影の中より――何者かが現れた。>
「俺の存在を嗅ぎつけたか。」
「嗅ぎつけたのはこの王冠だ。用があるのもこいつだよ。」
「ほう。」
「こいつがあんたを次の継承者に選んだ。」
<ユキムラは、ジュダに王冠を差し出した……>
「――選ぶ?誰が誰を選ぶと?」
「興味をもってくれて、嬉しいよ……」
「まとわりつかれるのは、気分が悪い――さっさと消えろ。」
「待て――こいつは――悪いものじゃない。」
「いずれにせよ。俺には不要だ。」
「それは――おそらく違うぞ。」
「なぜそう思う。」
「――俺に何かあったか、話しておこう。俺は絵描きだ。」
<紋章画家、ユキムラは、とある島を訪れた折りに……それと出会った。
精霊を宿した王冠と。>
「王冠は、俺に試練を与えた。」
「何と戦った?」
「戦いとかじゃない……いや、ある意味あれも戦いといえるかな……」
「聞かせろ。」
「絵筆が握れなくなった。」
「……ほう。」
「……大した事なさそうたろ?実際、命の危険かあるとかじゃないしな……
たが俺にとっては、描くことか全てだ。あれ以上の地獄はなかった……!」
「――お前はどうした。」
「描けなくても、描こうとした。描くために、もがきつづけた。……それだけだ。」
「俺にも同じことをしろと?」
「うまく言えないが、そうするべきなんだ……他ならぬ、あんたのために。」
「いいだろう――己を試す機会というのは、そうそうあるものではない。」
<ジュダは、王冠を掴んだ……!>
「あんたの試練がどういうものになるのかはわからないが……一筋縄ではいかないだろう。」
「望むところだ――」
思い出2
……妖精族の作ったつまらぬ代物……
――精霊を宿しているが――こいつが何かするのか?
大した余興でもあるまいが――こういう物は、人を惑わし、試すものだ。
あの男は、乗り越えた。そして何かを得た……
<精霊の冠は、まばゆい光を発し、ジュダを包み込む……>
***
「あっ、わんわんだ!」
何だ?向こうに行け。
「野良犬だろ。噛まれるぞ。」
何を言ってる……
「こいつめ。シッシッ。」
「まあ、いやだわ……誰か追い払って。」
俺を誰だと思って……
「ガルルゥ……」
――持て、俺はどうして、こいつらを見上げている……?
「しつこいなお前は……!
<ジュダは、己の手を見た……いや、前足を。>
「ガゥッ!?」
何だと……
この頼りない脚に、弱々しい爪……俺は……まさか……
「あっちにいけ!」
***
<ジュダは地下水道に隠れた……>
くそっ……こんなところに身を隠すことになるとは……
どうして俺はこうなった――こんな、なんの力もない子犬に……!
――何か原因が――あるはずだが――
思い出せん……!
<ジュダは、下水に映る己の姿を、まじまじと見る。>
「ガァルルル……」
いや、そもそも……俺は誰だ……?
思い出3
「ガルルゥ……」
腹が減ったな……どこかに骨でも落ちていないものか……
<ジュダは、ゴミ箱を見つめた。>
背に腹は代えられんか。
「あっ、こら!まったく油断も隙もない!」
「ガウガウッ!」
「まったく、最近は野良が増えたな……」
――ここは夜を待つか――
忌々しい……それにしても――
――このもどかしさは何だ。
「キャンキャン!!キャンキャン!」
なんだ貴様……やる気か……
「ガルル……」
「ガウウウ……!!」
――敵の体格は、こちらの二倍――
……面白い!
「ガウッ!!」
<一声吼えて、犬はとびかかってきた!>
くっ……リーチが!
<ジュダは犬の一撃を喰らった……!>
がっ……これほどに、脆いのか……俺の体は……
<ジュダの視界が揺らいだ……>
あいつの牙にかかったら……苦しむ間もないな……
「ガウガウッ!!」
だが、なんだというのだ……
<ジュダは、ゆっくりと立ち上がる。
己が四肢に力をこめる。>
「ガルルルルル……」
俺は、ここで死ぬわけにはいかない……!
<黒い子犬は、ゆっくりと……野良犬に近づいていく……>
そうだ、今までも……楽な戦などなかったぞ……!
***
<傷ついた子犬は……路地裏をさまよっていた……>
なんとか鼻面に一撃喰らわせられたか――
<しかし、その後は逃げるので精一杯であった――>
……戦うこともできない。……餌を探すこともできない。逃げ隠れるだけだ。
ここまでか……俺はこの路地裏で、野垂れ死ぬのか……
「おや?どうしたんだい、君。」
「ガルルゥ……ガルゥ……」
――誰だ、こいつは。
思い出4
<ジュダは己が腕に施された包帯を、じっと見つめる。>
「これでよし、と……」
「ガルル……」
「あらら……ここは甘えてくるところじゃないの?」
「ガウッ……!」
「おなかもへってるのかな?じゃあ、ちょっとそこで待っててね~。」
……なんだ、こいつは……お節介なやつだ……
待っていろだと?この俺に……?
<ネズミの獣人族がもってきたのは肉屋の捨てた余り物である。>
「ガゥ……?」
これを俺に……
<ジュダはネズミの顔を見上げる。>
「お食べ。」
「ガツガツガツ……」
<ジュダは、余り物のくず肉にかぶりついた……>
「ガルル……」
おかしな男だ。この俺に施しをしてどうする。
「なんだ、口答えかマシュー。」
「いえ、そんなことは……ありません……」
「……お前たち獣人は、言葉が喋れる。だから、人間と同じように扱えって?
……人間の半分の給料でも、十分すぎるだろ?」
「は、はい…」…
……負け犬、いや…………負けネズミか……
「ハァ……」
<ジュダは、マシューの後をつけていった……>
「ついてないなぁ。ま、給料下げられなかっただけマシってやつかな。」
「アーン?なんだ?どうしてネズミどもが、往来を歩いてるんだ?」
「す、すみません……」
「ネズミはネズミらしく、ドブにつかってろ!」
「ぐっ……」
「ガウッ、ガウガウ……!」
「お前か……大丈夫だよ。こんなの平気だ。
僕は弱いからね……這いつくばるのには、慣れているんだ……」
弱いから、か……
思い出5
「今日は……骨しかもらえなかったよ。」
「ガウガウッ!」
「……もっと君にもいいものを食べさせてやりたいけど……
ネズミ獣人の稼ぎじゃ……これが限界なんだよね……」
「ガルルル……」
「君、いつも吠えてるんたねえ。よしよし……」
<マシューは、ジュダを撫でた……>
――飼い主のつもりか、負けネズミめ――
だが今の俺は……負けネズミにも劣る存在か……
……おかしな話だ、俺は元より、ただの子犬――
憐れみにすがるしかない弱者が、何を迷う……!
「おじいちゃん、おなか減った……」
「……がまんするんじゃ……」
「ケッ……飲まなきゃやってられねえよ……!」
この街にいるのは、負け犬ばかりか……
「へえ。この剣は、お前さんの孫の形見なのか……
「はい。
「じゃあ、俺がありがたくもらっておいてやるぜ。
「……お願いします。それだけは……
「肉屋のおばあさん……?
「お願いします……!
「あのう、このおばあさんのお孫さんは、戦争で亡くなっているんです……
「へぇー……
「その剣が、ただ一つの形見なんですよ。お願いします。旦那様。
「それ、説教か?
「そんなつもりは……
「どうしてネズミの獣人が~!俺に説教してんだ!!
<チンピラは剣を振り上げた!>
どうしてだ……?
この男は己が弱者であるとわかっていたはずだ……
それでもなお抗うのか……!
「わーっ!……
「ガルルゥ!!
「がっ!?
<ジュダは、チンピラの脚にかみついた!>
「てめえ!!
<チンピラの剣は……ジュダの体を切り裂いた……>
「――そんな。」
「何事だ!
「チッ……こんな剣、いらねえよ!
<チンピラは、剣を捨てて逃げた。>
「僕をかばって……」
……これでいい。
わかりきった事だ……どれだけ惨めでも。
俺は俺の……好きにやる。お前のように……
「死ぬな……死んじゃだめだ……!」
悔いはない――
思い出6 (友情覚醒)
…………くっ……俺は……
(――幻か――)
<気がつけばそこは――
黄昏ゆく墓地である。>
<王冠は、まばゆい輝きを放った……>
「――王冠があんたを認めたらしい。」
「そうらしいな。」
「……俺も、王冠と共に、あんたのことを見ていた。」
「楽しんだか?」
「いいや……あんたに対する印象は変わったがな……」
<ジュダは、王冠を掴む。>
「……冠などに興味はないが、精霊のすることに文句をつけても無意味だ。これは預かる。」
***
話は終わりだ。
うっ……うっ……
ジュダさん……!
どうして泣く。
だってアンタ……!
おかしな奴らだ。
いや、おかしくないさ……正直俺は、何度も試練を止めようとしたくらいだ。
……そうだったか。
君が斬られた時は、本当に焦ったよ……
精霊の下す試練というのは、ああいうものだ。
……ところで、あのマシューって人、本当にいるんじゃないのか。
なぜそう思う。
なんとなく、かな……
――全ては幻だ。
<王冠は、一瞬だけ、淡く光る……>
力も王冠も、棺にとって意味はない。
だが、あえて受けよう。
――弱き己を、忘れぬためにもな。
覚醒絵・覚醒画像
悔いなき棺 ジュダ・バル・アーウェルサ
その他
KINGS CROWN2